round 2
「……バイト?」
青髪を揺らし、Rainyが不審なものを見るような目で俺を睨んだ。 店内の喧騒が一瞬で引き、順番待ちをしていた数人のプレイヤーたちが「おい、今の聞いたか?」と顔を見合わせる。
「ああ。そこに『緊急求む、雑用不問』って張り紙があったはずだ」
「確かに書いたのは私だけど……」
Rainyは椅子の背もたれに深く寄りかかり、俺の☆5ドラゴン装備を再び鑑定するように眺めた。
「あんた、Tester Nameは『hardly』よね? 先月の公式大会、Aブロックを優勝して総合3位に入った。間違いないわよね?」
その言葉に、店内の温度が跳ね上がった。
「えっ、あいつがhardly!? あの『ドラゴン装備の死神』かよ!」 「マジかよ、なんであんな有名人がこんな『虚無店』でバイトなんて……」
周囲のざわめきを無視して、俺は無表情を貫く。 隣で目を輝かせていたピンク髪の少女、Sunnyがカウンターから身を乗り出してきた。
「ええっ! 本物のhardlyさん!? お姉ちゃん、凄いよ! 本物のトップランカーがバイトに来るなんて、うちも有名店になっちゃうね!」
「落ち着きなさい、Sunny。……怪しいわね。名声も金もあるはずのあんたが、どうしてお使い代行なんて泥臭い真似をしたがるの?」
Rainyの瞳に、鋭い疑惑の光が宿る。 俺は視線を逸らさず、短く答えた。
「この店には、情報の掃き溜めだって噂がある。……ある人を探しているんだ。トッププレイヤーとして目立つ場所だけでなく、地べたを這いずるような場所にしか落ちていない情報を探すには、ここが一番だと思った」
Rainyは鼻で笑った。
「ふん、人探しのためにうちを利用しようってわけね。……いいわ。雇ってあげてもいいけど、うちは実力至上主義。まずは『試用期間』として、一つの仕事を完璧にこなしてもらうわよ」
彼女は背後の棚から一通の依頼書を抜き取り、カウンターに叩きつけた。
「依頼内容は、難関エリアに生息する『チャイルドドラゴン』の討伐。そのドロップ品である【チャイルドドラゴンの羽】を、五百枚。明日までに揃えてきなさい」
その瞬間、店内にいたプレイヤーの一人が噴き出した。
「五百枚!? 冗談だろ、チャイルドドラゴンの羽なんてドロップ率は良くて数パーセントだぞ。ソロなら一ヶ月、パーティを組んでも一週間はかかる苦行だ!」 「それも、明日までなんて……。いくら大会3位でも物理的に不可能だろ」
Sunnyが慌ててRainyの袖を引く。
「ちょっと、お姉ちゃん! それは流石に嫌がらせだよぉ!」
「嫌なら断ればいいわ。うちの仕事は、そういう『普通の奴が投げ出す虚無』を肩代わりすることなんだから」
Rainyの挑発的な視線が俺を刺す。彼女は俺が根を上げて立ち去るのを確信しているようだった。 だが、俺にとってチャイルドドラゴンの羽五百枚という「虚無」は、彼女を探すための「一歩」に比べれば、あまりにも軽い。
俺は無言でカウンターの依頼書を手に取り、アイテムボックスに仕舞った。
「……わかった。明日までに揃えればいいんだな?」
Rainyがわずかに目を見開いた。
「本気なの……? 効率よく狩ったとしても、数千体は潰さなきゃならないのよ。魂が1000年持つからって、精神が先に摩耗するわよ」
「問題ない。慣れている」
俺は踵を返し、LIGHTの扉へと向かう。
「待っててね、hardlyさん! 差し入れのポーションとか用意しておくからーっ!」
Sunnyの陽気な声を背中で聞きながら、俺はロゼッタの街へと踏み出した。 五百枚。普通にやれば不可能だろう。
だが――俺には、まだ誰にも見せていない「もう一つの姿」がある。 俺は街の外門へ向かいながら、意識の奥底にある『別の器』へとアクセスを開始した。
最後まで読んでくれてありがとうございます。




