round 6
ゲートを潜り、視界が晴れた瞬間――俺は息を呑んだ。 そこは、夜の帳が永遠に固定されたような世界だった。 現実には存在し得ないほど巨大な蒼い月が空に浮かび、その光を浴びて白銀に輝く廃墟の庭園。崩れた石柱、絡みつく枯れた薔薇の蔓。そして庭の中央には、澄み切った水を湛えた泉がある。
「……ここが、静寂の廃庭」
ミニチュアとしての造形は完璧だ。作者の並々ならぬ執念と、どこか深い孤独が伝わってくる。 俺は泉のほとりに咲く、透き通った結晶のような花を見つけた。あれが依頼品である【月影の雫】だろう。
だが、俺がその花に手を伸ばそうとした瞬間、庭園の空気が一変した。
――キィィィィィィン!
鼓膜を劈くような電子音が鳴り響き、空間に亀裂が走る。 泉を囲むようにして、四体の「防衛機構」が姿を現した。
「……こいつら、ただのモンスターじゃないな」
現れたのは、半透明の魂を鎧で固めたような騎士。その頭上にはTester NameもPlayer Nameもない。ただ赤い文字で『Guardian: Sentinel』とだけ表示されている。 AIが自動生成した雑多な敵ではない。このマップの主が、侵入者を排除するために特別に設定した防衛機構だ。
四体の騎士が同時に、銀色の槍を構えて突進してくる。 速い。公式大会の決勝戦レベルの速度だ。
「だが、今の俺は『仕事中』だ。LIGHTの看板を汚すわけにはいかない」
俺は背中から『フレイムショットガン』を抜き放ち、至近距離で引き金を引いた。 轟音。だが、狙ったのは敵ではない。 銃身から噴き出した魔弾の反動を利用し、俺の体は重力を無視して真上へと跳ね上がった。
「――『翼』、フル展開」
☆5ドラゴンの鎧から、真紅の翼が力強く羽ばたく。 本来、この庭園のような閉鎖空間での飛行は、壁や障害物に阻まれる自殺行為だ。だが、俺はショットガンの反動と翼の羽ばたきをミリ単位で同期させ、崩れた石柱の間を縫うように超低空で加速した。
「一機目」
すれ違いざま、腰の『イグニスソード』が閃く。 確率20%のはずの炎の球が、俺の意志に呼応し、斬撃の軌道上に凝縮された。
ドォォォン!
騎士の鎧が内部から爆散する。 残りの三体が槍から光線を放ち、空中の俺を追撃する。網の目のように張り巡らされた死の光。だが、俺は「魂の操作」を一段階引き上げた。
アバターという器を通じて、周囲の魔力の流れを読み取る。 光線が着弾する「未来の座標」から、わずか数センチ体をずらすだけの最小限の回避。
「これで、終わりだ」
空中から急降下し、ショットガンのチャージ技を発動させる。 銃身が赤熱し、咆哮のようなエネルギーが充填される。
「『フレイム・バースト』――!」
放たれた火炎の衝撃波が、三体の騎士をまとめて泉の底へと叩き伏せた。 爆炎が収まった後、そこには静寂だけが戻っていた。 俺はゆっくりと着地し、荒い息をつく。 魂が摩耗するような、けれど心地よい疲労感。 俺は泉のほとりに膝をつき、目的の【月影の雫】を丁寧に摘み取った。 その時だ。
『――その戦い方。どこかで……』
耳元で、風が鳴くような、微かな「声」が聞こえた気がした。 俺はハッとして周囲を見渡すが、そこには蒼い月に照らされた廃墟があるだけだ。 だが、確かに感じた。 今、この庭園の主――「彼女」が、どこかで俺を見ていた。
「……君なのか?」
俺の声は、夜の庭園に虚しく吸い込まれていった。
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