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三題噺もどき2

自己中二人

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくはちじゅういち。

 


 日中とは思えないほどに、暗闇に包まれた部屋がある。

 ピタリと閉じられたカーテンは、外の光が室内に入ることを良しとせず、無情なまでに侵入を拒む。

 備え付けられているはずのライトは、ボタン一つで灯りをもたらすことができるのに、なぜかその仕事を放棄し、根元から外されて床に転がっている。

「……」

 ―まぁ、ここは自分の部屋だし。

 カーテンは遮光だから、光を入れないのは当たり前だし。

 電気は……何で外れているんだ……?

 ん…あぁ、思いだした。昨日帰ってからやけくそで外したのだ。なんで?

 雑に放り投げた気がしたが、その割にはパッと見欠けたりしていなさそうでよかった。

「……」

 一応、賃貸だからな。

 あれも確か、入居時の備え付けのやつだったはずだ。壊すと何があるかわかったもんじゃない。

 無駄な浪費は避けなくては。

「……」

 もう……。

 な。

 ホントに。

 無駄な浪費はよくない。

 金も時間も。

 自分の浪費も。

 そんなことしたところで、何もかもが無駄だと気づいて、途方に暮れるだけだ。

「……」

 ……やばい。

 思いだしただけで、鼻の奥が痛くなってきた。目の奥が熱くなってくるのが分かる。

 ここまで脆いつもりはなかったんだがなぁ。相当こたえたのだろうか。

 最近で泣いたのなんて、カレーの玉ねぎを切った時ぐらいだ。

 ザクザク切ってたら、ツーンとして涙があふれてくる。あれはいつも不思議だよなぁ。玉ねぎってあんなにおいしいのに、あの現象のせいで、少々抵抗が生まれるよな。

 対策があるらしいが、興味はない。

「……」

 ふ。

 少し落ち着いた。

 玉ねぎ万歳。

 今度買いに行くとしよう。玉ねぎが丸ごと入ったポトフとか作ろう。

 切るのはほら、泣きたくなってしまうから。

「……」

 若干ぼんやりし始めていた視界の端に、光るものが飛び込んできた。

 お気に入りのキーホルダーがついた、スマートフォンだ。昨日適当に投げた。

 音はしていないが、うっすらと見える画面を見る限り、電話だろう。

 無料連絡ツールのやつ。緑のアイコンのやつといった方が伝わるのだろうか。

「……」

 まぁ、出る気はないし。

 正直動くことすらも面倒なので、手に取ろうとは思はない。

 ―あぁ、ちなみに。今はベットの上にうつぶせになって、顔だけ横を向けている。下にしていると、息がしづらいからな。

 まぁ、いっそそのまま呼吸困難にでもなればとは、思わなくもないが。


「……」

 大方、職場からの電話だろう。

 そういえば、今日は出勤日だった。

 昨日の今日で、よく電話してくるなぁ……その勇気とめんどくささには尊敬する。見習おうとは思わないが。

 そっちが、捨ててきたくせに、辞められるのは困るとか。出勤してこないのはおかしいとか。そんなことをぬかすんだろうな。

「……」

 自分のエゴだけ押し付けて、こっちのことは見やしない。目を向けることもしない。

 ひたすらに、エゴ、エゴ、エゴ。

 そんな面倒な人だとは思っていなかった。

 まぁ。そうそうに辞められても困るんだろう。だから押さえていたんだろうか。

 被っていた猫を捨てた途端。

 あれだ。

「……」

 あぁ、きっとこの人は、他人に自分の爪跡をつけることを厭わない人なんだなと思った。気づかない人なんだと思った。何が原因かもわからないんだろうなと思った。どれだけその爪跡が深かろうと、気づきもしないし気にもしないし挙句の果てにはさらに塩を塗り込むような人なんだと思った。

 自分のことを、自分のエゴを、自身の保身を。

 何よりも大切にして、それ以外はどうでもいいし、関係ないし、自業自得だと切り捨てるような人なんだろうなと。

「……」

 他人の痛みを知らない。

 だから今もこうして、身の安全だけの為に連絡してくる。

 今まであの人に当たった人は、どうしていたんだろう。耐えたのかな。きっと強い人ばっかりだったんだろうな。それともあれが当たり前なのかな。

 だからあの人も当たり前に、こうしてきているんだろうか。

「……」

 残念ながら、そんなに強くはないし。

 そんな当たり前なんて知らないし。

 ……もしかしたら、同じような人が大量にいたのかもしれないけど。そのことすら忘れているのかもしれないな、あの人は。

 誰も教えてくれなかったんだろうか……人生イージーモードでお気楽なことで。

「……」

 ぐるぐると考えている今も、スマホはずっと通話画面を示している。

 いい加減諦めて欲しいものだ……こっちはもう関わらないと言ったじゃないか。

 お前が関わるなといっただろうに……なんなんだ。めんどくさい彼女か。

 そんなに、いなくてもいいと言ったやつに執着しないで、今目の前のことを考えたらいいのに……考えた結果がコレか?

 今までの人は、この猛攻に折れたのかな……。

 それとも、時間が経てば、治まるのかコレ。

「……」

 うるさいなぁ……。

 視界の端で、チラチラと……。

 動くの面倒だから、頭を動かすことも面倒なんだが。

 ……あ。

「……」

 止まった。

 いえーい。粘り勝ち。

 こんな奴に時間を使うべきでないと気づいたか、まさかただの一時休戦とかではないだろうな……。またかかってきたら最悪スマホ捨てよう。

「……」

 まぁ、ここでこうして。

 現実から目をそらしているのは、私のエゴだし。

 そのせいで、アイツ以外の善良(多分)な人に迷惑をかけるのは申し訳ないが。

 許してくれるだろう……きっと。

 そう思っていたいのも、私のエゴか。




 お題:爪跡・エゴ・玉ねぎ

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