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日本の定理・上巻  作者: 泉川復跡
【『樹海の近道』編】第十六章。栗鼠の見送り
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16.2. 栗鼠と鳥は一緒に森の按針になれるだろうか?

 那月さんが智埼ちゃんと降恆ちゃんに初めて会って礼儀の挨拶をした。純彦君の組はあの風穴に一番早く来るから、もし私達が入口で待ち伏せられたら裏から援護してあげられる。案の定、那月さんをおんぶし続け歩き直してしばらく、憲兵のような声が森に響いた。北川司令と小田切副司令の部隊か、平川らによる不思議な効果か、真っ暗で区別出来なかった。あの声がもっと雑になり近付いてきた。私達が靴の紐をしっかり結び直し、制帽と制服のような姿が木の群れに紛れ迫ってくると見た時、獣のように必死に走り掛けた。

「待ーて、あの亡霊」と叫んだある士官。聞いただけで彼が本物の人間だと気付いた。だが北川司令とか小田切副司令の声じゃない。

「もしかして北川司令の部隊だ。僕達が見えなくて亡霊とか盗賊だと間違えちゃった」と言った厚喜さん。

「こんな距離でお互いの灯りしか見えへんやろ。お化けや鬼火などが見えたも同然」と応えた智埼ちゃん。

 そのしばらく、銃の音が放った。ある憲兵の部隊がこの灯りらを狙い私達を脅威しようとしていた。でもこんな事情で遠くで銃を撃つなんて危な過ぎじゃないのか。弾丸が私達の誰をも命が危ないほど負傷させるので、本能に身を屈め頭を塞ごうとした。やむを得ず私が彼らに「撃たないで。渡邊雅實の組で探査の同志です。そちらの方へ倉崎さんをちゃんと探してます」と大きい声で伝えた。やがて銃の突撃が止まり、憲兵が私達の登場を気付けたと思ってちょっと安堵した。憲兵に後ろから援護して頂きたいとも求めたよ。

 だが、那月さんがもう一つの突撃を西北から予感した。「来たよ」という叫び声が聞こえた時、早速数十の弾丸が止められ、近くの木の幹に差し返したと眼鏡で見られた。やっと平川らが駒を打ったね、私の通報を小耳に挟んで。小隊のように集まり、彼奴らが猟銃をこっちに向けたまま私達の経路を平行に追い付いていた。憲兵達も現場に参上し、謎の敵を銃の目線に留めた。

「雅實ちゃん、これを使え」、笠人君が何かを渡してくれた。お父様の拳銃。弾丸を全六個入れた奴。お父様は笠人君に事情を話して貰ったので、私へ送るように頼ったに違いない。生まれて初めて軍事の銃を使ったが、射的のゲームを思い出したまま彼奴らを倒そうとしてやる。彼奴らの頭を狙っていた。どうせ本物の人間じゃないし、非人道的じゃない。弾丸が切れちまった時、笠人君にもうあったのかを聞き、彼の鞄にもう一袋あると喜んだ。もう六個を入れ、むしろ敵の頭の下の部分を突いた。ただ憲兵達の上達たる狙撃がなければ、この銃撃戦が銃の多い派に傾かざるを得なかった。代償は私と降恆ちゃんが腕を銃創されちまった。だが、筋肉を突いたぐらいで弾丸を抜き出すとあまり危なくないでしょう。

「あかん。二人共の腕が」と呆れた智埼ちゃん。

「大丈夫。那月さんに幾らでも守られても彼奴らの殺意に勝つ訳がない」、私が血を流した右腕を掴みながら返事した。

「風穴の寒さが来たぞ」と通報した笠人君。遂に風穴の範囲に入った。平川らも自分の駒に全ての風穴と水穴で待ち伏せて貰った可能性は私達が見逃さないが、負傷者が三人の事情で那月さんの最強の技術に頼らずにいられなかった。私と降恆ちゃんが大変に呼吸していた。偶然に、雨が再び降っていた、風穴の入口が見えた時。最初にしとしと。少なくとも五人の奴が入口を塞いで迎え撃っていた。那月さんが倉崎さんを奪い取った時以上の霧を放ち、十度以下の寒さを私達と敵に苦しませた。彼奴らが突然の寒さに落ち着いていない際、智埼ちゃん、武蔵野さんと厚喜さんが負傷者を庇いながら火を付けない松明で必死に攻撃していた。

 敵の射手らが援護に来たのを契機に、那月さんが再び目を瞑り両手を緩め、体と袴ぐるみを奇妙な青に発光させた。現場に進もうとしている憲兵達をも目撃させるように、彼女が身を空中に飛ばせて女神らしく雨を支配していた。そう、霧の温度を四度に減らし雨水の密度を増やした。四度では水の密度が奇跡的に最大に上昇するもので、雨の一雫ずつが太くなり平面に非常に強く落ちる訳だ。四度の冷たさと共に私達、敵と憲兵達を薔薇の棘に刺されたように苛めていた。

「お前ら、早く入れ」、純彦君の姿が見えたし彼の促す声も聞こえた。良い契機に私達が途中の敵を面倒臭い古びた垣根のように押し倒して一刻も早くあの入口へ滑り込む覚悟を決めた。敵の援軍も私達の進路を切りに駆け上がった。

「学生共、身を屈めよ」と命じた小田切副司令の声。

 私達をずっと追い付き援護して下さっているのは小田切副司令の導く部隊だと今更気付いた。彼の部隊はもう銃を取り換え弓矢を構えた。それぞれの矢は先が火球を付けるように見えた。小田切副司令が祈願のように命じた。「森の精霊様、光をお贈りなさって有難い。放てー」

 数十個の火球が炎の放物線を生み出した。副司令の言う通り屈めたと、不思議な盗賊全員が矢を突き刺され、しばらく発火して燃えていた。彼奴らが本物のように慌てたり叫んだり雨を必死に浴びたりしたが、雨水が残念に勝たず彼奴らを地べたに痙攣して焼死させ、湿った石炭の匂いを放たせた。雨の下でも火がまだ燃えていて風穴に外と離れる境界線を引いたようだ。だが、雨が段々大きくなるので、その炎の帯が消えるよ。

 小田切副司令が自分の部隊にこの辺りを警備して貰った上で、炎の帯を飛び跳ねて私達に合流した。「君達なら大人に同行して貰うべきだ。特に林道が得意な大人」と言ったら、彼が敬礼した。

 私達、那月さんさえも敬礼した。純彦君が代表で返事した。「憲兵がご参上下さり感謝しました。ご誠意ならばご頂戴致します」

 小田切副司令がくすっと笑って言った。「重そうな敬語だな。憲兵はどうせ、政府の主張を思わずに実施する人間だけではないというのだろ。政府が議院や元老様などに仕組まれても別の政見を立てる」

「憲兵には内戦が起こっちまったのがやはり噂ではないですね。政府のものの如し」と私が言った。

「君達がお目に掛かるのは命を保証する私達だというのが運なんだ。けどな、『花火團』の少年達がどうやってここに来たのか?」

 小田切副司令が、私達がなんとかしても秘密を隠すように答える質問をした。純彦君があのトンネルに入る前にもう準備したようにそう答えた。「東京の現場に立ち入って北川司令と貴方の部隊に会ったのはこの三人の女子なので、私達男子をここで見たのは疑うべき訳ですね。私達が小田原の方より籠坂峠を歩き登って富士山の北方の麓に沿って青木ヶ原に入りました」

「あの、本当に申し訳ありませんが、副司令と皆が風穴に入って貰えますか。その先、お互いの旅路について話すのが気楽です」と求めた那月さん。小田切副司令もこの風穴の内観を気になって受け入れた。丁度良い時に、雨がもうざあざあ降り始めたよ。

 懐中電灯が付き直した。やはりこの風穴は歩いて入る訳にはいかない。入口が坂過ぎて苔に掛かって入るには横たわり重力に頼るしかなかった。純彦君と澁薙君は倉崎さんを間にして助けながら登り皆を喚呼したのは、二人の過去の経験をどう見直しても凄いと誉めている。皆が一緒に横になり苔の絨毯に奥に運ばれることになった。猪にぶつかり引き付けられる同じ気持ちだった。ただ、途中で右側の壁を私が見た時、猪の死体がもう消え、乾いて黒くなった血溜まりをしか残さなかった。到着した時、ある不思議な光が私達を驚かした。電球の光だ。那月さんが前から電線を壁に付け電球を装置したのさ。その光は風穴の氷の鍾乳石を奇妙に現し、其奴の金字塔らしい構造を奇妙に照らし、まるで発光して見せたようだ。熱によって鍾乳石から水がそっと滴るのも見えたよ。

「えー、天幕を上げた時にここまだ暗いのに」と驚いた純彦君。

 那月さんが最後に到着した時にそう披露した。「電線に気付かなかっただけでしょう。しかも電線は壁の黒に合わせたし、今までこの面白い景観を隠してたんです」

 厚喜さんがちょっと驚いたが、自分の親友の専門を考えたと偉い感じを抱えてそう感想した。「さすが小金井中学校の家庭部の女主将。卒業して四年経ったけどまだ調子満々」

 武蔵野さんも言葉を追加した。「家庭は女子の工学だから、腕が上手くてしなやかになれば、装置でも奇術師のように処理出来る」

「もう褒めてくれたのは十分だ。この森の出口が見つかるまで、ここは私達の避難所になるんです」と返事した那月さん。

「なんて声がもう森の神っぽいよ」と反応した倉崎さん。

「あのね、猪の死体は何処かで葬りましたね」と私が疑問した。

 那月さんが答えた。「はい。そのまま残せば、不気味な雰囲気をしたし、臭い匂いをさっぱり放って気持ち悪くなります。しかもメタンを放出してこんな所には危ないです。その為、私が自分の武士と一緒に死体を入口から引き上げて肉を全て取り出してこの風穴の近くで埋めました。彼奴の肉を今朝の雑炊に入れたんです」

「那月さん、貴方の言い方は怖いですよ。あの猪に可哀想な気持ちになったけど、どうせ自然の車輪を逆らう訳ないでしょう」

「あの猪の屍を尊くするには、彼奴の栄養を受け止めることです。食べるのは彼奴の臓器じゃなくて肉体だけです。さっ、皆焚き火に集まって。夕食が出来るまで皆の傷を」

 やがてこの風穴は避難所と保健室となった。私は澁薙君、降恆ちゃんは武蔵野さん、綾小路さんは自分の妹に治療して貰った。笠人君は鉄の背嚢を設置し、この夕食で料理人の実力を披露することにした。小田切副司令は自分の部下に補給品を求め、米、枝豆、味噌、豚肉、卵、野菜などをここに滑り落として貰った。風穴には十二人で、小田切副司令の部隊は十人。警備を担当する彼の部隊の配給量を保証するように、内観なら六割、外観なら四割と配分した。純彦君は家伝の焼酎、澁薙君は塩水を持って来たことで、傷口を消毒出来た。

 澁薙君と武蔵野さんがマスクを着け手袋を嵌めた。外套を脱ぎ、横向き寝をしてから、この白いシャツの右袖に真っ赤な穴が見えた。澁薙君が肩から右袖を全部切った。武蔵野さんは鎮痛剤を持って来なかった。わざとだった。何故なら私達まだ成人じゃない対象だから、鎮痛剤の含んだ中毒性が高いケミカルに影響される訳だ。それで私と降恆ちゃんが歯を噛んで我慢せざるを得なかった。純彦君も白濱を二年間騒然させていたこの二人の女子はどう耐えるかと見たかった。

 銃創の口にお酒の浸かった一枚のガーゼが優しく触れただけで、弾丸が筋肉に詰まった感じが腕ぐるみを痺れさせた。鋏が傷口にゆっくり入った時、神経が三味線の弦のように限界まで引っ張られ私に衝撃の反射をやらせた。澁薙君が私を必死に押さえていた一方、私が外套の袖を必死に噛み絶叫を押さえていた。鋏の刃が三割で筋肉に進んだ時、金属のようなものに触れた感じで、弾丸の位置が見つかった。それから一番辛い段階。鋏の両刃が弾丸を挟めようとし、血をどんどん流していた。弾丸が静脈を破り骨にとても近付いたし、澁薙君に弾丸を努力的に引き出される間に、まるで骨がゆっくり切断されるような痛みを耐えていた。破るかのように外套を絞めたり、汗を泉のように流したりしたまま、弾丸が段々筋肉を出させると、私が身を澁薙君の足に圧迫し、小悪魔を早く取り出すように反力を作った。すると、その小悪魔が体から摘み出され、私が安堵の呼吸を急かせて戻していたよ。もう少しだければ、意識を失ったわ。

「全部火縄銃の弾丸だね」と小田切副司令が確認した、ガーゼに置いた円錐の弾丸を見た時。小学生の指先ぐらいだし、鉄の明かりが少し出たし、平面もより荒くて手作り風だと感じたものだ。

「こんな弾丸はこの間あまり使ってないんですね。これは戦国時代や江戸時代などで」と澁薙君が言った。

「そういう見た目だが、もうちゃんと見たとこの時代の手作りのもんだ。此奴は鉄から製作されたし、長い間ぶりに狙撃に使われたとしたら錆が見える。錆が出たら渡邊君と山口君の命が危ない」

「破傷風ですね、副司令」と過呼吸をしながら言った降恆ちゃん。「まだワクチンが出来てないから本当に患ったら死刑でしょう」

「彼奴らはまだ貴方達を殺す気がありません」と那月さんが結論した。那月さんがもう自分のお兄さんの腰を綺麗に縫合した。そして、彼女が私と降恆ちゃんに向かって土下座をしてお詫びをした。「すみませんでした。あの弾丸をもっと早く塞げば良かった」

 私が直ぐに「いえいえ。那月さんは出来るだけ塞いでくれました。私と降恆ちゃんを突いたのは速さを随分減らされましたから」

「火縄銃なら、火薬を入れたり引き金を引いたりするのが時間掛かるかもしれんが、強さは小大砲の五分五分だ。撃つ人は慣れなければ反力に跳ね返る。煙が沢山出ていったとも見てたんだ」

「あんなに煙が出たに従っては弾丸が速くなるそうです」と笠人君が言った。「想定の速度で飛べば二人共の腕の筋肉じゃなくてもっと深く、恐らく肺臓を脅かしたぞ」

「だから那月ちゃん、君がずっと頑張ってるよ。あの弾丸は刹那に君の目を逃げて危険を冒したけど、間に合って制御して良かった」

「ひひ、どうせ閣下の近衛に似合わないね」と言った那月さん。

「さて、渡邊ちゃんと山口ちゃんの傷口を縫合したばかりだ。血がかなり流れたり汗もたっぷり出たりした為、塩と砂糖を合わせた水が必要だ」と言った武蔵野さん。澁薙君が直ぐに塩水の瓶を出し澁嶺椰子ジュースの瓶に注ぎ、きちんと混ぜた。腕に包帯を巻いているところの私と降恆ちゃんに彼が渡し、飲んで貰った。瓶を受けた時に喉がずっとからからしたと今更気付いた。やがて私と降恆ちゃんが瓶の半分以上を終えた。でもこの水の量はこの怪我を感染させないように少なくとも三倍になるべきだと考えた。

「皆。もうお腹が空きましただろう。夜ご飯は準備出来ました」

 笠人君がそう呼んだ。もう一時間以上経って笠人君が小田切副司令、厚喜さんと智埼ちゃんと一緒にの夕食を作り上げてきた。軍用と民用の釜がこの十二人の空の胃にご飯を炊き足りた。胡瓜、茄子と大根がきちんと切られたし、醤油が食欲を刺激しに小皿に流されたし、野菜のお汁がそれぞれの茶碗に注がれたし、猪の肉が漬けられ焚き火に炙ったし、そして河口湖から釣られた鱒が葱と生姜と蒸された。私と降恆ちゃんは右腕を三角巾で吊って茶碗を持たずにいられなかったが、左利きなので苦戦せずに食事を楽しく終わらせて済んだよ。

 食事の間に、小田切副司令は純彦君達がどうやって青木ヶ原に入って私達に合流したのかという問題に戻った。純彦君は合理そうな言葉を紛れ込んで話し続けた。倉崎さんが那月さんの心霊な姿に奪い取られたのを手紙を通じて小田原に届いてきたところ、純彦君達はもう五台の赤外線の眼鏡を作る最後の段階に進出した。『花火團』は丹澤の森で自殺を失敗した倉崎さんが青木ヶ原を目指したと前から気付いた故に、東京訪問に実験版の一台を作っといた。城木先生と松澤先生の大学講師という完璧な迷彩はこの眼鏡が奇妙なものじゃないと証明してくれた。私達三少女を少し驚かせる為、秘密で青木ヶ原に立ち入った。那月さんに迎えて貰った際に、純彦君達は栗鼠達の経路に沿って檜の下の洞窟に歩いていた。栗鼠は二つの木の間に栗を集めに飛び跳ねる。木は互いに隔てるに連れ、栗鼠は後ろ足に跳躍力と尻尾に平衡力をもっと求めるし、大樹とか洞窟の存在率も高まる。

「厚喜君の家では早朝。受けたのはあの三時間後。どうやって東京からの手紙をあんなに早く?」と問い続けた小田切副司令。

「鴉のお陰です。澁薙君は飼ってる鳥を何年も訓練して、鴉の賢さを特別に用いました。『花火團』皆の顔、外見と居場所を覚えるように学習させて、手紙を送ったり成員を追跡したりするのが出来たんです。私達は何処へも向かってるのなら、彼奴らに付き添って貰うという訳です」と説明した純彦君。

「夏休みの初日に、鴉に皆へ暗号を書いた手紙を送って貰いました。酒匂の川沿いで夏祭りについて穏便な会議をしたんです。日比谷事変が皆に届いたのも鴉の伝書でした」と言った澁薙君。

「もしかして鳥達もこの森に入りました?」と聞いた那月さん。

「んー、青木ヶ原は例外かもしれんけど、高い木を選んで下が見えるように枝に止まる限り、僕達の辺りを確定出来るんです。小田切副司令の林道の経験には比べられませんけど、僕も家出する時に箱根、丹澤や南足柄などの森に旅をして愛鳥を自由に飛ばせました」

「確か渡邊ちゃんも林道の経験を持ったんじゃないかね」と厚喜さんが聞いた。私だけでなく智埼ちゃんも頷いた。

「一番覚えてるのは臺灣の玉山近くの山地に迷い込んだのです」と私が応えた。「三年前の春には澁薙君の招待で智埼ちゃんと臺灣で二週間の旅行をしました。あの時、臺灣の一番の山頂を一番美しく見るように何処が良いかを話し合って、親様と、山地に住んでいる住民と一緒に林内で野営した後に、鳥に何があったことによって私達が野営を出て森の奥まで迷い込んじまいました」

「あの時、僕が鴉と鶫を持って行って、森で飛ぶとしても野営に帰れるかどうかを試してみたい為、野営した一日後に彼奴らを釈放してみました。もう一日待ってて二匹がどっちも帰らなかったし、心配過ぎて一人で森の奥に駆け上がってたんです。精神が整った時、智埼ちゃんと雅實ちゃんにしか追われなかったし、臺灣人か大人なども後ろに見られませんでした」

 智埼ちゃんが言い加えた。「あたし達はあんたに追いつかないといけへんだった。あの森は臺灣の険しきとこだし、初めて入ったし、迷えば臺灣人でも時間掛かって探すの。今までもあの森の蛇、蜈蚣、蛭などに夢で取り憑かれとる」

「あの森は山脈を覆ってるし、野営も峠みたいなトレイルにあったし、出口を探す途中で淵に落ちる危機感をずっと抱えてて悪夢らしい事情だった。私達が見つかるには臺中からの日本軍にさえ頼ったよ。玉山の麓を範囲にして先住民に私達が迷い込んだ疑わしい辺りへ案内して貰った」と私が話を続けた。

「彼奴らは君達を何日で見付けたの?」と聞いた小田切副司令。

「四日間でした」と私が答えた。「澁薙君の鶫が崖の側の木の枝で見られた時、範囲を縮んで、私達が焚き火を付けて犬槙に背もたれをしてぐっすり寝てたと発見したのです」

「あの時の寝相は思い出したと鳥肌が立っとるやろ」と感想した智埼ちゃん。「あの木の裏側には淵に向かう根本があった。しかも彷徨っとるところ、ちゃんと松明を持って、毒性なしの茸を採ったり、枝を鋭くして動物を狩ったりして、命がいつでも無くなる恐怖を抱えとった。ナギ君の鳥が見られなければもう部族になってもうた」

 小田切副司令が笑って言った。「そりゃ面白そうだろう」

「ある少年少女が森で迷子になって外の連絡を切って臺灣の新部族を作り上がったということはな、誰もが記事に出来なかったら俺訴えたじゃん」と弄って言った純彦君。

「それは歴史に記録すべきもんじゃない?」と厚喜さんも笑いを抑えないまま弄りを続けた。

「こら、皆笑いをやめてよ。ご飯が喉に詰まったら困るの」と降恆ちゃんが笑いを抑えようとしたまま皆を注意した。

「とにかく飼い主に似るじゃありませんか。鳥達は自分を全然見ず知らずの場所で迷わせて自分の飼い主も迷い込んでしまったと気付いた時に彼の方へ帰ることです。迷子中に越川君は何かを発信したでしょうね」と言った那月さん。

「はい。飼い主に愛玩動物の勘はあるかなと思ってて、三時間おきに鳥みたいな音をしてました。鳥をきちんと訓練出来るようになるには彼奴らの言語がどうか分かるもんです」と応えた澁薙君。

「鳥の言語って大袈裟なの。人間は自分の飼ってる動物になんとかしても人間の言語でしか話せないもん」と反駁した降恆ちゃん。

「だから時間掛かって訓練すべきじゃん、ツネちゃん。彼奴らを理解させるように気が長くて、時々塩水でうがいするほどだ」

「ひひっ、どうせ僕達毎日毎日喉を綺麗にしてるの。鳥の音が出来るなら喉の奥からオペラと笛の音を合わせなければならないし、喉がひりひりする気持ちになるからさ」

「その後は君達が叱られたのですか?」と倉崎さんが聞いた。

 澁薙君が答えた。「当たり前です。見つかった途端に、僕達が救命隊の隊長の怒鳴りで起きました。臺中の病院に入院して治療を受けた時、まっちゃんの親、チサトちゃんのお母さんと原崎おじさんに大変叱責されて、鳥を持って来ることを後悔さらせたんです。あの恐ろしい経験は林道の恐怖を齎した以外に、鳥の訓練に痛い目に遭った教訓を身に付けました。鶫はより高い場所へ飛ぶ特性を持つけど、見ず知らずの場所になら自由に飛ばせてはいけないんです」

「だがあんたには鳥の音を練習する切っ掛けがあったやん。自分の愛鳥があのとこにおらへんやとしても必死に呼んどった。彼奴らが響きを受けてあたし達にいつの間に戻ったど」と言った智埼ちゃん。

「でもね、日本人だけでなく臺灣人にも叱られたのは忘れられない思い出でしょう。あの地形がよく分かった人達は私たちの親様と同じ心配してて私達が生きてると安堵したよ」と私が言った。

 倉崎さんが少し静かになって話した。「今誰かに叱られるのが欲しいのにね。誹謗とか禁断じゃなくて誠の叱責です」

 笠人君が厳しく反応した。「叱られるのは気にしてくれるとは限りません。まずは励まされて、結果を果たすまで後悔なしで、全てが想定外に悪くなってこそ二度と繰り返さないように叱られるんです」

 倉崎さんが少し笑って感想した。「ひっ、料理人の言葉ですね。あの屋台でね、松兼さんにずっと叱られてたの。理想的な男の姿を持ったくせに、自由勝手に聞きにくい言葉を吐いやがったなんて」

 笠人君が応えた。「厨房の緊張さは人間をそういう風に変えますから。この緊急な状態なら出口を考案するのは励ましときますよ」

「それでは、明日は如何であろうか?渡邊君と山口君の腕の怪我は無害になるまで、この風穴で青木ヶ原の出口を考案する。この森なら団体でさえ出口を神様のご極力で求めるんだ。良いことはこの森と富士河口湖を描く地図を持ったよ」と提案した小田切副司令。

「住民の描いて下さったものですからね」と武蔵野さんが聞いた。小田切副司令が頷いた。

「然し今一体何処にいるかまだ分かってないのに、あの地図はどう使えば良いのか?」と質問した厚喜さん。

「仮定の点という方法をまた使えば?那月ちゃんの算額っぽい案内を解いたのもその方法を使ってここに着いたでしょう」と倉崎さんが意見を挙げた。「あの地図の何処にもいられる、私達は」

「森の精霊である那月ちゃんがいるから皆が心配しなくても良いじゃん」と綾小路さんが言った。「明日はここの座標を知らせて貰う。またの算額問題かもしれないけど」

「算額を出題するなら出口を探す時にするんです。まず越川君の鳥を呼び出して、皆にここの座標を読んで地図に付けて貰います。ここの座標は鳴澤村向きか、西湖向きか、出口の経路を決めてあげます。ただ西湖向きはより長い道で敵に挑戦するから勧められてます。この森では湖へ向く地下道がとにかくあるかもしれないと思ってます」とちゃんと提案した那月さん。

「でも本栖湖か精進湖かへ向くならば事情がやばくなるんです」と意見した小田切副司令。

「はい。あの二つの湖の辺に沿って歩くと提案するつもりですけど、とにかく栗鼠と鳥はどう助け合うかを調べないといけません」

「彼奴らの特性に頼るしかないんですね、森の按針になるかどうか。彼奴らが分かれば、必ず出口を見付け出せるんです」と澁薙君が言って肯定した。夕食はもう終わり、皆の健康を復活させる早寝の時間に譲った。この10月3日は長過ぎに過ごして『花火團』の皆と厚喜さん達に前代未聞の疲れを負わせた。速く天幕の畳に横になり、腕の痛みを忘れるように寝たかった。

挿絵(By みてみん)

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