冷えた日
そっと、トークから抜ける。
続けて、ブロックする。
音もなく胸を満たすのは虚無ではない。
あるいは孤独でも、寂しさでもない。
けど、どれも多くはないが存在はしてる。
それ以上に心が軽くなるのを感じ、やっと終われたという気になる。
この気持ちは、恋の終わりなのだろうか。
あの気持ちは、恋だったのだろうか。
私は彼女に、恋をしていたのだろうか。
「きみさ、絶対私のこと好きだよね」
彼女にそう言われたのは高校何年生の時だったろう。
クラス替えで知っているのが彼女だけだったから、1人になりたくなくて声をかけていた。
それは意図せず、毎日だったかもしれない。
もしくはたまにだったかもしれない。
覚えていない。
ただ、彼女がそう言った。
その途端、その一言で、空気は凍りついた。
普通の調子で、自然に、拒絶でもなく肯定でもない態度で彼女がいうと、周りはしんと。
その瞬間に彼女はそっち側なのだと思った。
みんなそっちで、私だけがこっち。
その孤独を知った時、それ以上の感情なんてなかった。
「でしょ?」
私は突然のことに何とも言えず、立ち尽くし、周りはそれを肯定と捉えたようだった。
好きでは、ある。
でなければ話しかけない。
しかし、わざわざ言葉にする好きとは。
その後、彼女に話しかける度にクラスの視線がこう言っているように思えた。
「お前、本当にそいつのこと好きなんだな」
否定はしない。
けれど、その意味を説明できない。
私には友達と恋人には決定的な差があるように感じる。
それを、彼女はどう捉えているのだろうか。
私はそんなに彼女に恋をしていたのだろうか。
そう錯覚するほどに、話しかけていたのだろうか。
私にとって彼女は、知らない人たちの中で唯一知っている人。
ただそれだけだった。
ーーー
「ねぇ、私のことまだ好き?」
クラスメイトを知ったある日、雑談中の私の元へ1人きりやってきた彼女はいう。
すると会話相手はそそくさと消えてしまう。
遠巻きに、私を振り向く視線がこう言う。
「やっぱり、彼女のことが好きなのね」
何も言えない。
私にはもう、それがまるで呪いのように感じられた。
視線を戻すと彼女がふくらとした頬をもぞもぞさせて視線を泳がせている。
それを見ると、何とも言えない気持ちになり、否定ができなかった。
高校を卒業するまで、私は呪われ続けた。
それが私が彼女に恋をしていたからなのかはわからない。
ーーー
何も考えず近所の短大に入ったばかりに、私は彼女と離れないでいた。
高校3年生ではほぼ一緒にいなかったはずが、大学1年の最初は常に一緒にいた。
彼女の閉じた世界がどうも合わず、肯定できないでいた。
元から明るい彼女は人から好かれる。
開けていく彼女の世界にそっと安堵した。
彼女が付き合っている、と聞いて、私はさらにほっとした。
休日のとある日に見かけた彼女の隣には、小説から出てきたような王子様がいて「ああ、ぴったりだ」とため息がもれた。
ころころと変わる彼女の話を、噂程度にしか聞かなくなってやっと、私は空気に温度を感じた。
季節はもう冬の終わりだった。
ーーー
「やぁ、あれはさ。彼女がきみを好きだったんだよ。そう思ったよ?」
大学の友達が言う。
「だって、あんたと話そうとするとあの子、すごい目で睨んでくるんだもん。あんたに友達ができないのはそういうことよ」
目から鱗。
友達は私を慰めてくれているようだった。
けれど、肯定ができない。
私がそう見せた可能性も否定ができないから。
ふと見た窓の外に知らない女の子と歩く彼女を見て、じゃあもうそんなことはないねと椅子に背を預けた。
ーーー
社会人になり、私と彼女のつながりはLINEだけになった。
結婚式の招待が届いて、迷ったけど参列した。
驚いたのは、結婚式の座席数だった。
彼女の周りにはたくさんの友達がいて、明るい彼女らしいと思った。
私は1人見知らぬ人たちの席に混ざっていた。
同じテーブルには同じ年くらいの女性たち。
ふと、気づく。
正面の彼女はあの王子様だと。
その隣も見たことがある。大学で、彼女といた子だと。
なんでか、手が震えて料理の味がしなかった。
断りきれず二次会に参加し、彼女らと連絡先を交換してしまう。
結婚式の間、彼女は私たちのテーブルには来なかった。
二次会で少し来て、彼女らとは親しげに話すが私には一言「来てくれてありがとう」と、笑うのだった。
去り際こっそり聞こえたあれは、耳飾りの音だったかもしれない。
「まだ、私のこと好き?」
これはホラーですね。
前の話との温度差すごいな。




