雉 カウ・ミーガリア
村を出発して約ひと月。長かった・・・。
やっと次の村が見えてきた。
僕は素振りをしながら横目で村を見た瞬間に蹴りを入れられる。
「気が散っているぞ。集中しろ」
毎日聞いたセリフだ。何も驚きはしない。
むしろ今日でこの移動生活が終わってしまうことに寂しさを感じている・・・なんてことはなく嬉しさで蹴りの痛みも感じなくなっていた。
「ようやく見えてきましたね」
メリーダが身を乗り出して覗き込む。
「私、雉の方とは初めて会うんですよ」
「俺も会うのは70年振りくらいかな」
「そんなに会ってないんですか!?」
「族長になってから何かと忙しかったからな」
僕も70年会ってないことに驚いた。しかし、人間とは寿命が違うせいでそんなに珍しい事でもないのかもしれないと勝手に納得した。
「ちなみにどんな方ですか?」
「そうだな・・・とにかく酒と女が大好きだな」
「まぁ・・・趣味嗜好は人それぞれですからね」
メリーダは顔を引きつらせながら答える。
確実に軽蔑をしているであろうことが分かったが、当たり障りのない言葉を何とか絞り出したことに大人とはこういうことかと僕は素直に感心した。
「それから先に言っておくがあいつは翼が片方しかないんだ。そのことについてあまり詮索しないでやってくれ」
翼がないなんて余程の事情があるはずだ。確かに初対面で無神経に聞くことではない。先に聞いておいてよかったのだが、絶対に翼を見てしまう自信がある。でも、見るくらいならいいよね?殺されたりしないよね?大丈夫だよね?僕は少し不安になった。
そんな僕の不安にローヤルは気づいたみたいだ。
「安心しろ、翼を見たくらいで怒りはしないさ。基本的には温厚な奴だからな」
普段怒らない人ほど怒ると怖いですよ?と言いたかったが黙っていた。
よく怒る人でも怖い人が目の前にいたからだ。しかし、このひと月でわかったことがある。ローヤルは厳しく怖い人だが、普段の会話などではよく笑っているという事と、むしろ性格がおおらかなのか大雑把なのかわからないが、そのせいで几帳面なメリーダによく注意されていることが面白かった。
そうしている内に村の入口に到着した。
ここでも門番がいたが、ローヤルは馬車を降り颯爽と近づく。
門番に挨拶をするつもりだろう。
「よう俺だ!あいつはいるか?」
新手のオレオレ詐欺みたいな挨拶だった。それで通じるのか?
「すみません。あなたはどなたです?それにあいつとは?」
門番は困惑していた。
「俺があいつと言ったらあいつしかいないだろ」
会話が絶望的にへたくそだ。しかもすこしイラついている事が怖い。
慌てて後ろからメリーダが声をかける。
「あの、こちら犬族族長のローヤルさんです。そして私は王国鑑定士、メリーダと申します」
さすがメリーダ、大人の対応だ!と思ったが、基本的な対応で特段感心する場面でもないことに気づく。
「ローヤル様!?お会いしたことがないとはいえ大変失礼致しました。すぐ村をご案内致します」
「あぁ宜しく頼む」
ローヤルは腕を組んで偉そうに答える。確かに偉いのだが、ややこしくした張本人なのだから少しは反省してほしいものだ。
先ほどの門番が先頭を歩きその後に続いていく。
鳥族の村は犬族の村と広さは同じくらいの印象だった。だが犬族の村より人の数が少なくとても静かなのが気に入った。
10分ほど歩いて族長の家に到着し、中に通された。
座って待っていると族長が部屋に入ってくる。
族長は身なりが整っていて、紳士のような佇まいだ。
しかし、その背中には翼があり見慣れない姿に僕は困惑した。
「ローヤルさんお久しぶりです。そちらのおふたりは初めまして、ですね。
私は族長のクルー・ハンズと申します。以後お見知りおきを」
クルーは丁寧に挨拶をした。
「それで、あなたがわざわざいらっしゃるなんて珍しいですね。
余程のことでもありました?」
「あぁ、これから鬼を討伐しにいく。だから、あいつを連れて行こうと思ってここに来た」
クルーは驚いている。
「鬼を?これから?本気で言ってるんですか?
確かにここ数年、あの時のような不穏な空気を感じていましたがやはりまた鬼が・・・。
しかし、なぜ今?」
クルーはそう言いながら僕たちを見た。その表情はこのふたりが関係してるんですよね?と言わんばかりだ。
「状況が変わったんだ。メリーダが俺のところに桃太郎を連れてきた」
ローヤルはメリーダを見る。
「すみません、ご挨拶遅れまして。私、王国鑑定士のメリーダと申します。そしてこちらが桃太郎様です」
「はじめまして」
クルーは目を細める。それは今までたくさん見てきた、人を疑っている目だった。
「待ってください。こちらがあの桃太郎様?ほんとに?」
今までの人と同じ反応だった。そしてメリーダも少しうんざりしている様子だった。
「えぇ、鑑定しましたから間違いありません」
「俺も間違いないと思う」
ローヤルがフォローしたことに、こんなことも出来るのかと初めて感心した。
「そうおっしゃるなら間違いないかと思いますが・・・」
クルーはチラチラ何か言いたそうに僕を見る。
「で、あいつはどこにいる?呼んでくれ」
「もう呼んではいますので、そろそろ来ると思いますよ」
すると廊下から走ってくる音が部屋に段々近づいてくる。
部屋の前で止まったと思ったら、扉を壊しそうな勢いで男が入ってくる。
「さすが我が友。私の妻になる女性を連れてくるとは感謝する」
話しながら部屋に入ってくるなり、そのままメリーダの前で立ち止まり突然跪いた。これにメリーダと僕は驚き、ローヤルはまたかと呆れた表情をした。
「私の愛しい人。いつ式を挙げますか?なんなら今これからでもいいですよ?
そしたら今日が初夜です。思う存分お互いを知り尽くしましょう」
「い、いや、あの、わ、私・・・」
メリーダが引いている事は誰が見てもわかることだ。世界でただ一人を除いてだが。
「そうだ好きな食べ物は何ですか?今日の夕食はそれをご用意しましょう」
「おい、カウ」
ローヤルが面倒くさそうに声をかける。
「それに水浴びはお好きですか?実は私だけが知っている場所があるんですよ。まずはふたりだけで静かに愛を語りましょう」
「おい!カウ!」
ローヤルがイラつきながら声をかける。
「洋服はどうですか?あなたのお好きな洋服を用意しまっうへぇ・・・」
ローヤルは顔面を全力で殴った。男は吹き飛び、頭から壁にめり込んでいる。僕が知っている常識ではこれ死んでいるぞ。
「お前は相変わらずだな。会えば会うほどお前のことが嫌いになりそうだ。
とりあえずふたりに紹介するよ。今、壁に埋まっているのが昔の仲間【カウ・ミーガリア】だ」
いや、どんな紹介だよ。
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