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日本の定理・上巻  作者: 泉川復跡
【『樹海の近道』編】第十六章。栗鼠の見送り
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16.1. 「自然なら光を無料に与えることがない」

「武士の皆殿。この洞窟を守って下さいませ」

 那月さんが丁寧に発令したのち、幾十名の武士の亡霊が一斉突撃した。そう、あの天変地異の夜とは違いじゃない。ただ今回の武士達は那月さんに生み出されたし、私達の味方じゃないかと思われたとも良い。入口への大変で滑らかな坂を登り顔をばれない限り頭を少し突き出したと、刀が互いに打ち『カキン』の音を激しく鳴らし劇的な殺陣になっていた。傷跡が散った粗い顔を持つ断片的な服装姿の山賊らと戦っている武士の中では、私が何処かで見た姿がいた。血塗れの右頬を隠し意識を段々無くし眩暈になったとしても、彼の方が私と厚喜さんを通り抜け、刀を三日月に振って狐の仮面の武士の甲冑を破ったのが見えた。やはり那月さんも最初から夏祭りとあの廃校に一緒にいて、城木先生の代理で私達を守り抜いたわね。

「彼奴らの殺陣を見て体がうずうずしてんだぜ。お前も自分を構えてるかね、那月」と声を掛けた平川。平川と那月さんが『舞台裏』で立ち何も言わずに自分の不思議な設備を使って両派の殺陣を操縦していた。ただこれだけは飽きちまったそうで、平川が那月さんに新たな挑発を送った。那月さんも受け入れ、お互いに自分の設備を『偶然状態』に調整し自分の傀儡を自由勝手に争わせることにした。

「こちらも鍔を押してるよ。三年ぶりにこの再戦を待ってた」と返事した那月さん。操縦の設備を服装に戻した時、平川と那月さんが互いに刃を振り上げ相手を目指しに戦場に駆け上がった。

「五十嵐、何もするな。僕の殺陣だ」、平川の五十嵐への警戒が聞こえた。好奇が極まりに届いていった故に、もう危険を構わずにあの殺陣を見たくなっちまった。私が入口に一番近く登った時、綾小路さんと笠人君も後ろで付いてきて戦場に入る覚悟が出来た。特に綾小路さんが妹さんに手を貸したがった。

 当然、ある山賊の姿が入口に近付いた。やがて私が彼奴の顔を見ちまった。獲物を発見したばかりのように興奮した目を見ながら彼奴が刀を振っていたところに、私も自分のを彼奴の顔に横に向けた。一途、体が坂を伸び上がりあの山賊に意外の一撃を与えようとした。綾小路さんと笠人君も早速洞窟を去り私を支えようとした。彼奴にあと少し抗ったのちに、彼奴の胴に一本の対角線を切り、山賊の一人を倒したのを確認した。もう二人、三人の奴が参ってきて、この戦いの様子を想定外に変更したよ。

「あら、もう早く回答したね、渡邊さん」と声を上げた五十嵐。平川と那月さんも私達の所に目を向けて逆様な表情をした。平川は案の定興奮。一方、那月さんは不安。あの不安はやがて彼女の刀を振る力を強くさせ、平川に一旦と保守の姿を構えさせた。平川は平気に那月さんの攻撃を受け止め、参戦人数が増えたとしたらこの戦いがより時間が掛かったり規模と騒ぎが大きくなったりして憲兵と地方の住民の注目を博し彼らをここに集まらせると信じたようだかもしれない。

「雅實ちゃん、下のジュン君達に通報を。なんとかしてもこの洞窟を逃げさせなきゃ」と求めた笠人君。笠人君がそう求めた時、この洞窟の前の戦場では両派の兵力がもう始まりより三倍増え、交戦中の叫び声が恐らく智埼ちゃん達にさえ響きそうになった。さっさと対応しなければ、山賊らが武士達に数で勝って洞窟に闖入し純彦君と澁薙君に重傷を負わせ倉崎さんを横取っちまう。

「先輩、笠人君、このまましっかりして下さいね。スミヒコ君達に避難を求めに戻る」と私が言った、もう数人の山賊を倒した上で。刀に黒と赤の血が付いちまってどろどろ滴った。血みどろの刃を持ったまま戻った時、純彦君に事情を纏め、一枚目のパズルピースを渡すことにした。純彦君もこの事情が厳しくなりそうだと気付いたし、パズルピースを受けて澁薙君と倉崎さんに一緒に野営の道具を整頓し洞窟を常識が思い描けない方に去ろうとするのだった。

「このパズルピースを持ったら洞窟を通り抜けて地下を歩ける。ただ五キロの直径以内でお前のを接続するんだ」と言った純彦君。

「平気なの。五キロ歩けば30分ぐらい掛かるから、私達が皆を追跡してこの滅茶苦茶の所を逃げる」

「眼鏡を使う時間だ、スミ君。地下は真っ暗な上行方が分からないだろ。でも地下は空気がちっとも入ってないし歩けるのか?」

「全然大丈夫です、越川さん。那月ちゃんに地下を越してここに運ばれたのですから」と倉崎さんが答えた。

「それじゃ智埼君達を追い付かない?」と意見を挙げた純彦君。

「うん。僕もそう思ってる」、澁薙君が同意した直後に、早速受話器の向こう側の降恆ちゃんに応報した。「ツネちゃん、今から経路を変更してくれる?平川の奴らと戦ってる。皆にここで会うのが出来なくて別の洞窟に宜しい?」

「うん。道を変えたばかりなの。マサちゃんの電話が切ってないから皆の事情がなんと分かる」と答えた降恆ちゃん。

「でも行き先がまだ見つかってないかね」と聞いた澁薙君。

「僕達どころかこの地の人でさえこの森を全て探検する訳ないよ。経路の途中で風穴のような所が見えたら早速入ると主張するさ」

「君達の辺りには異常な寒さとか変な音がするの?」と私が聞き彼らに風穴が存在する手掛かりをあげた。

 武蔵野さんが声を掛けた。「まだ上からの風の寒さだ」

 私が悩んでる声で呟いた。「このままじゃ迷い込んじまう。スミヒコ君達が地下を歩いても洞窟か風穴か見つかる訳じゃない」

「雅實君、お前が外に戻ってけ。俺達がさ、お前と綾小路先輩が那月さんと初めて出会った風穴を必死に探しに行く。あそこはあまり遠くないだろ」、純彦君がこの事情に一番適切な提案を出した。

「城木先生が確かあそこへの道を記したようだ、スミ君。眼鏡の追跡機能を使ったんだ」と言った澁薙君。

「だったら早く行きなよ。あそこへ来たら皆に伝えて一緒に朝まで避難しとこう」と私が促した、一瞬立ち止まって外に戻りながら。

「渡邊さん、渡邊さん」と倉崎さんが私をもう一回立ち止まらせるように呼び出した。「無事になって下さい」

「はい」と私がしっかりな声で返事した。あの廃校の事故のように二度と引き起こしてはいかないの。

 再び戻った瞬間に、笠人君が自分の非常に強い体力でまだしっかり立ってる一方で、綾小路家の妹兄(いもせ)が斬られ倒れたと見えた。直人さんが左腰、那月さんが腹部中央で、擦り傷以上の怪我を負わされ、一刻も早く縫合されなければ止血が出来ないことになった。その反面、平川が右手の腕の裏と右腿に斬られ、五十嵐と山賊らに残りを任せた。五十嵐が直人さんの命を危険に追いやるように上から真っ直ぐ振ろうとしていた時、私が駆け込みあの刃を防いだ。先の頃は貴方の親父、今回は貴方と私の向き合いの出番だね。『人工的構成』の山賊がほぼぶっ倒され、不思議に石炭の灰に分解し地面に沈みつつあったことで、この戦場に残ったのは二人の首謀者や、撤回する三人の奴。那月さんも自分の幻の武士を撤退させたので、私が五十嵐と数分で殺陣をやり彼奴に擦り傷を負わせ皆でここを逃げるつもりだ。

 やはり平川の『近衛』且つ武家の子だね。彼奴の親父より手振りが速いし、猫と鼠ごっこをせずに一撃を真っ直ぐやったし、包帯に巻かれた私の右目を絶対に狙わなかったし。それで互いの力を絞り出してやりどちらが先に逃げるか私達が優先にした。揉み合った挙句、五十嵐が私の刀を押し下げあの場面を再現した。私も必死に自分の刀を押し上げ彼奴に不利を移転した。でも互いが過呼吸し始めた故に、宮本武蔵殿の櫂の一撃を再現する気もなしで、『竹斬り』の一撃でこの殺陣を終える。互いがわざと少し退いた時、刀を思いっきり振り相手の刀を弾き飛ばそうとした。

『キン』という音が森を震わすかのように鳴っていた。その次の激しい擦る音が周りの部外者を歯をきっちり噛むほど気持ち悪くさせたようだ。刃の間の摩擦が足りなければすり抜け相手の顔を切っちまうこともあると私が心配していた。彼奴の強い圧力によって私がまた右足を跪き、それでも滑らかな洞窟の坂を登る経験によって、口を開けずに歯を噛んだまま、脛の筋が浮き出ると感じるほど立ち上がり、両腕と脊椎を必死に右に回し、彼奴をも段々私の向きに回らせた。もう堪らず口を開けずにいられない時、私が五十嵐に汗を随分書けさせ彼奴の握りをどうか緩めるのが出来た。刀を空に向けた際に、彼奴の刀をブーメランのように飛ばし、平川の所を越え、近くのある木に真っ直ぐ差し込んだ。平川が頭を下げ、あの致命的な軌道を避けた。

「雅實ちゃん、俺綾小路さんを負んぶする。那月さんはお前に頼む」、笠人君が過呼吸中の私を呼び一刻も早く逃げると促した。

「那月さんは大丈夫よ。お腹の怪我がもう消えちまったから」

「そうじゃないんだ。彼奴らが追い掛けて那月さんを攻め続ける。眼鏡を掛けて皆に追い付こう」

 私がもう一回目を閉じて落ち着き、那月さんを背中に乗せた。腹に一撃を受け止め血を流したとしても、ある時間後に彼女の袴に破れ目を残しただけだと見えた。パズルピースの力が那月さんにどんな酷く傷付けられても自ら治り得るという超能力を与えた。要するに、城木先生の作ったパズルピースが全て見つかるまで、那月さんが成仏にならない。彼女のお兄さんの具合の方が気になるべきだ。笠人君が先に走って、白い布を左腰に巻かれた綾小路さんを負んぶしていた。笠人君が自分のシャツの袖を破り包帯にしたよ。笠人君と綾小路さんも眼鏡を掛ける姿になった。ということは、倉崎さんを連れて行く純彦君と澁薙君が残りの二台を共有していた。

 怪我になった平川が刀を狂おしく幹から抜いている五十嵐を待っていたうちに、私達が既に少し走った。曇る天気の午後が暗闇を速く齎し青木ヶ原を不気味な紺青と異常な寒さで覆った。眼鏡を掛けて暗闇を見たり純彦君の組と智埼ちゃんの組の経路を観察したりするところ、皆がまだ迷っていると驚かず纏めた。那月さんがその為、私達全体に案内係としてあの風穴への道を教えると決めた。

「渡邊さん、ポケットで電話はまだ発信中ですか?彼ら皆が私のことを聞けるように」

「はい。このままじゃ電池が切れちまうと恐れるだけです。電話を取り出して貰えます?」

「はい」、那月さんが私の電話を取り出し、自分の口と私の耳に当てた。「受話の皆、聞こえますか?那月です」

 受話中の智埼ちゃんが那月さんの声を聞いて興奮した。「ずっと聞こえとります。猪の死体のあった風穴を探しに皆が彷徨っとります。降恆ちゃんも澁薙君と連絡し続けますから」

「チサトちゃん、降恆ちゃんの電話にちゃんと近付いてね。那月さんがあの行き先を案内するの」と私が知らせた。

「今走っとるやろ」と私達の様子を確認した智埼ちゃん。

「ええ。行方が分からないまま走ってる。平川の組にそろそろ追い掛けられるから。しかも憲兵に遭ったら良くない気がするよ」

「憲兵が見えたら那月が狙われてあんた達が危ない。彼らは銃を使って好きに放つのが当然」

「それに憲兵達を導く地方人だ。だが森が真っ暗に戻って良かった。滅茶苦茶なことになる訳ではない」

「とにかく用心深くならなくてはいけません。平川の不思議な手下達に追い付かないように私の案内をよく聞いて。山口さん、地下にいる絲島さん達を止まらせて下さい。貴方と松兼さんもここまで停止して欲しいです」

 まだ走っている笠人君を私が呼んだ。「笠人君。少し休んで」

 笠人君が私の所に戻って返事した。「ああ、すまない、すまない・・・このまま走れば遠回りするに相違ない」

「うん、ちょっと停止したと良い。先輩、腰の具合は?」

「まだ結構ずきずきしてんけど、意識を失うほど大したことないよ。もうちょっと我慢すれば血が止まるんだ」

「お兄様、その切れ目は見下してはなりませんよ。擦ったように見えるけど禁止の部分にもう少し届くところだった。お兄様の腎臓」

「だからそう包帯を巻いたら良い加減です。傷を固定するのもしてませんし。皆に合流して降恆ちゃんに任せるしかないんです」

「じゃあ私が案内しときます。二枚目のパズルピースを持つ人である、私を負んぶしている渡邊さんの位置を原点に」と言ったら、那月さんが目を瞑り指を曲鬢(きょくびん)ツボに当て数学の問題を出す風に案内した。「私が距離を間の単位に測ります。全ては凡そになります。私達は先ほどの洞窟と西南西の30度に168間で隔てる。沙也香ちゃんを連れて行ってる絲島さんと越川さんは原点と西北西の10度に232間。日澤さんの組は南南西の5度に172間。猪の死体がある風穴は北西北に、檜の下の洞窟と原点の距離と垂直する。あの風穴は絲島さんの組、日澤さんの組と洞窟への距離の和が、原点から絲島さんの組、洞窟と日澤さんの組への距離の和の二倍となるように位置付けられる」

 挿絵(By みてみん)

「またの算額。これからまた解きますからね」と反応した私。

 那月さんが指を曲鬢ツボから離して言った。「この時代では経緯度が測位によく使われてますけど、青木ヶ原の迷宮になら無駄かもしれませんから、羅針盤の方向を使って幾何学化にしたら貴方達の合流の時間が縮むと思ってるんです」

「ったく、その羅針盤がこの時代以上に細工じゃないでしょう」と言った綾小路さん。「だからお前が背中を真っ直ぐにして磁性の高い地面から離れようとした訳じゃ」

「平川の奴にわざと斬られた訳じゃなーいの、お兄様」と子供っぽく返事した那月さん。

 私が那月さんを背中から降ろし、ここの蒸し暑い地面の平らな奴を慌ただしく探した。あまり遠くない二つの木の間の地面で見付けて良かった。溶岩の地なので水に染まると、その上に茶を耕せるぐらいふかふかしたよ。ラッシュナトゥール人の万年筆を活用してデカルト座標系を描き、那月さんの問題通り四つの位置や角度を推量し点を付け、五つ目の位置を『幽霊点』として原点からの直線に固定した。

「綾小路さんを背中に乗せ続けて傷を安定しないと」と笠人君が言って私が拒めなかった。彼がゆっくりと胡座をすると同時に、綾小路さんを自分の背中にもたれさせ、足を折り曲げて座って貰った。

「日澤さんの組も何処かで隠れて下さい。平川らが一旦と撤退しましたので、その後もっと歩兵(ふひょう)を挙げる恐れがあります」と那月さんが智埼ちゃん達に戒めた、彼らが私達の後ろでとても近くても。

「安心せよ。今僕達の辺りに塹壕らしい道路があるんで、彼奴らの目を逃す可能だ」と応えた厚喜さん。那月さんが確かあの声を久しぶりに聞いたように一瞬に沈黙した。

「青木ヶ原の暗闇は恐ろしい御伽話を作ったとは言え、人を誘導したり大きな盾として人を保護したりすることもあるんです」、純彦君が笠人君の電話を通して声を掛けた。

「但し、光を手に入れた限りじゃん」と言った澁薙君。「自然なら光を無料に与えることがない」

「この暗闇の中でも光が見つかった訳だ」と私が返事した。「スミヒコ君と倉崎姉さんも那月さんが出題したのを把握しましたね」

 倉崎さんが応えた。「はい。絲島さんが解いてるところです。今私と越川さんが眼鏡を掛けてる一方、絲島さんが懐中電灯と呼ばれた照明によって見えてます。越川さんに当てて貰いました」

「では俺が自分の図を分析して見せる」と純彦君が言って、私も自分の図を照合した。「お前の場所は原点でO、俺達はA、檜の下の洞窟はB、日澤君達はC、そして未確定の風穴はDとする。そこでOAは232間、OBは168間、OCは172間、ODは解くべき奴でxとする。OAは西北西、OBは西南西でx軸に基づいて10度と30度を描く。一方、OCは南南西、ODは北西北でy軸に基づいて5度とy度を描く。このy度は30度。この問題の目的はDA+DB+DC=2(OA+OB+OC)という条件を満たすように、Dを測位することなんだ」

「うん、私の図に合ったよ」と私が認めた。「スミヒコ君、この問題はどっかで馴染んだと気付いた?」

「爆弾を仕込んだ位置を探す問題だろ、夏祭りの終日に。あの位置はフェルマー点とされたんだけど、今回はもうある特別な点を求めなかった。簡単な問題で皆が早く合流する為だ」

「んー、簡単かどうか耳だけあれば分かんないの。えーと、OA、OBとOCは那月さんのお陰で全部測ったので、和にしたら232+168+172=572。二倍にしたら1144となる。これからDA、DB とDC の和は1144になるようにDを探せば良い」

 笠人君が言った。「これから一番のところだろう。Dが見つかってないし、三角不等式で推測するしか出来ない」

「私もそうやるの。三角不等式で推測」、私が賛成で応えた。

「つまり、渡邊さんはD点を仮定の点にしてOA、OBとOCの三角形的な相関に基づいて測位するつもりですね」と言った倉崎さん。

「はい。具体的にはあの等式、そしてABとBCの長さを。DAとDBに形成される角と、OAとOBに形成される角は同じABを見てます。DBとDCに形成される角と、OBとOCに形成される角は同じBC。三角不等式によると、DA+DBとOA+OBはAB、DB+DCとOB+OCはBCより大きいということです」

「そういうこと」と賛成した純彦君。「一方、DA+DB+DCはOA+OB+OCの倍で、例えばDA+DBをABに変換したとすると、DCなど残りの辺がこの不等式の右辺の応じる辺より大きい結果だ」

「然し、例外が一つあります。DAとOAです。二つの奴は同じ第四象限にあって、DAに対する角は50度の一方で、OAに対する角は直角に近い感じがするんでDAはOAより小さい。絲島さんの組はあの風穴に一番近いという訳です」と言った那月さん。

「なるほどね。DBは直角三角形OBDの斜辺。DCは三角形OCDの鈍角に対する辺。これから比例にしたらDA・OAは1より小さい比例。一方、DB・OBとDC・OCは1より大きい比例」

 那月さんがもっと案内を言った。「でもね、1より大きい比例に対してはちゃんと分数の代わりに整数の係数を考察して下さい。全ての統計は凡そにしたと前に言ったんで、1144に確実になるとは限らないものです。1144に出来る限り近いのが適切だと思ってます」

「分かりました。ではDAはOAの半分にすると見做します。そして残りの二つのペアに値の表で最適な比例を」と私が返事した。

 私と純彦君は値の表を立てようとした。DBとDCだけを構ったら、DB+DC=1028という方程式に従うしかない。DBはOBのa倍。DCはOCのb倍。まずはaとbの係数は1から始まると340という最小値を達した。aを1にしたままbを5までにしたと本当に1028を達したが、DBは直角三角形の斜辺なので理不尽だった。aを2とbを4にしたと1024を達して1028に近かった。まだ躊躇っていたし、aを3とbを3と4に変えたと、1020と1192を果たし値の表を完成させた。

 私が溜息をして通報した。「1024、4の誤差による結果です。そこでDBはOBの二倍。もうピタゴラスの定理に頼ってODを求めますよ」

「やっぱ1024を認めて仕方ない」と言った純彦君。彼がもうちょっと沈黙して確かに暗算し掛けた。「平方根なら暗算しづらいよ。ODは64872の平方根で168*sqrt(3)と簡単化された。sqrt(3)を1.73と凡そにすると、最後の結果は290.64だ。お前達が291間に丸めても大丈夫よ」

 いきなり私の後ろに人の感覚があった。「ぷわっ」って女らしい声が私の耳を大砲のように打ち込み、私が叫び声を抑えず口を塞ぎ体が転んじまった。心臓がある瞬間に止まったよ。

「雅實君、どうした」、純彦君が変なことだと思って聞いた。

「ひひっ、ええ反応やねん。もう笑いをちゃんと抑えてまうわ」

 智埼ちゃんの京都弁が聞こえてむかつきそうになった。「なーんでやねん。もう彼奴らに捕まえられたかと思ったよ」

「叱っとっても大きい声を出さへんやん。ごめんごめん」

「こんな合流に慣れてても心臓に悪いぞ」と言った笠人君。「てことはお前達がずっと歩きながら電話を掛けてたね」

「うん。先輩達に解いて貰ったと同時に、ちゃんと足音を出さないまま君達へと進んだ。塹壕風だから」と言った降恆ちゃん。

 智埼ちゃんが私をぎゅっと抱いたまま言った。「一日過過ぎて皆が再会して良かった。もうスミ君、ナギ君と倉崎さんに会うだけや」

 私が落ち着き戒めた。「でも291間、1kmの半分ぐらいだ。良いことは問題が解けて直ぐにあそこに着く。悪いことはランプと電灯がもうここを照らしたんで、彼奴らを注目させる。このまま照らして。北西北へ歩いてもし見られたら幾らでも逃げる。那月さんは皆を守る」

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