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日本の定理・上巻  作者: 泉川復跡
【『樹海の近道』編】第十章。新言語の訳者
30/42

10.3. 「君達は本当に世界を救うつもりでしょうか?」

「お見事、皆。遂に私達の学名を見付け出しましたね」、城木先生が松澤先生と拍手しながらめでたいことを言った。

 純彦君がまだ少し疑っていた。「でも、ラッシュナトゥールというのは本当に先生達の種族の名ですか?」

 降恆ちゃんが純彦君の疑問に応えた。「結果が出来たのにまだ足りない気なの、スミちゃん?マサちゃんの解き方に不満がある?」

「どうやってたったの『蘭』という字は結果が出来るんだ?しかも普通に『蘭』は『ランド』を音訳する以外、地を示すことじゃないだろ。夏休みの初日にお前らへの俺の暗号と全然違うんじゃない」

 笠人君が少し笑った。「お前さ、誰でもお前のみたいな暗号を作ると思うのかい。お前の『鴉からの封筒』は別々の表象の隠すみたいな片仮名を全て探ると求めた反面、これは暗号じゃないのにね。さっきの会談の間に昔の地球の情報を少しずつ拾っただけだろ」

「実は、お二人の先生の昔の世界におけるそれぞれの説明は暗号自身になったんだ、図なんとかを使わずに。毎日毎日、無意識にお互いの作った暗号を解くことを繰り返してるでしょう。ただこういう暗号は数字とか図じゃなくて日常の言葉だよ」と言った澁薙君。

「相手の言葉を理解するのは暗号を解くも同然だね、ナギ君」と私が言い加えた、澁薙君の言葉に。「私が解いたね、もう一つの暗号を。江戸時代の日本人によって『蘭』は異常に意味が多くなったよ。あの頃の学者達は一生懸命蘭学を勉強してたじゃないか。但し、明治維新が成功になれる為、ヨーロッパの国名と用語をラテンらしいまま保つ代わりに、うちの国民誰でも読んだり学んだり出来るように日本語と漢字にしたもんだ。蘭学は西洋の学問だけじゃなく、『新言語の訳者』の学問だからだ」

 笠人君が賛成した。「そう。音訳だけで『蘭』の意味は多様になったんだ。更に、ラッシュナトゥール人の進化では、各個体が体の不必要な部分を取り除いたから、ラッシュナトゥールという学名に出来る為、そういう調子で不必要な文字を消して語句を刈り込んだ」

 城木先生が言って純彦君の疑問を消した。「『蘭』はある地名にあったら気を付けないとです。特にはある漢字の後ろの『蘭』。そして、私達の進化のやり方、新しい世界への視点、故郷への感情、地球への欲望は私達の本体を影響して、こういう学名に出来たんです」

「ところで先生、ラッシュナトゥールは当時の言語によればどういう意味ですか?マサちゃんの解説と同じ?」と聞いた降恆ちゃん。

「んー、貴方達の日本語なら、想定外に深い意味を表してたんですね。まるで私達の祖先の腹を読むみたい・・・実は、ラッシュナトゥールは『海出身の人類』を意味する学名なんです。当時、私達の科学界はノルステム(Nurstem)語、いわゆる日本語の音訳の『糊土(のりつち)語』をよく使ってました。ラッシュナトゥールのラテン語と言われても良い。ラッシュナトゥールという名はこの言語からです」

「てことは、先ほどの新言語はノルステム語ですかね、先生」と確認した澁薙君。「僕達の学名はホモ・サピエンス。ラテン語では『賢い人間』と意味します。名付けた学者であるカール・フォン・リンネさんは、『人』を示す『ホモ』と、『賢者』を示す『サピエンス』で分離して現在の人間を呼んだんです。そうなら、ラッシュナトゥールもそういう風に分離するのがあるかなと」

「確かにでしょうね。ラッシュナトゥールは一見した時、糊でくっついたみたいな様子で書かれたんですが、はっきり三つの音韻が読めますね。但し、ホモ・サピエンスという名と同じ、私達も『ラッシュ』と『ナトゥール』で学名を分離しました。ノルステム語では、『ラッシュ』は『海より』と『海的』、『ナトゥール』は『流浪者』を示すんです。纏めは、ラッシュナトゥールは『海よりの流浪者』という意味ですよ。何故『流浪者』と呼んだならというと、上陸した後のラッシュナトゥール人は新しい環境に適応出来る為、初期の数百万年間経って、大陸のあちこちに行ったり住んだり他所に引っ越したりしてたんです。よって、どんな地域が自分の生活を上達させてあげるかを自ら決めて、陸上の野獣を馴らして家畜にしていられたんです」と解説した城木先生。なんか人間の原始人もそういう遊牧民の生き方を使っていたようだね。

「『海よりの流浪者』ですかね。その遊牧的な生活であんな期間で生き続けてたのは立派に様々な民族が出来たでしょう。一つの地域には適応出来る一定の民族がいるということ」と言い続けた澁薙君。

「その通り。確か、ホモ・サピエンスである人間も昔遊牧したり移住したりしてたそうですね。私達の研究によると、初めに人間はアフリカの東岸と東南アジアにいて個体群が出来て、人口が段々増えたところで、個体群を広げる為にアフリカ大陸の西とユーラシア大陸の北へ移動したんです。海に沈まれてなかった地域を、ある部族は渡ってアメリカ大陸やオーストラリア大陸に入ったこともありましたよ」

「あー、だから発見した時のヨーロッパ人はあの地の先住民と出会ったことがあるという訳ですね。あの先住民達もずっと前から自分の文明を発達させたんですよ」と笠人君が言った。

 松澤先生が言った。「今君達の種族も多様になっただろう、あんなに長い旅のお陰で。現在のホモ・サピエンスは百も以上の国を作ったけど、一般的には白色人種、黒色人種、黄色人種、そして豪州人種になったんだね。移住が多けば多いほど、環境の影響と、人種の混合を立派に受けて様々な人種になったということだ」

 澁薙君がいきなり溜め息をしてもっと言った。「はー、現代の一番解決すべきは種族の紛争ですよ。白人と黒人の最低な関係とか、白人至上主義とか、植民地とか、劣勢の人間の必死さとか」

 智埼ちゃんが言い加えた。「実は種族だけあれへんで民族や。おんなじ肌の色でもぼろぼろまで争い合える、自分の尊敬する思想とか信仰の名の下に。しかもおんなじ国出身やのに、信念が逆な以上は決して争い避けられへんやで」

 私もこの討論会に入った。「過激派との闘争の動機もそういうもんでしょう。ナギ君の先ほど言った『至上主義』という言葉はそういう全ての争いの動機なの。白人といえば、自分の明るい肌や無双の文明を自慢話にして自分に世界を操る権力はあると信じて『白人至上主義』を作ったこと。宗教といえば、キリスト教とイスラム教の十字軍のことだ。この二つの宗教は自分の宗教を至上して、どちらもエルサレムを自分の聖地と見てて、決して相手に譲るなんてなかったし、正義なんかない戦争を執念深くやり続けたのさ」

「さて、『はい』か『いいえ』かしか選ばない質問をあげます。もし仮に、黒人の人間はホモ・サピエンスの原版である正体、人間が初めて生まれたアフリカそして、白人のみたいに素敵な文明を自慢話にしたら、自分の『至上主義』を作って侵略者になってしまうのですか?」、城木先生が面白い質問をあげたよ。「この質問は、貴方達アジア人とか、オーストラリア大陸とアメリカ大陸の先住民の場合にも運用出来ますよ」

「純彦君も答えてくれへんの?」と揶揄って言った智埼ちゃん。

「簡単な質問なんて俺にまで答えて貰うか?」

「首領やさかいやろ。残りの五人の思いも同期化出来てんやん」

「ったく。だったら答えます。答えは『はい』。ただの地位の交換だからです。黒人は優秀な文明なんとかを発達させたとしたら、他の種族を優しく扱う訳ではありません。白人と同じ場合になりますよ」と答えた純彦君。やはり、『花火團』が一斉に頷いた。「ただ、白人は何の種族よりも、自分の『至上主義』を強調してうちの文化、思想と野心を世界中に伝える機会を早く掴んだ訳。白人じゃなかったら、別の種族もそれを掴んで同じことをやるしかないんです」

「そう、『先んずれば人を制す』というもんだ」と言った笠人君。「更に、日本の維新はその説明とその諺の一番の証でしょう。白人の訪問には脅威でもお土産でも二面性がある。白人に操られるというアジア人の運命に落ちないように、活動的に、彼らの知識を学んで自分の物に出来た。やがて日本人は何のアジア人よりも、白人と対等に会話出来る機会を早く掴んだんだよ」

 私が彼の言葉を次いで言った。「その後、日本は帝国になって、白人と同じ他国を征伐することをやってる。最近では、白人の一つの帝国を負け犬にさせたことも出来てるよ。それは、私達だけでなく同じアジア人をも少し誇張させたのさ」

「貴方がそう言ってるのに、自分の国の帝国化にとって良い目線が貴方にない気が私がしてます。貴方達が夏祭りを開くことには戦争による心の病気を治す為もあると前から言ってるそうでしょう」

「んー、戦争はこの時代で、日本の帝国が強くなる為のたった一つだとよく分かってます。ところが、そういう思いをずっと抱えてたら世界は永遠に戦争に巻き込まれちまいます。『先んずれば人を制す』それとも『弱肉強食』という熟語は世界の野生的なルール、そして人間の獣性を描くしかありません。人間はとにかく動物だから獣性は当たり前に持つ。世界の文明的なルール、そして人間の人間性を描くのは『和を以て貴しと為す』、『柔よく剛を制す』そして、私が一番好きな諺、『毒を以て毒を制す』。日本は戦争のみならず、平和な方法でも強くなれると思ってます。私達は、日本は数世代に、戦争欲求の帝国なんかじゃなく、強い国も弱い国も憧れて友達が出来る国と認められて欲しいからです」

「偉そうだね。私達の目に留まったのは当然。では、前から君達に聞いた質問をもう一度聞くよ。君達は本当に世界を救うつもりでしょうか?」、松澤先生がそう言って、夏祭りの客を迎える時の私がまだ曖昧に答えた質問を繰り返した。

「んー、私達に限らず、誰でも世界を救う望みを抱えてます。本人の決意次第なもんです。世界を苦心から救いたいが、その巨大なことを相当に巨大な力に自身はないと思ったし、もう数十年間を生きて大人になった後に自分はそんなことが出来ないと信じたし、その望みを絶たずを得ませんでした」

「ほー、人間の貪欲そのものだね。ただ大人になったら、世界を救うどころか、自分の生計にさえ取り組めないのなら、自分の人生を救えるのかという苦悩に悩まされる訳だ。『世界を救うなんて餓鬼っぽい戯言だろ』とずっと考えておいてるね」

「貴方達が自分の青春を無にしなくてとても良かった。その子供っぽい考え方を実践にして皆の好評を博したでしょう」

「はい。青春は人生の滅茶苦茶尊い物だから、思いっきり楽しんだとは大人になっても人生に悩まされないのです」

「そうだったら、貴方達の人生の毎日毎日は青春になる訳ですよ。大人になってから青春が消えてしまう訳ではありません。青春を楽しめるように、一朝一夕の作業には出来ないでしょう。暫定的な快楽しか満たせません。その為、長い期間で苦労が多い作業をやって、必ず青春の瞬間を焼き付けようにすることです。それは貴方達がずっと前から考えてるものですね」

「はい。全ては森坂先生のお陰様ですよ。私達の国語の元担任教師は生きる意味を教えて下さったのです。森坂先生はそう言ってます、『青春は命の芝生。青春は青と春の二つの漢字に組まれる。この言葉を初めて聞けば、ある綺麗な天気を思い描けることもある。その天気には、空が全く雲の痕跡も残せず日照で完璧な青を染め、その空の出てくる春が、万物に蘇生の力を煽らせて差し上げるのだ。私達の中にはずっとその天気がある。希望の時も、失望の時も、絶望の時も、青春は私達を穏やかにする方法を必ず探す。困難な状況に会った時はいつも静かな何処かへ行こうとするでしょう。あそこに行って、優しい芝生に寝て、上の空に見詰めて、しかも寝坊してしまう。だから、青春は命の芝生だ』」

「さすが森坂先生だね。文学の力がなければ、ここまで君達は至れなかったでしょう」

「はい。あの姉さんに文学が苦手な私達は文学を惹かれたのです。それで、降恆ちゃんと仲良くなったし、スミヒコ君を私の競争相手に出来ました」

「おい、今まで俺はまだお前の競争相手だと?」

「そうよ。相棒というより、『花火團』の内部の競争相手と呼んだ方が良い。君は『花火團』の全ての催しを思い付いて皆を召喚する一方で、私はあれらがどんな風に仕組まれるかを提案するのだ。最近、小田原が攻撃された夜には、私達二人が将軍みたいに指示をしたんじゃない。君の相棒だとしたら君が権力を完全に掌握したよ」

 智埼ちゃんが私の左の頬を抓り、叱りそうに言った。「この女子め。残りのあたし達は何者や思うんが?あんた達の手下?」

「痛い痛い、痛ーいー・・・手下なんかあらへんやろ、チサト。顧問なの。私とスミヒコ君は『花火團』の頭脳だとは言え、何も自由勝手にしてはいけないでしょう、あんた達の介入抜きで」

 澁薙君が私の脛を強く叩きながら言った。「僕がいなかったら、この団体は生まれるはずがねえんだ。僕の熱心な応援がなかったら、君がスミ君と数学の勝負に出来なったんだよ」

「痛いよ、ナギ君。忘れるもんかよ。君は私の生まれてから初めての男の友だから。私とスミヒコ君はこの団体の頭脳、残りの皆はこの団体の脊椎。それは文句がないわね」

「なんか複雑ですね、渡邊さんと絲島さんの関係は。お二人は親友か競争相手かと言われても正しいでしょうね」

「そうですよ、城木先生。スミ君にとってまっちゃんはたった一人の相応しい好敵手かなと思ってるんです」と応えた澁薙君。「二つの学校の皆もこの二人の競争を三年前の交流会以来知ってて、恋人だと勘違いするほどでした。『花火團』が設立されたとも、競争を続けて私達残りの四人はもううんざりですよ」

「ご安心せよ、澁薙君。『花火團』が消えてしまうまで、必ずそのうんざりの顔をさせてやるぜ」と返した純彦君。

「こわーいな、絲島君。算額を作り中の君達二人のとんでもない顔がはっきり見えたのは日常の物になったんだね。君達の絵馬を貰った時、君達二人が本当にお互いに気を遣う訳がないと考えたよ」

「11年末の数学大会では、お互いの解答権を争わないでよ」と弄りっぽく注意した降恆ちゃん。

「何よ。5月末の第一段で応援したでしょう。解答権を争うなんてないよ。好敵手だとは言え、相手を上達させる為の親友だけなの」

「良く言うよね、雅實君。第二段まで残り二ヶ月。病床に寝ながらも数学を復習するのは悪いもんじゃないだろ」

「うん。松澤先生もいるから大丈夫。あっ、城木先生のご褒美お願いします。あの辞書のこと」

「勿論です」、城木先生が鞄から千頁ぐらい厚い辞書をあげた。この辞書は『糊和(のりわ)辞書・肆代目や明治人向け再版』と表題にされた。この茶色の表紙には、左の撫子と右のシダが立っている芝生という黄色い絵があった。多分、撫子は日本語、古代の植物の代表であるシダはノルステム語の象徴だね。見た目を見たのなら、この辞書は英和とか仏和とか独和辞書に全然違いがないが、最初の頁を開いたと、本当にアラブ人の言語とかユダヤ人の言語までも一致しなく完全に新しい言語の文字表が出てきた。

「ノルステム語は人の口の動き方を中心に文字を形にして体系を作るものです。貴方達の日本語も、口の動き方で『あ』『い』『う』『え』『お』を原型の文字にしたでしょうね。ノルステム語もそういう使ったんですが、口がどう動いて空気を押し出すか次第です」

「へー、口の動き方ですかね。この文字は直接的に口の形を持ってますよ。唇を象徴的にする弓みたいな形、そして気流を象徴的にする線」と言った私、それぞれの文字の位置に指を動かしながら。

「マサちゃん、読むなら夜ご飯の後にしよう。城木先生はラッシュナトゥール人の何の種族なのかも知ってないからね」

「貴方達も期待してるでしょうね。しかも松澤先生も私の本当の外見を見たこともありませんし、これから私の正体を明らかにしていきます」と城木先生が言ったら、三つのパズルピースを始動し、仮想の画面を出し上げた。彼が『製作者』という選択肢を押し、そしては『本種族』と『暴露確認』です。その後、画面から灯りが彼の顔に射し、彼の見た目をゆっくり変えた。肌がより明るく、耳が上向きに長く鋭そうに、目が橙色に、髪も煙のような気体を焚くという外見が出てきて、私達と松澤先生をも唖然とさせた。「私は『Halbach(ハルバッチ)』、いわゆる『煙髪(けむりがみ)』族です。改めて宜しくお願いします」

 挿絵(By みてみん)

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