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日本の定理・上巻  作者: 泉川復跡
【『樹海の近道』編】第十五章。檜の下の洞窟
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15.1. 猪、風穴、二枚目のパズルピース

「皆。ちゃんと並んで電灯を当てようにしてね」と武蔵野さんが私達に戒めた。

 私達『花火團』の三女子、厚喜さん、綾小路さんと武蔵野さんは一組になって青木ヶ原に西南の方向に進入した。一方、西湖の方向に進入したのは平川、五十嵐や数人の憲兵という組。後藤さんと吉澤さんは町の有名な神社である晶蒸(あきむし)神社に泊まらせて貰い森の中の様子を待ち受けることになった。森に入る前に、厚喜さんが自分の電話を二人共にこっそり渡した為、彼らが私の番号を打ち私がズボンのポケットに入れた電話を通して現在の様子を『盗み聞き』していたよ。しかも今は8時40分頃、入ってから五分経過した。森をある程度で歩いた以上、時間の感覚が段々なくなるので、ちゃんと懐中時計を開き調べた方が良い。

「ムラマサちゃん、もう真っ暗やろ。洞窟にどんどん深く入っとるのとちゃうあらへんや」と言った智埼ちゃん。懐中電灯と灯油ランプを持ってきたとしても、この寒くて真っ暗で陰気な雰囲気に勝てないもん。但し、この辛い雰囲気こそが私達に倉崎さんの隠れ場所における可能な予断を持たせた。

「この森に洞窟もあるかしら?」と予断した降恆ちゃん。「岩や石灰などじゃないけど、千年歳の木の根と溶岩が象ったもんね」

 厚喜さんが半信半疑で言った。「それは洞窟だと認めることじゃないだろうね。根本のうろと言った方が。洞窟なら山とか丘の下に形作られるし、数里で長くて数十尺で深いし、石灰化によって氷柱(つらら)(たけのこ)みたいなものもあるんだ」

 武蔵野さんが降恆ちゃんの予断に正確性を高めるかのように言った。「あんたが言ったのは科学の常識通りの洞窟なの。青木ヶ原はまだ不思議だらけの森だって、書類に言及された洞窟と同じじゃないものが存在する可能性が高い」

 降恆ちゃんも言った。「あのお爺さんがそう言ったでしょう。この森は富士山の溶岩の地に生まれたということ。多分冷えた溶岩の流れが地下水と樹木の根に合って地面を柔らかくして、地下の洞窟を象るかもしれません。この森も常に湿気が高いし、あのような洞窟が見つかる可能です」

「皆は那月ちゃんの立場に考えてみたら?」と声を掛けた綾小路さん。「どうして那月ちゃんが自分の友達をこの陰気な森に連れてったのかというと、それは倉崎ちゃんの死ぬ気がまだ強がってると考えた。でも僕の亡くなった妹は自分の友達を殺す気がないし、この森の安全な場所で隠すつもりな訳だ」

 私が言った。「深本姉さんの言葉を聞いたんで、那月さんは倉崎さんの辛い気持ちを理解しました。但し、倉崎さんの意志にやることをやらないといけませんでした。丹澤の森より険しくて不思議な場所に連れてったけど、最後まで彼女が安全になる為の何処かを探して隠したのです。木のうろと洞窟はあのような場所に一番近いでしょう」

「本当の避難所を友達の為にあげる、というのは那月ちゃんの意図だね」と気付いた厚喜さん。「やはりね。最後まで自分の友達をあの場所からなるべく遠くへ避難したいのかね」

「あの場所?もしかして先輩の写真にあったあの舞台ですか?」

「うん。あの舞台だけじゃなく人の性欲を満足させる全ての場所だ。この森は誰もが奥に入ってはいけない場所で、倉崎ちゃんを強く守るだろ。命の樹海を逃して本当の樹海に入って安泰を」

「姥捨を思い出しましたな」と言った智埼ちゃん。「迷い込まれた人と武士達の死以外に、ほかされたお年寄りの死はこの森を怖くしたやろ。江戸時代では貧乏な家族が多過ぎました。特には田舎とか山地に住む家族。お年寄りどころか自らに世話をするだけで一生の問題になりました。あの時、飢饉と疫病が厳しくなって、人は厳しいことをやってもうた。とんでもなく好きだとしても、彼らが涙を流して歯を噛みながら自分の親や祖父母を森と山に背負ったのです」

「時代的な悲劇でしょう、自分を産んだ大切な人を犠牲にしたなんて」と私が感想したのち、一旦と歩き止んだ。そして右手が握った赤外線の眼鏡を顔に掛け、後ろの皆の方に振り返った。「こうしとけば、亡くなった人の残骸にもっと注意するのです」

 武蔵野さん以外の皆は多分この姿を待っていたね。武蔵野さんは一旦と驚き、私達が最近やっていたことに気付いた。「平川と賭けた理由わね、貴方は。確か東京に行って丸端君の家に泊まったのはあの変な眼鏡を作る為でしょう」

「厚喜先輩に手伝って貰うとこういうことの為じゃありませんか。ただこれが出来たのは三日間で無理過ぎなので、先輩の家を訪れる前に郷で半分が出来ました」と私が言った。勿論嘘をついている、実際に城木先生の家で完全に離れた基準系の五日間やっていたことに武蔵野さんが気付かないように。

「おー、暗闇で使えるように発行する物質は一番大事なのね。化学的にやるしかない。化学というと日澤ちゃんが手伝ってたよね」

「はい。蛍光体がなかったら使えへんやで。ただ蛍光体が出来るには慶應の城木先生に助けて頂いたのです」

「あー、城木阿波郎博士のことは聞いた。蛍光体を聞いたことないけれど、聞いたことないものなら簡単な化学反応に出来ないでしょう。大学の理科を勉強してる人達はね、ああいう物体を不思議なもんだと認めるよ」

「だって蛍を見た時と同じだろ。典型的な発光の生き物。幼い頃からお前と直人君と一緒に畑で遊んでたのを覚えてるじゃん。夜になったとは蛍の群れがきらきらと飛んでたんだ」と言った厚喜さん。

「うん、一匹があんたの鼻に乗ったとも覚えたの。あの時からあんたに『きらばな』だといつも弄ってたわ」と返した武蔵野さん。

 降恆ちゃんが蛍と森のことを繋ぎ言った。「この森で私達は蛍と違いありません。その電灯と灯油ランプを持って来る私達の姿はこの森の視線からすると灯りの点々です」

「そういうこと。夏がもう終わったのに蛍がまだ出てるなんて可笑しくなります。私達の灯りはこの森に籠ってる不明の存在に響いてるから、消えちまったと危ない。そしてこの眼鏡の力でこの辺にいた存在に挑みましょう」

「渡邊ちゃんはあの眼鏡で暗闇を見るとしたら、電灯とランプを持つ人は団体の末尾に移動して。発光する物質は自然の光に敏感だから、それはちゃんと渡邊ちゃんの視力を傷付けないように」、武蔵野さんがそう認めた。やはり私達の先輩だね。蛍光体はまだ変なものだと思っても本質をよく理解して皆の並びを整え直した。それに、私がそう意見した。それぞれの人が五分以内でこの眼鏡を使って団体を誘導し、その後次の人に渡すことになる。その為、誰もが世界のたった一つであるこの眼鏡を体験することが出来るよ。

 眼鏡の左のフレームに付いたスイッチを押す時、緊張感が強くて目を閉じたままだった。押したら、目をゆっくり開き、緊張感がもう喜びに変わった。この真っ暗な森が赤外線検知による緑の背景ではっきりとした。「遂に見えた。前の木の群れ、そして苔が蒸す地面はよく見えたよ」と皆に伝えた。この眼鏡を作りに手伝った皆と、しかも武蔵野さんもどんな喜ばしい気持ちを持っているかも見えたでしょう。皆の瞳が光っている、眼鏡の副作用によって。五日間の必死な労働はこの夜で報われるんじゃないか。

 私達が一列に旅を続けた。木はどんどん多く集まっているし、根本も大きくなって人の足のように見えてきた。そして、あちこちの木を繋ぐ蔓が木の密度に蜘蛛の巣のように空中で浮かび段々地面に届こうとした。全ての灯りを放つものを彼奴らに当てないように森を損害しないと駄目だった。旅の間にこの地面を踏んだ度に、地面からのかさかさの音が鳴り、まるで誰かがそこの下に反応したり、誰かの地に遥か長い間に溶けた骨を踏んじまったりしたような感じがした。ほぼ苔を踏み渡るし、団体のメンバーが滑っちまって転ぶところだった。さっきの大雨によって地の凹みに水が溜まったし、あそこを踏んじまうこともあった。数樹の木もいきなり経路の途中に立ったし、私達が新たな経路を歩いていた。憲兵と平川らと出会わないようにね。近くから人の声が聞こえたら、一刻も早くあの声を聞きにくくするように別の経路を探る。

 勿論、生き物の音と不思議なものの動きもこの眼鏡に映った。梟の『ウルウル』声、何かが別の所へ跳ね上がった音、何かが重そうに木を越し萎んだ枝と葉を踏んだ音、更に丸い明かりの点、夜行性の生き物の目と同じようなもの。なお、目を張ったと、動物じゃない面影が木の並びの裏にこっそり隠れたり、木の群体を寂しく通り抜けたり、暗闇にゆっくり合わせたりすることを目撃し、鳥肌を一個一個立てたの。あの面影らと付き添った時、周りの木の根本が非常に大きくなった。それに従い、坂も越えにくくなる。ただ坂が大変になればなるほど、木のうろが広くなり、倉崎さんの隠れる場所が見付けやすくなる。それは森の奥にどんどん近付き、外の世界でさえも理解出来ないものと向かい合うも同然だ。

「しっかりしといて、日澤ちゃん」と綾小路さんが言って、智埼ちゃんに坂を登らせるように手伝った。私達が入ってから一番大変な坂を登らなければならなかった。この坂のあった場所はまるで遥か前からある隕石が落ちてきたかのようにでかい甌穴だったし、深さが西洋人の身長の三倍に相当したし、千年の樹木の根本も丸見えて森の血管に似ている。だから一貫ぐらいの鞄を乗せながら登るのは登った人に手を掴んで貰ったよ。恐らく宝永大噴火によってここの以前の地が陥没し穴になっちまった。このような甌穴は青木ヶ原で散り散りになってもっと気を付ける。

「ムラマサちゃん、あんたの胸ポケットが赤い」、智埼ちゃんが私に警告した、私を引き上げる途中で。パズルピースが青く光って、何か危険なものがこっちに迫ろうとすると伝えた。赤外線の眼鏡を使う出番を取った武蔵野さんも危険性を感じているし、皆にちゃんと静かに動いて貰うと求めた。この大変な坂を登った直後に、私と皆が遠い右の藪からざわざわの音がよく聞こえた。一つじゃなくて最低でも三つの音がこっちの右側にどんどん大きくなっていた。武蔵野さんが不意に腰が抜けたほど怖くなって大変に右側の何処かを指した。

「よ、四つの両目がこっちへ」とびびって言った武蔵野さん。

 左の腰に最初から佩いた刀に手を置き彼女の所に来て「武蔵野さん、落ち着いて。何の物ですか?」と聞いた。だが武蔵野さんが怖がり過ぎて返事が出来なくなった。

 綾小路さんが答えた。「まさか猪。豚みたいの唸り声がしたよ」

 私もその豚みたいな鳴き声が聞けた。「もしかして彼奴らの地域に入っちまったの?」

 綾小路が言い続けた。「いや。彼奴らを邪魔してると言った方が。高い湿気は猪の好む茸と木の実を沢山生み出すんだ。彼奴らが好物を探してるけど、僕達の匂いがして泥棒と勘違いしたようだ」

 武蔵野さんが少し精神を整え周りを見たと、そう言った。「やばい。こっちは茸がたっぷり。なんであたしが気付かないの?」

 降恆ちゃんも心配に掛かって言った。「群れで来たら危ないでしょ。今は動かない方が良いですよ」

 智埼ちゃんがこの厳しい状態を微かに鎮めるように言った。「でも火の点いたもんを持っとるさかい、猪らが襲っとらへんわ」

「いや、まだ止まらなくこっちへ。段々速くなってきてる」

 武蔵野さんの言葉がこの状態をかえってもっと厳しくした。その時、私がそう言った。「ここに入る前に、町の人に狩猟の道具を準備して貰いましたね」

 武蔵野さんが答えた。「う、うん。藪を刈る包丁、鎌と斧なの」

 私が大胆なことを提案した。「それを使う場合ですよ。深く行くと障害物を切り取る必要です。でも今皆が動いたら猪に追い掛けられます。猪の速さを嘗めては決して許しません。しかも群れで襲うのはより危険です。それで私が皆に別れて二頭を誘おうとします。

 綾小路さんがこの提案を同意し、厚喜さんを驚かすように言った。「それじゃ、僕は君と一緒に行ったら?刀をも持っていくんだ。丸端君のお父さんのを盗んだよ」

「綾小路先輩も居合道を習ってます?」

「僕の家族は刀鍛冶で暮らすんだ。早く言わなくてごめん」

「自分の家から持って来ないか」と文句を言った厚喜さん。

「それは助かりますよ。そうしましょう、綾小路先輩」と興奮塗れで私が言った。猪はもう肉眼で見られた。生物の本に描写されたより倍大きくて一台の自動車ほどだった。それに四頭じゃなくて八頭が迫ってきている。この森の先住民らしく、大きい体を問わず、木を倒さずしなやかに通りすがっていた。私達が立ち上がり直し、ランプの火を大きくし、鞄から草刈りの包丁を取り出し、覚悟をした。

 挿絵(By みてみん)

 私が「皆走れ」と発令したら、歩き掛ける道を思いっきり走り猪らを真っ直ぐの代わりに私達の方向に曲がらせた。走る間、懐中電灯をずっと彼奴らに当て、強く燃えている炎で彼奴らを遅くさせようとした。武蔵野さんが走りながら、前の障害物を警告していた。その時、彼奴らがどんどん狂おしくなって私達に跳ね上がろうとしたよ。一頭が降恆ちゃんと武蔵野さんを襲おうとした。降恆ちゃんが早速鞄を下ろし外套を脱ぎ、彼奴の顔を隠し、一途の力であの怪物を投げ倒したが、猪の重さと投げの反力のせいで自分も地面にぶつかった。もう一頭が私と智埼ちゃんに向かった。智埼ちゃんが希釈した硫酸を彼奴に掛け、彼奴が極熱の痛みで猛り立った。えげつないよ、チサト。

 もう二頭の猪が綾小路さんと厚喜さんに後ろから向かった。厚喜さんのランプが不意に一頭の顔にぶつかって割れたガラスが彼奴の片方の顔を刺さり始めた。彼奴が鳴き自分の顔をぬるぬるの道に当て炎を消そうとした。残りの一頭が確か仲間が重傷を負う姿を見たようで、怒りを上げて厚喜さんを胴体で潰そうとした。だが、綾小路さんが厚喜さんの盾になって刃であの猪の腹を切った。切り目があの猪を殺さなくて良かった。投げ倒された猪は再び起き、降恆ちゃんに牙を構えた。彼奴が成功的に降恆ちゃんを倒し、自分の牙と胴体で抑えようとした。然し、私達が手の引力、電灯と石で大きい猪を降恆ちゃんから離した。

 四頭の仲間が人間に倒されたと見たら、最後の二頭、群れの最も大きい個体が悔しい気持ちで私達に最後の戦いをやった。彼奴らが狂犬病を患った犬のようにゆっくりからばたばたへと迫っていた。武蔵野さんに赤外線の眼鏡を守って貰った上で、私が自分の電灯を付け直し、団体を少しずつ離れた。階段のように重ねた岩の坂の方へ、蟹のように横に移動し彼奴らを陥れていた。「捕まえてやれ。捕まえてやれ」と唱え続けた。綾小路さんも私の移動に合わせ、一緒に岩の階段に駆け上がり、二頭の猪を追い掛けさせた。

「ムラマサちゃん、あほなことをせんといてや」と叫び戒めた智埼ちゃん。あの四頭の猪がまだきっちり倒れていないから、まだ彼奴らの苦戦を続けていた。

 一方、私と綾小路さんが必死に走っていた。その間に私が走りながら振り向き猪との遠隔がどうなるかを確かめた。私達がとんでもなく増速していた、走る道が苔と雨水に掛かって凄く滑らかにも関わらず。この増速は絶対に代償を払わせる。途中で、私が象の鼻ぐらいの根本を飛び越えた時、滑りに勝たず後ろに倒れ、頭が根本にぶつかった。幸いは重傷を負わずただふらふらした。綾小路さんが私を引き上げ岩の階段に届いた。その時、一頭の猪が追い付いて私達を突っ込もうとした。私達が一斉刀で彼奴の顎を思いっきり抑えた。押し上げたと、彼奴がまた身を攻め、私の刀が彼奴の牙とぶつかり合って半分で切断した。歯髄が出る激痛に苦しんでも彼奴の攻撃が止まらず激しくなった。彼奴がまた顎で攻め、私が刀の頭を彼奴の鼻に突っ込み、懐中電灯の末尾を拳の代わりに彼奴の顔をぶっ飛ばした。

 だが、女の子は猪に勝たないもんね。綾小路さんが残りの一頭を目眩させるのが出来た一方で、こっちの方がより大変になった。色んな痛みを負っても、こっちの猪はようやく怪物の姿となった。私と綾小路さんが岩の階段を登っていた、うちの命がこれ次第かのように。猪はこんな険しい坂を登る訳がないが、私達を追い付けるようになだらかな坂を探り登ってやるほど賢い。綾小路の異常な引き力のお陰で、さっきの坂よりも険しいものの頂点に届いた。あの猪が追い付く前に、私達がジグザグで経路を少し変更した。木がなんと互いに間引いたり、ゆっくり列に整ったりするように見えた。ということは、私達が老人達が言い及んだ風穴に近付くと気付いた。

 ああいう風穴は青木ヶ原の中にばらばら位置するし、中と外の気圧差によって不気味な音を出すし、この森の化け物の棲む所だと言い伝えされている。二枚目のパズルピースがあそこに隠れる可能性が高い。だから、必死に走りながら、私が綾小路さんに風穴について話し、猪を風穴に誘ったら彼の妹の亡霊もあそこの中にいて猪をぶっ倒してくれると提案した。但し、本当に風穴がそろそろ見えるか、那月さんの亡霊にも会うかも分からなかったし、しかも憲兵達か平川達かも先に発見したのか心配したし、運に頼んだ。

 すると、私の運が効いた。地下に向かう寂しい風穴が目の前にあった。この風穴は六人以下の集団が一斉屈めずに入るのが十分だ。あの猪も私達を追い付いた。私達を追い掛けることで彼奴の激痛が厳しくなくなった。あの猪が私達を風穴の入口で終わらせようとしたが、突っ込み中に右足を私に一発で切断されちまった。彼奴が風穴を震わすほど喚き、勢いを失って私を風穴にぶち押しちまった。この風穴の中はなだらかでも溜まった水によって私と猪をかなり乗せたよ。綾小路さんが這って猪の後肢を掴み、私が猪を右腰の横に引き出さなければ、風穴の壁にぶつかって右目が永遠に見なくなったの。

 猪の胴体のお陰で、風穴の壁にぶつかったとしても、無事になった。失血と壁への衝突によって猪が意識を失った。死んじまったかもしれない、鼻の前に指を当てた時に息がしなかったし。猪に合掌で拝んだ上で、現在の事情を調べた。刀が入口で落ちたし、懐中電灯も壊れたし、赤外線の眼鏡も武蔵野さんに守って貰ったし、背中に乗せる鞄が大丈夫かも分からなかった。綾小路さんが「ちょっと待ってね。君の刀を取り戻してくるから」と言って、私が凄く感謝していた。彼が壁に寄せて滑りに勝てるように走り上げていたようだ。『目が見ても盲と同じ』というこの所で一人でいれば良くないもんね。

 数分でここで立った時、いきなり誰かもう一人がいると私が感覚した。段々寒さは体をさっぱり覆ってやって私をぞくぞくさせた。それは風穴の自然なもんだけじゃなく、何か不思議なものからの寒さだった。なんと緑の光が私の後ろにあった。振り向いたと、湿った地面上に緑の光を放つ小さいものが見えてきた。間違いなく、城木先生の二枚目のパズルピースなの。持ち上げた時はやはり松澤先生のパズルピースの読み方によると、これは10S1と読まれた。緑に光ったなら、このパズルピースの幻覚である那月さんの亡霊がこの風穴の中に現れてきた。

「渡邊さん」、ある女子の声が風穴に響いた。那月さんの声らしいね。もしかして彼女が猪の死体の所にいたようだ。パズルピースを懐中電灯にして私と猪が壁にぶつかった所を見付けようとした。「左へ」と那月さんが伝えた。私が少し左へ振ったら、パズルピースが緑の光を最高まで放ちここの空間を赤外線検知の画面のように照らした。思った通り、動かなくなっちまった猪に膝を折って拝んでいる那月さんの袴の姿が見られた。

「こ、こんばんは。那月さんですかね」と私が話し掛けた。

 ところで、那月さんが拝みを終えた。まだ亡霊なのに、あの動画に登場した不気味な格好じゃなくて生きている人らしくなった。彼女が返事した。「沙也香ちゃんを探す気だから私に会えたでしょう」

「貴方は本当に亡くなった那月さんのものじゃありませんね」

「・・・そういう訳じゃないです。私は亡霊の正体のままですが、私に関係が強い人の志の下で現れて不思議な力を装備したんです。勿論、私は『ヒャー』と喚いて相手の魂を喰らうことはないですよ」

「うわっ、貴方の『ヒャー』って鳥肌を立ててますよ」

「生きてる間、そういう音をちゃんと出して沙也香ちゃんを喜ばしくするようにしてました。あの頃は懐かしい」

「倉崎さんは貴方がずっと守ってますでしょう。この風穴にいたとすると、倉崎さんの隠れた場所が分かるたった一人です」

「はい。私の可哀想な友達を悲しみの海から引き上げる同じ望みでしょう。沙也香ちゃんはこの寒い風穴にいることはないし、より暖かい別の風穴に籠ってます」

「は、はい。まさかこの風穴を通り抜けます?」と私が疑問した。那月さんが何も返事せずただ微笑んだ。綾小路さんもここに戻ってきて、緑の光によって自分の妹の姿をはっきり見た。あんなに想定出来る再会はそうなったよ。自分のお兄さんに挨拶に間に合わず、那月さんは私と彼の手を掴み、親指で手の甲を激しく押していた。それから、私達が直ぐに眠い感覚に支配され、瞼が下がり、地面に倒れた。こうして私達を囲む防護の盾が地面に侵入し、まるで新たな次元に入るように私達を連れて行っていた。

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