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【書籍化】クズの婚約者とはオサラバできそうですが、自分は自分で罠にはまってしまったかも?  作者: チョコころね


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8.君に出会うまで(王国編1)

…王国編開始です。

…ゆるゆる更新です。



 ルコンテス王国の第二王子、セルリアン・ルコンテスは賢い子どもだった。

 母親譲りの美しい外見を、周囲が褒めるのをにこにこと笑顔で聞いていたが、内心は冷めていた。


 ――王子が顔なんか良くて、何の意味があるんだ。


 王女なら、利用価値は高いだろうが。

 実際、王女であれば……と、セルリアンを前にして口にする愚かな者もいた。

 まだ5歳の子どもと侮っているのだろうが、彼は決してその名と顔を忘れなかった。


 3つ年上の兄とは仲が良く、幼馴染で一つ年上の公爵令嬢アリュシアーデと、よく3人で一緒に遊んだ。

 アリュシアーデは昨年、兄の婚約者になった。

 それ自体は何も思わなかったが、兄は王太子としての仕事が始まり、アリュシアーデは王太子妃としての勉強が忙しくなり、あまり一緒にいられなくなったのを淋しく思った。


 彼にも兄に何かあった時の為に、王太子としての勉強が課せられていたが、優秀過ぎる頭はそれをものともせず、暇を持て余した。


 この日も、家庭教師の課題を片付けた彼は、図書室に向かう道の途中、窓から差し込む光があまりに眩しかったので、久しぶりに庭に出た。

 王城内には、幾つも庭があった。

 彼のいた場所から一番近いのは、王族専用の場所ではなかったので、後ろにいた侍従が少し躊躇したが、最近勉強ばかりの第二王子の息抜きになればと止めなかった。


 庭と言っても、どれも庭園と言ってよいほどの広さである。

 誰とも行き会う事もなく、整えられた緑と花に囲まれ彼らは散歩を楽しんだ。

 少し歩いた先に、東屋(ガゼボ)が見えた。


「あそこに、お茶を用意してくれるか?」


 のどが渇いたという主人の頼みに、従者も頷いた。

 先に東屋に向かった侍従の後から、セルリアンも歩き出した――が、その足が止まった。

 少し先の花壇が動いてる。

 

(猫でも入ったのか?)


 猫は以前にも、兄やアリュシアと遊んでいた時に見た事があった。


 郷愁にかられた彼は、侍従が側にいれば絶対に近づけなかった植え込みの中へ入って行った。

 動いていたのはやはり猫で、手を差し伸べたセルリアンを無視して、さっと歩いていく。

 思わずその後を追うと、嫌がったのか猫は小走りに木陰に消えた。


「あーあ……」


 息をはいて、元の道に戻ろうとした彼は、猫の消えた木陰に何かうずくまっている事に気づいた。

 一つは猫の影、もう一つも小さいが……


(子ども……?)


 王宮に住んでいる子どもは、王子二人だけだ。

 後は、通いで妃教育に来ている幼馴染(アリュシアーデ)

 あと、城に仕える女官や侍従職の中には、子どもを連れて来ている者もいると聞いたことがあったが、彼らは城の内側、王族の居住区には入れない筈だった。

 自分が、随分外側に来てしまった事を彼は知った。


 あわてて戻ろうととする彼の耳に


「ねこー」


 という嬉しそうな女の子の声が届いた。

 自分の時と違って、猫は女児の相手をしているらしい。

 少し悔しい思いと、やはり兄と幼馴染がいなくなった寂しさがあったのだろう。

 セルリアンは木陰に近づき、


「ねこ、好きなの?」


 と、ブラウンの髪の女児、自分より歳下であろう少女に話しかけていた。

 少女は顔を上げたが、セルリアンを見ても何の反応も示さず


「ねこ、だいしゅきー」


 と座ったまま笑った。

 自分を知らない相手が新鮮なのと、警戒するまでもない外見に気が緩んで、彼は木にもたれ立ったまま少女と話した。


「そう」

「ずっとずうーっと、だいしゅきなの」

「家で飼ってるの?」

「…んー、かってないかなー?」

「でもずーっと好きなの?」

「うん! ずーっとまえからしゅきー」


 要領を得ない言葉だったが、幼いからだろうと気にならなかった。


「ここには、お父上と来たの?」

「んーん、おかあしゃまとねー、おばーしゃま?おばしゃま?にあいにきたの」

「叔母上がここで働いているのか?」

「しょーかな?」


 少女の着ている服は、上等のシルクだった。

 城へ来るので、なるべくいい物を着せられたのだろうが、平民が持てる物ではない。

 同色のリボンで結ばれた髪も、つやつやしている。


(叔母上は上級女官か……それなら、ここはまだ城の内側かもしれないな)


 王や王妃に仕える女官は、全て貴族の子女だった。

 女官長や階級が上の方になると、自分の部屋や庭も持っている筈だ。


「お父上の名前は分かるかい?」

「んー、おとーしゃま、いない」

「そ、それは失礼した」

「いつも、おうちにいないの」

「あ……」

「おちごとで、いそがしー? の」

「……そうか」

「うん……」


 下を向いて猫をあやす、少女の顔は見えなかったが、声音から寂しさは伝わって来た。

 その時、遠くで自分を呼んでいる侍従の声が聞こえた。


「そろそろ失礼するよ」

「うん……いってらっしゃい」


 少女は、顔を上げなかった。

『いってらっしゃい』は、自分と父親が被ったのかもしれない。

 聞き分けの良さが切なかった。


 早く行かないと、侍従が来て、彼女が咎められるかもしれない。

 貴族と言っても、女官長でさえ伯爵家出身と言っていた。


(おそらくこの子は子爵か男爵家の子)


 つまり、もう会えないのは分かっていたが、尋ねた。


「君の、君の名前を教えてくれないか?」

「……くりしゅた!」


 顔を上げ、自分を見て微笑んだ少女の、優しい紅茶色の瞳を、セルリアンは記憶に焼き付けた。

 

 




…名乗ってない!自分は名乗ってないよー

…これだから王子様はねー(´▽`;)

(だから忘れられるんですよ…)


…5歳と3歳。

…猫を飼ってたのは、前世の方です。


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