13.3. 「渡邊さんなら、あんたが奉仕してる組織に帰伏するより死ぬよ」
「わー。ふー。出来たー。模式が全部」、純彦君が文字を一つずつ吐き、数理模式連続建設の三日間の挙句に安堵をした。
「お前はさ、大学の数学を使いっぱなしだろ。餓鬼の頭脳にとっては沢山だ」、笠人君が数十キロぐらい走ったばかりのように声を掛けて返事した。
「一番大変なのは私達の方でしょう」と言った城木先生。「このもやもやな数理模式が、黒板から関数、変数、コマンドに変わったのは私達の必死に鍵盤を打ってるんです」
「でも私達が、黒板に積分と指数関数などを演算したり珠算したりしたでしょうか。そろばんだけに頼ったなんて頭がずきずきしてしまったんです」と笠人君が言った、ぜいぜいする純彦君の代理で。
「お前ら自分を困難にしただろ。城木先生の計算機に頼んだら楽勝じゃん。微分、積分、冪根、指数など珠算が出来ないよ」と澁薙君が医療の本を読みながら言った。
「その通り。珠算は無理数の場合には本当の無理なの」と私が浴室を出ながら言った。「数学なら計算のことばっかりじゃないでしょう。算法は数学の心臓のもんだ」
「わー、ムラサマちゃん。あたしの縫った桜色の浴衣を着とるやん。めっちゃ似合うわ」、智埼ちゃんが私の入浴後に着た浴衣の姿を褒めてくれた。智埼ちゃんがこの企画を乗り越える為の服装を提供した。提供の服装で半分以上が智埼ちゃん自身に縫われたよ。
「さすが日澤家の縫製の七年経験者。何度もあんたの家に泊まってあんたとおかんさんの縫製技能を目撃してるやん。こっちの葉の模様は波の裏に似てる」
純彦君が息を調整してからきちんと言えた。「数学大会が迫ってる。これはただ、松澤先生の新たな課題だよ」
「だから自分の頭を極限まで押し付けてる訳か。この三日間で無理数に近く四捨五入してた君の姿を見て可哀想に感じたよ。数の元の形のままにしたら良かったのに」
「第二段は幾何学の試合で、そろばんを持って来ても無駄だ。算数と違って、図形の角と辺の関係によって問題を作る幾何学は無理数の登場を立派に増やし、数の原形を保つのが絶対精度を果たす」と言った松澤先生。先生が飲み物を入れた13杯のコップを持って来ながら居間に戻った。「冷凍椰子の実のジュース。皆飲んで電解質とエネルギーを補足して貰うよ」
「有難う、先生」と返事した純彦君。純彦君と笠人君が飲んでから、激重い息を全部吐き抜き、爽やかさをさっぱり戻してきた。
「有難うございませ、松澤さん」、13杯目のコップを受けた一人の女性が言った。深本姉さんだった。10月1日の朝ご飯後に厚喜さんに連れて行って貰った。仮想世界の一日が実世界の4時48分ぐらいなので、二日目になる夜中では自分の部屋に戻り寝たふりをしていた。彼の家族の朝ご飯の時は私達の二日目の夜ご飯に面白そうに一致したということで、夕べに深本姉さんをここで迎えたよ。
「執事がいて随分助かりました、本当に。城木先生が心を込めてプログラムを形成してたところに、誰かに掃除したり庭の世話をしたり料理を作ったりして頂こうとしたんです。君の椰子の実を割る姿は格好良かったよ、女性にとって」と褒めた松澤先生。
「どうも有難うございます。杉林師匠に訓練して頂くお陰様だからです。だが山口ちゃん、越川君と松兼君も手伝って下さりこの大きい家に取り組めたんです」
「本当に、豪邸に一人で住むのが難しいという訳ですね」と言った城木先生。「家事をする時に、午前か午後の全体を過ごしてしまったことあります。時間を縮みに近所の同僚を呼んで家事を手伝って貰うし、反面に彼らの家で手伝ってあげるし、今人数が増えてきて沢山助かったんです。それでは、うちのプログラムを実行しましょう」
「待ってました」と言った澁薙君が、早速医療の本を脇に置いた。「今は三日目の夜で、そろそろ四日目になるし、実時間では午後2時過ぎですね」
「うん。厚喜さん、あの二枚の写真をお願いします」、城木先生が厚喜さんに倉崎さんを表側と裏側で撮る写真を渡すと促した。私達が読書のテーブルに戻り、画面に目を向け数百行のコマンドが書かれた数件の『電子文書』を注目していた。その『電子文書』は数理模式を現実化しただけでなく、本の頁のように見えて可視化したのもあった。プログラムが実行されると、画面に『電子化の本』のような新たなものが出て、使う人を迎える『前書き頁』をまず表示した。城木先生が、自分の『電子手紙の仮想帳簿』を使ってプログラムに登録し、画面上の操縦をし始めた。私の在院の時に持って来た板型の電算機の写真機があの二枚の写真を撮り、彼奴らの電子化版が折り畳み型の電算機に送信された。電子化版は100個の画素の幅と、150個の画素の長さのサイズだと知られた。画素は電子化によって形成された小さい正方形だ。『画濾過』を確認すると、プログラムは画素の数量を増やして解像度を更新し、一定の時間で綺麗にした写真を出した。
「わー、沙也香ちゃんははっきりと見えた」と驚いて感想した深本姉さん。写真の現在の解像度は一億五千万個の画素と一致した。それから、『赤外れの痕跡』層の三法則は活性化されていく。『彩色化』を確認すると、10秒未満で多彩な写真に出来たよ。日光に敏感に反応することで明部がまだ眩しいけど、一般の景観の調和を守って良かった。そして、松澤先生がこのプログラムの遺伝的機能を活性化した。『特徴抽出』を確認すると、画面が写真の右側に表を出し、五秒ぐらいおきに倉崎さんの形質を入れていた。瞳の色、鼻の形、口の形、髪型、黒子の位置、指紋、個性を活かす装飾品、しかも体に染まった汚い痕跡。私達を苦しませたのはあれらの痕跡だ。表に入った痕跡の情報が圧倒的に多い。平手打ちの、拳の、首締めの、縄の、血の、その上精液の痕跡は誰でも声を一切も出させなかった。
あの表は完成した後で、『行為傾向予断』に処理されていた。厚喜先生さえも驚いた結果を提出して見せたよ。あの結果は円グラフに提示された時、『自殺自害』が48.32%もで一番高い割合を取るのが私達を驚かせなかったが、『人生に復讐』が二位、『現在を承認と維持』が三位で順位となり私達を遠慮させた。城木先生が驚いた理由は、たった一瞬で二枚の写真だけで倉崎さんの腹積りをこんなに提示したことが出来た一方、多数派なら数十秒、数分間、しかも一時間もで分析し提示したことだ。彼も言った、「これは多分、私が生まれてから出会った一番簡単に判断する事情の一つかもしれません」
最後に、プログラムは倉崎さんの位置を追跡する。『人物追跡』を確認して四分後、実際の地面を上から模擬する地図が出てきた。そう、一部分だけでなく地球ぐるみを宇宙から投影したよ。地図は東京の方へ向かって倉崎さんの位置を東京大学附属病院の中で見付けた。人の位置を指定するたった小さい赤い点だけが私達のこの企画に初期の成功を齎してくれたよ。地図が三次元になったら、倉崎さんが病院の二階目で在院中だと伝えただけでなく、雲掛けの空、東京の街並み、家や、外郭の畑をも現実から入れるかのように表示した。
「後藤、また病院に行こう。倉崎ちゃんが目覚めた感覚があるんだと」と促して求めた厚喜さん。
「俺だけと一緒になら良い。吉澤と綾小路を渡邊ちゃんの眼鏡作りに居残らせてよ」と返事した後藤さん。
「あたしも一緒に行かせて。杉林師匠の馬車を借りて病院へ乗ってあげるよ」と求めた深本姉さん。
「なら深本さん、これを貴方のハンカチに付けておいて下さい」と城木先生が言ってから、深本姉さんの所に近付き、指先の半分ぐらいの設備を皆に見せた。「これは微細型監視撮影機、このプログラムと繋がって使う人のいた現場を生記録するものです。怪しい仕草をやる相手の捜査や敵への潜入に役立つことで、私達の文明では軍事と警察が『盗撮機』と呼びました。深本さん、貴方のハンカチはちょっと宜しいですか?」
城木先生は、深本姉さんの紅の枠のハンカチを左の掌に敷き、あの真中にあの小さい設備を置き、折り畳み直した。何層に隠されたとしても外の空間を記録し動画に出来るのはこの設備の一番の強い点だ。それに、城木先生にしか活性化されないことで、現場の様子を全く把握するのは私達の方だった。厚喜さん、後藤さんと深本姉さんは実世界に戻った直後に、『盗撮機』はスイッチオンで、画面に実況を『生放送』していた。奇妙的に、時間差は五倍のままにしても、ここの実況と外の実況は同じような速さで進んでいる。あの三人がここに戻ったら、画面に生で映っている彼ら自身を見ちまう恐れがあるの。
自分のご両親と杉林さんに私達の作業を邪魔しないように部屋に上がらないでと言ったり、倉崎さんの具合をまた見に行くと知らせたりしたのち、厚喜さん達は杉林さんの馬車を借りて東京大学附属病院に到着した。時刻は午後2時45分頃。全国の最高の病院の一つに入り、二階目の右側へ向かって個室側の四室目に近付いた。あの時、少なくとも三人の医者はあの病室に入り、ある一人が彼らに少し微笑んだ。彼らと私達は極めて大事なことを貰った。倉崎さんは目覚めた、遂に。厚喜さん達が病室に駆け込んだら、病床の周りに立っている二人の青年の男、活気が付かず目が覚めた倉崎さん、更に写真集に登場した卑劣な彼女の父親が、私達の目に留まった。一ヶ月以上ぶりに目が覚めたのに自分を毎日毎日泥に溺らしている者達が見られたことと、厚喜さん達が入ったことに気付いた時の倉崎さんの目は、がっかりで退屈に見られ、まるで希望が最後の一雫まで絞り出されたような悲しみに掛かった。それだけで私が早速、ルーペを左目に掛け、この眼鏡のフレームに電線を入れ始めることにしたよ。
「瞳孔は反応あり。顎は自動あり。手と脚は感覚あり。心拍はまだ整っておりませんが、もう一週間休養すれば安定出来ます」、ある男性の医者が倉崎さんの神経を検査し、聴診器で倉崎さんの心拍を確認した、彼女の寝間着の掛け衿を持ち上げずに。
「良かったわ。なんと一ヶ月四日過ごして生死に罹って、死ぬほど心配してる。女の子は勝手にあんな危険なことやってはいかん」と言った倉崎さんの父親。厚喜さんの言う通り、自分の娘に深く関心するかのような声が臭い。もっと分かったのは彼の名前だね。倉崎風士郎。医者達が倉崎さんの具合を確認したと言ってから、退院までの治療の準備に先に出ていった。彼らが病室を出る時、倉崎さんは嫌な顔をはっきりとした。そう、逃げ出し得ない檻にずっと前から囚われた人の顔だ。あの病室にいた唯一の自由な女である深本姉さんはあの顔を読んだようで、多分彼女に見詰め、彼女の足を叩いていた。
扉が閉まった時、厚喜さんと後藤さんも、倉崎さんを所有している者達も真剣な顔をし攻撃的に話し掛けた。倉崎さんが涙を流し始めながら言った。「丸端君、なんであの馬鹿なことをあたしの為に?」
「『花火團』と渡邊ちゃんをこれに巻き込むなら仕方ねえだろ」
「ほー。自分の愛しむ親友を救う為に、無罪で善良な国民を関係ないことにぶん投げるなんて、皮肉過ぎない?更に自分の清々しい後輩をわざと利用しようとして」と馬鹿にする声で言った青年の男の一人。あの声はとても馴染みだった。
「てめえら前からあの国民達に目を掛けてるなんて、僕達を責任転嫁するな。平川哲巳と五十嵐保雲。てめえらは彼らの心を弄びたがったし、『花火團』の夏祭りに爆弾を仕掛けて沙也香ちゃんを間諜にさせやがった」、厚喜さんが言って、ルーペ姿の私が電線をリチウムの電池に繋げることを一旦と停止した。
「はー。あの小田原の中年生達は俺達の退屈感を満足してくれたんだってさ」と言った平川という男。「お前の偽装誘拐を仕掛け、そしてあの小田原の先頭女子に通報したのは五十嵐君のお父様でしょう。彼はお前の呼んだ『花火團』という集団に興味が凄いよ」
てことは、事変前に降恆ちゃんの電話で私に連絡したのは五十嵐という男の父親だったのか。そして倉崎さんの父親が挑発っぽい言葉を言った。「彼奴はいつまで興味になってるか期待してるぞ。あの子は右目の下に厳しい怪我をしたり頭に包帯を巻かれたりして、沙也香ちゃんに似てる姿でいるかもしれない。私の娘と同じことに遭わないように、あの子がちゃんと警戒しないとね」
あの言葉を聞いた倉崎さんが自分を竦んだ。深本姉さんが炎上の質問で反駁した。「風士郎おじさん、こんな人になって一体何があったのですか?自分の娘を自殺まで追い詰めて一体どうして?」
あの父親があと少し猶予してそう言った。「多分、時代の欲求を機械のように満たして富豪になり続ける貴族に奉仕してる貴方は、その奴に潰された気持ちが分かってません。お金が首吊り縄になって、その縄を緩める為に首吊りされる人は単独じゃありません」
倉崎さんが喉の奥から力を尽くしたように声を掛けた。「もう良い。あんたのことが、その『二人と一つの投げ縄』という言い訳にうんざりなの。あたしのことはあんたの娘とまだ認めてるなら、なんであたしをあの村で放っといて墓を建ててくれなかったの?」
五十嵐という男が倉崎さんの頬を少し叩き脅かした。「このほっぺが何百回も叩かれたのにその初々しい思いをまだ捨ててないね。まさか、あの亡くなった友達が夢枕に立ったのか。あの馬鹿な女子は死んだのに、お前の脳が沁みた刺激剤に勝ちたいだろう」
「あたしの死んだ大切な人を馬鹿にするな」
「やれやれ、また怒ったのか」と弄って返した平川という男。「あの子は死んだとしてもお前のことを救えないと頭に刻んで欲しいと言ったでしょう。今はまたの女子がお前の命に登場した。あの子が命を危険に及ぼされるかどうか我が組織次第だ」
「てめえらの組織が渡邊ちゃん達を危険に三回ほど及ぼしたんだよ。更に、あの契約通り、『花火團』をてめえらの敵にしたら沙也香ちゃんを放つと決まっただろう」と憤怒が沢山に反駁した厚喜さん。
「そりゃあの『花火團』は俺達の目の前で登場すればそう決まる」と応えた五十嵐。「沙也香ちゃんは我が組織の巨大な計画に金の卵を産む鵞鳥で、三年間ほど組織の営業にあまり隷属してるし、あの天才の集団がどんな風に取り扱えるかお楽しみにしてるんだ」
「是非貴方達と争いにお楽しみに」と私が無意識に彼奴らに伝えるかのように言った。
「『花火團』というあの子供達にお前の父親が興味を持つのが面白そうかもしれないが、あの興味が途切れてしまわないようにして欲しいなと。さもなければ、『花火團』は御組織の為に体と魂を捧げざるを得ない」と倉崎さんの父親が言って私達がちょっとびびった。
「渡邊さんなら、あんたが奉仕してる組織に帰伏するより死ぬよ」と自分の父親に肯定した倉崎さん。
「へー、あの子は出来るなら、まずお前の依存症を治しておいた方が良い。あれは魔法使いの仕事やろ。依存症はお前を虐めてる限り、お前が必ず私達を逃げ出せないんだ」、あの父親が父親のことらしくなく、自分の娘をただのおもちゃとして嘗めた。あれは倉崎さんが自殺しようとした本当の理由だ。体の虐待の間に注入された刺激剤への依存症。系統的虐待の被害者だった。
平川の奴が何かに気付いた。「ところで、厚喜君と付き添ってるのはたった後藤君だな。お前の残りの仲間は何処に?」
後藤君が何も隠せずに言った。「吉澤君と綾小路君はある特別な人と一緒にいたんだ。彼奴らが列車に乗って小田原に行く暇がないよ」、後藤君が『小田原』を言った時、厚喜さん達の病院に行くもう一つの理由が分かったよ。
五十嵐の奴が興奮な顔をしてそう言った。「なるほど。『花火團』は遂に上京した。お前らの家か旅館か帝国ホテルかで彼奴らを見付け出したくない。切っ掛けが来たと彼奴らが登場するんだ」
そう、倉崎さんは再び病院をなんと逃げて失踪したとしたら、私達はこの仮想空間を出て彼奴らに対面するのさ。あの攻撃的な会話が医者達によって切れちまったのはもう3時過ぎで、深夜11時半までに、この居間ではもう二日間が経ったよ。あの二日間は何があったのか?私が夏祭りの時の白いシャツ、牛の皮のベルトと暗い青のズボンに着替えた。澁薙君と降恆ちゃんと、この眼鏡に手術を行なった。城木先生と松澤先生が出来るだけ速く数理模式のプログラムを指先ぐらいの検知器に集積している。私達がフレームを縦に割り、リチウムの電池をフレームの尾に設置し、神経ぐらいの電線を両側のフレームとレンズを通り過ぎるように並列型に入れ、レンズを一枚のガラスじゃなく二枚のガラスと、間に『半導体透明検知紙』で作ったよ。すると、赤外線検知器をフレームとレンズの繋ぎ目に置いたら、視覚向けされたあのプログラムはレンズに表示され、赤外線風に景観を観察出来る。だが、手動的に支配するなら、何かスイッチが必要だ。
企画の六日目の朝になった。徹夜のせいで、皆は大変寝不足になって、眼鏡が予定より早く、ほぼ完成した上で、何も気付かずに読書テーブルにぐっすり眠っていた。その時、厚喜さん達が戻り、皆を起きると必死に促していた。後藤さんがそう伝え、私達が早速目を擦った。「沙也香ちゃんがまた逃げたんだ。一刻も早く動画を見ろ。逃げ方は普通のもんじゃない」




