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日本の定理・上巻  作者: 泉川復跡
【『樹海の近道』編】第十五章。檜の下の洞窟
44/49

15.2. 「怪我をしたなら包帯に巻かれます」

「ピリピリピリ、ピリピリピリ、ピリピリピリ」

 右の胸ポケットに携帯電話が鳴り、私を起こそうとした。起床したと、もう夜が明けたよ。10月3月の早朝は昨夜の大雨の余波で空がまだ曇り、日光にこの森を弱く照らさせることになった。樹冠の広い木の下には怪奇な雰囲気も夜の割にあまり違いじゃないね。

 あの騒がしい鳴る音を切り話し掛けた。智埼ちゃんか降恆ちゃんか厚喜さんかも連絡しようとした。「は、はい。渡邊雅實です」

「良かったー。もう夜越しであんたのこと心配しとるやん」、智埼ちゃんが電話を掛けた。私の声を聞いたと安堵した。

「ごめん、皆。猪にきっちり追い掛けられてたし、携帯で皆に連絡するの忘れちまって」

「大丈夫やん。あんたが電灯と刀を同時に持っとったんで道を見付けるのが優先に決まっとるさかい。綾小路はんはどや?」

「えーと、彼が側で寝てる。私達藁の畳みたいなもんに寝てて、下の地面と枯れた葉から守られてるよ」

「あらあら、また別の男と寝とるやん」と智埼ちゃんが弄った。「こっちの方が天幕を張って焚き火を夜越しでくべっとったど。とどのつまりあんたは凄い女やわ」

「あんたのこともしんどい魔法使いに似とるとちゃうか。猪に硫酸をぶちまけたなんて」

「しいひんかったらあの怪物に潰されてもうたわよ・・・あたし達を別れた時、あの二頭の猪があんた達を何処まで追っとったの?」

「ある風穴までだよ。この森に存在するのは当たり前だ。私達があそこに落ち込んじまって猪を不意に死なせたよ」

「入ったの?どないして出ていった?風穴から登って戻るのが普通の洞窟よりにくいやろ」

「道具を使わずに出てったら無理だったけど、あの風穴の奥ではあの人と出会ったよ」

「え?まさか那月さん?」と驚き過ぎて大きい声で言った智埼ちゃん。「てことは倉崎さんは見つかったの?」

「いや、まだ見付けてない。ただ那月さんに会ったよ。それは二枚目のパズルピースが見つかったも同然だ。このパズルピースは私達を風穴から運び出して光に晒せる空間に戻してくれた」

「またの麻酔薬で倒れて運ばれたね」

「うん。那月さんにここで運ばれたら、倉崎さんはこの辺りだ」

「そうだったらあたし達はあんた達の所に来るね。あの風穴の近くにいたの?」

 私が辺りを巡ってみたとそう返事した。「この辺りには風穴がない。確かに那月さんは私達を地下にあの風穴の遠くに運んだ。彼女があそこにいたのは私達を迎えに行っただけだ」

「これまずい。武蔵野さんに赤外線の眼鏡を保って貰ったけど、あんた達の行方が分からなこの森を出ていくのが無理や」

「分かってる。まず倉崎さんを見付けなきゃ。それからあんた達に連絡し続けるからね」

「通話を切らんといてくれる?倉崎さんはあの辺りにいたら早く見つかるさかいやん。見つかったら彼女が気付かへんように」

「それは良いでしょうね。まだこの電話の存在は知ってないはずだから。じゃー、行き続けるね」と言った上で、通話が一時停止になった。私と綾小路さんは藁の畳、枕と毛布を整頓し、自分の鞄の様子を調べていた。風穴への落ち込みのせいに、私達の鞄が地面に凄く摩擦し、表側に苔、泥そして猪の血が掛かった。それでも焚き火・狩猟・採集の道具や、パズルピースを収納する箱が守られて良かった。野戦風の寝具を鞄に入れ、外套のボタンを閉め直し、刀を刷き戻し、自分の鞄を背負った。立ち上がった時、私達が突然何か壁のような透明なものにぶつかった。防護の盾がまだ活性化されているの?

「すみません、二人共が起きたのに盾を脱がなくて」、那月さんの声がこの辺りで聞こえた。このパズルピースがもう一度緑に光ったが、那月さんの姿が見えなかった。その代わりに、先ほどの温かい雰囲気が森の寒い雰囲気に戻っちまった。「盾が抜けました。渡邊さん、お兄様、沙也香ちゃんの所に行って下さい」

「那月、僕達の暖を取ってくれてどうもすまんね」、綾小路さんが那月さんの姿を探そうとするように上に仰ぎながら感謝した。

 彼女がとても高い枝に座り下の私達の動きを監視しているはずだね、倉崎さんの隠れる場所へ向かうと保証するように。まさに、那月さんは最初から私達を倉崎さんの所に導く意図がない。そういう意図があれば森に入った途端にそうやっといた。私達が渡っているのは落葉が緑も赤も黄色も橙もあって異常に沢山で私達の踝を隠したほどだった。秋がまだ半分を過ぎたものの、なんて多い落葉があって奇妙だ。上に仰いだと、木の列はまだ樹冠が広くて緑のままで、恐らく強風と豪雨によってそういう事情になったかもしれないと思った。

 やがてそういう強風は私達が経験した。富士山の白化中の山頂からの風が麓に流れ込み、木の群れに新しい日を迎える踊りをあまり優しくない風にやらせてあげた。木が左右に激しく揺れ、もう数百枚の葉が地面上の仲間に加わった。更に、その風も地面上の落葉を別の所へ掃き、新たなものでその掃かれた空欄を埋め合わせた。その強風がここの温度を幾度でも減らしてやったが、そのお陰で、この辺りは根本が人を入れるぐらいの檜と杉ばかりだと気付いた。落葉なら根本に棲むものに外の世界を隔てる幕となる。私が不意にけん玉の一つの歌を思い出した。その歌は森に棲み木と木へすばしっこく引越しするという命を生きる栗鼠を題材に作詞された。


 (まつ)()(くり)()胡桃(くるみ)()

 一個(いっこ)ずつ(くち)(くわ)わって。

 ()まらぬように、ごゆっくり、

 (のこ)りを()ち、()(かえ)ろう。

 幾里遠(すうりとお)いも、黄昏(たそがれ)まで帰還(きかん)を、

 (やわ)らかい尻尾(しっぽ)で、()()()す。

 (ちい)さな()が、(けもの)にも(こわ)がらず、

 いずれの(みき)でも、とかげ(ごと)()う。

 (さる)よ、(はち)よ、仲間(なかま)(つく)ろう。

 啄木鳥(きつつき)よ、(ひと)よ、お(うち)(こわ)さないで。

 ()()えてもやむを()ず、

 別所(べっしょ)(あら)たに()もう。

 (そら)()んでゆけば、(つち)(しず)んでゆけば、

 ()(はな)()()ませよ。


 あの歌を強い風を構わず歌ったところ、私達がこの辺りの一番大きな檜を目に留めた。あの檜はうちの級友の半分もが手を伸ばし囲めるぐらい大きくて、源義経殿が弁慶殿に五条大橋で打ち合わせる前に生まれたかもしれない。あの大樹の後ろ側の地面は落葉に覆われたとしても、私達が渡っている地面より随分低いし、あの木の下に大きな穴があると確信した。倉崎さんの隠れ場所に決まっているでしょう。私がそうてっきり思っていて駆け上がり、大樹の向こう側へ近付いていた。すると、足踏みのような音が私の下に聞こえている。しゃがんであの穴に寄せたと、真っ白な頭の姿が見えてびっくりした。あの姿もびっくりして直ぐに穴に戻った。私が根本の下の地面に降りあの穴の入口に着き、平川の組と間違えたような倉崎さんに声を掛けた。

「『姉さん』を接尾にして呼ばなくてすみませんでした」そう、彼女と初めて出会ったのは夏祭りの途中だからね。お客さんは少し年下か年上かという場合に『さん』という接尾辞を付けた訳だ。

 そしてあの穴に響く声が耳に届いた。「渡邊さんですか?」

 負担を全て放ったように安堵した。「はい、渡邊雅實です」

 私の声を聞いた上で、倉崎さんは安心してこの洞窟のような穴を出てきた。倉崎さんにとって味方でも敵でも大勢の人に見つかれば、自分の脆い心が群衆、特に女がたった四人いたこの群衆に耐えられなくなっちまう。極めて大胆な決まりだが、私と綾小路さんが皆を別れたのもその為だ。倉崎さんが包帯が自分の頭頂を巻いたままだが、病院の寝間着じゃなくて百姓らしい茶色の浴衣の姿で、山地の住民と同じように見えた。まだふらふらしているが、在院の割に随分活気になりそうで私達の気持ちがなんと嬉しかった。彼女が少し微笑んだところで、私が彼女を抱き締め、『若原屋』の鳥居で別れる抱き締めに返るようにした。私がそう言った、「これで温めますでしょう」

「渡邊さん、なんで急に?」と驚いて質問した倉崎さん。だが、自分の親友のお兄さんを見た時、もうあの質問をただの感情にし抱き締めを受け止めた、私の外套がほぼ森に合わせたほど汚くなったのも構わず。「ひひっ、ようやく包帯を巻かれた人になりましたね」

 そのままに私が返事した。「怪我をしたなら包帯に巻かれます」

 綾小路さんもこの二人の女性の様子に合わせるように言った。「貴方を探して助ける皆は同じ包帯を巻いてる怪我を抱えてんだ。見る目の包帯だけじゃないしね」

 抱き締めを互いに抜いてから倉崎さんは綾小路さんに言った。「あっ、綾小路様、お久しぶりです。あの時からずっと私の為に丸端君と一緒に戦ってますとは。全然変わってません」

「うんうん。三年ぶりに貴方にまた会えてとても良かったな。折角ここに来たから、貴方の隠れ場所を調べていこうかしら」

「え?厚喜先輩達の所に戻らないの?」

「んー、彼らが自分でこの大樹に来たら?あの赤外線の眼鏡を使ってるし、今回も眼鏡の追跡機能を調べるし、彼らを待つだけだ」

 倉崎さんが新しい用語を聞いて話した。「お二人が何を話してるんですか?丸端君と何か新しい道具を作りましたね」

「さすが倉崎沙也香ですね。但しこの話は長いので、その洞窟に入って話し続けましょうか」と私が言った。考え直すと、あの眼鏡がなければ皆を黄昏まで見付けたら出来ないでしょう。更に、途中で平川の組と憲兵に遭えば、倉崎さんを奪い取る為に必死に乱されていく。だからこの檜の下の洞窟に籠り皆を待つしかない。どうせ那月さんの防護の範囲にいたから、数日ほど留まれるかもよ。

「わー、こんなに広いと思ってませんよ、この洞窟」と私が感想した、倉崎さんに導かれていたところ。千年の大樹としても木の下の洞窟にとってこれは異常に大きい。まるで昔誰かの人達が根本を切断し地層を掘り上げたように生まれた。この洞窟の壁に触った時、まだ水流が感じられた。水がまだあったと、根本がまだ平気に水を吸収し上の大樹を長生きさせ続ける。ということはこれは自然の手に完全に生み出された。恐らく続々の地震や腐食を通じたね。

「那月、このような洞窟は他にもある?」と聞いた綾小路さん。

 直ぐに上から聞こえた那月さんの声。「はい、ここだけじゃなくこの辺りの木にもほぼあるよ」

「てことはこの辺りの下には洞窟だけじゃなく地下道かもしれません。こりゃ面白そうですよ」

「皆、こっちの焚き火です」と知らせた倉崎さん。やはり、深く入れば入るほど洞窟が大きくなる。外の光がただの円形に限ったところ、倉崎さんが籠っている天幕と焚き火に着いた。ここは大人の頭頂より倍高いし、和風の寝室ぐらい広いし、洞窟の底である可能だ。天幕は四角錐に張られ、四隅に湿った地に打った釘に強く繋がれ、最低でも二人が入れるものだった。薪は潤った環境で燃え続け、少しむっとするような匂いがした。だが、その不快な匂いが水蒸気と木の根に溶けやすくて私達の命を守ってくれるの。

「それじゃ私達朝ご飯を準備させて貰えますか?私達も起きたばかりですから」、天幕の側に鞄を置いた途端に私がそう求めた。鍋や釜などがまだ天幕に置かれていて、米の箱がまた閉まっていて、まだ何を作っていないはずだった。目覚めたばかりなのにこの森に運ばれた倉崎さんにとって調理は無理なことで、彼女に料理を作ってあげたのは那月さんしかいない。

「はい。あたしも起きたところなもんです。皆で食べるなら最高じゃありませんか」と声を低くしたように返事した倉崎さん。

「じゃ、雑炊を作ったら?風邪を引きやすいこの環境に対応出来るならお粥、汁物と雑炊なのですけど、雑炊の方が食べ応えで特に病人の食欲を唆ると思いますよ」と私が提案した。

「汁物をおかずにしてよ、渡邊ちゃん。僕としたら雑炊と、排骨を入れる汁の共同は汗をさっぱりかく十分なんだ」

「それはあたし達のお腹をよく温めます。あたしが病人ですが、普通の病人より具合が悪いですし、培養した方が良いです」

「そう作りましょう。寒い天気だし、夕べから大変運動してたし、雑炊の鍋だけなら足りないと思ってます」

「うん。この鞄にしまった食物を取り出す場合だからね。なんとかしても黴が生えたり腐ったりしないように」

 こうして、私と綾小路さんは畑仕事風の調理を始めた。米、挽肉、野菜、四杯の水筒、そして笠人君に一部分に与えてくれた味噌、胡椒、塩など香辛料の瓶を地面に置いた。俎板を持って来たから、羊皮紙なんとかを地面の上に敷き材料を切るのが必要ない。米を洗い釜に入れる為、三咫ぐらいのつなその布を用いたよ。驚くべき面白さはその幕の側にもう三つの重なった包み物があった。包まれたのは骨付き肉、肩ロース、ひれ肉や三枚肉だ。非常に大きくて赤が少し濃いと見たと、あの猪のものだと確信した。那月さんは私達に麻酔を掛けたのちに、あの猪の遺体を切り落とし肉を取り上げた。猪の肉以外に、もう一個の椎茸の袋、葱とこごみの袋もあったの。恐らく倉崎さんの生存の為と、私達の材料が切れちまう場合にね。

 米を炊きご飯に出来てから、そのご飯を数個の茶碗に入れ少し冷やしていた。一方で、炊き上がった釜を再び使って炊飯の倍の量の水を注ぎ、卵を割り黄卵と白卵を混ぜ、葱と椎茸を刻み、猪の肩ロースをそれぞれの塊に切っていた。それから、ご飯そして次々の材料を煙を放つお湯にゆっくり入れ、塩と胡椒を付けよく混ぜたと、ご飯がお湯にてっきり浸からない限り、雑炊が出来るよ。その後、綾小路さんは鍋を焚き火に置き水を沸かし、自分の脇差で一個ずつ切った骨付き肉をお湯に入れ、骨の出汁を残しに脂の薄黄色い泡を除いた。濃い味が出来るように味噌を付け汁の色を変えたと、彼が人参、じゃがいも、排骨と葱を入れ混ぜた。数分ほど待ったと、排骨の汁が完成。

 挿絵(By みてみん)

「わー、さすが料理人の娘だとはな」と感嘆した綾小路さん、私達が雑炊の初めの一匙を食べた時。

「あの名乗りを厚喜先輩から聞いたのですけど、私の腕を目で見た時に知れるでしょうね。先輩の排骨も美味過ぎですよ」

「あたしがよく覚えてます、夏祭りの時に自分のお父さんと一緒に料理を準備していた渡邊さんの姿のこと。雰囲気がとんでもなく暑くて緊張が恐ろしくてあたしが簡単に倒れたのです。それでも君は自分の着た法被をびっしょりとするまで働いてました」

「誰かがあの雰囲気に数年間関わったとしたら、どんなにしても慣れますから。私が幼稚の時から親様のお店に連れて行かれてて、お父様と皆の仕事を見ることから調理を学んで手伝うことまで、いつの間に慣れました、厨房の空間に」

「なるほど。更に綾小路さんが切った骨付き肉がそれぞれ同じように見えました。さすが鍛冶屋の息子ですね」

「那月はずっとお前を僕のうちに連れて刀の展示を何度も見せてただろう。ただこの鍛冶屋の息子は工学を入学してしまった」

「刀鍛冶は和風の工学と呼ばれても良いじゃないかなと思ってますよ。自分の親の作業を受け継がないとしても、工学を申し込んだのは巨人の肩の上のことと違いないです」

「うん。だから丸端君達の先輩になれるでしょう」と倉崎さんが綾小路さんにおいて纏めた。その後、一旦と静かにして私の経緯において話し続けた。「でも可笑しいですね。渡邊さんは幼い頃から親の作業を手伝ってて、なんで受け継がずに科学と発明を目指す?」

「んー、実は人の誹謗を避ける為でした、『あおゆみ』店に行ったことは。『あおゆみ』店は開業されてから、幼稚から小学生の時代の私の隠れ場所になったのです」

 綾小路さんと倉崎さんが私の過去に強く好奇したようだ。倉崎さんが言った、「もしかしてあの時、君があまり家に帰らなかった?」

「というより遅く帰ったのです。毎日毎日人の悪口を言われて堪らないし、親様の店にお父様が閉店するまで居残ってました。誰もが滅多に渡らない道を渡って家に帰ったこともあります。あんな遅く時間で家に帰るなんて皆に見詰められなくて良かったけど、時々人々の注目が怖過ぎて電灯が立たない道を渡るほどでした」

「だから暗闇で平気に移動するのが出来るね、渡邊ちゃん」

「はい。親様に警告されても深夜で畑を渡って家に裏側で帰ったのです。勿論松明とランプを使ってましたが、学校の図書館で本を読み過ぎたばかりに溝を舗道と間違って畑の泥に引っ掛かったことがあるし、前を見たせいで土手に転んじまったこともありますよ」

「それは危なかったでしょう。暗い道なら誰もが敢えて渡る訳がありませんよ。匪賊か痴漢かに襲われてしまいますから」

「実はあの時そういう犯罪に遭ったこともあります。小学三年生の時、私達が箱根山脈に宿る五人の強盗団に待ち伏せられました。命を守る為に勿論全てのお金を渡すつもりだったけど、彼奴らがお金だけじゃなく私とお母様も欲しがったんで、お父様がお金を投げて料理の包丁を取って彼奴らを攻めようとしました。でも一人が五人に勝てる訳がないし、お父様が大変負傷しちまってあの時の傷跡も今まではっきりと見えました。ただお父様の狂気のお陰で、彼奴らが私達に二度と会わなくて良かったです」

「おじさんの首の傷跡はあの時からですかね」と倉崎さんが言って、私が頷いた。あの傷跡は頸動脈に当たったが、あの強盗が深く切らなくて幸いだったよ。

「何故あんなに怖くなってそうせずにいられなかったのか?」

「んー、私のお母様はお父様と出会って結婚する前に遊郭で働いてたのです。それで私がずっと娼婦の娘と悪口を言われてました」と私が答えた時、綾小路さんと倉崎さんが呆れた。「私達は最初に横濱に住んでました。お父様が港の辺の料理店の重要な役を担当して働いてて、あの店を辞めた以後自分のお店を開くと決めました。だが私が生まれた幾ばくもなく、人々が私がお父様の実子じゃなく遊郭時代のお母様と見知らぬの客の子だという噂を言い伝えて、自分の実存に危機を降らしました。彼らはお父様を憐れんで私とお母様を軽蔑して、私の人生の初めの四年を地獄にしちまったのです」

「それで小田原に引っ越ししましたね」と言った倉崎さん。

「はい。田舎はどんな辛い噂としても都会よりも快いです。ただ、田舎に住めば農家の生活に慣れないと駄目だしお父様の客が立派に少なくなるし学問の先進も面倒になる、と私達が最初に思ってました。それは私の生まれて初めての賭けでした」

「でも小田原に引っ越ししても人の偏見に苛められてた訳か」と言った綾小路さん。

「それは乗り越える仕方ありませんでした、先輩。小田原に引っ越ししたのちに私が相模ヶ裏小学校に入学しました。一年生の時、学園環境はこの社会の模写だということは学びました。権力と偏見を持つ人、偏見を無視したり不公平を憎んだりするけど沈黙する人、声を掛ける大胆がある人と、被害者になる人。私は12月に生まれたことで、それ以前生まれた同い年の代わりに一つ年下の学級に入るはずだったけど、入学式の一週間前、相模ヶ裏の校長自身が私達に打ち合わせをして私に『入学試験』を受けて貰った。私があの用紙を提出した時、あの日の午後に合格だと通報してくれました。その結果、私が一年でより早く入学出来たのです。あの前代未聞のことによって私が同級生に貶されて、『私のお母様が校長先生に何かをやっていた』という誹謗まででした」

 倉崎さんが聞いて一旦と口を開けたままにし、その後に言い続けた。「でもあの学校に君を守る人もいましたでしょう」

「ただ一番の問題は私達の家庭について歪曲する派が一番声を出そうとしたのです。その一方、私達を応援する派が弱く振る舞って裏にしか支えなくて負担を齎しちまいました。私達に悪意を持つ両親がいる同級生達はそういう歪みな考えに染まって私を攻撃しやがって、私は小学校時代をもう地獄にしないようになんとか学校を騒がすようにしました。具体的には学校の図書館を独占することでした」

 倉崎さんがちょっと笑った。「同級生をぶん殴ったら?」

「実は彼奴らをぶん殴ったことありますよ。彼奴ら子供達だとしても口から面倒臭くて汚い言葉を放ちやがって、私が滅茶苦茶腹立たしくなって拳を喰らわせたのです。乳歯が一本抜けた奴もいました。その後、私がお父様とお母様に夕食過ぎまで叱られました」

 綾小路さんがげらげら笑った。「あの可哀想な餓鬼達があの時凄く泣いてただろう。女の子に殴られてみっともねえじゃん」

「当時女の子なのに泣かすほど強かったね、君の拳は」

「ただ一時の腹立たしさで掌に力を思いっきり集めた訳です。叱られた後に勿論再びやり直さなかったけど、暴力抜きで影響を与えられる方法を見付けました。図書館の独占は実は私の付けた皮肉な言葉で、学校の図書館を使って私の家族をちゃんと辛辣な言葉で襲う者達を考え直させようとした努力を示すことです」

「そういうなら企むことなく偶然なもんだったね」

「はい、綾小路先輩。あの時の私が偏見を乗り越える為に必死に勉強しないといけないと信じてました。お父様とお母様の料理の経営からの稼ぎが一部分で本を買いに使われて、私が数学や国語を五歳で身に付けて早く入学しました。授業で私が最も手を挙げたので、先生達に褒めて頂いたけど同級生にもっと隔離されたし、孤立感に悩まされないように、図書館に行ってました。最初に休憩中だったけど、伝説と物語に惹きつけられた上で、図書館にいる時間が延びてました。ある一日に教室にいずに図書館に籠りやがったこともあるのですよ」

「つまり、君が学校に入ったら図書館だけしか向けなくて、全ての本をちゃんと読み抜いてたのですね」

「実は図書館に籠って図書館員が顔をすっかり知ったほどで互いに話し合ってたとしても、全てを読み切れなかったです。田舎の小学校だったけど、毎月に数十冊の新しいものが入庫されたし、西洋からの小説と科学の本が私に届いてきました。日澤ちゃんと友達を作った後に、彼女を授業を怠けて図書館に行きに誘いましたよ」

「あたしが此奴に誘惑された者だけじゃあらへんや」

 いないのに声を掛けた智埼ちゃんが倉崎さんをびっくりさせた、病室の時よりも。「さっき日澤さんの声ですね。あの声は何処から?」

私が外套からまだ活性中の電話を見せ、この微妙な設備から智埼ちゃんの声が出てきたと伝えた。それに、この電話は厚喜さんの誘拐がまさに偽造されたことと、過激派の攻撃に対応したことにどう役立ったのかを説明していた。勿論平川達に決してばれないようにするとも言ったよ。

「然し、あたしを見付けたのはこの道具じゃありませんしね」

「探す途中でこれを耳に当ていれば直ぐにばれちまいます。だからもう一つの道具が必要です。それは武蔵野さん達が持ってます」

 降恆ちゃんが電話を通じて声を上げた。「ただ、これを見せるのは後にします。皆の所に進みながらこの最新の道具を確かめます」

「それは良いの、降恆ちゃん。測位はその道具の大事な機能だからさ。口話を使えばあの奴の複雑さが分からないもんね」

「あたしを見付けるのはあんな大変に努力してましたとは」と溜息をし重そうに言った倉崎さん。

「彼奴らに気付けられず貴方を見付ける為にこうするしかありませんでした。この後に青木ヶ原を逃げ出すとも同じ」

「僕達もお前も一緒に樹海に入ったんだ。先ほどの自殺未遂は僕達の大変な軽率だったが、お前のことを救い出す二度目の機械をくれた訳さ。僕達がずっと助けるからもう自害しないでね」

 倉崎さんが綾小路の激励の言葉を聞いても、自分のせいで皆と特に私を危険に巻き込んだとまだ悩み、皆が自分の痛みが分かっていないように言った。「あたしが何年間も性欲と刺激薬に巻き込まれて中毒してしまった娘ですよ。刺激薬によって、長い昏睡からさっぱり動いて貴方達に話し掛けてます。あの薬が数時間であたしの体に入らなきゃ頭が辛くなって呼吸が大変で汗が止まらなくなるの。あの薬に虐められたくないけど耐えられなくて、あの滝に飛び降りました」

 倉崎さんの悲しい告白を聞いた時、私が何かを思いついた。「過激派、いや、倉崎姉さんのお父さんが参加した組織はあの薬を作って、自分の宝物を決して取り抜かないようにあのものに依存させてもらう訳ですね。あの薬が姉さんに効く以上、姉さんが彼奴らを逃げられません。あれは姉さんと人生の樹海の一番の縺れでしょう」

 降恆ちゃんが言った。「医療と化学が側にあったとしても、あの縺れを解けるなら気楽じゃありません。阿片に中毒した人を治療するも同然だと確信してます」

「但し、誰も皆は人生に樹海が存在するもんです。私が少女の時に何かを乗り越えたのを知ったら、あの縺れを僅かに緩める可能性があると思ってます。低くてもあるなら積極的です」

 倉崎さんがなんとちょっと信じていた。「はい。渡邊さんは生まれてから樹海に入ったのですから。あたしは中学生の時から。ただ、あたしの樹海の方が深いし険しいし棘が多いし、助けに来る君達が幾らでも勝たず那月ちゃんみたいに終わることが欲しくないのです」

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