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5.君に決めた



「……これでめでたし、めでたしなんだけどね、一つ、困った問題が起こってね」

「はぁ」


 新しく淹れ直されたお茶を手に、とても疲れた気分の私は、適当に相槌を打った。


「私の婚約者の位置が空いたのを知った帝国が、皇帝の姪を紹介したいと言って来た」


 姪……? それはまさか……


(くだん)の、元王配候補の妹君だそうだ」


(あのロリコンの!)


 思わずお茶を吹き出しそうになるのを、長年培った『令嬢力』を最大限呼び起こして回避した。


「ちょ、ちょっと待ってください。こちらには、その兄君とあまりよろしくない御縁があった、元第一皇女殿下がいらっしゃるのですが……」

「あぁ、従姉妹同士だから、『夫が新しい妻を迎える事になった、傷心の姫君』の慰めにもなるだろうと推挙された」


 バカかー!

 自分を振った男の家族と話が合う訳ないだろーがー!


(もしかしたら、皇女が振られる以前は仲が良かったとかゆー話なのかなぁ……)


 それにしても……


「……何を考えているんでしょうか、あちらの国は」

「私もそう思うよ。だが国を介しての正式な申し込みだ。断るにはそれなりの理由がいる」


 めんどくさー……でもそういうものですよね。


「私ももう19歳だ。目ぼしい令嬢は結婚しているか、婚約者がいる」


 でしょうね……


「それを見透かした申し出だろうが…――私と皇帝の姪との間に子供が生まれたら、兄上の命が狙われるなんていうのは遠慮したい」

「……やはりそれが目的でしょうか?」


 うがった見方だが、何の意味もない訳はない。


「どうしても王国に帝国の血筋を入れたいのか、己の血を引いた王が生まれない国へ渡した鉱山が惜しくなったか、まぁ両国の友好というのも嘘ではないだろう。たくさんある可能性の一つだね」


(そっかー。鉱山はいつか取り返すつもりで渡したのかー。納得だわー)


 うーあー、どうにもこうにも血なまぐさい。

 ドロドロの小説を読むのは嫌いじゃないけど、リアルは遠慮したい。


 そもそも、自分の日常からは、これでもか!っていうくらい離れてる話を聞かされているのはなぜだろう、とふと思った。


(あれ……?)


 興味深い話だったので、ついつい聞き入ってしまったけど、何で私こんな所にいるんだっけ。


 初めて入った学園の貴賓室でお茶を飲み、向かいには、昨日まではとても遠い存在だった、第二王子殿下が、優雅に腰かけている。

 その整った顔に、魅惑的で麗しい笑顔を浮かべて……


 あまりにも現実味が薄い光景に、今更ながら違和感が仕事をしだした私を、なだめるような声が届く。


「私も努力しているんだよ。貴族院で、まだ婚約してない女性のリストをもらったりしてね」


 貴族は結婚だけでなく、婚約する際も、貴族院に届け出を出す。

 ぶっちゃけ、言った言わないのトラブル回避のためだ。


(つい先ほど破談となった私は、まだ婚約者のいない女性のリストに入ってない筈)


 いや入ってても、意味ないか。

 私、子爵令嬢だし。

 国を継がない第二王子とはいえ、王族と結婚できるの、せーぜー伯爵家までだし……と思って、一つ疑問がわいた。


「あの……失礼なことを伺ってしまいますが」

「どうぞ」


 殿下は鷹揚に頷き、私に先を促した。


「殿下は、いずれフォートナム公爵令嬢が……つまりご自分の婚約者が、いつかいなくなるのが分かっていましたよね?」


 王太子と結ばれるか、修道院へ入るか。

 いずれにせよ、セルリアン殿下の婚約者が、遠からずいなくなるのは、初めから決まっていた。


「その後は、どうされる予定だったのですか?」


 必要に駆られているからとはいえ、今結婚相手を探しているなら、生涯独身予定とかではないとは思う。

 殿下はあっさりと言った。


「ロードサイトに留学する予定だったんだよ」



 ロードサイトは、国全体で研究都市と呼ばれる、学問に特化した領域だ。


 元は、この世界で一番ポピュラーな宗教の総本山があった国だったが、周辺の国が強くなるにつれ、信仰心だけでは領土が守れなくなった。

 それならばいっそと、何代か前の国主が、国を永世中立地帯とする事を宣言した。

 宗教施設によって蓄積した、長年の知識を開放し、学びたい意志があるならどこの国の人間でも受け入れる事で、不可侵な存在として世界に認められた。


(あそこには、今も世界中の本が集まる……)


 我が国からも、何人か留学生が行っているが、それは国に貢献が認められた者か、自費だ。

 私は領地を継がねばならないから、文官への道は採れなかったし、勿論あの父が私の留学にお金を出す訳がない。

 前世も今世も、本が好きな自分には、決して手の届かない憧れの地だ。


「私は兄上に恩を売ったことで、父上を説得してもらって、ロードサイトへの留学許可を取った」


 まぁ、最大でも3、4年だと思うけどね、と殿下は笑った。

 王族は今少ないから、それなりに仕事があるだろう。

 むしろよく留学許可が下りたと思う。


「子供の頃から憧れていたんだ。過去の英知で埋め尽くされた、高い尖塔の都に」


 楽しそうな口調は、演技とは思えなかった。


(ただ、兄と、その婚約者に同情しただけじゃなかったんだなー)


 きちんと報酬を受けとったって事か。

 良かったね。羨ましいけどね――等と、のほほんと思った私の瞳を、殿下の碧い瞳がのぞきこんできた。


「……でね、君も行かない? ロードサイト」

「はあ?!」


 令嬢の仮面が、思わず外れた。


「君も婚約者がいなくなって自由の身、でしょう?」

「はぁ、おそらく」


 自由の身になるには、まだ色々と障害がありますが――とは言いづらい。


「学園はあと1年あるけど、君なら今すぐ卒業資格が取れるだろうし……3年連続『優秀賞』はあきらめてもらうしかないけど」


 申し訳なさそうに言う殿下。

 しかし問題はそこじゃなくない?


「ロードサイトへ行けるのは……正直嬉しいですが、なんで私が殿下と共に?」

「女性と婚前留学したっていえば、さすがの帝国も黙ると思わない?」


 いわば駆け落ち?

 それなら帝国への言い訳も……じゃない!


「婚前って……なぜ私と?!」

「なぜって、君しかいないから」


 何でもない事のように殿下はのたまった。



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― 新着の感想 ―
この話だけ読むと王太子と公爵令嬢ゲスすぎ、皇女可哀想すぎってなりました。
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