round 4
翌朝、中央都市ロゼッタの朝靄が晴れるのとほぼ同時。俺は、開店準備を始めたばかりの「LIGHT」の扉を蹴るようにして開けた。
カラン、と眠たげなベルの音が鳴る。
「……はぁい、まだ開店前ですよぉ……。って、ええっ!? hardlyさん!?」
カウンターの奥で欠伸をしていたSunnyが、飛び上がるようにして俺を出迎えた。その騒がしさに、奥の居住スペースから不機嫌そうに顔を出したのはRainyだ。
「朝っぱらから何よ、hardly。まさか、一晩やってみて一枚も手に入らなかったから、泣き言でも言いに来たの?」
Rainyは寝癖のついた青髪を指で整えながら、勝ち誇ったような薄笑いを浮かべている。俺は無言のままカウンターへ歩み寄り、アイテムボックスを「一括展開」した。
次の瞬間。 ザラザラザラッ! という重厚な音と共に、カウンターが真っ白な「羽」で埋め尽くされた。
「……え?」
Rainyの動きが止まった。Sunnyは目を見開き、カウンターから溢れて床に落ちる羽の一枚を拾い上げる。
「これ……全部、本物だ。チャイルドドラゴンの、しかも最上質の風切り羽……。一、二、三……お姉ちゃん、これ、五百枚どころか少し余ってるよぉ!」
「嘘……。バグよ。何かのバグに決まってるわ。一人で、一晩で五百枚なんて、この世界の確率論を無視してる……」
Rainyは震える手で羽の一枚を掴み、自身のスキル『真理の探求者』で鑑定を始めた。だが、調べれば調べるほど、それが正当な戦闘によって得られた戦利品であることをログが証明していく。
「……どうした。昨日、『明日までに揃えてきなさい』と言ったのはあんただぞ」
俺の言葉に、Rainyは顔を真っ赤にして絶句した。悔しさと驚きが混ざり合った表情で俺を睨みつけ、絞り出すように声を出す。
「……いいわよ! 認めればいいんでしょ、認めれば! 確かに条件はクリアしたわ。今日からあんたは、うちの最低時給の新人バイトよ!」
彼女はバンッ! とカウンターを叩くと、ふいっと顔を背けた。
「でも、勘違いしないで。今回は運が良かっただけかもしれないし、次はもっと難しいのを頼むから。五百で威張れると思ったら大間違いよ」
「厳しいなぁ、お姉ちゃん! もう、素直に凄いって言えばいいのに。……はい、hardlyさん! これ、約束してた差し入れの特製ポーションと、バイトの『LIGHT』バッジだよ!」
Sunnyがピンク色の髪を揺らしながら、俺の胸元に小さな光るバッジを留めてくれた。これで俺も、この「虚無の店」の一員だ。
「さて、契約は済んだ。……Rainy、約束通り情報を聞かせてもらおうか。人探しについてだ」
俺が本題を切り出すと、Rainyは少しだけ真面目な顔に戻り、水色の衣装を整えた。
「……わかってるわよ。あんたが探してる『検索に引っかからないテスター』……。噂でしかなくても、心当たりがないわけじゃないわ。最近、この店に定期的に『お使い』を丸投げしてくる、変な依頼主がいるの」
「どんな奴だ」
「姿は見せない。いつも代理のNPCを寄こしてくる。でも、そいつが要求する素材はどれも、公式マップには存在しない『特定のミニチュアマップ』にしか咲かないはずの花や鉱石ばかり。……そのマップの製作者名も、記録には残っていないのよ」
俺の心臓が、アバター越しに跳ねた。 公式にないマップ。そして、意図的に正体を隠しているテスター。
「その依頼、次はいつ来る」
「……そろそろね。でも、その仕事をあんたに任せるかどうかは私の気分次第。さあ、まずは溜まってる床の掃除と、倉庫の整理から始めてもらうわよ、新人くん!」
不機嫌そうに、けれどどこか楽しそうにRainyが命令を飛ばす。 こうして、俺の「トッププレイヤーによるバイト生活」が始まった。
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