15.3. 「松兼さんの厨房で倒れてしまった時はまさにあたしの幸せが極まりに届いたのです」
10月3日はもう正午になった。智埼ちゃんと降恆ちゃん達が遥か前に野営の道具を整頓しこの洞窟への道を探していた。倉崎さんは最早、速く呼吸したり汗をかいたり頭を叩いたりしていた。長い間で刺激薬に依存するせいに禁断症状になっていた。人を恍惚させ濃厚で悦楽な宴会を盛り上げに使われるあの謎の薬は倉崎さんをこう虐めている、毎日。綾小路さんが椰子の実のジュースで彼女をなんとか鎮めようとした。城木先生は私達の各メンバーに二本の椰子の実のジュースの瓶を与えてくれた。そう、私達が先生の家で休憩中に飲んだものだ。熱帯国のココナッツじゃなく澁嶺の椰子で、普通のココナッツより三倍量の電解質を含む。一啜りをした時、倉崎さんが呼吸を整え直すのが出来たが、頭がまだずきずきで精神を安定していなかった。それで、一時おきに一啜りを飲ませることにしたよ。
「先輩、倉崎姉さんを天幕に戻しましょう」と私が求めた。
倉崎さんを天幕に連れ戻し、柔らかい布団に横にならせた。降恆ちゃんのマッサージを見様見真似して倉崎さんの頭をちゃんと揉んでいた。倉崎さんが頭上を包帯に巻かれたことで、私が後頭部と頸椎に集中し、頭の天辺と両側の太陽ツボならゆっくり優しく撫でていた。一ヶ月以上の昏睡は彼女の頭蓋骨を回復させたとしても、血腫と敗れた血管の余波をまだ残していて、頭のどんな所を揉んだと、痛いと反応してきた。那月さんはその時洞窟に降り、天幕に入って手伝った。モルヒネの瓶を取り出し、倉崎さんの右袖を捲り、散り散りになった注射の赤い跡を見せた。戦士に鎮痛することに用いられるモルヒネは彼女の静脈に注入された。モルヒネこそが刺激薬でしょう。然し、倉崎さんが依存しているのがモルヒネよりも強いに決まっている。
「呼吸が整いました・・・那月さん、そのモルヒネは病院から取ったでしょう」
「うん。勿論沙也香ちゃんの病室からです。全ての病室には薬を収納する棚がありますから」
「深本姉さんが倒れた時に取ったね。だから写真機が映れなかった」と私が那月さんが聞こえないほど呟いた。
「昨日はこの同じ状態を自ら扱わないといけなかったね、那月」
「はい。だから皆に速く来て欲しかったです」と那月さんが答えて私達が何かを思い付いた。「この洞窟に入った直後に、天幕を張って火をくべる以外に、沙也香ちゃんの依存症にも取り組んでたし、一人でやったら大変ですよ。それで夜になって皆が富士河口湖に登場したと知った時、なんとか悪戯を仕掛けて皆に速く会うことに」
「疑った通りですね。夕べあの猪の群れを異常に大きくして狂おしくして私達を襲わせたのは那月さんでしょう」
那月さんが微笑んで応えた。「近いですよ、貴方の推論は。実は私が彼奴らを大きくし要りません。この森には異常に大きい動物があるとは当たり前ですしね。私がやったのは彼奴らを操縦して貴方達を狙って私の待ってた風穴まで追わせたことです」
「やはりですね。この森にある百ほどの穴で一つに賭ければ馬鹿馬鹿し過ぎでしょう。どうせ見えざる手に頼むしかありません」
「アダム・スミスさんの用語を使ってるのね」と那月さんが言ったら、倉崎さんのおでこに触り汗がもう出なかったと安心した。「沙也香ちゃんの巻き込まれた縺れを解けるまでもっと沢山協力して貰うことを期待します、貴方に」
「多分時間が極めて長くなるかもしれません。一年間もに」
「長いか短いかまだ言ってませんのに。でも一年ならまだ短いですよ。貴方と仲間が向かい合ってるのは過激派と常識に呼ばれるけど、過激派を隠れ蓑により偉いものを目指す組織です」
「日本の未来を定めることだけじゃないのですかね」
「残念ながら私が生きた頃はそれだけ知りました。だが、沙也香ちゃんに降らして家族をばらばらにした大惨事は私が自分の命を代償に本質をちょっと理解出来ました」と那月さんが言って私の好奇心が溢れた。「死人に口なしけれど、糸口を上げます。沙也香ちゃんの父親が精神的に衰えたのは倒産と借金に限りませんよ」
突如、那月さんが何かを感じて一刻も早く洞窟の入口に駆け上がった。彼女の急かせるような仕草は外で人か動物かがこっちに近付いていると表した。まさか平川の組?彼奴らが来たと憲兵をも連れて行ったから、私と綾小路さんが刀を構えたまま、鎮静中の倉崎さんを守ろうと覚悟した。かさかさの音をした足踏みがどんどん大きく聞こえた。刃を鞘から引き出すところを、馴染みな姿が見えた。純彦君、笠人君と澁薙君が遂に来たという。まだ仕事の時の白いシャツとズボンのままだね。確か眼鏡を作り上げ次第、ここに揃ったようだ。
「みんなー。どうやってここに来たの?」
「どうやって来たのか分かっただろ。あのものがなければ着くことはなかったんだ」と返事した純彦君。
胸ポケットに手を入れたと、那月さんを投影したパズルピースがあっただけだ。夕べ私と綾小路さんを麻酔で倒したのちに、那月さんがあれを取り出し洞窟の入口の前で落葉の下に隠したようだ。
純彦君が言い続けた。「基準系は城木先生が整え直した。だから先生の家とこっちの時間が一致に戻ったよ」
「ということは、皆も五台の眼鏡を作り上げたでしょうね」
「勿論さ。ほら」と返事したら、純彦君がお弁当ぐらいの群青の風呂敷を見せた。その中には初めて出来たものより艶やかで綺麗な出来立ての五台の赤外線眼鏡があって、私がきらりとする顔をせずにいられなかった。純彦君がもっと言った。「俺達の八日間の努力だ。脱いたり組み立てたり何度もやり直してこの果てになった」
「ひひ、チサトちゃんと降恆ちゃんが待ち過ぎになれるはずがないよ。倉崎姉さんはこの洞窟にいたし、皆もさっさと入ろう」
純彦君達が一刻も早く洞窟に入り倉崎さんの具合を見届けてきた。倉崎さんがいつの間に天幕を出たと見えた。私達の声と足音が響いて聞こえたようだね。平川達じゃなく私の仲間が来たと把握したから自分を守る姿を構えずにもう数人を迎えるように見えた。倉崎さんの具合を聞かせて貰った澁薙君は早速彼女に近付き略の診断を行わせて貰うと言った。彼が丁寧におでこに手を当て首と手首の脈を診たら、自分の処方の言葉で彼女の症状を厳しそうにしちまった。但し、将来彼女の依存症を徹底的に治すべく、頭を慌ただしくするようにすべきだとも澁薙君が強調した。
「夏祭りの時も見えたじゃん。倉崎姉さんがお前と付いてきてる時脳味噌を立派に動かしてたことだ。心と体を一途ある仕事に集中しとけばあの薬をある程度で抑制出来る」
「ううん。様々なゲームをしたり人混みの雰囲気を浴びたりしたから、旅館に戻ったと朝まで寝切ったそうだ」と私が言った。
「倉崎姉さんにとって面白くて楽しいことに限るだろう。そのような仕事で何かを達成したら脳はご褒美みたいに姉さんを爽やかにさせてあげる。あの仕事によってへとへとするなどもご褒美だ」
「分かりました。さっぱり疲れた以上は寝るとしか思わないもんです。あの一週間で何年ぶりにぐっすり眠れてもう夢みたいでした。男達と性行為をやって毎日毎日繰り返しやがって気絶したことが多いですけど、明確な夢に入るが出来ませんでした」
澁薙君が夢に興味を持って質問した。「それじゃ、旅館に宿る時の夢を教えて貰えませんか?」
「お患者様に夢について話して貰ってそれから治療を勧めるのは初めて見たのですよ」と倉崎さんがこの小さな医者に感想した。「夢のことをよく覚える人間ではないけど、あの水曜日の深夜の時に入った夢はずっと焼き付けてます。あの夢ではあたしが氷の湖を歩き越してました。目の前には向日葵模様の原が氷上から生えました。すると足元の氷がいきなり割れて続々と冷水に溶けてしまったが、あの向日葵の絨毯を持つ氷がまだしっかりして、あたしが必死に駆け上がってあそこに飛び込みました。もう安全だと思ったのに、向日葵は炎を放ってたようです。水をいくら撒いても消さず、かえって赤や青や紫などに色付いて放ち続けました。突然手が炎に当たってしまったが、逆に涼しいと感じてもう抗うことになりませんでした。一旦と寝たのち、太陽が天頂に昇って自分が目を遮ろうとしたが、優しく光って日光が白い粉雪に変わったと気付きました」
「あの向日葵の原に寝てる時に流される感じがしましたか?」
「ええ。段々天気が暖かくなったら氷がばらばらに海と同じようなものの上に浮かんだのです。船の割にぐらりと感じませんでした」
「光と奇跡が沢山な唯一の夢だけで姉さんが一番焼き付いてるというなら心理の問題になるべきですよ。君にとってあんな夢は一期一会みたいに現れて何よりも強い印象を残していったと、経験した人である倉崎姉さんの生活はどれほどあの夢に逆らったのかも証明して見せたんです」
「貴方は何処でそれを知ってますか?」と疑惑した倉崎さん。
「城木先生の貸してくれた脳の本からです」と答えた澁薙君。
降恆ちゃんも通話に通じて言い始めた。「刺激薬を毎日毎日使ってるという倉崎さんの履歴からするなら、あんな夢を長い昏睡の状態を過ごしても一番覚えてるのは、姉さんがずっと逃げ出したがると覚悟を抱えた気がします。夏祭りは盛んになったところで、倉崎姉さんに生まれてから最高な印象を与えて、色欲の鎖を断ち切りたい無意識を刺激して夢に出来ました」
「そうですよね」、倉崎さんがなんとちょっと賛成した。「松兼さんの厨房で倒れてしまった時はまさにあたしの幸せが極まりに届いたのです。お客様達の、性欲じゃなくて食欲を満たして倒れたほどですけど、自分の心がなんとかすっきりしました。然し、全てのお楽しみは終わりになる訳なので、夏祭りが終わった後に依存症は再びあたしを虐めてて、抑えに丹澤の山に登って滝に飛び降りました」
「自分をもっと疲れさせて依存症を抑えようとしましたね」と私が言った。「自殺する覚悟があったら、岩が下に潜んで結構大きい滝を選んだもんです」
「うん。薬の効果は強過ぎて、なんとかしても自分を意識不明にした上で止められる訳です。ただ、意識を取られたのは水圧じゃなくて川の途中の岩で意外で、こっちの方に包帯の姿にされてしまったのです」と倉崎さんが言って、包帯を巻かれた頭に触れた。
「ということなら、倉崎姉さんの依存症を治す為に、電解質を補足する水とジュースだけじゃなく脳の集中力を鍛えることだろ。さてと、皆が力を合わせて作った眼鏡を教えたらどうかしら?」
「それは僕もやるつもりだ、リュー君。どうせ倉崎姉さんは僕達の企画の目的なので、詳しく解説しなければならない」
こうして倉崎さんはとうとう、私達が11日間で出来たこの六台の眼鏡が普通のもんじゃなく、上級の技術を求めて作られたものだと分かっていた。この眼鏡はどんな風に暗闇でも相手を見られるか、どうやって行方不明の人を本人の写真などを使って追跡出来るか、迷い込みやすい所をどう逃げ出させるか、みっちり解説していた、口話のみならず書き下ろしや図もで。勿論、一番分かる為、倉崎さんに赤外線眼鏡を使わせてあげた。彼女は焚き火からあまり遠くなく洞窟の奥に行って左のフレームの『赤外線活性化』ボタンを押したら、緑に彩られた暗闇も、私達の目や、壁と床に溜まった水や、焚き火や、外の昼間が星のようにきらきらしたのも見られて興奮を隠せずにいた。
「ひひっ、絲島さんの歯まできらり・・・これ面白い」とくすくす笑って感想した倉崎さん。ここに来る前に歯を磨いたのは勿論だが、純彦君なら一番綺麗に磨いたに決まっている。
「スミヒコ君、この眼鏡には倉崎姉さんの情報が組み込んでるだけじゃないもんね」と私が純彦君に聞いた。
「うん。今倉崎姉さんが見つかったんでさ、一番の問題は青木ヶ原を出て行ったり智埼君達に再開したりしなきゃいけないし、皆の写真を使って皆の情報を加えたんだ」
電話を通じて聞こえた智埼ちゃんも質問した。「ちゅうことはこっちの眼鏡もそういう情報を入れられたの?」
「うん、城木先生の同じ検知器とプログラムを実行したから、もう同期化されたんだ。同期化されたかを確認するには、左のフレームで『赤外線活性化』ボタンの隣のボタンを押して機能の一覧を表示して『対象追跡』に入って『花火團』が見えたら出来上がる」と案内した純彦君。彼のいう通りに智埼ちゃんがやって、倉崎さんだけじゃなく『花火團』のメンバーも入力されたと認めた。
「倉崎姉さん、私達『花火團』の名前が見えてますね。日澤ちゃんと山口ちゃんが今何処にいるかを確認すると、彼らの名前に届いて左のフレームのボタンを一つ選んで下さい」と私が案内した。「すると、彼らの行方を把握して、迷い込んじまう場合に指導するのが勧められるのです」
「そうですか。それじゃ」、倉崎さんがその通りにやって降恆ちゃんの名前を選んだ。早速眼鏡のレンズにあの四人組が二次元の地図に赤い点として表示された。「わー、地図が見えた上、外を遮らない透明さもです。この右側のボタンも地図を支配出来ますか?」
純彦君が熱情に言った。「勿論です。右側は操作用ですから。外から中には上、下、拡大、縮小、選び、戻りのボタンの並び。最初の四つのボタンは地図の方向と大きさを支配します。ただ眼鏡の機能次第でこの六つのボタンの役が少し変わるんです」
「そうですか。やってみますからね」と確認した倉崎さん。もう面白いところは、探す対象とされた人はこの眼鏡を掛けた以上、自分の場所も地図に青い点として表示し、探しに行く人との距離をこれからも測定出来たの。眼鏡のレンズに表示された時は1÷200(200m)というの縮尺だった。倉崎さんは青い点と赤い点が見られるまで地図を縮んだのち、縮尺が1÷2500 (2500m)になった。四人組は西南の方に行っていて少なくとも二つの険しい坂を越したらここに来ると私達が纏めた。
「もう誰かが来てる」と那月さんが伝えた。普通の声じゃなくて何か深重な事情にとって厳しそうな声だった。そう、倉崎さんだけでなく私達にも脅威を齎すはずな人達。平川の組も確かに倉崎さんが木のうろじゃなくて洞窟に籠ると同じ考え、風穴とか水穴を狙い続けていった。再び入口に登ろうとしたが、私達が那月さんに「外の明かりに頭を晒されないで下さい」と戒められ、入口の途中で停止して那月さんに外に駆けて貰い、外の様子を覗くことになった。
午後4時半だった。静かのある時間を過ぎたら、馴染みな声が聞こえた。「また出会ったね、沙也香ちゃんの守り神」間違いなく、それは平川の奴の声。平川の組がやっと来た。
那月さんが返事した。「私は神様にお生き返りになって頂いたので、沙也香ちゃんの負債を返済する最後の任務を成し遂げるんだ。あの夜の轢き逃げのお陰で、神様と結構お話し合いになってた」
「生き返ったばかりなのに異常な力を付けて自分の親友を横取って大胆だね。俺達をぶっ倒したり親友と逃げたりしたのはあの轢き逃げに仕返しする為じゃんか」と言った別の声。確かに五十嵐の声だ。
「それはよりも潔白でしょう。あんた達の奉仕してる組織がやったことに相照らすなら何もない」
「ほー、死んだ後にその組織が存在すると気付いたかい」
「だから悔しさを抱えてこの世に帰ったのさ」
「ならばその悔しさを今から披露してくれないか。沙也香ちゃんの病室の時の同じことをやり直さない?」
「いいえいいえ、私が霧を噴き出す訳にはいかないしよ。あんた達がもう山賊を持って来て、富士山からの霧に慣れ過ぎたとして彼奴らが私を楽勝にぶっ倒せるさ」と那月さんが言って様子をも教えてくれた。「実は、あの山賊らは人間じゃあるまいしね」
平川が私達が最初からその洞窟にいたと知ったように自然に明かした。「そうだよ。『花火團』の小田原を襲った武士達の同志だ。うちの組織が出来た世界の前代未聞の技術に生まれた。喜怒哀楽を持たず組織の指令に従って任務を全うする機械だけだ。折角ここに持って来たことでお前に会ったのは意味があり過ぎないかね」
「ならばあんた達の挑発を受け入れる。私をぶっ倒したら沙也香ちゃんがあんた達に還元される。なければ『花火團』と長い戦をやって貰う。『花火團』も私と一緒にいるんだよ」
平川が異常に楽しく言った。「あー、渡邊は沙也香ちゃんを見付けた。一日だけであんな早く。ただまだ森を逃げてないから、その賭けはまだ勝負を決めてないだろ。なー、渡邊雅實?」
「あの子はあんた達を後に回答するんだ。今私との勝負に集中した方が良い」と言ったら、那月さんがパズルピースの力を使って複数の武将甲冑姿の武士を召喚した。
「勝負は今平等になったぜ。この平川はお前らにおもてなしを」




