スキル名:元気 詳細:元気もりもり!!!
初投稿です。よろしくお願いします。
スキル名:元気
詳細:元気もりもり!!!
「いくら疲れてたからって、これはないわー」
職場である市役所からの帰り道。私は手元の書類を見ながらため息をついた。
私は鈴木麻衣。よくある名字によくある名前。最近アラサーからアラフォーにランクアップした、ごくごく平凡なおばちゃんだ。
お話の中にしかなかったダンジョンや魔物が突如出現し、同時に『スキル持ち』と呼ばれる人間が現れてから早数年。若いころにファンタジー小説を読み漁っていた私は、年甲斐もなく「勇者とか魔法使いとかに選ばれたらどうしよう!」なんて心の中ではしゃいでいたんだけど……現実はこれだよ。
スキルを得るパターンはいろいろとあるらしいけど、私の場合は夢でいくつかのスキルから欲しいものを選ぶというものだった。今ならもっと別のものを選ぶんだけど、当時は年度末。ただでさえ忙しい上に、同僚が何人も感染症で休んでいたので、それはもう酷かった。今思い出してもぞっとする。
積み上がる書類!
終わらない残業!
スペックの低いパソコン!
腰痛肩こり眼精疲労!
そんな状況だったので、『魔法使い』とか『錬金術師』とかファンタジー全開のスキルをスルーして、そのとき一番ほしかった『元気』なんてものを選んでしまった。選んだというか、夢の中で「どうせスキルなんて貰っても、経費節約のために魔法で電気つけてとか、人手が足りないから錬金術で栄養ドリンク作って残業してとか言われて仕事増やされるだけじゃん! やだ! 無理! もう頑張れない! 元気が欲しい!!! 元気があれば何でもできるって凄いプロレスラーが言ってた!!!」と、みっともなくギャン泣きをした結果、ドン引きした神様(多分)が、元気をくれた。元気ってスキルなんだ。スキルの影響か、寝起きは良かったけど、何をやらかしたのかを理解して血の気が引いた。
「元気が欲しいって言ったのは私だけど、詳細の元気もりもりって何? 元気もりもりだよ、元気もりもり。ねえ神様、詳細って意味ご存じ?」
帰宅してあとは寝るだけの状態になり、ベッドの中でぶつぶつと呟く。スキルを得てから、それなりに元気にはなった。でも、もりもりというほど元気かと言われると疑問が残る。
年相応に元気になるくらいなら、魔法使いになりたかったなあ……なんて思っていると、頭の中に声が響いた。
『規定数キーワードを唱えたので、スキルレベルが上がりました』
「…………は?」
キーワードって何ですか。そんなものを唱えた覚えはない。もしかして『元気もりもり』か!? ダサすぎてほぼ口に出してなかったけど、キーワードだったのこれ。
それより、スキルレベルが上がった? 魔物を倒したり、スキルを使ったりしてないのに?
「ステータスオープン!」
思わず叫ぶと、目の前に半透明の板――いわゆるステータス画面が現れる。これは、スキルの種類に関係なく、スキル持ちなら誰でも使える魔法のようなものらしい。便利なんだけど、ある程度の声量で唱えないと出てこないんだよね。おばちゃんにはちょっと恥ずかしい。あと20歳若ければノリノリで言ってたのに。あっでも中高生のころにスキルがもらえるってなったら黒魔術師とか†堕天使†になるとか言い出すだろうから、やっぱ今のままでいいです。
若いころの痛々しい言動を思い出して悶えていると、ステータス画面が無視するなとばかりに派手に点滅しだす。なにその機能。ステータス画面に自我があるなんて聞いたことないんだけど。
ステータス画面に放置してごめんと謝ってから操作をすると、スキル名と詳細の下に新たな文字が加わっていた。
レベル1
呪文:めっちゃ元気!
効果:めっちゃ元気になる。
「めっちゃ元気!? めっちゃアバウト!」
もういやだこのスキル意味が分からない。こういうときは寝るに限る。お休み!
ぎゅっと目をつぶると、ふっと体から何かが抜けたような気がした。魔法を使うと体内の魔力が減ると聞いたことがあるけど、それだろうか。そういえば、さっき「めっちゃ元気!?」なんて叫んだけど、あれで呪文を唱えた扱いになっちゃうんだ。やっぱりこのスキル意味が分からない。
「うわめっちゃ元気になってる! たしかにこれめっちゃ元気だ!」
朝起きると、腰痛肩こり眼精疲労が綺麗に解消されていた。ここ数年、常にうっすらと感じていただるさもない。今なら、小学生に交じって昼休み中ずっと鬼ごっこができる気がする。神様ありがとう最高のスキルです。めっちゃ元気、めっちゃ最高!
私はすっかり浮かれていた。わざわざレベル1と表記されるのなら、それ以上もあるということに気付かずに……
「確かに『元気があれば何でもできる』とは言ったけど、ものには限度ってものがあるんですよ神様!!! なんっで私が勇者兼聖女兼魔法使い兼錬金術師みたいなことになってるんですか!!!」
数年後、異世界から侵略しに来た魔王の首を手にして空に叫ぶことになるなんて、今の私には想像もつかないのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
評価を入れてくださると嬉しいです。
心身ともに元気って最強では? と思いながら書きました。