16.3. 「お願い。この窮屈な場所を早く追放してくれ」
この風穴で立ち籠ってもう四日間。臺灣の森に迷い込んだ期間に等しかった。腕の怪我は腫れて、免疫の細胞に細菌を必死にぶっ倒して貰うことになった。澁薙君は私や降恆ちゃんの包帯をこの四日で入れ替えていた。飲み干した椰子ジュースの瓶を点滴に再使用し、塩と砂糖を混ぜた水を注ぎ、私達の静脈に注射した。勿論、依存症に勝つ為の倉崎さんも、腰の怪我を縫合した綾小路さんも、私達と一緒に輸液をされた。但し、点滴の棒がなかったし、その瓶は口に両穴を開けたのちに、澁薙君は綱を通し、壁に付き電線を掛けた鉤に吊り上げた。劣りっぽい身長なので、笠人君に瓶を吊って貰うしかなかった。
小田切副司令は10月4日の朝に、特訓した鳩で現場の事情を報告する手紙を北川司令へ送った。十分に長い綱を手に入れたと、北川司令は一緒に参加した住民達と自分の部下に、大樹に登り頂上に届いた上で麻の火口などを燃やし煙を焚いて貰ったそうだ。あの煙は鳩を誘ってあげる。彼の書く通り、北川司令の組は自分の露営を出発点と付け、住民達の強き土地勘を運用して西湖への道を記していた。彼らが今まで何百枚の腕ぐらいの枝を板に刻み、枝先に亜麻仁油、そして順番の数を赤い墨で記すように黒い墨を塗っていた。今日の正午前に鳩が戻ってこれば、彼らが露営を解体すると私達が気付くよ。
厚喜さんも吉澤さんと後藤さんに電話を掛けた。自分の二人の親友に町の木工職人に解体し組み直せる小舟を準備して貰うと求めた。丸木舟なら細い姿で二つの湖の間の緑を渡りやすいから大丈夫かもしれない。そういう小舟は西湖に上手く逃げ出す私達を迎えに行く。あそこに逃げるにはまず平川の組の試練を乗り越えざるを得ない。二人の奴はもう自分の組に戻り怪我を治したり刀を修理したりした故に、北川司令達の痕跡をどうにかして別の所に置いて両刃の剣に変えると私達が予想した。だが、北川司令達が野営をした場所は彼奴らがまず知ってからでないと、あのトリックを仕掛けては無駄なの。
那月さんによると、この風穴は青木ヶ原の中心から1㎞以上で西北に隔てて、精進湖の方に寄せた。デカルト座標に投影すると、中心からここへの線はx軸と65度が出来る。風穴へ駆け上がる夜のように必死に走るなら、本栖湖を見過ごしたと良いでしょう。だが精進湖への道は真っ直ぐなんてないし、障害物は想定出来ないし、あの鳩が戻ってくるまで装備をまだ整えていない。
昼ご飯が終わったのち、ある副司令の部下は木の頂点で那月さんに足を持ち上げて貰ったまま、上半身が木を抜け上がって鳩を待っていた。あの鳩はやがて帰ってきた。小田切副司令の命じる通り、彼が鳩の飛行を大きい声で報告し、それで私達が北川司令達が去った場所が分かるようになる。鳩が僅かに東南で2.5㎞ぐらいの距離を飛んできて、北川司令達の露営がこの風穴をほぼ真っ直ぐに2.5㎞で隔てたと彼が告げた。夕べの決定通り、北川司令達は精進湖近くの麓に届くまで道標を記す板を地面に差し込まない一方、私達はあそこに届いてから彼らの経路に合併するよ。それで、栗鼠と鴉の案内はどれほど信用出来るかきちんと試してみるのさ。
「よし。じゃあ手を動かしてみて」と澁薙君が求めた、私と降恆ちゃんの腕の包帯を解いたのち。腕を曲げ伸ばしした時、痣がまだ消えていないずきずきの気持ちがしたが、痺れるほどないから少し安心した。これからもう三角巾を抜き、腕に包帯を螺旋の型に巻いて貰っただけだ。
「皆、荷物は準備出来ますか?」、那月さんが皆の様子を調べた。
「うん、ざっとだ」と返した厚喜さん。「小田切さんは軍団を整列させて道具を片付けてる。渡邊ちゃんと山口ちゃんを待つだけだ」
「ナギ君の言う通り、私達がなるべくゆっくり手を動かしながら片付けてます。こんな怪我は最低でも次の五日間で治るのです」
「この外套を着直して袖に弾丸の穴が残ったのは初めてです」と降恆ちゃんが言った、自分の貫いた袖を見せた。
「私も初めてでしょう。大したのは私と君はうちの学校を滅茶苦茶騒がしてたくせに、たった一個の弾丸のせいに文句を話したなんて良い加減べきじゃない?もう一つの傷跡を数えると認めれば?」
「あの弾丸こそ君を叫ばせっぱなしじゃないかと」と降恆ちゃんが揶揄った。「歯を抜くのとなら何倍も痛い」
「ナギ君の力に怖かったじゃないかと。お嬢さんとして、悲鳴を抑えて面目が立たないに決まってるね」と私が揶揄って反駁した。
智埼ちゃんが早速私と降恆ちゃんの右腕に包帯の場所をぎゅっと掴み、驚きと痛みに叫ばせた。「へへっ、どうせあんた達は一つの傷の差やさかい、こないに子供っぽく競ったらあかんや。この服を着て洗濯しひんでもう一週間やろ。早く洗いたい」
私が溜め息をして応えた。「うん、分かるの。この風穴の寒さは皆の匂いを拡散して、臭いかないかと感じない。ここをさっさと出ていこう。お互いの匂いが直ぐに分かるから」
「僕も。窮屈感はこれまで十分だわ」と賛成した降恆ちゃん。
「さてと、男達に先に登って貰おう。女達をそれから引き上げるんだ」と言った純彦君。関節を鳴らした後、純彦君達が粗い壁をぎゅっと掴み、滑らかな坂道を必死に体を進ませていた。怪我が治り中の綾小路さんなら、純彦君と澁薙君の間にされて、もし滑っちまえば澁薙君に支えて貰う。男達の末尾にいた厚喜さんと笠人君は、私を彼らの間に、降恆ちゃんは笠人君と武蔵野さんの間に、倉崎さんは武蔵野さんと最後に登る那月さんの間に位置付けた。中の電気も予め消され、電線と電球も厚喜さんの鞄に回収され、登る時はまた赤外線の眼鏡と、弱い日光に頼んだよ。
やっと十一人の若者が外の世界に戻った。私達だけでなく小田切副司令の軍団もこの森を早く出て行きたくなったので、数分で集合したのちに彼らがさっさと武装を構え、私達を前でも後ろでも守りに配陣された。風穴がざっと木に隠されるぐらい離れて歩いたうちに、那月さんは皆を左に曲がらせ、そして両手を合わせ唇に当てお経を読むように何かを呟いて自分の奇妙な動物を呼び出していた。左へ曲がって数分後、澁薙君の鴉が私達の頭の上にはしゃいで飛んで見せた。そのしばらく、周りの橅や檜などの枝にざらざらの音が聞こえた。風のような速さで飛び跳ね続ける数十匹の栗鼠。団栗を集めに単独になったかと見えたが、最早自分の親近か友人かに、隣の木で同行して貰ったよ。ある場合に栗が豊かに実った橅が揃った場所に入った時、大勢の栗鼠が集まって食べ物を出来るだけ口に入れた。あの場所を越えた時、またの群れが前の群れに代わって私達を案内し続けてくれた。
霧は再びこの曇りがちな昼で森を覆った。那月さんの体から発散したものじゃなく、空から降ってきて自然現象のように見えた。恐らく、皆に余計な不気味の感覚を寄越さない為、前がまだ見えるように彼女が割と薄くしたり、もうそろそろまたの戦場に入る覚悟を掻き立てさせたりしたようだ。段々安定したことにならず風に沿って流れ、スモッグのようにふわふわ飛んでいた。両派の大砲が一斉発射された後の場面にあまり違いなかった。厚喜さんは大好物のコダックを持って青木ヶ原の木、霧、栗鼠や鴉をいつも通りの写真にしていた。この旅の間、昼間になった時は何枚もの写真を撮っていたはずだ。小田切副司令は赤外線の眼鏡を借りて、私達がこの四日でまだ試していない昼間でも日光の効果にも目を不快にさせないという機能を試していた。遠くでは敵が動くかどうか調べることだった。
「ムラマサちゃん、彼に貸したとはほんまに宜しいの?」と疑惑して聞いた智埼ちゃん。
「彼は私達の味方になれるかどうかを確かめる為でしょう。憲兵内の一派を味方にするのは悪くないもん」
「気にしない方が良いよ、日澤ちゃん。この戦いはどうせ長くなるから、政府の勢力を求めなければ勝てる訳がない」と言った厚喜さん。
「そうちゅうことやけど、政治の手にうち達の企画をあまりに介入されたら、彼らの主張に伴ってまうわ」
「そうだったら、私達の主張を彼らの主張と合わせるならどう?憲兵ならどんな派でも、国の力である軍事を強くする同じ望みを持ってる。あの眼鏡にとって彼は当たり前に興奮してる。多分、あの眼鏡はもし憲兵の手に入れたら、対立の派を警告するだけでなく、日本の軍事技術を進ませる為に軍人にも紹介する可能だ。過激派もそうやるつもりでしょう」
「敵の心を見抜くかみたいだね、君は」と言った降恆ちゃん。「君も前に言ったでしょう。以上に大きくて恐ろしい組織は過激派という仮面を被ってるけど、政府にその神らしい技術を披露しちゃえば、自分の本意が明らかに、社会が滅茶苦茶になっちゃう」
「この赤外線の眼鏡も不適切だろ、今の社会に」と感想した綾小路さん。今までも、赤外線など電磁放射は西洋人の優秀な科学者でさえ頭脳を込めて命にどう役立つのかを探し抜いているもんだ。いきなり、あの問題を答えたり道具を作り上げたり出来たなんて、神々から受けた財物に違いなくて歴史の流れが推し量りにくくなってしまう」
「恐らく疑惑とか争論は想定外に激しくなるかもよ」と言った武蔵野さん。「敵のやる通りやるべきでしょう。どうせ秘密の武器だから」
「小田切副司令が今の経緯を理解する限りです。でも私達の側に立ってくれたなら北川司令ともあまり知ってるはずです」と私が信じた。
「皆、歩き止め。奇妙な合図がしたんだ」と命じた小田切副司令。私と純彦君が直ぐに陣立の先に駆け、霧の中で隠れた遠くの様子を彼に教えて貰った。彼によると、赤外線は霧でかくれんぼをしている人らしい姿を体温の検知で色付けたということだ。自分の眼鏡の赤外線検知機能を活性化したら、見えてきたのはあれだけじゃなかった。その姿が児童のようになるまで縮まり複製を作っていた。彼奴ら児童姿が山地の子供っぽく森ではしゃいで鼓を持って打っていると見えた時、小田切副司令が早速部下に銃を構えさせた。子供達や百姓を先陣にして敵を躊躇させるのは珍しい作戦じゃない。ただこの場合にまた本物の人間を用いずあの超越な技術を披露したのはまさに私達を躊躇なしで攻撃するつもりだった。
数秒後、数十の将軍の甲冑姿はまるで霧をぶち切るように突撃した。幹の広さを利用して陣立を木の後ろに隠れるように分離し、憲兵達の狙撃力を挑んでいた。彼奴らが児童姿らを通り抜け、雄叫びが凄く大きくなった時、憲兵達が小銃と引き金を最もしっかり握ったが、木に隠されるか隠されないかという状態を交代し続ける彼奴らの頭を狙いづらかった。ところで、那月さんと澁薙君は両手を口に添え特殊な鳴き声をやって栗鼠達と鴉を作戦の配陣に整わせた。いや、鴉に限らず青木ヶ原の鳥を澁薙君がちゃんと呼び掛けていた。彼に一人でやって欲しくないし、彼の豪邸に訪れた度に鳥の特訓を少しずつ教えてくれた体験を、私と智埼ちゃんも実戦に持って来た。『オーホッホッホーホー』って呼び続け、無為意識にあの時の臺灣の森に懐かしさを感じている。直ぐに、澁薙君の鴉が木の頂点から飛び降り、左の翼にいた偶然の奴に向かって彼奴の左耳を通りすがった。鴉に突っ込まれた彼奴が頭を右にぶち向け、銃の目線に入った。右の翼の偶然の憲兵が引き金を引き、彼奴を即に倒した。
「二人共、もっと喉から引力を強く」と澁薙君が私と智埼ちゃんに促した。『オッホ』っていうのは『ヒュヒュ』って声調を変えた。純彦君も私達に劣りたくなかったし、この面白い召喚に参加した。さすが澁薙君の一番の親友だね。『花火團』では澁薙君に動物の特訓を教えて貰ったのが誰よりも長い者だし、力をあまり出さず竹笛が喉に詰まったように呼び出した。那月さんの指揮と私達の努力によって、鶯、しきちょうや、やまがらなどが召喚され、私達の反撃を形に出来た。彼奴らが手裏剣となって敵に駆け上がり、憲兵達の銃に自分の仕事を全うさせてあげた。
更に、那月さんの栗鼠達では数匹のむささびが紛れ込んだし、鳥達に力を貸してあげた。一方、ある二匹は偶然に、見えない罠を仕掛けるという特別な任務を受けた。二匹共が口に弦のように弾性の高い糸を噛み、戦場の向こう側の木まで張った。こうやってあの糸が鋭くなって研ぎ立ての刃に似ている。彼奴らがまず平行に走り、その先勢いを増して凧のように空中でふわふわした。数十匹の小さな動物に攻められた敵の幾つかの奴はそれでも耐えて、憲兵達の狙撃を避け、鳥と栗鼠を冷たく刺殺した。だが、その様子がそう長く持たず、むささびの危うい弦にばらばらにされ、軍数をもっと結構減らした。場面は凄く残酷で、私達が目を瞑ったり顔をよそに向けたりした。それにしても、むささびの致命的な罠は私達を前に進み続けるお陰だ。断頭したり二等分に切ったりされた遺体が散り散りになって地面に墨を染めた。あの残酷な現場に立ち入らず進めるように団体を分離した。
墨塗れの現場が後ろになった時、私達が振り向き、幻の武士達と私達の作戦の犠牲者となっちまった小さな動物にご冥福を祈っていた。特に鳥達。現場に戻った時、もう墨と灰に変わった敵の遺体に紛れ込んだのは、血を流して墨に混ぜたほどだがまだ息をしている数匹の鳥だ。澁薙君の鴉が彼の肩に乗り、自分の鳴き声で、何かを彼奴の青木ヶ原の同類にやってよ、と伝えたらしい。数え切れた十四匹の倒れた鳥では、八匹が生存を見せた。栗鼠達は幸い、那月さんのただの幻の効果だった。だとしても、生存の八匹では三、四匹ぐらいが凄く弱い息をしてそろそろ死に掛けるので、なんとかしても慰めてやり、もう死んだ仲間と葬るしかない。枝に戻ったのは傷付いた奴もいた。脛の擦り傷、羽根の損失、しかも翼の脱臼。獣医でいないとしても、幼稚以来ずっと鳥の世話をしている澁薙君は根気に自分が初めて出会った鳥にも野戦風の治療をあげていた。降恆ちゃんも武蔵野さんも勿論、医者として鳥達を人間の患者と同じ位に止血したり殺菌したり縫合したりしていた。
滅茶苦茶の墨が土に合わせたと、私達が旅を続けた。さっきの立ち向かいは、この決定的な日にとってまるで私達への『身体を暑がらせる稽古』のような試練をあの謎の組織が与えた。いや、というより彼奴らの最初の一手を打つことだ。それに対し、私達が青木ヶ原の『精霊』である小さな動物を反撃の一手にしちまった。このままでは最早将棋の対局のような雰囲気になって彼奴らの意図通りじゃないかもしれない。今度は正面から襲い続ける代わりに、私達を思いがけずの所から脅かす気がする。そう、山賊がずっと気に入るゲリラ風だ。怪我をした鳥を住民達に渡し、この辺りの安全な所を探し鳥を置いて頂いた。どうせこの荒野の生物だし、すぐ治るよ。一番大事なのは北川司令の組の置いた赤い板の並びを見付けるのだ。那月さんの栗鼠達に導かれ北北西に進んでいた。それと同時に、地面と道の両側には何かがあるかなをずっと注目していた。
那月さんのお知らせにより、そろそろ御坂山地の麓に到着する。あそこには赤い板だけでなく大きい滝も見える。そのところで、雨がまた降ってやった、数日前と同じようにざあざあ。その為、麓に近付ければ近付けるほど、地下水の流れがもっと地面に及び上がって地面を滑らかにした。もう苔がきっちり掛かったことで、私達がたまによろめいたり転んだりしちまった。私と降恆ちゃんなら包帯を巻かれた右腕を掴まないと。誰でも骨が折れたり腱が捻挫したりしなくて良過ぎた。その時、この対局は遂に面白い様子に変わってきた。
不気味な唸り声が私達のいた辺りに凄く響いてきた。まるで幾千もの精霊が痛みに苦しまれていたらしい。地面を踏んだ度に、彼らのお腹など脆弱な所を踏んだ感じがした。さてなるようになるさ。後ろ側の憲兵の二人は地面から浮上した手に足をぎゅっと掴まれ、土に差し入れようとするかのように引き付けられた。仲間に必死に引き返されてあの二人の長靴や、その上のズボンの裾が取れたほどだ。もう助かったが、先ほどの引き付けは強過ぎて彼らを目眩させたり、顎、胸筋と腹筋に擦り傷をやったりした。「面白い方はこれまだだな」と、彼奴らが伝えたね。
雨と霧が景観を曖昧にするほど組み合わせたと、人の姿はそれぞれこの辺りの何処でも土を突き上げて立ち上がり始めた。最初に、地下から成長した巨大なみみずのように見えた。それから段々、はっきりな型に捏ねる粘土のように大人の姿に変わり、私達の経路を囲い込んだ。もう厳正な武士の甲冑じゃなく、普通の町人の袴を着ていた。そう、この森でずっと前から外の世間に辛く見捨てられた爺さん、婆さん、おじさん、おばさん、しかも姉さん、少年、少女の姿だ。彼らは皆戦国、安土桃山、江戸時代といった何百年前古びそうな格好のまま。彼らの肉体は昔から青木ヶ原の隅々まで溶けた。一方、魂はそう出来ずうろうろに、あの組織に極上の技術の道具にやらされた。それで、この森を逃げ出そうとしている私達を見たと、出口の探しを協力したり励ましたりする代わりに、私達のことを自分達の安らかな空間に闖入した奴だと思う心を持って、攻撃する動機をはっきりとしたようだ。私達が思いっきり走らないといけない。今回はもう模型化した敵じゃなく、本当の幽霊で、ぶっ倒すなら銃とか弓矢は使えない。
「皆、いかにやっても倉崎君を守り抜け」と命じた小田切副司令。そう、平川らに操縦された幽霊達が狙わされるたった一つの目的は倉崎さんでしょう。倉崎さんを奪い取って私との一週間の賭けの最後の勝ちになる為、邪魔する誰もを始末すれば構わないと彼奴らは執念しているの。小田切副司令の軍団は前と後ろだけでなく、私達の左右にも配分された。那月さんは普通に歩かずに空中で飛んで付き添っていた。幽霊を倒すのは幽霊だけだから、もっと幽霊を彼女が複製していた。もう武士の幽霊じゃなく、あれらの町人姿の幽霊と同じようだが、ぼろぼろに継ぎ当てが散り散りな服じゃなく、洗い立てのように綺麗な服を着た。
然し、那月さんがそういう幽霊の兵団を完成させる前に、敵の幽霊達は超能力を使って憲兵達をこっぴどくやっつけていた。左右の憲兵は最初の被害者となり、お年寄り姿の幽霊達に近くから手足が痺れるほど制圧され、周りの幹に手毬のようにぶん投げられた。子供姿の幽霊達は軽い体で高い枝に気楽に辿り着いて並びの末尾の憲兵に狙い、蜘蛛の糸のようなものを下し、投げ縄として偶然の二人の首に巻き吊り上げた。あの二人はさっき不気味な手に引き付けられた人を助けてあげた。彼の方は今もう他の人と、二人共を必死に引き下ろして殺し屋の糸が切れたほどだ。大人姿の幽霊達は小田切副司令と先陣に狙い、鍬や鎌など農家の道具でまともに攻めていた。
そして、厚喜さん達と『花火團』は特別に面倒されていた。各人は土から乗り掛かった年齢も不問な一つの幽霊にまともに、地べたに抑えられた。私はある姉さんに襲われ、よく抵抗したが、戦国時代の百姓のお姉さんに受け身を取るしかなかった。私達で一番強い笠人君と澁薙君は二人の足軽と相撲をやった。小手投げされながらも死闘に参る心を持って争っていた。倉崎さんは外見が弱そうだと見えたが、筋肉がしっかりな百姓の男姿の幽霊を相手にして懸命に抵抗していた。あの幽霊に首を絞められた際、あの手を一途引き抜き噛んだ。に限らず、あの強い歯列であの幽霊の腿、肩、腹をも狂おしく。倉崎さんの努力は私達と共に、那月さんの兵団の作成に時を稼いだ。それでも、常民の幽霊達は非常に強くて、私達がまたの怪我を負ったり、倉崎さんがうなじに手刀打ちを受けられ即に倒れたりした。混乱の場面で、倉崎さんが奪い取られた。
「姉さん」と私が叫んだ、卒倒した倉崎さんがあの男の幽霊の肩に乗せられたと見た時。この女性の幽霊の押す力に勝ってあの男の幽霊に追い付こうとするが、那月さんの兵団がこの縺れをほどけに参るまで私が苦戦し続けた。
綺麗な服の幽霊達は敵と同じ時代で暮らしたし、長い戦争や幕府時代の不公平で貧乏な生活をも経験したし、それでも世間に絶対見捨てられるのが嫌で立ち上がっていたそうだ。那月さんの心理戦はここだね。このぼろぼろな服の姿の幽霊達と戦うのは彼らこその鏡版だった。彼らが直ぐに呆れて自分自身の別の原型に制圧された。そのお陰で、私が制圧から抜け、数秒で皆に突然の計策をあげた、「猪との戦いの夜と同じ、私がこの集団から分かれて倉崎さんを取り返しに駆ける」という。倉崎さんを取り返せば皆に戻れないかもしれないから、西湖へまたの近道を見付けざるを得ないでしょう。
皆がまだ精神を整えていないし、あの男の姿が目線から消えていないところ、私が思いっきり走っていた。笠人君と里崎ちゃんが追ってきている。倉崎さんを助けるにはこれしょうがないと那月さんは分かった。だが、那月さんがパズルピースから出たし、パズルピースの超能力が全て彼女に集まり、彼女から私がもう2.5キロ離れれば保護して貰えない。地下で行けば自分を埋めるも同然。とにかく、那月さんがもっと兵と栗鼠を送り、端に辿るまで私達を守ったり近道を探したりしてくれるのさ。
やがてあの男の幽霊や、彼の肩に乗せられた失神の倉崎さんが見えた。彼が虎のように早く駆け上がっていて、金の卵を産む鵞鳥を青木ヶ原を去り彼奴らに引き渡すという単独な姿をした。私達を見に振り向いた時、彼が手を上に向け後ろに振り、仲間に突撃と合図したようだ。私が自分の『村正』を働かせ直したり、笠人君が関節を鳴らしたり、智埼ちゃんがケミカルの瓶を構えたりした。敵のゲリラ軍は道の両側じゃなく木の上から飛び降り途中で垣根に出来た。彼らを倒し得なくてもせめて負傷させてやれる。この長岡藩風の戦いはこれから継続したが、もう農兵と正規兵の格闘じゃなく人の光と影の衝突に変わった。四日ぶりにパズルピースが緑に光って敵の鏡版を作り上げ私達の側で。素手なら素手と、日本刀なら鍬や鎌と、ケミカルなら土や砂と相手にし合った。その垣根を越えた代償はあまり辛くないが、智埼ちゃんは割れた硫酸の瓶に手を少し切られ、硫酸の余分に手袋を溶かされた。手に硫酸の火傷が擦り傷以下とでも智埼ちゃんを直ぐに水を入れたいと苦しんでいた。
「倉崎姉さんを寄越せ」と笠人君が叫びながら近付いた。あの男の幽霊は倉崎さんを乗せながら私達と交戦した。今回は笠人君の出番だね。私が智埼ちゃんの手に水筒の水を注ぐ一方で、笠人君が倉崎さんを取り下ろし方を探っていた。あの男が笠人君の腹に蹴り彼をふらふらさせた。笠人君が咳をしてからあの男の右頬への凄く強い拳で返った。彼があの男を自分の卑劣なお父さんと連想した。笠人君の顔にあの男がまともに拳を向けたところ、笠人君が簡単に脇に避け一蹴であの男の打つ腕を折った。それでもあの男がそんな簡単に降伏せず、身を翻し一蹴で笠人君の左耳を攻めて彼を地べたに倒れさせた。「笠人君」って私と智埼ちゃんが一斉に呆れ嘆いた。叩きのめすと違いなくて最悪過ぎる。相手をふらふらさせるばかりか向きをも失わせるには耳を狙うでしょう。笠人君も降伏せず、崩れたばかりの家が人に引き上げて貰うように立ち上がり、耳から出る血を構わず微笑んでから、頭を一途あの男の胸に突っ込んだ。あの男が直ぐに地面に倒れ、一人でに倉崎さんを離した。笠人君が間に合って倉崎さんを捕まえた、彼女が顔を地べたに突く前に。
「笠人君。倉崎さん。格好良かったよ」と私が自分の勇気な親友を褒めた。智埼ちゃんも笠人君も怪我をしたことに。倉崎さんがやっと起きた。今更倉崎さんの歯列にもあった血痕が見られた。
「打つ度にずっと、あのくそ親父を思い出したんだ。可笑しいすね」と過呼吸しながら言った笠人君。
「自分のおとんに感謝した方がええよ」と弄った智埼ちゃん。倉崎さんも聞こえてちょっと笑った。
「あたしもそうすると思います」と返した倉崎さん。「そのお陰で、皆と出会えて良かったです」
「さっ、一緒にこの森を出よう。樹海の近道は多いから」と私が言って皆が「うん」と反応した。ところで、私が倉崎さんを、智埼ちゃんが笠人君を負んぶすることにした。足に止まる気がちっともなく前へ進んでいる。
栗鼠達と那月さんの兵団が私達を守り続けてくれた。まるで鉄砲と大砲の弾丸や、掘り返された土と埃の間で走り掛けるようだった。倉崎さんが私の肩を呼吸しにくいほどぎゅっと抱き締めた。そのところ、那月さんが電話を掛けた。小田切副司令の組が北川司令の案内通りに走っていてなるべく私達に近くなるようにした。但し、一番近くなら平行に行くしかないし、いかにしても私達を迎えに彼らが先に西湖に到着する。私がこの森から西湖へ流れる地下水があるかと那月さんに聞いた。那月さんが直ぐに私達の要件を把握し、私達の辺りに存在する地下水を測位し、栗鼠達に護衛して貰うのを新たな段階にした。『栗鼠の見送り』と呼ばれたものだ。
「君達まず地下に降りといて。その先、右のまま凡そ250メートル走ればあの水脈なんです」と言った那月さん。
「だが土に入ったら栗鼠が付き添えないじゃありませんか」と私が聞いた。
「付き添えますよ。ただ違った姿で」と那月さんが答えた。「時間が惜しいでしょう。盾を活動してあげますからね」
一刻も早く透明な盾が私達を囲んだ。ただ那月さんによると、土の下に入るには普通に歩いて段々沈む訳じゃないし、何処か深い場所などを求めるべきだそうだ。甌穴というと、大きいに従い地下水の存在が高いから良い奴だ。お待たせにならずに、前回の倍大きい甌穴が出てきた。私と智埼ちゃんが手を繋いだし、笠人君と倉崎さんもしっかり捕まったし、そこに飛び降りた。土に突入した時、もう地面の感覚が足元に無くなったし、場面も明るいから一瞬で暗くなったし、赤外線にしか視力を助けて貰わなかった。水の流れにどぼんと落ちたようだ。手が底に届けるからあまり深くない。私達の懐中電灯は以前の混乱で壊れたし、倉崎さんも残念に眼鏡を掛けていないので、私達の言葉によって空間を読むしか出来なかった。水が私達を思いがけずの方へ押し付けていて自分達が別に鯉に相違ないと感じたよ。
「その流れは西湖へ導くとは限りませんよ。ついさっき言った通り、そこから右に向ければ良いのです」と言った那月さん。
「那月さん、この森の下には水脈の迷宮が存在してるらしいです。そのまま流されれば、右の支流が見えるのです」と私が言った。
「あのさ、栗鼠があたし達と付き添ってない気がしたの。ここに着いた時、奴らと離れてしまったでしょう」と声を掛けた倉崎さん。
「うんうん、まだ皆と一緒にいます。ただ地下の環境に合う為、ふわふわな尻尾から土を突き込む鼻に姿が全然変わりました」
「え?もぐら?もぐらがあたしの肩に乗っとる」と途中で何かを発見した智埼ちゃん。そう、栗鼠達がもぐらに化けちまった。
「あれは皆と前から付き添ってる栗鼠なの。今体を三倍大きくしたり尻尾を縮んだり足と鼻を長くしたりしました」と那月さんが答えた。
「でも盾がなければもぐらもここで生きてないでしょう。空気喪失で死にますから」と私が言い続けた。
「だから私がまだ発信してると確認するものです。もぐら達がその水を泳ぐ限りは私がまだやってます」と答え続けた那月さん。
「おっ、私の前のもぐらがそろそろ右に曲がります。行くわよ」と私が那月さんと皆に伝えた。この地下水脈は一人の大人の腰ぐらい広かったし、滑り台にどうか相当するかもしれなかった。右に向かったが、実は右上の方へ曲がった。そのまま、そのまま、上の青木ヶ原に相当なこの張り巡らされた水脈の迷宮を結構探検していた。右へ向く支流がないある場合にはまず前或いは左の支流に従ったよ。段々この水脈が斜めになりつつあって湖にそろそろ辿り着くと伝わってきた。この森は周りの湖より高い地にあったものだからね。但し、湖に近付けば近付くほど、斜めによる重力、水量や水の引力が高まるので、水がこの空間をきっちり覆えば潜る覚悟を。倉崎さんは水位がゆっくり上がってきていると怖がっていて、私に眼鏡を貸して貰い、後ろの智埼ちゃんと笠人君と深呼吸をしていた。水流の音や皆の声をしか感覚出来ないが、私が目を開けたままこの暗闇で光を待っていた。その光は多分、西湖の上に浮く小舟からの灯りでしょう。
すると、パズルピースが赤く光ったし、智埼ちゃんの言う通り那月さんとの距離が限界に迫ったし、最早決定的な瞬間になったと気付いた。盾がもう地中の恐ろしい圧力に段々脆くなり、ガラスのようにからからと鳴った。水脈の中も段々広くなり、水力も段々強くなり、またの排出を準備してきた。水が最早空間を覆い、私達四人に一分間で息を呑ませていた。盾がばらばらに壊れたし、もぐらに変化した栗鼠達も正式に見送ってくれたし、「お願い。この窮屈な場所を早く追放してくれ」と私達が潜りながら願っていた。こうして、より大きい水の空間に投げ出された。遂に私達が西湖に下から着いた。だが、結構長い間で呼吸しなかった故に、西湖の上に泳ぎ上がろうとしたが、水の圧力で気絶しそうだった。倉崎さんが私の襟を揺らし水中で言い掛けた。「雅實さん、雅實さん。『花火團』が待ってます。着いたのに卒倒しちゃ駄目」




