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【書籍化】クズの婚約者とはオサラバできそうですが、自分は自分で罠にはまってしまったかも?  作者: チョコころね


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28.私達が出会うまで(王国編21)


 この国の王太子妃が、腕を前で組んで堂々と立っていた。

 王太子の元婚約者の実家である、フォートナム公爵家の応接間で。


「……ここは王城でなく、フォートナム公爵邸ですが」


 何故貴女がいるのか? との問いに、ベアトリスは「あら?」っと首を傾げて、微笑んだ。


「私の方が殿下より、このお屋敷に詳しいかも知れなくてよ?」


 真偽はともかく、その内容に脱力する。

 セルリアンは額に手を当てうつむいた。


「ベアトリス様!」

「アリュシアーデ様、ごきげんよう。今日もお綺麗ですわね」

「まぁ……ベアトリス様こそ、いつもお美しい……」


 見なくても、アリュシアーデが嬉しそうに赤面しているのがよく分かる。

 セルリアンはテーブルに突っ伏したくなったが、現在の状況を思い出して踏みとどまった。

 顔を上げ立ち上がると、作法に(のっと)ってベアトリスに手を差し出し、優雅な仕草で空いているソファに導いた。

 彼女が腰掛けると、どこからかベアトリスの侍女『その2』が、なぜか公爵邸のメイドのお仕着せを着て現れ、お茶とお菓子を彼女の前に並べた。


(指摘したら負けな気がする)


 負けてもいいが、話が進まないと困る。

 セルリアンも再び腰掛け、ベアトリスがお茶を一口飲んだタイミングで声をかけた。


「なぜ、貴女がここにいらっしゃるのでしょう?」

「近い内にお会いしましょう、とアリュシアーデ様とお約束していましたので、本日お伺いしましたの」


 フフッと彼女が微笑むと、アリュシアーデがはにかむように頷いた。


「ただ、こちらへ参りましたら殿下がお先にいらしていたので、お待ちすることにしたのですが……隣室で、聞くともなしにお話を聞いていたら、あまりにも興味深いお話でしたので」


(隣室にいたんですか、貴女)


 この屋敷の壁は、隣室に声が漏れるほど薄いとは思えないんですが。

 そもそも王太子妃が、ひょいひょい王城を抜け出すことをどう思って……と、言いたいことは山ほどあったが、セルリアンは耐えて次の言葉を待った。


「子爵家は一人娘の筈なのに、二人の令嬢が活動していらっしゃるという……ねぇ、セルリアン様。これはミステリーですわ」

「みす……なんですか?」


 ベアトリスの王国語は完ぺきなのに、たまにおかしな言葉が出る。

 母国語ではないので、仕方ないのだろう。


「失礼、小説の謎解きのような物です。そういうお話は、一つ一つ整理していけば、真実が……答えが見つかる物です」

「そういうものでしょうか?」


 あまり物語や小説を読まないセルリアンに、ベアトリスは鷹揚に頷いた。


「そういうものです。いいですか? まず、式典の招待状です。これは、各家の当主とそのパートナーに送られています」

「はい」


 今回の式典では、各家2名までの招待状を送っている。

 招待状の宛名は、基本的には当主とその配偶者。配偶者が不在の家は娘、娘がいない場合は、跡取りの長男が呼ばれているはずである。


「オトネル子爵家は、ご当主と娘さんがいらっしゃっていたとのこと。奥様はどうされたのでしょうか?」


 これには、ベアトリスの前に、(うやうや)しく(ひざまず)いたラウルが答える。


「はい。オトネル子爵の前妻は四年前に他界しており、現在は後妻を迎えているようです」

「ではなぜ、その後妻が一緒じゃなかったのかしら?」

「おそらく貴族籍に入ったのが最近だったからだと。婚姻前は平民だったと思われます」

「成程。では招待状にはご当主と、お嬢様のお名前が書かれていたはずね」


 王室から貴族に送られる招待状は、その正統性が重視される。

 幾ら貴族籍に入ったとはいえ、数年前まで平民だった女性よりも、生まれた時から貴族籍に入っている跡継ぎがいれば扱いはその上になる。


「そして、招待状の宛名は絶対」


 王宮からの招待状に、名前のない人間を連れて行くのは決して許されない、禁断の行為だ。

 その昔、どこかの侯爵令息が招待状のない令嬢をパートナーとして連れて来て、その令嬢が王族に対し冗談では済まされない問題を起こし、厳格化された説が有力だ。


 勿論、同じ貴族といえど、互いに名前と顔が一致しない事は多い。

 不正が見つからない可能性もあるが、名前を偽ったことが後から明らかになり、家が潰される事態になるのは誰しも避けたいはずだ。


「ですから、式典にいらっしゃったお嬢様が、本物のオトネル子爵令嬢です」


 セルリアンは、ほっと胸をなでおろした。

 そうであれと願っていたが、王太子妃であり、誰しも有能と認めているベアトリスに断定されたのは格別だった。


「ベアトリス様、素晴らしいですわ!」

「ふふふ、アリュシアーデ様。ですが、まだ謎は残っておりましてよ」

「子爵令嬢として茶会に出席しているのは誰か、ですね」

「えぇ、大胆な女性ですこと」


 王太子妃の顔は微笑んでいたが、声には冷たいものが混じっていた。

『オトネル子爵令嬢』の評判を落としている相手に、セルリアンも穏やかではいられなかった。


「本当に、メイドではないかしら?」

「なぜ本物がいるのに、メイドを社交に出しているんだ?」

「そうよねぇ……でも本物の『クリスタ』様は、メイドの姿で町に降りていたとおっしゃってなかった?」

「それは面白いお話ですわね!」


 セルリアンが否定する前に、ベアトリスが食いついてしまった。

 ベアトリスが相手となると、ごまかすのも難しい。


「……直接話した訳ではないが、どうやら婚約者が不実な男で、その調査を出来る場所を探していたらしい」

「不実な婚約者⁉」

「まぁぁ、ご自分で⁉」


 高貴な女性二人の盛り上がりが凄い。

 こうなるからセルリアンは話したくなかったのだが、もう仕方ない。


「私の従者が、未成年では依頼を受けてもらえない旨を話して、帰っていただきました」

「驚きました……つまり、クリスタさんとお会いしていたのね、セルリアン様は」


 ベアトリスが納得したようにうなずいたが、セルリアンは否定した。


「一方的に見かけただけです。彼女は私を知りません」

「それで見初めたと!」

「違います!」

「あら、では何故調べさせたの? まさかあの式典でのお姿を、見初めたとは言わないわよね?」

「そうじゃないが……もうそれでいいよ」


 セルリアンは投げたが、残念ながら自分の周囲にいるのは、それを許してくれる淑女たちではなかった。

 結局幼い日の出会いから、現在の状況まで、セルリアンは二人に洗いざらい話す羽目になった。



…招待状のない人間に関しては、事件の再発防止の為、王城の入り口には『古の魔術のかかった鏡』が設置され、自身を偽った者はたちどころに何処いずこかへ連れ去られる説が、貴族の間にはまことしやかに広がっています。

…「王城の怪談」みたいなものですが、その『何処か』がどこか? 門衛室とか地下牢ならともかく、『古の魔術』という事から相当やばい場所に飛ばされるんじゃないかの怖れがアリ、自身で試そうとする者はまだ現れません。


※次回から単行本作業の為に、更新がしばらく滞ります<(_ _)>


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