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【書籍化】クズの婚約者とはオサラバできそうですが、自分は自分で罠にはまってしまったかも?  作者: チョコころね


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番外編:ベアトリス皇女は振り向かない 4



 皇女の花嫁行列は、何台もの馬車を連ねたものとなった。

 帝国の威信……に物申したい部分はあるが、お土産が増えるのはいいことか――とベアトリスは、べらべら建前を並び立てる、宰相以下のしたいままにさせた。


 もともと貴人の道行きであるので急がず、顔繋ぎも兼ねて、途中何度かその土地の領主館に泊まる予定であったが、必要とされる馬の維持の為にも補給地点での休息は、必要不可欠な事になった。


 顔繋ぎと言っても、領主はベアトリスに、直接拝謁できる訳ではない。

 ベアトリスは馬車の乗降時も、レース付きの帽子で顔を隠す。

 手に入れるのは、『皇室の方を御泊め出来るほどの家柄』を誇る事が出来るという、名誉のみだ。


(旅の将軍や大名を泊める、『本陣』みたいなもんか)


 江戸時代、本陣になると『苗字帯刀』を許され、町民でも家柄を誇る事が出来るけど、歓待にお金がかかって没落した家もあったらしい。

 そんな話を思い出しつつ、毎度、お金のかかった調度や、並び供される料理を見るにつけ……


(あの、大半が手を付けられなかった料理群……この後、誰かが食べるよね!? 捨ててないって誰か私に教えて……!)


 庶民マインドが悲鳴を上げる、ベアトリスである。





 王国に入って二日目。

 その日も、屋敷の一番良い部屋を提供され、優雅に過ごしている筈の皇女様は…… 


「……く、体を鍛えておいて、良かったわ」

「おうじょ、モウすこシヨ」


 ドレスを脱ぎ捨て、一番身軽な乗馬服状態になり、森の中をぜーはー息を吐き歩いていた。


(危険だからと馬に乗せてもらえないのに、乗馬服を作らせておいた甲斐があった……なぁぁ)


 道なき道を行くのは、枝を杖代わりにしたベアトリスと、枝に釣り下がって余裕をにじませるリカの主従であった。


 その日は「疲れたから……」と告げ、早めに部屋にこもったベアトリスは、夕闇の中、密かに領主館を抜け出していた。


 貴賓室の寝台の上は、布を重ねて丸め、上掛けで覆った。

 ベアトリスに近づける側仕えはマリオン一人と、取り決めてはいるが、何があるか分からない。

 少しでも早く、戻る必要があった。


 この2年、ベアトリスは時間を見つけては庭に出て日を浴び、部屋の中を歩き回って体力をつけてきた。


(元が、扇子より重い物を持たない皇女生活だったから、たかが知れてるけど)


 適当な置き物をダンベル代わりにして、筋力も多少は付けた。

 一度花瓶を使ったら、落として割ってしまい、また皇女様が荒れているって噂が流れ、それ以降女神をかたどった小さいブロンズ像を使っていた。


(振り回している事もアレだけど、落としたら良くない事が起こりそう……で、緊張感は増したわね)


 手にしっくり馴染んだソレは、なぜか嫁入り道具にも入っている。


 

 幾ら体を鍛えたからと言って、ベアトリスがこんな無茶な真似をしているのは、アリュシアーデとの『秘密会見』の為だった。


 花嫁行列が王国領内で泊まる場所を、事前に手に入れたベアトリスは、この近くで会えそうな場所があれば指定してくれと、リカを介してアリュシアーデに頼んだ。

 事前に下調べをしたリカの話では、()()()()()()()()、夜明け前に行って戻って来られるとの事だった。


(それにしても、月の光ってこんなに明るいものなのね……) 


 森の中に街灯がある訳もなく、木々の間を差し込む月明かりがなければ、リカはともかく、ベアトリスには無理な道行きだったろう。




「べ、ベアトリス皇女殿下……?」

「はい……」


 約束の場所に『窓から』現れた、ぐたっと疲れた感じを漂わせる深紅の髪の女に、公爵令嬢は初め、怯えたように身を引いた。

 だが、すぐに後ろから、顔見知りの間者が手をひらひらさせて入ってきたので、アリュシアーデはほっとし、あわててベアトリスの手を取り、席へ案内した。


「ここは、親戚の別荘なんです。今は王都にいたくないと言ったら、二つ返事で貸していただけて……」


 フォートナム公爵令嬢アリュシアーデが、今この時期、王都にいたくない理由は、この国の上位貴族の大半が知っている。

 その理由であるところのベアトリスは、元気ならここで土下座しかねなかったので、己がドロドロに疲れている事に感謝した。




 今更とは思ったが、衣服を払い、軽く身支度を整えると、ベアトリスはキリっと威儀を正した。


「会っていただけて、本当に感謝しております」


 そのまま胸に手を当て頭を傾げると、恐縮したようにアリュシアーデが口を開く。


「いえ、私こそ……直前まで、本当にいらっしゃるとは、と……」


(そりゃそーですよね~)


 おたくの国の王家に嫁ぐ途中の、隣の帝国の皇女が、こんな時間にこんな場所にいるというのは、めっちゃ非常識ですよねー。分かります。


 自己弁護できない状況なので、ベアトリスは悠然と微笑んだ(わらってごまかした)


「驚かせてしまったお詫びは幾重にも……ですが今は、時間がありませんので、早速本題に入らせていただきます」

「は、はい」

「数日後、私はこの国の王太子殿下に嫁ぎますが、白い結婚に徹させていただきます」


 ずばっと告げられた際どい言葉に、アリュシアーデの、整った白皙の(おもて)が、気づかわしげにしかめられた。


「……もしかしたら、()()はそういう意味なのでは、ないかとは思ったのですが」

「はい。これは、アリュシアーデ様から、殿下にお渡ししていただいた手紙にも記しました」


 アリュシアーデの困惑に、ベアトリスは構わなかった。


(時間が、時間がないのだよ……!)


「異論なき場合は、返事は不要としました。返信はいただいてませんので、殿下にも異議はないと思います」

「ですが、ベアトリス様!」

王国(こちら)の王室典範により、王位継承者に限り、妃が一年不妊の場合は側妃を迎えることが認められております」


 典範で定めているなんて、本当に文明的だわ……と、ベアトリスは思う。

 自国の皇室はそんな取り決めすらなく、妃を娶る事にも、倫理の『り』の字もない。


(何人娶ろうとも、誰を娶ろうとも、どんな状況下であろうとも、問題も、節操もないな)


 それが今まで帝国を、大国にしてきた基礎の一環である事は、ベアトリスも認めていた。

 跡継ぎがいなくても、跡継ぎに問題があっても、国は滅ぶのである。


 帝国は、今まで()()()()()()で命を永らえたことが、何度もあった。

 国内で争う事の無いように、妃はそれぞれの派閥から取り、貴族の権力を分散させ、王権の一極集中を徹底させた。

 その結果が、今のように『皇帝の血』の神聖化につながってしまったのは、如何ともし難いが。

 おかげで、ベアトリスが助かった部分もあった。




…ベアトリスはファーストガンダムを再放送で見た世代です。

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