現実
犬族の村を出発して四週間ほど経った。
僕はこの日もいつも通り素振りをしていたが、突然馬車が急停車したので危うく落ちるところだった。
「い、一体なんですか?」
メリーダも状況がわからず焦っている。
「どうやら野盗みたいだな」
ローヤルだけ落ち着いていた。
「野盗!?今僕たち襲われているってことですか?」
僕は思わず上ずった声になる。
「野盗だぞ?他に何がある」
焦っている僕とは対照的に変わらない口調で話すローヤルにすこしイラつく。
すると前から野盗と思われる声がしたので、荷台から顔を出し確認してみると全員剣を持っている3人組の男たちが見えた。
「止まれー!乗っている者全員降りてこい」
「武器なんか持たずに降りてこいよ」
「逃げようとしても無駄だから早くしろ」
野盗たちは興奮気味に叫んでいる。
「ローヤルさんどうしましょ」
「どうもこうも戦うしかないだろ。連中の言う事なんて聞けるわけないからな」
僕はこの言葉に鼓動が早くなる。戦う?これから?それに人間と?あまりの急展開に頭が追い付かない。しかし、どうしても先に一つ聞いておきたかった。
「た、戦うというのは相手を殺すんですか?」
僕はローヤルの顔を見る。ローヤルは真っ直ぐに僕の顔を見返し答える。
「あぁ殺す。捕虜にしても邪魔だからな」
僕はどこかで期待していた。
殺すわけないだろ。追い払うだけだ。そんな答えが返ってくることを・・・。
「おい!何してる!いい加減降りてこい!」
野盗の一人が痺れを切らし再び叫ぶ。
その声に僕はさらに鼓動が早くなり呼吸も浅くなる。
ローヤルが無言で立ち上がり、メリーダも立ち上がる。
「桃太郎さん、私たちも降りましょう」
僕も後に付いていくとローヤルに声を掛けられる。
「安心しろ、お前が戦うことはないから」
ローヤルの手が僕の肩に置かれ、その言葉に安心した僕がいた。
「やっと降りてきたか。なんだ?お前獣人か。他は女と男か?とりあえずこっちは人間だな」
「うひょー結構いい女じゃないすか。あとで好きにしていいすか?」
「俺は男がいいな。いたぶるのが楽しいんだ」
野盗は僕たちを見て反吐が出るようなことを言っている。
するとローヤルが一人で前に出る。
「おいお前。勝手にうごぉ」
男が言い終わる前に顔を殴り、剣を奪う。
「お前何やってる」
「もういい殺せ」
その様子に驚いた残りの二人が襲い掛かるが、そのまま二人はローヤルの横を素通りし地面に倒れる。倒れた男たちからは血が流れていた。
「よし、終わった。先を急ぐぞ」
ローヤルは何食わぬ顔で戻ってくる。
男たちが血を流しているから剣で斬ったのだろうが、どのようにして斬ったのかは全く見えなかった。そして、男たちが全く動かないので死んでいることに気づく。
さっきまで生きていた同じ人間があっけなく死んだ。確かに悪人なのかもしれないが、その事実を僕は受け入れることが出来なかった。
あまりの動揺でうまく呼吸が出来なくなった僕は気を失った。
僕は気づくと真っ白く靄がかかった世界にいた。
辺りを見渡しても誰もいない。声を出しても特に反応がない。
これは夢?それとも僕は死んでしまったのか?途方に暮れていると男の声がした。
「どうした少年。迷子か?」
僕は前を見ると靄の先に人影が見える。
「あなたは誰ですか?」
「もう誰でもないものだ」
「よく意味が分からないんですけど・・・。それにここはどこですか?僕は死んだんですか?」
死んだという言葉で僕はハッとする。さっきの野盗のことを思い出した。
「いや少年は死んではいないよ。目が覚めれば戻れるさ。それよりさっきの野盗のことを思い出したのか?」
なぜか男に野盗のことを見抜かれていた。
「野盗のこと知っているんですか!?」
「あぁ見ていたからな」
見ていた?草陰にでもいたのか?だとしたら気づかなかった。
「草陰にはいなかったな」
まただ。なぜかこの男には見抜かれる。
「それよりどう思った?」
「どう思ったって・・・。単純に怖かったです」
「それは野盗?それともローヤル?」
その男はローヤルまで知っていた。
「それは両方ですかね。あの野盗はきっととても悪い人たちで、下手したら僕たちは殺されていたんだと思います。それでもローヤルさんは何も躊躇わず殺した。その事実が受け入れられなかったんです」
「今すぐ受け入れられないのは仕方ない。でも、いつか現実と向き合う日がくる。その時どうするかだ。残念ながら、この世界は空想ではなく現実なんだ。」
その男が言っていることが正しいことはわかっていた。僕はどこかでアニメや小説の現実ではない世界だと勝手に思っていたところに、いきなり現実を突きつけられただけだった。
突然周囲にノイズが走る。
「そろそろ時間のようだな。いつかまた会うことがあるだろう。それまでみんなを頼むぞ」
「いや、僕になにかできるとは思えないですけど・・・」
「できるさ」
男が言い切る理由がわからなかった。
「それとローヤルにはちゃんとお礼を言えよ。あいつだって殺したくて殺しているわけじゃない。護る為にしたことだからな」
男がそう言うと影が消えていく。
「ま、待って」
僕が手を伸ばした時、目の前にはメリーダがいた。
「あ、目が覚めましたか?よかった、突然倒れるから驚きました。
ローヤルさん、桃太郎さんが起きました」
メリーダはローヤルに声をかける。
僕はローヤルの顔を見るのが怖かった。いや、どんな顔をすればいいかわからなかったのかもしれない。
「そうか、それはよかった。野盗なんかにいきなり襲われたから仕方ないさ」
そう話すローヤルは僕の顔をみて安堵しているようだった。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言った。あの男に言われたからじゃない。もちろん助けてもらったからではあるが、何より倒れる間際、ローヤルはとても不安な顔をしていたのを思い出した。
「特にお礼を言われるような事じゃない。俺がすべきことをしただけだ」
ぶっきらぼうに答えるローヤルだが、その顔はほころんでいた。
こんな顔をする人を怖い?僕はなんてバカなんだ。すべては僕に覚悟がなかっただけ。現実を見ようとしていなかっただけ。それが今日はっきりとわかった。
だから僕はこの世界のこと、そしてこの人のことをもっと知っていくことを心に誓った。
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