4.3. 「歌は『深情荒波』と申します」
「そう。では、人工虹を消して良いよ、皆さん」、あっという間に生々しく綺麗な行列が消えた、プリズムを取り抜いただけで。「数学と物理と化学があった時にもう生物学を加えると自然界が完成しますけど、越川君が生物学から音楽まで屋台組の名前を変更してしまったんです、夏祭りの雰囲気に会う為に」
「生物学だけが名前を変更すべき分野となった理由は、皆様を盛り上げる望みと夏祭りの雰囲気の組み合わせの訳です。音楽は皆様の心も体も動き出して興奮させるのですけど、ある楽器を自ら弾いてみて音楽が出来るならより喜ばしいでしょうね」
「そういうこと。私の手が差した方に沿って、左側は洋楽器の屋台、右側は和楽器の屋台で分けられます。二つの屋台には楽団が作れるほど楽器が多く置いてあります。皆様は伝統的で安静な雰囲気を楽しみたがれば、それともヨーロッパの音楽家の名作の旋律と一緒に揺れたがれば、皆様の選び次第です」
「然し皆で弾いたら、雑音が起こって集中力が切れちゃう」
「そのことを心配しない方が良いのです。一つを手に入れたら、越川君の組や音楽部のメンバーが弾き方を教えて、皆様が弾けるまで皆様に伴います。屋台内に限らず案内人が伴う限り、この大きな敷地の何処でも楽器を弾いても良いです」
「んー、ピアノを持ってって弾くなんて前例がねえんだ」、あの男が言い、皆を笑わせていた。
「劇場のピアノどころか、学校のピアノも私達の屋台に入れてはいけませんから、物理の組がどうかピアノのような大きい楽器をなるべく小さくしました、携えやすいぐらい」
「本当かよ?小さくすれば、曲の音調も変わってしまう」
「はい、私達も推定しましたので、電気を使って、響きが大きくなっても、古典的な楽器の周波数に届くほど揺れを拡大しました」
「ってことは、君達はここを照らす同じ電流の仕組みを通してあの楽器らを更新してた訳でしょう」
「その通りです。交流電流は本当に予想外に役立っています」
「では、私達の発表もこれまでです。百聞は一見に如かずという訳で、皆様が山口ちゃんの組が描いた引き札を受けて、ここはどれほど素敵かを目で見るのに申し込んでくれて有難うございました。但し、見たら考えてやってみないとということなので、皆様はこの先、独特に伝えて貰った全ての屋台組のご紹介を受けて、この一週間を楽しむ為に不安と負担を構わず遊びお願い申し上げます」
「うん、是非遊ぶよ。お前達の長い発表のお陰で、やる気満々にさせてしまうんだ、特に虹の出現」
「詰まらないなんて訳ありませんからでしょうね・・・それじゃ、人工虹の演奏の後はまもなく音楽部と舞踊部の公演です。八田蜜、白濱中学校や清平、相模ヶ浦小学校の舞踊部の38人は私達の立ってるこの床の下に全てを準備しています。彼らが演じようとするのは相模湾の風格を持って来るよさこい踊りなのです」
「じゃあもう直ぐこの地のよさこいを見られる?」
「はい、見られます。相模湾なら東京湾や駿河湾などと違ったところを持ってるのです。その違ったところはこのよさこいの歌に入れられます。更に、そろそろ始まる演奏を補助するのは私達の後ろにあった楽器のセットで、小田原の全校の音楽部に奏でられます」
「さー、もうお待ちさせないように、小田原の全校のよさこい踊りがお始まり致します。歌は『深情荒波』と申します。作詞と作曲は東京大学の早川美鶴さんと小林朝太郎さんです。どうぞ」
「はいよっ。待ってましたぞ」、あるおじさんが興奮で言い出した。その興奮から、「待ってました」というような言葉も観客達に留まった。
私達が両側の階段を下りた、まだぞくぞくしていて喜ばしい気を持って。そのうちに、音楽部の皆が早速舞台へ向かって、私達と手を連続叩き合い上がった。演奏家の姿を持って、男性は黒い蝶ネクタイを掛ける厳粛なスーツ、女性は艶やかな黒いドレスを着た。楽団を導いたのはその歌のリズムを作った小林さんで、歌おうとしたのはその歌の詩を作った早川さん。但し、よさこいならそれぞれの舞踊に発令のような『歌の側の詩文』を読むもう一人が必要なので、その一人は澁薙君に他ならない。
和洋折衷の楽器が演奏家達の手に入れられた後で、舞踊部の指導者が「皆、覚悟しとんか?」と呼び出し、咄嗟に軍隊のように全員が「覚悟した」と答えた。24人の彼らが三色の幕を大きく開け、初の構えに道具をしっかり捕まえながら整列した。女の方は泡沫の模様がふわふわ飛んだ海の色の袴。男の方は石の模様が散り散りした砂と土の色の袴。
一旦と長い溜め息をした上で、小林さんが杖を上げ、まず和楽器の部分を指して振っていた。箏の弦から来ていた優しい音が相違なくよさこいの歌を始めた。そして、武蔵野さんの弾いていたピアノの番で、一段下のオクターブで箏の音と混ざり合わせた。吹かれていた篠笛も旋律に入ったうちに、澁薙君が『側の詩文』を読み始めた。
(相模の湾よ、幻想如き両岸。
淵如き深き水、唯一紺青染む。
遠き東、砂の丘積もり込み、
高き西、森の群れ厚しき並ぶ。)
澁薙君がその詩をのんびり読んでいた一方で、舞踊部もゆっくり足を肩幅に、腕を上に向かって伸ばした。その詩を終わらせようとしているところで、男達が女達を前へ進ませに退いた。女達はこの深い海の女神の役、男達はこの地の凡人達の役を演じていた。この歌は湘南の地や相模湾を、海辺に住んでいる凡人の男や艶やかな海の女神と人格化し、無限な力を持ってあの男を魅惑させようとしている女神や、女神に物凄く慕って恋を抱えている男という物語を描いた。その物語はあの二人の『禁断の愛』の始まり、経過、そして荒波として盛り上がりを、交響楽の劇的な楽譜や、活気尽くめの踊りによって語られてくれたの。
ここは女神の居場所なのでしょうか?
君が心、蓋しく溶けとった、水に?
神聖の富士山下に身合した、綺麗な海。
光、風、波と流れて、他が為によさこいし。
絹帯のようしなやか、真珠の泡沫跳ね掛けた。
固めた彼が身、叩いて、彼が心、弄んだ。
君がいて下さって、彼が生きてくれて、
君を美しく、彼を元気に。
彼が心、浅くても、相応しくなくても、
海の奥に愛情が届けるよ。
石を穿ったり、土を濡らしたりすほど、
自由勝手手を広ごう、絶対離さずにいる。
バイオリン、三味線や琵琶が奏で始めた。海の女神を演じていた女達はバレリーナ達のように体を持ち上げた気がした。男達と女達が向かい合う二つの列で立った時、女達は男達を惚れさせるのに海の綺麗さを力とする女神らしく踊っていた。凡人を演じていた男達も女神を惹きつける為にあどけなそうに海のお土産を獲ったり、海に泳いだり、海を清めたりするらしく踊っていた。女神と凡人が互いの誠意が分かった時に愛を育てようとした背景に、女と男のメンバーが次々とペアを組み、浪漫的なワルツのような踊りを披露していた。その後、太鼓の音が鳴ってきて歌の旋律を変えちまった。
(女神と凡人、縁を結び、
許さざる愛、神様に響き、
怒りと一緒、兵団を集合、
二人が夢中のところ、海を制御、
糸が突如、切られてゆく。)
太鼓の鳴りから、三味線と琵琶が和音をディミニッシュに短くしちまって緊張で不安らしい雰囲気を引き起こした。その時、残りの十四人は黒雲の色の袴や赤い襷の格好で現れてきた。彼らがそれぞれのペアの手の繋がりを切っちまい、太鼓が鳴った度に相手から一人を引き隔てていた、あの方が手を伸ばそうと頑張っていても。
嵐よ嘆けよ、雷よ鼓を打てよ。
女神よ心、揺れるなんて簡単でしょう?
君に罰が如何程値されるか?
荒れよ、この波、凡人、念入りに見よ。
他所へと彼をずっと、押し流してゆく。
直の郷にても君が心、閉じ込まれていった。
波が巻き起こって、風が全てふらつかせて、
無力感が君を包み込んで、誰か分かれよか?
光の一線も残っていなかったその背景をこの歌は哀れっぽく映していた間、あの十四人は神様の兵団の恐ろしい力を派手に披露していた。荒波なら極めて大きい帯を引き、強風なら幟を素早く振った。やがて、海の女神と凡人を彼らは天下を滅茶苦茶にしていた自分の独自な演奏の中で未定へ気怠げに飛んでいくただの羽にしちまった。だが、あの二枚の羽は自分の運命をそのまま壊し終わって欲しくない為、立ち上がり必死に反抗したものだ。だからその時、太鼓のリズムがもっと速くなった。それに連れて、全ての楽器のリズムが音楽家達の動作を急がせた。
(女神よ、凡人よ、この決定的な瞬間、
自分の声、四肢、頭脳で握り掴めよ。
心を開いて、心を込めて戦おう。)
有限な人間でも、勝ち抜く、この残酷な崩壊を。
あの丘より、押送船を漕ぎ通すのなら、
水面叩いとるよ、櫂の音、希望を灯す。
心繋いで、周りの諸君助け合って、
弱き一人から今百人の素晴らしき力、
君に辿り着ける、この深情の荒波だから。
(よーし、あの凡人がお仲間を集めて、
この大恐慌と戦って群衆を率いとるんだ。
ところで、女神も如何なさっただろうか?)
この縄いくら縛っても、きっと解かれるよ。
櫂の漕ぐ度々、この底より声及ぼせば、
枯るまでしても、海を貫く巨大な力。
神様よご承認お願い、我が愛は世の無害、
親方の兵よ禁戒せず、この海を撤退、
深き心はもう波、己様を払い去ってゆく。
楽譜の調子がもっと劇的になり、踊り手達の動作も速くて強げになった。男達は群衆の力を借りて強がる本能で戦う凡人を演じに船のような隊形を作り、手に入れた偽の櫂を漕ぎ捲るような踊りをしていた。女達は神様の兵団に束縛されても立ち上がり戦う女神を演じにもっと体を柔軟に広くし、男達に背を向けて、敵を一掃するほど大きな波を無限な能力で生み出すような踊りをしていた。
(物凄いこの戦いが盛り上がった。
然し、空からの敵を掃討した女神の荒波は、
凡人の船を脅かす。船よ、耐ーえぞ。)
君よ鎮まり給え、彼の船の方が、
君の深情の荒波に突き当たってくる。
美しき思い出、どうか波を乗り越える。
両手に力を、櫂と船に硬さを、
汗も涙も血も海水に溶けたから、
よいしょ、よいしょ、よいしょ、
荒波もう足元に、君が愛も旅先に。
(果たして、この禁断の愛はもう禁断なく、
蓋しく空は遂に輝いただろうかもしれなく、
人間と海の愛は滅びられぬ愛と存在し、
偶に傷付け合いになったとしても、
ずっと胸の奥で荒れ出すぞ、深情荒波。)
この歌は遂に終わりに辿った。澁薙君が読んだそれぞれの詩文は単なる詩じゃなく、踊り手の全員もこの歌の物語の人物をも励ます言葉となった。女達と男達が段々距離を縮め、女神が出来た荒波をあの小さな船が乗り越えたという困難な背景に従ってその困難を再現していた。渡ったら人間と自然の無邪気な愛を妨げる何も残っていないこと。それで、神様の兵団を演じていた十四人があの24人と一緒に完結の踊りをしていた、最後の五つの詩文の下で。
この歌の初の詩から末の詩まで彼らは熱心に叫んでいて、まるで皆に気分を上げる信号を送っていたようだ。果たして、よさこいが元々持った賑やかな雰囲気そして早川さんのソプラノらしい声によって、全ての屋台組だけでなく観客も四肢をいらいらと動かしたがったし、盛り上がりに届いた時、この大きな敷地にいた誰でもあの演奏に揺らされないことはなかった。演奏が終わったとは皆の歓呼を受け取ったのよ。
「有難うございました、音楽部や舞踊部の皆さん、素晴らしいご演奏を披露してくれて」、純彦君が言った、盛り上がった声で。
「和風と洋風を組み合わせたこのよさこいの演奏は本当にこの夏祭りに初めの活躍を送ってくれたのです。次々の活躍を皆様に送る為に・・・」、私がそう言ったのちに、それぞれの屋台組にそう叫び出した。「物理———」、「算数———」、「ケミカル———」、「料理———」、「案内係———」、「そしてミュージック———」、「夏祭りを始めよう———」




