13.1. 「『樹海の近道』は、倉崎さんを心の樹海から脱走させて希望を送ってあげる企画です」
「さて、倉崎さんの為に仕返ししていきましょうか?」、澁薙君が段々この企画を本当の応酬にしちまった。「彼女がもう一ヶ月以上寝てるから目覚める時はもうそろそろ。彼女が目覚めるまでは私達の企画を行う最小の時間です」
「時間こそ僕達の最大の敵だね、彼奴らじゃなく。松澤先生の力をあの携帯電話を貰った時みたいにまた借りるなら恐らく時間の問題が解けるかもしれない」と言った厚喜さん。
「後藤さん達も松澤先生の正体を知ってるんですか?」と聞いた純彦君。厚喜さんの頷きだけで私達の予想を確実にした。
「僕の工学クラブ皆も知ってるよ。あの携帯電話を一見するだけで現在の人間誰でも作れるはずがないのではと、半信半疑な成員でも気付いてる。君達と同じ、彼の秘密を墓場まで持つと約束したんだ」
「んー、いつかこの秘密は世界に知られるかもしれません。松澤先生そして彼の共同体に協力して貰うのはもう直ぐになります」
後藤さんも賛成した。「そうだね、松澤先生は人間ではなくて超越な種族の末裔の正体だと知ってる僕達は、いつか人数が増えてきて、人間はもう地球を統領するたった一つの生物ではないという現実を拡散せざるを得ない。すると、未来の世界は乱になってしまう」
「全ては丸端のこの野郎の命懸けの契約の原因だね」、吉澤さんが写真三昧の仲間に弄った。
私が言い続けた、お守りを見せながら。「実は、消極的に考えると、もし先生が数学大会の第一段の前にこのお守りを贈ってくれなかったら先生達の震天動地の秘密を知らなかったのにかなと。然し、私達の行動は先生達の注目を浴びちまって、もう『明日は明日の風が吹く』みたいなことを認めました」
澁薙君も言った。「松澤先生達も自分で注目して貰いたがったでしょう。注目を浴びるならいつかとは賭けのもんと同じじゃない?先生達の意図を読めるホモ・サピエンス達がいれば美味しい賭けだ」
「そうだったら、松澤先生の共同体は最初から自らの正体を世界に見せるつもりだったけど、余計な暴動を避ける為あの正体を知る人数を少しずつ増やして貰おうとするのね」と私が言った。
「今知ってるのは君達『花火團』と僕達でもう十人。十人ならもう十二人になれる」と小統計らしく言った綾小路さん。「深本姉さんと倉崎ちゃんなら時間の問題じゃん」
「ただ否めないものとは、雅實君の思い付いたあの眼鏡を作ったり時間に追ったりするならば松澤先生、そして城木先生の不思議な時間支配力に頼らなければならないんです」、純彦君が私達の最大の敵である時間に取り組むたった一つの方法かのように纏めた。
「城木先生?まさか松澤先生の兄貴?」と糺した厚喜さん。
「え?城木先生のことも知ってます?」、私がちょっと驚いた。
「うん。松澤先生の家に行ったことないけれど、先生が慶應に入って僕達に会いに行った頃、自分のお兄さんを連れて行ったんだ。あのお兄さんが東京大学の講師だと明かしてくれて驚いたよ。もっと驚いたのはあの二人が松澤家の兄弟を演じたり、お兄さんを演じるあの博士が人類誕生前の種族の科学者で松澤先生が彼の末裔だったりすることを知らせてくれたんだ」と言い続けた厚喜さん。
「城木先生ならあの残酷な契約を分析して先輩に携帯電話を渡して賭けを評価したのですね。松澤先生は私達を巻き込む為あの賭けを設定。城木先生はあの賭けを安全性をなるべく上げる為整理」
「まっちゃん、君の言い方はあの尊敬な二人の科学者を過激派っぽくしちゃうじゃん。文明を発達させて地球の崩壊を目撃して倦怠を乗り越える為に『後輩の世代』にそのお土産を残した彼らは、地球の『後輩の世代』を傷付ける欲求がない。数億年生きててもう神様に違いないじゃん」と澁薙君が言った。その途中でパズルピースを入れた箱に指した。
「そうかな。城木先生にお菓子を接待して貰ったあの夜はこの怪我を補償してくれると思ってたことあったわ」
「オッホン。意地悪いな、この女子」、早速私の持って来た箱から城木先生の声が出た。厚喜さん達がちょっとびっくりした。「私がパズルピースに青を発光しなかったら貴方達の夏祭りは一瞬で灰だけに残ったんです。しかも貴方達と、花火大会を見る観客の命も」
「あの時先生のことは過激派に関係があるかなと思ってたのですよ。パズルピースの緑の明かりは意識を無くす寸前に見て初めて疑惑を辞めました。先生は二度助けて下さったと気付いたの」
「だからあの極めて危険な賭けをやってしまった私は君達への試練の送り先を担当してるんだ」、松澤先生も声を掛けた。「あの事変の夜の間にずっと沈黙してしまったその為だ」
「分かりましたね。私達がどう取り組むのかを観察して、命が奪える危険に落ちたと最後の救助を発したでしょ」と私が言った。
「松澤先生、城木先生、前日で予定した通り、私達の今回の企画を手伝って下さると確認してましたか?」と聞いた純彦君。
城木先生が答えた。「んー、金曜日に賛成したでしょうね。この企画の締切は倉崎さんを動機に時間が不定になったので、私達が時間を支配して協力して差し上げます。将来の企画はこれと同じように先進な技術を求めるものがあるので、私達も是非助けに参るんです」
「これは渡邊君の志願だね。自分の発明家の将来の為に活動的に私達の協力を求めた、この子は。新しい技術をもっと学びたいなら教えてあげるよ」と言った松澤先生。
厚喜さんが自分を驚かすものは一体何かを知りたかった。「渡邊ちゃん、その箱の中に何の不思議なものはあるの?」
「これは、私達と先生達の関係に最初の印を付けたものです」、私も一刻も早くこの不思議なものを明かした。「スピルズベリー風の三枚のパズルピースなのです。一枚はこのお守りにしまってあって、うちの夏祭りと私の命を守ってくれたのです。この一枚は城木先生の作った『挑戦のパズルピース』、残りの二枚は松澤先生の『交差のパズルピース』と、私達の『返事のパズルピース』です。一般的には、彼奴らは連絡用の設備、携帯電話に似てます。先輩達が信じないかもしれませんけど、城木先生がこの一枚に住んでます」
「掌の半分ぐらい小さいそのものに?まさか異次元なんかの空間を生み出してヴェルヌ先生の小説みたいな冒険をあそこで始めるだろうか」、厚喜さんが空想科学小説の好きな人のように感想した。
「ジュール・ヴェルヌ小説家は本当に貴方達の世界観を広げて私達の世界にあんなに早く慣れるほどでしたね」
「ヴェルヌ殿は私達の想像力を刺激して子供みたいな考え方を励ましてくれたからです。その考え方は企画立案に役立ちます」
「渡邊さん、私達も空想科学の某小説の人物みたいなもんね。実際に貴方達が最近の時間で目撃したのは空想世界に入ったに相違ないでしょう。現実世界と空想世界が混ざり合って不思議過ぎませんか?小説を読んだ途端あの小説の世界が目の前にあったみたいです」
「城木先生、あの机で声の変換機で通話するなんてラジオ放送みたいで懐かしい感じがしますね」と言った松澤先生。
「私だけに懐かしさがあります。君はこの時代で生まれて育って自分の祖父母がその同じ懐かしさを抱えてるんです」と城木先生が返事した。厚喜さん達がこの二人の学者の裏の長い歴史を少し思い描いた。ラジオ放送は私達の未来だが、彼らの過去。
「私だけに懐かしさがあります。君はこの時代で生まれて育って多分自分の祖父母がその同じ懐かしさを抱えてるんです」と城木先生が返事した。厚喜さん達がこの二人の学者の裏の長い歴史を少し思い描いた。ラジオ放送は私達の時代の未来だが、彼らの時代の過去。
「だから今回の企画は空想科学っぽくなるんだね」と言った純彦君。「私達は現実世界、先生達は空想世界、それでも一般的な目的を目指すこと。雅實君の宿命の人の謎を解くことです」
「チサトちゃんとナギ君と出会って降恆ちゃんを敵から友達に変えてスミヒコ君と競い合って、そしてこのパズルピースを受けて倉崎さん、とても可哀想なお姉さんに会ったのは私の宿命ですね」
「ルーレットの輪に似てるでしょう、宿命は。松澤先生のお陰でなければ、渡邊ちゃんのことを絶対に知らなかった。君の写真を見たとはなんて清々しく綺麗な笑顔を初めて見たんだ。倉崎ちゃんもあの夏祭りでそういう笑顔があった、まだ薄かったとしても。いつかあの笑顔がきらりと見られて欲しい」
「厚喜先輩、倉崎さんが好きですか?」、私が冗談な質問をした。厚喜さんが躊躇わず、「うん。好きだ、友達として」と答えた。
澁薙君が私の言葉を受け継ぎ言い続けた。「その好みの感情によって、倉崎さんのこの親友は命を懸けて僕達の助けを必死に求めましたね。あれは献身と呼ばれても良いです。これからあのような献身が二度と出てきませんようにと望んでます」
純彦君も言った。「そう。自由主義者からの言葉だね。誰もが自由を欲求する。だが八方塞がりの事情に会ったら自由は自分の後ろの壁に突っ込もうとするも同然だ。迷宮に囲い込まれたら、壁に登って飛んでいくのが何も徹底的に解決出来ない。その代わりに近道を探して出口を見付ける。あの近道は厚喜さんが関わったあの 契約」
「貴方達はこの会議の重心に近付いてますよ。『夏祭り』という前の企画と同じ、この企画も名称を付けるべきです。この企画はそもそも曖昧さと謎に覆われたことで、まるで海の奥の宝物を見付け出すみたいに見えるんです。それでその曖昧さと謎を少しずつ解ける為最適な方法を探すことに。『近道』とその方法が呼ばれますね、絲島さんの言う通り。その『近道』は光が必要でしょう」
「ただ、何の海でしょうかも構わないとですね」と意見した後藤さん。「海は必ずしも塩水だらけ或いは海洋を示すとは限らないかもしれません。もっと広く考えれば、それは何かが豊富過ぎて無限ほど届く群体になっていくことを示しても良いです」
「そうだね。例えば人混みを示すなら人の海とか、宝島の洞窟で金、ルビー、真珠などが積み重なって山のようなら宝の海だ」、松澤先生が言って、何処か『宝島』という小説を思い浮かべたね。
「んー、樹海ならどうですか?」と私が意見を挙げた。「樹海は木、大樹、叢などが濃く集まって上から見ると緑の絨毯のように見えるものです。遠くの目線なら絨毯、近くにそれともあそこに入るなら、最早暗くて荒々しくて生な新世界に入って入口も出口も直ぐに悩んじまう。羅針盤を持ったとしても磁性の高い地が無駄にさせる。厚喜さんと倉崎さんが経験したのはね、樹海に入って段々深くにと違いじゃないのです。ただ倉崎さんはもう樹海の奥に入り込んじまって、出口どころか何処に行けるかも分からないほどです。すると、たった一つの脱走の方法は彼女の頭から閃きました。あれは自分の体から離脱。いわゆる自殺。奇遇的に、倉崎さんは神奈川の一番大きくて険しい森を選んであそこに入って、自分の迷い込んだ樹海から逃げようとしました。だが結局、逃げなかったし、まだ生きてるのです」
「つまり、まだ生きる限り、あの樹海でまだ迷い込んでる。倉崎姉さんの写った写真を見た時は、あの樹海はどれほど大きくて辛いかが分かってるよ」と感想した澁薙君。
「だから自殺というと、樹海を逃げる方法の一つなんじゃない?ただそれは最も災厄で残虐な方法であるんだ」と純彦君が感想し、厚喜さんと私をちょっとぞくぞくさせた。倉崎さんのあの夜のお別れの抱き締め、そして彼女の感謝の言葉を感じた時、本当に何かが間違いになったと気付いた。なんて私の勘がその調子で当たったが、彼女が自分で命を奪おうとするのが意外になった。夏祭りが安泰に終わってから、倉崎さんが、既に最後まで自分の滅茶苦茶な人生で全ての楽しみを堪能し、自分の汚い任務をも失敗させ、もう何もに心置きない気持ちが強くて、本物の樹海に入り自分の命の樹海から追放すると覚悟したでしょう。身体が自然の樹海に残り、魂が空に溶ける、のは彼女のあの時の考えだった。
「だが生きてる、瀕死状態になっても。厚喜先輩、どうやって倉崎さんが見つかったのですか?滝に流されたでしょう」
「あの滝は強くなかったと言ったね。だから彼女が川に合う水域に流された時、川による流れがゆっくりになって、地方の木こり達に発見されたんだ。倉崎ちゃんが治療中の病院で過激派に待ち合わせた時、彼奴らがこう伝わった。三人の木こりが赤い浴衣のまま長津川の上に流れている女性を発見して、彼女の頭に真っ赤な血痕が残ったり手と足に魚の目と擦り傷が散ったり息がまだ続いたりすることに気付いて、一刻も早く宮ヶ瀬湖の辺の診療所に背負ってた。宮ヶ瀬湖の辺では小萱村、木材と登山に関する営業や、自殺と事故に関する対策をする村。あそこの診療所の所長、伏見豹介先生に応急して脳の血腫を摘出して頭蓋骨を整復して頂いた。伏見先生の手術は倉崎さんの脳を危険な状態から助けたけど、村での不足な医療の道具故に、彼女がまだ昏睡になってた。倉崎さんは東京大学附属病院にあの翌日に運ばれて二回目の手術をされた。二回目の手術では、肺臓と心臓を補助して脳を復旧する為に血を汲み上げることだった。東京に帰って手術中に、過激派の奴らにずっと視察されてた。具合が彼奴らの都合に合った際、僕達に伝えてきたんだ」
「あれは自殺未遂の三日間後ですね・・・けどね、あの伏見さんの医者は熟練度が高過ぎない?村など全てが欠乏な場所に住んでるなんて、あんなに難しい手術が出来て倉崎さんの命を救って下さったのは医療の奇才に決まってる」、澁薙君が伏見先生に感銘を言った。
「外科医になら脳血腫摘出は難しくないけど、頭蓋骨陥没整復は反面に面白いが危険な問題です」と言った城木先生。「陥没したら硬膜を破って脳内の血腫を生やして脳を圧迫するもんです。早く開頭して整えなければ、圧迫される脳の部分の細胞が永遠に損傷されるし、血腫も厳しくなるし、患者に死を追いやるんです」
「てことは伏見先生は確か、安全性の為、頭蓋骨の陥没の部分を完全に取り除いて長い間に復旧させたでしょうか」と澁薙君が聞いた、パズルピースから厚喜さんに目線を戻しながら。
「明治時代の医療にとって、頭蓋骨を自ら治らせるのは一番出来るんだ。武蔵野さんによると、頭蓋骨の割れを組み直せるには安定性の高いが軽い金属の装置が必要だけど、今の医療がこれまで先進してないという訳だ」と答えた厚喜さん。
「さすが武蔵野先輩」と感嘆した澁薙君。「だから一ヶ月以上延長してたんですよね。倉崎さんの頭蓋骨が治るまで」
松澤先生が意見を挙げた。「実はさ、頭蓋骨が治る最小の期間は二から三ヶ月ぐらいだ。不動関節で、そして骨髄も血管も非常に少ないので一番時間掛かる。だから一ヶ月以上しか治らないのは奇跡かもしれない。恐らく過激派は『自分の宝物』の具合を上向きに早くさせる為、なんと『自発復旧強化の薬』を密かに注入することもあったでしょう。厚喜君に連絡する前に、手術後の倉崎君に何か闇の仕業をやってしまった可能だと思ってる」
純彦君が同意した。「そうでしょうね。豊富な秀才の集まりが一生懸命奉仕したからには、あのような刺激薬を作成するならば朝飯前なんじゃありませんか」
「彼奴らは倉崎さんの具合を急かそうとするなら、最初から彼女の意図をずっと把握しました。自殺しようとしたのは初めてじゃありません。彼奴らが知ってるんで、自殺未遂で負傷した倉崎さんを早く治して、次の自殺未遂でそう繰り返すのです。こうしてこうして、彼女の命と意志を弄んでるのです」と私が言った、倉崎さんの絶望だらけの写真を見ながら咽びそうな声で。「もう何十枚の写真なんて、この証なんて光に晒さなくて辛い」
「まっちゃん、もう大丈夫じゃない気がするよ。声が咽んでるから。今涙を出しても良い」、澁薙君が私の肩を少し叩き私がちょっと泣いていた。右目が包帯に巻かれ隠されても涙腺が壊れないから溢れ出し包帯を濡らしていた。これら倉崎さんの辛い時を思い描く写真集を再び見直した度に、私の涙腺が堪らなくなっていた。あの時、自分の夏祭りを自慢話にした代わりに、もう少し時間掛かって倉崎さんに彼女の人生を詳しく聞いていけば、少なくとも彼女が再び自分で死に行かなくて良かったのに。
「私のせいなの。倉崎さんは私のお姉様みたいだから、自分の勘がもっと鋭かったら、鳥居で引き戻そうとしたよ」
「馬鹿馬鹿しい後悔をしないで、渡邊君」と反駁した松澤先生。「倉崎君を引き戻せば、あの契約が破れて敵が『彼奴らの宝物』の横取りを擦り付けて事情が何倍も危うくなったんだ。あの契約は小田原を一掃せずに火花と破片をばらばら残したものだ」
松澤先生の言葉を聞いたことで、この事情の過去をもしどんな風に廻しても良い結果を齎せないと無力に認めた。全ては定められた計画通りにされない訳にはいかない。涙が溢れたまま私がそう言った。「ラッシュナトゥール人でさえも過去に戻る機械を作り得ませんから。いずれにせよ私が倉崎さんに再会したいのです。彼女が恐らく長い間に孤独で、男達のおもちゃで扱われて、同じ女の子である私にとってもう沢山です。まさか倉崎さんは孤児ですか?」
厚喜さんが頭を振り答えた。「まだ親がいるんだ。然し、孤児になったら良かったのにね。君達が信じられないけれど、倉崎ちゃんの親、いや、倉崎ちゃんのお父さんこそ彼女と一緒に樹海に入り込んで、自分の娘を生贄にしてしまったよ。倉崎さんの全ての苦しみは自分の父親から起源したんだ」厚喜さんが、あのことが前から始まっちまってもう当然なことだと認めたようにそう答えた。私達の背中が再びぞくぞくした。私が自分の持っていたこの写真集を出来るだけ速く一枚一枚捲り、厚喜さんの描写通り顎の髭を持ち髪が半分で白くなる中年の男が写った写真が見つかった時、私の喉が詰まったようだ。
澁薙君と純彦君も来て倉崎さんのお父さんの姿を見てみた。あの男は倉崎さんのお父さん?彼の格好が財閥のような厳かな袴で財閥とあまり違いなかった。財閥のようなあの男が自分の娘の堕落を楽しんでいる。彼が倉崎さんの堕落の原因に決まっているでしょう。彼の目力が殺し屋に似ている、自分の娘を完全に手に入れ弄んだり、他の男達に失墜させたりしているから。私達を吐き気させる舞台の出演を撮った数枚の写真で、遠くから撮ってもあの『お父さん』と呼ばれた男の一心不乱の顔が写真の白黒の粒子から現れたよ。しかも彼の煙管を持つ権威だらけの姿勢も見え、あの人間がどんな狂おしくて恐ろしくて腐敗だったと気付いた。彼が自分の娘に卑劣なことをやっちまったことも考えられるでしょう。
純彦君が落ち着き厚喜さんに聞いた。「厚喜先輩、倉崎さんが入院して手術をされた時、あの人も来ました?」
「勿論来たよ」と答えた厚喜さん。「あの病院に行った時、僕達があのくそ爺と出逢った。彼奴が自分のいつも通りの豪華な車の代わりに人力車に乗って、執刀医に可哀想な顔を演じてた。『どうか儂の娘を助けて下さい』、『沙也香ちゃんは儂の生きる理由である』というみたいなくだらない言葉を吐いて恥を忍ばなかった。過激派の手下も彼奴に付き添って、倉崎ちゃんが手術室から運び出されてから、彼女の具合を入念に見張ってたんだ」
後藤さんも言った。「確かに、過激派とあの爺の圧で、倉崎ちゃんの自殺未遂は某女の山岳事故に記事の内容を変化したりしたよ。彼女が一ヶ月以上起きてないばかりに記者達があの出来事の確実性を求めて稼ぐ期限も切れてしまって、過激派に完璧な陰を掛けたんだ」
「そして、9月10日の小田原での事変のより大きな影響で、倉崎さんの具合はもう記者達にとって大したものではないということですね」と言った純彦君。段々彼奴らの狡猾な手口を明らかにしたね。
「そういうこと。僕達があの爺に対峙した時、短い会話だったけど、あの爺が僕達以外に、君達にも『勇者ごっこの田舎書生』と貶して、挑発的な態度をぶん投げてきたんだ」と言い続けた後藤さん。
私が涙を拭い深呼吸し声を掛けた。「倉崎さんの家族は大惨事、恐らく財政的なもの、を昔から受け止めたようです。損そして借金によって倒産しちまったなどで、『日本の定理』を定めようとする過激派に絶望の救助を求めて、家族の唯一の娘を代償にすることになりました。闇の市場を上手く支配する過激派は政府の税制を盲にして、借金を返したり彼女のお父さんに新たな営業を設定したりしてあげて、反面に倉崎さんが彼奴らの利息として代償されたの。お金の流通量の残酷な側でしょう」
「それはまた君の仮説だね?」と厚喜さんが聞き、私が頷いた。
「前から言っておきましたね、貴方達も『日本の定理』を定めるつもりだと。あっそう、渡邊さんの病床での会談」、城木先生が私達の意思を思い出させた。「渡邊さんの倉崎さんの経緯の仮説を聞いた時、厚喜さんも心が静まりましたでしょうか?」
「んー、まあまあですけど。僕はね、城木先生と松澤先生を次いで、君達の本当の意思、というより野望、を見抜けただろう。校内の縺れを解決してやった少年祭、そして前代未聞の夏祭り、これからもう止まらないしね。僕の父ちゃんの言葉、渡邊ちゃんの写真集の呼び方、そして越川君の仕返しの求め通り、倉崎ちゃんに希望を閃かせて真正の近道を探してあげる。それは僕達の三年間ほどの努力だったけど、大胆さも狂気も運も足りなかったし、あまり得ずに済んだ。ラッシュナトゥール人の先生と君達『花火團』と出逢って後輩とした後に、あの希望が見えるのが妄想じゃない」
「但し、倉崎君を過激派から真正の人生に取り戻せるように、ほぼ過激派の宝物を横取りすることに似てるんだ。その為、私達は彼奴らとの対決のうちに君達ホモ・サピエンスに挑戦を与え続ける。パズルピースからの挑戦は過激派をぶっ倒す一番有効な武器だ」
「分かりました、松澤先生。5月にこれを贈ったのは私への初めての挑戦ですから。城木先生の二枚目のパズルピースが私達を待ってるかもしれません」と私が返事した、希望がたっぷりで。
「最初のパズルピースは渡邊さんに解いて貰ったことで、二枚目を探しては難問じゃありません、持ち主をずっと焼き付けたので」と城木先生が励ますように言った。「ということで、渡邊さんはこの企画の名を見付けるのですか?」
「はい、見付けました。それは『樹海の近道』と申します。倉崎さんを心の樹海から脱走させて希望を送ってあげる企画です。近道はある場所を通り抜ける一番短い道なので、想定外に多い障害物を通り過ぎて危険を冒すのも当たり前で、そういう覚悟を備えるのです」
城木先生が理解しそう言った。「なるほどね。貴方の提案した眼鏡を作ることを巡るというと、この企画の名に合わせる為、たった一つの用語を焼き付けておきましょう、特に物理の作業をする者達。『赤外線』という。赤外線を把握しなければ、その眼鏡が生まれないし、この企画が無駄に済んでしまいます」




