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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終わりに訪れる厄災

作者: 城河 ゆう

ある程度マイルドな書き方はしてますが、途中になかなかスプラッターな描写がございます。

苦手な方はご注意くださいませ。

 午前二時。

 電気の明かりを消した暗い室内を照らすのは、部屋の中心に立てられた1本の蝋燭のみ。


 その蝋燭を囲むように、車座に座った男女の内一人が蝋燭の乗った受け皿に手を伸ばし、自分の前に引き寄せた。


 淡い光がゆらゆらと頼りなく、彼等の顔を照らす。


 一様に不安と好奇心が入り雑じった様な表情を浮かべる彼等の周りには、すでに灯の消えた大量の蝋燭が無作為に置かれていた。



 この場所で何が行われているのか。



 それを見た者の疑問に答えるかのように、先程蝋燭を引き寄せた女性が、殊更(ことさら)に穏やかな口調で話し始めるのだった――













 百物語も終盤。


 ――と言うか、次がとうとう百話目ね。


 あなた達は、もう同じ数ずつ話したんだから、私も1つくらい話したいわ。



 だから、最後の1つは私の番。



 ねぇ?



 みんなは“死者に引っ張られる”って言葉を聞いた事がある?


 ほら、身内や近所で亡くなった人が出ると、その後しばらく、周りで不幸ごとが続いたりするアレ。


 まぁ、科学的根拠がある訳じゃないから、偶然と言われたらそれまでなんだろうけど、世の中には、偶然では片付けられないような物もあるって、知ってた?




 これは、実際にあった話なんだけど……




 長野県のとある町から、車で1時間程の山奥に、100人程度が暮らす小さな集落があってね。


 その村では、昔から、こんな言い伝えがあるらしいのよ。



 “お通夜やお葬式の帰りに、神凪(かむなぎ)峠を通ってはならぬ。 死んだ者の魂に引かれ、血縁者とその伴侶が黄泉の国へと連れて行かれる。 だから必ず麻笊(まざる)峠を通りなさい”



 って言う、言い伝え。


 あ、ちなみに、神凪峠って言うのは、この村と、山の麓の町の間にある峠道の事なんだけどね……


 昔はもう1つの、麻笊峠しか無かったんだけど、町とは反対方向に進んでから、グルっと回り込むような、かなり遠回りの道で、すごく不便だから、って町から直線で結べる神凪山にトンネルを掘って峠道にしたんだって。


 道としては、どっちの側から行っても、最初にしばらくグネグネした山道があった後に、20mくらいのトンネルを抜けて、山肌に沿ってちょっと進んだ後、大きな谷を渡って――って感じ。


 ちょうどトンネルとトンネルの間の谷を含めた部分が、“神凪山”って呼ばれてる部分ね。


 え?


 それで、その山がどうしたのかって?


 まぁ、まぁ、そんなに結論を急がなくても、順に話すから。


 えっと……どこまで話したっけ……


 あ、そうそう、それで、その言い伝えがある村でね、1人のお婆ちゃんが亡くなったの。


 小さい村だから、村の集会所みたいな所にみんなが集まって、お通夜やお葬式なんかを行うんだけど。


 そこに、亡くなったお婆ちゃんの次男も、奥さんや、当時まだ高校生だった娘と一緒に参列したの。


 村に住んでいる長男一家と違って、次男一家は、県外で離れて暮らしていて、年に1~2回、お盆や正月に会うくらいだったけど、次男の娘はお婆ちゃんっ子だったから、亡くなったって連絡が来た時に、自分もお別れが言いに行きたかったのよ。


 それで、お葬式が終わって、村の人達はそのまま、お酒を飲んだりして騒ぎ始めた。


 次男一家も、しばらくは昔話なんかに花を咲かせて楽しんでいたんだけど、娘が翌日学校だからと、宴会への参加は程々に、その日の内に帰ることにしたんだけど――


 気を付けて帰れよー。


 また来いよー。


 だなんて見送られながら、車に乗り込んで、エンジンをかけたタイミングで、村長をしているお爺さんが駆け寄ってきたの。


 そして、運転席の窓を開けた次男に向かって、最初に言った“村の言い伝え”を、しつこいくらい念押ししてから、集会所の中へと戻って行ったわ。


 次男は、そのまま車を発進させると、村から少し行った所の分かれ道に差し掛かった所で、一度停車して道の確認をしたの。


 左に行けば麻笊(まざる)峠。


 右に行けば神凪(かんなぎ)峠。


 出発前に聞かされた言い伝えを守るなら、左に行くべきだったのに、次男は、助手席に座る妻と、後部座席にいる娘の疲れた表情を見て、少しでも早く帰ろうと、右に進んでしまったの。



 それでも、しばらくは何も起こらなかったわ。



 うつらうつらと、舟をこぎ始めた娘が、『こっちの道でよかったの?』『あんなの、ただの言い伝えだからね』と話す両親の会話を、ぼんやりと聞いていたくらい。


 でも、1つ目のトンネルを抜けて“神凪山”に入った時に、最初の異変が起こったわ。


 娘がその異変に気付けたのは、父親が呟いた『なんだあれ?』って言葉が聞こえたから。


 それを聞いて、眠い目を擦りながら前を覗き込み、フロントガラスの向こうで、ヘッドライトに照らされた先を見ると、大きな鹿が、道を塞ぐように佇んでいたの。


 ただ、不思議に思ったのは、鹿が居ること自体ではなく、その大きさ。


 ワンボックスカーの、乗用車より高いはずの目線より、さらに少し高い位置にある二つの目。


 まるで大樹の枝を彷彿とさせる、幾重にも枝分かれした立派な角。


 スピードを落とした車が近づいても、逃げる素振りも見せず、じっとこちらを見下ろすように見つめ続ける、山の主と見紛う程の大鹿。


 結局、そのまま轢くわけにもいかず、少し手前で車を止めた父親が、クラクションを鳴らしたりしながら追い払おうとするが、大鹿は微動だにしない。


 仕方ない、と車から降りる素振りでも見せようかと、ドアに手を掛けようとした瞬間。



『うわぁぁあ!』



 大きな声をあげながら、父親は助手席の妻の方へと、のけ反るようにドアから距離を取ったわ。


 妻と娘が、慌てて窓の外を見ると、その視線の先には、大量の赤い目が暗闇に浮かんでいたの。


 目を凝らして見れば、数えきれない程の猿に取り囲まれてることが分かったわ。


 さすがに気味が悪くなって、ぶつかるのも覚悟で車を進めたら、大鹿はじっと見つめていた視線を反らし、山の中へと消えていった。


 もしも、あそこで引き返していれば、この後の悲劇は回避できたのかも知れないけど、父親はそのまま車を進めていき、ついには“あの事故”が起こった谷まで、たどり着いてしまったの。


 V字に切り抜かれたようなその谷は幅も広く、金属製の長い橋が掛けられていたわ。


 直線で、且つ視界が開けたことで、僅かに速度を上げた車が、橋の中腹に差し掛かった辺りで、再び異変が起こる。


 しかも、今度は車内に。


 急に父親が苦しみ始めたかと思うと、突然体を捻り、両手で自分の妻の首を絞め始めたの。


『お父さん! なにしてるの!?』


 ――と娘が上げた、悲鳴のような叫び声に、父親がグルリと首を回す。


 でも、その娘の方に向けられた父親の顔は、とても普段の温厚な父とは思えない程――


 真っ赤に血走った目と口元から溢れだすヨダレによって、醜く歪んでいたわ。



 そう。



 それはまるで、父親の皮を被った――



 ――ば け も の――



 そう思うのと同時に、『ひっ!』と短く悲鳴を上げた娘を、じっと見つめた父親が、直後、娘も聞きなれたお婆ちゃんの声(・・・・・・・)で――







『オぉぉマエはぁぁぁチガぁぁぁぁぁぁう!』






 あ、ごめんごめん。


 ビックリした?


 え?


 その後?


 その後の事は、ニュースになって、新聞にも載ったんだけど、コントロールを失った車が、橋の欄干を突き破って谷底に落下。


 新聞にはそこまで詳細が書かれてなかったけど、車はぺしゃんこになって、父親と母親は原型も分からない程の肉片になっていたらしいわ。



 ――ただね。



 その車に乗っていたもう一人――『お前は違う』って言われた娘だけは、意識は無かったものの、奇跡的に身体が無事だったの。


 それも、何十メートルも落下して、人間が肉片に変わるほどシェイクされたはずの車内で、両親だったモノにまみれながら、わずかな擦り傷や打撲以外に、目立った外傷も無かったらしいわ。



 え?



 なんで娘だけ無事だったか?



 実は、娘の両親は再婚でね、母の連れ子だったのよ。

 だから、その時に亡くなったお婆ちゃんと、血の繋がりは無かったの。

 つまり、言い伝えにあった、“血縁者とその伴侶”から外れてしまったのね。



 え?



 娘だけでも助かってよかった?



 それは、どうかしらね……



 もしかしたら、その娘は、黄泉の世界に連れて行って貰えなかっただけで……



 もう既に、人間じゃなくなっちゃってるのかも知れないわよ?









 ウフフ……











 アハ……













 アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――

















『臨時ニュースです。 本日未明、◯◯市△△の民家で火事があり、駆け付けた消防により、火は30分程で消し止められました。 火元と思われる一室では、大量の蝋燭と、男女合わせて9人の焼死体が見つかっており、警察では身元の確認と、火事の原因究明を急いでいます』

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[良い点] 怪現象を起こさないために9x11の99話で止めたのに、1話持ってきた怪現象の権化がいる… 恐怖感が百物語の語りの中から抜け出して現在に引き継がれる感じが非常に楽しめました☆5&イイネ […
[良い点] ∀・)怪談調だけどホラーな話でした。伝承話っていうところを絡めているだけにヘレディタリーを思いだしていたりしましたが、その悍ましさと匹敵するところとかありました(笑)でもこのネタでしっかり…
[良い点] 「ハ」の量が視覚的に凄いです。 『一面の菜の花』を連想させますね。 この効果、かなり大きいと思います。 [一言] 幕田卓馬さんのレビューのとおり、読み返しました。(笑)
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