表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

フライ

作者: せとあきは

「Nさんがどこ行ったか知らない?」


 僕のその言葉を聞いた同級生は明らかに嫌そうな顔をした。


「知らないよ。あんな女に何の用があんの?」


「班ノートを回すのを忘れてたからね。あんまり僕の所で止めてると先生に怒られてしまうよ」


 僕のその言葉に納得した同級生は「あまり近づかない方が良いよ」という言葉を僕に残して帰ってしまった。


 Nさんの鞄はまだ机にあるから、きっと校内のどこかに居るのだろう。


 Nさんの評判は人によって違う。


 まるで人によって見える人が違うようだ。僕はあまりNさんと話したことがない。けれども、僕みたいな人にも話しかけてくれるから優しい人だという印象を持っていた。


 Nさんは学年の女子から避けられている。


 それは僕でもわかる空気だった。


 その理由を僕は知っている。


 だけど、みんな尾ひれの付いた噂を聞いて避けているのだと思う。


 そんな僕も本当のNさんを知らない。


 さて、Nさんはどこに行ったのだろうか。どうして今日は校舎に残っているのだろう? 帰宅部のはずなのに……。


 派手なNさんは目立つ。


 その雰囲気も噂に真実味を与えていた。


 班ノートの文章からも派手なNさんを垣間見ることができた。時々聞こえるNさんとその唯一の友達の会話もそれを裏付けていた。


 耳を疑うような金額を奢ったという話をしていたからだ。


 それが出来るNさんを羨ましいと思う僕もいた。それでも知られない方が良いといことの大切さをNさんを見て知ってしまった僕もいる。


 Nさんを校舎内で見つけることはできなかった。


 校舎に残っている同級生に尋ねてみたが、人によって違う反応を示したことが面白かった。ある人は気の毒そうな顔を僕に向けた。できれば話しかけたくない相手だからだろう。Nさんに関わるとろくなことがないという印象を持っているに違いない。


 それもそうだ。


 その事が恐ろしくない僕がおかしいのだ。


 結局の所、Nさんはグラウンドを見下ろすことができる場所に居た。


「こんな所に居たんですね」


「まだ帰ってなかったんだ。何の用?」


「ほら、班ノート回すの忘れていてね」


「そんなことで、ここまで私を探しに来たんだね。明日で良いのに」


「そういうわけにはいかないよ」


 遠くに野球部員がボールを打ち上げた姿が見えた。


 ゆっくり落ちてくるボールが時の流れを感じさせる。


「うちのお父さんのこと知ってるよね」


「そうだね。お父さんが同じ野球部だったらしいからね」


「まぁ、人生っていうのはわからないものだよね。僕が言うのもなんだけどさ」


 目の前に広がる野球場を走り抜けた二人の姿を思い描いた。


 その時の二人は未来の自分たちの姿を思いもしなかったことだろう。


「じゃあね、僕は帰るよ」


 HRを打って喜ぶ選手の姿がその時遠くに見えていた。


(了)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ