1-1別れ
約束を守ったことはありますか?
さざ波の音。おぼろげに映る水平線の向こう側に僕たちの目は釘付けだった。
夕日が海水に映り込み、規則的に足を濡らしている。小さくて柔らかな手が僕を包み込んで、脈が少しはやくなっていると感じた。
「ねぇ大きくなったら私たち結婚しようね」
「うん…」
心臓の音は早くなり続け、時間の流れがとても遅く感じた。この時間が永遠に、この時間で止まってしまえば良い、と強く願っていた。
ただひたすらに海を見つめる少女に僕は目が離せなかった。風でなびく髪と瞳に移る夕焼けに吸い込まれ、僕はまたいつもと同じ天井を見つめていた。
「もう10年か」
最後に顔を合わせたのは葬式だった。彼女の顔に生気はなくこの世にはいないということを強く実感させられた。お経が唱えられている中何も考えることができなかった。淡々と過ぎていく時間の中で思い出す風景はいつも同じあの海での出来事だ。子供の口約束だった。数年すれば忘れてもいいほどにその一瞬の感情に任せた出来事だった。でも泣いていた。声は出ていなった気がする。あの頃見ていた水平線の向こう側のように視界はぼやけていた。
「弔辞。友人代表、綾瀬晴様よろしくお願いいたします。」
喋れるだろうか。大丈夫。何度も文を確認して読み直したじゃないか。きっと何とかなる。
「あれ?なんで…」
涙が止まらなかった。そうか僕はいつまでたっても彩の事が忘れられてなかったんだ。ずっと好きだったんだ。
結局泣き止むまでに5分ほどかかったが、なんとか読み切ることができた。
「晴君、友人代表の弔辞読んでくれてありがとう。あの子死ぬ前もこれは晴に読んでほしいって言ってたもの。きっとあの子も喜んでるわ。本当にありがとう。」
「頭を上げて下さい矢崎さん。僕の方こそありがとうございます。本番はダメダメでしたけど、彩の頼みですから…」
深々と頭を下げる彩のご家族はにこやかで、彩がいつも見せていた笑顔とよく似ていた。
「今日この後ご飯を食べていくかい?」
「いえ、明日も仕事がありますし僕はこれで失礼させていただきます。」
「そう。今日は本当に来てくれてありがとうね。またお礼させてちょうだい。」
「お礼だなんて、とんでもないです。ではこれで。」
ご家族との会話を終えたのち僕は足早に車に向かい、自宅へと向かった。
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