存在の大きさ
あれから何日経っただろうか。
僕にとってこの移動の期間はまさに地獄だった。
暇さえあればとにかく素振り。移動の休憩中はもとより、移動中の荷台の上でさえずっと素振りだ。
手のひらの豆は何度も潰れ、皮すらむけ血だらけになる。その度、メリーダが回復魔法をかけてくれるが気休めに過ぎない。
それでも素振りをさせられる。この人こそ鬼なのでは?と思っていた。
三週間経過
「そろそろ休憩しようか」
ローヤルは言う。
僕は素振りをやめ、隣に座る。
「素振りもだいぶ様になってきたな」
素振りが様になっているとはよくわからないが、褒められたのは素直に嬉しい。
「それならなにか技を教えてくれます?」
村を出発してから素振りしかしていない。
そろそろ派手な剣技の一つでも教えてほしいものだ。
「技?そんなものはない」
「ない?」
僕は思わず聞き返した。
「いいか?剣に必要なのは派手さではなく確かな技術だ」
「技術・・・」
「確実に相手を仕留めること。そして自分の身を守れること。
そこに派手さは必要ない。ただ相手より剣の技術が優れてさえいればいい」
「だからずっと素振りをするんですか?」
「あぁそうだ。大事なのは一回目の素振りと一万回目の素振りが全く同じでなくてはいけない。
戦場では疲れているからと休むなんてことはできないし、敵も待ってはくれない。
その中で生き残るにはどんな状況でも100%の力を出せることが重要だ。
だから今は体に刀の振り方を覚えさせている段階で、いつか刀が体の一部のように思える時がくる。
その頃には驚くくらい強くなっているぞ」
ローヤルは笑う。
僕は話に感心するより、この人が笑ったことに驚いた。
村を出発してから稽古が続いて余裕がなかったが、慣れてきたせいか話をする余裕もでてきた。
だから僕は気になっていたことを聞いた。
「聞きたいんですけど、この世界に桃太郎の話は昔からあったりするんですか?」
「いや、そんな話はないな」
「私も聞いたことはないですね」
どうやら二人とも知らない、というよりこの世界には童話自体ないのだろう。
「ならどうして前に会った人が桃太郎とわかったんですか?」
「それ私も知りたいです」
メリーダもローヤルに視線を向ける。
「わかったというか、初めて村に来た時に自分から【俺は桃太郎だ】って名乗っていたぞ。
鬼を倒すのは桃太郎の役目だとか言っていて、こいつは頭がおかしいのかと思ったな」
そりゃそう思うな。
てか、なんでその人は自分が桃太郎だって受け入れられているの?
もしかしてあの女神に洗脳でもされたのか?
「その後、仲間になってから元の世界には桃太郎という話があるのを聞いてな。
なんで犬族に会いにきたのかがそれでわかった」
「でも、よく仲間になりましたね」
「桃太郎様が王様からの書状を持っていたからな。
確か、村から一人を旅に同行させろと書かれていた。
あれが無かったらただの頭のおかしい奴と思われて殺されていたと思うぞ」
僕とメリーダは苦笑いをする。
「でも書状に書いてあったから一番強いローヤルさんが仲間になったのですね」
ローヤルは悲しげに笑う。
「いや、村で一番強かったのは別の奴だったな。
だから俺には関係がないと思った」
「それならどうやって仲間に?」
「理由は二つある。
一つは厄介払いだ。俺は族長、いや全員から厄介者扱いだったからな。村から追い出す理由ができたと族長は内心喜んでいたに違いない」
厄介者?僕は気になったが聞いていいものかわからなかったので黙っていた。
「もう一つは?」
「桃太郎様が俺を指名した。
意味が分からなかったし、むしろバカにされているとすら思ったね。
だから俺は最初断った。しかし族長がそれを許さなかったから仕方なく旅に同行することになった」
「桃太郎さんはローヤルさんが強くなることを見抜いていたってことですかね?」
「さぁどうだかね。あの人の考えていることなんて一回もわかったことなんてないからな」
ローヤルは寂しそうな顔で遠くを見る。
「しかし理由はどうであれ、あの時一緒に旅をしたおかげで今がある。
・・・俺は桃太郎様に救われた。だから俺はあの人に忠義を誓ったんだ」
誇らしげな顔で話すのを見て僕は改めてこの世界、いや、この人にとっての桃太郎という存在の大きさに気づいた。
役目を果たせるか、この責任を背負っていけるかという不安が残る。
が、やれることをやろうと思い誰に言われるでもなく再び素振りを始めた。
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