14.3. 「青木ヶ原はやはり樹海の具体化であるじゃありませんか」
午後3時まで『秋雨の実験場』という問題を解き続けた。そう、たった一つの数学問題だけで私達の一日の六時間を消費したの。何故かというと、これは農業的な実験を題材とする問題だけじゃなく、稲の生物学的な過程を出来るだけ現実的に描くものだ。その過程は微分積分の数式に操られ、秋の天気・土壌・雨の降水量に影響されて成長したのも退化したのも発生したと経過した。『指数的成長』や『最初の数升目で生きたのが死んだのより多いこと』は二つの一番有用な糸口だった。それで、この問題の背景には一体何があったのかを把握し、指数の方程式のkという定数は私と平川の競争の鍵だとも分かったよ。kを凡そに出来るなら凄い運があるはずだ。
六時間挙句、この滅茶苦茶脳を動かす問題が解かれた。真中の升目で生きた稲が死んだ稲の半分である確率は凡そ10.95%。そして最後の二つの升目の死んだ稲の数は86。どうやって二つの結果が出来たというと、指数関数的成長・減衰と、kを考察するという賭けはその為だった。その二つの結果は鉛筆で絵馬の裏に記入された時、貴重なものをしまったお箱という本質を披露して開錠たかのように開いた。その貴重なものは地図だ、山梨の。その山梨地図は富士山の北部の森林を緑で強調された。それは私達と皆が驚いて少し怖がったよ、異なる方で。多数派なら「本当にある妖怪は病院に闖入して一人の罪なしな患者を取り奪い自分の巣へ運んだ」、平川の組なら「彼女の親友は例え魂で帰って障害しても組織の『偉き計画』は絶対休止せぬ」、私達なら「パズルピースは人間みたいな高級生物に違いないでしょう。妖怪がこの世に存在すると最後まで演じて私達に挑戦する」
平川はあの地図を取ることになった、私のより大きい運を持って先に答えを出した故に。彼奴は地図を手に入れ、私達に不利を与えたと思っているから、私が秘密武器を胸ポケットに持って来たのをも思うかどうか構わなかった。彼奴は地図、私は赤外線眼鏡を持って、このゲームは公平じゃない?
富士河口湖は地図の囲い込んだ部分にあった町で、倉崎さんを捜索する人達が一番目指す場所だった。然し、東京からあそこへの鉄道はないので、渓谷の道路に頼るしかなかった。北川司令の助手である小田切隆壱さんは山道に熟成したもので、登山が必要ない二つの山道を通ると提案した。一つ目は南多摩郡より西南、神奈川の津久井湖と相模川、山梨の東の渓谷、そしてもっと西南へ富士河口湖に。二つ目は南多摩郡より南、神奈川の相模原、秦野、川村と南足柄の間の渓谷、そして静岡の御殿場の西北、富士山の北部へ富士河口湖に。二つの道は南多摩から始まる。つまり、南多摩に来たら二つの軍に別れる。二つ目の道はより長いが、だんま峠と小田原の辺鄙を渡るもので、私達と平川の組が選んだ。こうしたら、算額の問題を新聞に載せ社会を騒がす記者達が小田原を再び注目し私達の経路を観察するし、大学が『若原屋』の地を小田原に完全に譲ると決めるのも助かる。あの算額の問題は大学の危機を脱する鍵だから。
「こんな風にうちへ帰るなんて初めてでしょう」と言った降恆ちゃん、杉林さんの馬車に乗って私達の郷に近付いたところに。
「当たり前やろ。敵を別の馬車に乗ってうち達の郷に来さすとはな。しかも憲兵も小田原に参ると決めたちゅうこと。北川司令を全く信じたらあかんやね」と言った智埼ちゃん。
「あの憲兵らしくない言い方は憲兵を司る人からなんて、信じがたい。彼は確かに私達を何かの為に利用しようとする」
「憲兵は掟を代理で政府に反対的な仕業をやると疑わされる国民を躊躇せず逮捕して厳しい取り調べをすると見られた」と言った武蔵野さん。「憲兵の皆は過激派の路線を賛成する訳じゃない。恐らく北川さんは君達の夏祭りを新聞での褒め言葉で知ってて、過激派に反対する彼の計策に君達が役に立つと考えたようだ」
「北川司令こそ横濱の警察をあの夜に小田原へ救援させたんだ。彼の権力は関東に掛かってる。僕の父と共に必死に過激派と三年間闘ってる。三年前の那月ちゃんの事故も最近の放火事件も彼が一気に担当してるんだってさ」と言った厚喜さん。
「憲兵も横濱の警察に紛れ込んで助けた可能性がない訳じゃありません。彼らも偽装が上手いでしょ」と言った降恆ちゃん。
確かにね。警察だけならば騎兵があんなに多かったことはない。黒岩騎兵の馬に乗ってスミヒコ君と手作りの爆弾を亡霊に投げた時、周りは数十人の騎兵も一緒に亡霊を倒してると見たの。まさに同じ現象に遭ったことがあるようです、彼らは」
「だからもう一つの亡霊に関する事件があったと憲兵が介入したんだね」と言った後藤さん。「今回は綾小路さんの妹の亡霊」
「今回はもう、私達は本当の敵に立ち向かい始めちまいました。倉崎さんの人生を滅茶苦茶にした人達は前の馬車に乗ってるんです。まもなく何を企むか分かりませんね」と私が言った。
「あの五十嵐の親父は君達の郷の大火災の首謀だったね。あの爺の組織の秘密武器を使って困難を君達に来した」
「えっ、なんで知ってますか、先輩?」と聞いた降恆ちゃん。
「あの五十嵐は日澤ちゃんの先輩の直本君の敵手だ。早稲田の精華だから高評価されてる。彼奴が爆弾を作るのは驚かないわ」
「そやさかいあたしの服装の屋台に爆弾仕込みました。化学の屋台組でさえ花火を打ち上げてあたし達の大会よりも派手になって欲しかった、彼奴は」と皮肉っぽく言った智埼ちゃん。
「僕達が間に合わなければ本当に花火になっちゃったのよ。あの花火は皆を地獄に連れてっちゃう」と降恆ちゃんが言って、私と智埼ちゃんに鳥肌を立たせた。
もう午後5時になって、私達は秦野に戻った。秦野に入った途端に雨がざあざあ降っていて、この時の曇った天気をどんどん暗くしてきた。やがて澁薙君と降恆ちゃんの雅やかな豪邸を越えた。厚喜さんの家族と同じように地位を占めたことで過激派が狙っても敢えて手を下せなかった。雨がどんどん大変降り続けるとしても、馬車の並びがそのまま進んでいた。大雨によって誰でも道に出ずにうちで雨宿りをしたり、露台があったなら上階から見たりしていた。陰気なだんま峠を降り『ひさぎ』旅館を渡った時は夜が早く始まっちまった。小田原に進まず、西北へ酒匂の川上にかけて行っていた。大雨の夜間で両側が森林である洗い土の道を渡るのは最悪でしょう。泥や甌穴はずっと化け物だ。しかも静岡に入る帶栗峠、朝霧高原を登る籠坂峠を越えなければいけないし、光はこの険しい旅に安泰を齎すしかない。
全ての馬車は四隅の灯油ランプに光を付けた。車内の電球も。馬車の並びが大雨の下に光ってから、運転手が馬を叩き増速し、蛇の形の帶栗峠を30分ぐらい越えた。静岡の平野、そして御殿場の田舎に到着した時、この五つの馬車はもう30分休憩し、馬に蹄鉄を取り替え、私達と皆が温かいうどんで夕食を慌ただしく終わらせた。富士山に近付くに連れ、天気が激しくなった。大雨だけでなく雷もよく空中で鳴っていた、まるで神々の禁断領域に辿り着いたように。その激しい天気は籠坂峠を越える馬車の並びを挑発していた。何の馬車もが敢えて別のものの先に動くのが出来なかった。十頭の馬達は乗客の重さ、峠の傾き、上から流れてくる泥の滑らかさと一生懸命戦い、嘶きながら取り替えた蹄鉄の摩擦に頼って上に進んでいた。その時、私達は雨が車内に吹き込むにも関わらず窓を開け外を見ようとした。外に出たら負荷を減らすかなと思うこともあったよ。非常な緊張でもう40分経って車輪の転がり、四つの曲がり角、不意に狂って吹く山風、運転手の手綱を叩き続ける姿を見たり心の中で祈ったりした挙句、やっと峠を越えて朝霧高原そして山梨に入った。
山梨に着いても天気がそのまま激しい。だがどうせ籠坂峠の致命な危険性に脅かされなくて良かった。懐中時計がもう7時33分を差して、富士河口湖に到着するにはこの後の凡そ20分と予想させてくれた。富士山近くの満々たる森林が道の両側で立っているのを初めて見て少しの報酬を下さった気持ちがあった。その報酬はまもなく新たな試練になって私達を誘惑するが、倉崎さんを見付ける希望をも送るじゃないかと信じた。山中湖の湖畔の四半分を渡り、富士吉田を通過した上で、ようやく倉崎さんの捜索の本営に。
「全員整列。北川司令殿は到着したぞ。警備と軍備を構えよ」、私達が小田切副司令の号令をよく聞こえた。小田切さんの導いた相模川の渓谷の方の部隊は町役場に先に来て合羽の格好で人数を再確認した。雨が続いているが、さっきより緩やかになったし、風も強くなかったよ。北川司令の導いた部隊も全員馬車を降りた。私達が自分の外套の帽子の部分を頭に被った、山地の寒さから体温を守りに。
「こんばんは、北川殿」、ある警官が北川司令に敬礼した。彼は富士河口湖の警察署長、柏知一郎さん。私達と平川の組の登場は柏さんも注目し、富士山の北部の森に失踪した疑惑がある倉崎さんの捜索に重要だとも直ぐに把握した。北川司令の下で、私達と平川の組は憲兵と富士河口湖の警察の列に入って直立した。倉崎さんの父親は別に自分の娘を探しに参加せずただ司令の役をするあの三人と一緒に捜索の様子を視察するしかなかった。彼は年齢のせいに山梨の蒸し暑い森に耐えられないこととか、若者達に自分の子を探すのを託すことと言い訳にしても構わない。だが、部外者でも見た目を見たと、あの男は例え良い父を演じたとしても、同じ血を持つ子供の命をずっと前から他人の歯車に入れたと確信した。彼が一番欲しいのは倉崎さんの安全になった命より、彼女のまだ元気な体なの。
富士河口湖の住民も町役場で集まっていた。私達と同じ田舎人で、しかも山、森と湖が囲った町に住んでいるから、この心霊的な事件は確かに憲兵がここに来る前に彼らの社会に拡散したよ。住民の代表は一番長く住んでいる人達と、ここの神社の神職だ。彼らは富士山を神の山と何の地方人よりも崇拝してこの地の全ての自然なものは浅間大神から賜ると信仰を持ったほどだ。その自然なものはこの町を毎日毎日守ったり平安にしたりするが、町の人に恐怖をも齎すのさ。その中で、彼らが特に畏れて慎み深いのは青木ヶ原という森。
青木ヶ原は富士山と御坂山地に挟まれ、この辺の一番大きい森だ。何処よりも大きい湿気を持って、原生の樹木がずっと元気に成長して自分の群体で緑の海を富士山の底で生み出した。あの緑の海故に、太陽の光が青木ヶ原の奥に届くことが出来ないし、あの森はずっと光の二割、暗闇の八割という風に陰気な雰囲気を作った。この地の老人によると、あの森の石と地面は磁性に敏感なもので、羅針盤など磁場で方位を調べる道具を持って来ても無駄なことになっちまうから、青木ヶ原に入ったと、出口を見付け兼ねて、凄い運の力がなければ出て行くのが無理だ。また、青木ヶ原は昔から数え切れない武士と百姓が自分の命を断つ場所だ。昔といえば、お爺さんかお婆さんかが病に苦しんだ折に、自分の子孫に森の奥に背負われ捨てられ、自分の死を迎えた因習があった。そう、姥捨というもの。青木ヶ原はあの過酷な因習をもっと怖くした。彼らの亡霊があの森に永遠に籠り木と土と合わせるようになったし、入る人を発見したと、あの人を誘惑し、新たな亡霊になって貰おうとするのさ。
「青木ヶ原はやはり樹海の具体化であるじゃありませんか」と私が感想した、この地の老人達の言葉を聞いた時。
「確かに。立ち入り禁止を実施せずに住民は木を集めに入ってたんですから、多くの失踪事件を記録してます」と言った柏さん。
「今は秋ですが、ここの寒さは冬に似てますので、木を採りに行く人はないかもしれません」と言った北川司令。「恐らく倉崎さんは青木ヶ原に運ばれた可能性があります」
「でも青木ヶ原だけあるまいでしょうね」と弁じた小田切さん。「平川の持って来た地図によると囲い込まれたのは富士山の北部の森林で、青木ヶ原に留まらず富士山の麓ぐるみは捜索範囲になります。だからここの地理に精通する警察の協力が必要です」
私が声を掛けた。「時間を守らないといけないと思ってます。那月さんの亡霊が倉崎さんをこっちの森の何処かで捨てた可能性が高いです。出来る限り早く見付けないと姥捨の情景になってしまいます」
「なら『子捨て』になってしまうのではないですかね。ただあの子を捨てたのは人間じゃなく亡霊で結構恐ろしくなってる。捜索範囲も非常に大きいし、地方警察に協力して頂けば良いが、捜索の途中で同志を見失ってしまえば辛いんです」と言った北川司令。
「森に入っては戻らないとは言え、人を探してはやむを得ずのことじゃろ」と言った町の老人。「誰でも犠牲者にならないよう、儂達が杭を準備しといたんじゃ。この地は貞觀と寶永以来の富士山の溶岩に象られた故に、杭を打ては別の地形よりやすくなるんだ」
もう一人の老人が弁じた。「お前青木ヶ原に入ったことないくせにそう簡単なことをやっちゃいかん。数百じゃあるまいで数千本の杭を使うんだ。更に綱で一本ずつ繋がないとは駄目じゃ」
柏さんが賛成した。「その通りですよ。杭を打って綱を結びつつ森に進むなら綱の長さが数百里になるんです」
「倉崎ちゃんを探すのは危機が大きいことです。あの大きな森で見付ければ数日間、少なくとも一週間であそこで生存するしかありません」と声を掛けた平川。その正気のない意見も私達の頭脳にあったよ。八方塞がりの事情にはそれしかない。富士山の麓の森は真面目に戦場になる。凡人と樹海の怪奇な力が向かい合う戦場でしょう。
「私も森に入って生存すると決めます」と私が言って、智埼ちゃんと降恆ちゃんが恐怖で驚いた。一瞬後、二人が落ち着き承認した。
「渡邊さん、貴方は本気ですかね」と言った平川。私の怖くても一思いになった顔を見たのちに頷いた。「貴方達と僕達は倉崎ちゃんの為にこの命懸けの体験をそろそろ始める。自分に尊い人を見付け出すのはうち達の同じ目的でしょうか」
彼奴の意を握ろうとしに私が言った。「女の子に挑発する人は珍しいなのですけどね。私達がその挑発を受け入れます。賭けましょうか?一週間の期限でどちらが先に倉崎さんを見付ければ勝ちます」
彼奴も注意した。「貴方達と競争すれば二つの組に分けるんじゃありませんか。未確定の場所に進むのを構わず宝籤を引くみたいにしますので、生存の道具を準備しときましたね」
「この心霊の地に入る前に準備しないと軽率過ぎませんか。青木ヶ原を嘗めたと高い代償を払いますから」
北川司令も覚悟してそう言った。「私達も森に生存すると決めます。国を守る人の心を試練する機会ですから。司令として決して自分の兵を犠牲にさせません」
小田切さんがこの危うい旅に半信半疑でも受け入れ憲兵と富士河口湖の警察に通報した。この副司令の配布に、私の組と平川の組は一番疑わしい青木ヶ原に、憲兵と地方警察の組は青木ヶ原の側や山中湖近くの森に突入すると割り当てられた。そしてこの町の神社の神職達 に平安に帰りに祓われ、方位除けお守りを授かって頂いた。猪、熊や蛇など危険な野生生物にも警戒しないと駄目。この湿気が高い環境では勿論数台の懐中電灯を灯油ランプと共に用いられる。暗闇だらけのこの森の中で光は脆く付いたとしても、入る人を危険から守り希望を齎す。私達と平川達は青木ヶ原を目の前にしたら、一回の深呼吸をし、住民の熱心な励ましで駆け込んだ。
「眼鏡、お前の実力を見せる時間だ。この冒険で輝きなさいね」




