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【第五話】「古代図書館の封印」

――ようこそ、世界へ。


 この物語は、魔王が死ぬところから始まります。


 しかもその魔王は、かつて5000年続いた人間と魔族の戦争を終わらせ、平和を築いた英雄でした。


 そんな「愛された魔王」が、なぜ、誰に、どうして暗殺されたのか。


 右腕であった一人の男が、その真相を追い、世界の裏側へと踏み込んでいきます。




 ――平和は、こんなにも脆いのか。


 ――友情は、復讐に変わるのか。




 壮大な旅と陰謀の物語、ここに開幕です

《影の港》で手に入れた羊皮紙。

 そこに記された《暁の盟約》という言葉は、俺の記憶にも記録にもなかった。

 ルナも首を振る。


「じゃあ、どこで調べる?」

「人間界の《アークロア古代図書館》だ。あそこなら千年以上前の条約や秘史も残ってる」

「でも……あそこは、王族の許可がないと入れない場所よ」

「許可なんて、もらえないだろうな。だから――忍び込む」


 ルナは肩を竦めた。

 だがその目は、少しだけ楽しそうだった。



---



 《アークロア古代図書館》は、人間の王都の中心部にそびえる巨大な塔だ。

 表向きは歴史書や古地図が収められた公共施設だが、地下には封印書庫と呼ばれる区画がある。

 そこは、国の歴史の“消したい部分”を眠らせるための場所だ。


 夜、俺たちは塔の外壁をよじ登った。

 王都は祝祭の余韻でまだ賑わっていたが、この塔の周辺だけは兵士の巡回が多い。

 静かに、音を立てずに、影から影へと移動する。



---



 三階の窓をこじ開け、中へ。

 中は天井まで本棚がそびえ立ち、どこからか古い羊皮紙とインクの匂いが漂う。

 松明の灯りがわずかに揺れ、広い閲覧室は無人だ。


「地下は……こっち」

 俺は事前に盗んだ簡易地図を広げ、階段へ向かった。


 しかし階段前には、全身を鎧で覆った番兵が二人。

 普通の兵ではない――《静寂の守護兵》。王族直属の警備隊だ。



---



「正面からは無理ね」

「だから裏を行く」


 俺はルナを伴い、壁沿いの古い書棚へ。

 そこには外部には知られていない“隠し梯子”があり、真下の階層へと続いていた。


 降りた先は、地下の回廊。

 壁には王家の紋章と、見たこともない古代文字が刻まれている。


「……この奥だ」

 俺たちは息を殺し、封印書庫へと進む。



---



 そして、分厚い扉の前に辿り着く。

 中央には複雑な錠前と、三つの円が重なった奇妙な刻印――

 それは、《影の港》で見た紋章と酷似していた。


「やっぱり……繋がってる」

 ルナが呟く。


 錠前を解除し、扉を押し開ける。

 中は、数えきれないほどの巻物と石版、そして――

 棚の奥に、赤い布で覆われた一冊の古書。


 表紙には、金文字でこう刻まれていた。


 《暁の盟約》


---



 埃を被った古書をそっと机に置く。

 表紙の金文字はかすれているが、かろうじて読める。

 《暁の盟約》――その名は今も俺の胸をざわつかせる。


 ルナが周囲を警戒し、俺は慎重にページを開いた。

 紙は黄ばみ、端は欠けている。それでも内容ははっきりと記されていた。



---



 《暁の盟約》

 ――今から千二百年前、魔界と人間界の間で密かに結ばれた協定。


 表向きには、当時の歴史書では「停戦の試み」としか書かれていないが、真実は違った。

 契約の内容は、こうだ。


> 一、両界は表向き戦いを続けるが、戦争は決して全面化させぬこと。

二、定められた周期ごとに“象徴”を殺し、新たな均衡を築くこと。

三、その象徴は、両界に最も影響力を持つ者とする。




「……象徴を殺す、だと?」

 ルナの声が震えた。

 俺も同じだった。つまり、この契約では――平和も戦争も、意図的に操られていたということだ。



---



 ページをめくると、“象徴”の一覧が記されていた。

 歴代の魔王や人間の王、その中には暗殺や不自然な病死と記録された名前がずらりと並んでいる。

 そして最後の欄には――


> 第十三象徴:魔王ガルドヴェイン(暗殺予定年:平和同盟100周年)




 指先が凍りつく。

 これは偶然でも裏切りでもない。

 魔王の死は、《暁の盟約》に従った“予定された殺し”だったのだ。



---



 その時――背後で重い音が響いた。

 振り返ると、封印書庫の扉が静かに閉まり、そこに一人の男が立っていた。


 黒い軍服、片目を覆う銀の仮面。

 右肩には――千眼の印。


「……見つけてしまったか」

 男の声は低く、冷たかった。


「貴様、魔王を殺したのか!」

「違う。私は契約を守っただけだ。千年以上続く“均衡”のためにな」


 その言葉と同時に、書庫の奥から鎖のような魔術が伸び、俺とルナを絡め取った。



---



「だが、契約はすでに崩れ始めている。お前たちの存在が、それを早めるだろう」

 男は古書を掴み、炎で焼き払おうとした。


「やらせるかっ!」

 俺は力任せに鎖を引きちぎり、男に斬りかかる。

 しかし一撃は弾かれ、男の姿は影のようにかき消えた。


 残されたのは、焼け焦げた古書の半分と、床に落ちた一枚の小さな封蝋。

 封蝋には、見慣れた紋章――人間王家の印章。



---



「……王家も、この契約に関わっている?」

「だとしたら、魔王暗殺は……人間の意思でもあったのかもしれない」


 焼け残った古書の断片には、もう一つだけ文が残っていた。


 《契約を破る者は、暁の敵と呼ばれる》


 俺はそれを握りしめた。

 もう後戻りはできない。

 ガルドヴェインを殺した真犯人は、この《暁の盟約》の向こう側にいる。


【第五話・完】


今回も最後まで読んでくれてありがとうございます!

ここでまさかの魔王様の暗殺は王家が関わっている可能性が出てきましたね!

次回ではなんと王家に潜入するとかしないとか…

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