森を抜けた橋の街
今まで通ってきた里から抜けて『向こう岸』は、ほぼ森が占めている島々。
森を抜けて、ウィーザードボードで人里を目指す。
僕たちの住んでいる場所は、案外とその目的地に近い場所に位置する。
島ひとつ越えると到着するから、まだ近い方だ。
四方八方の小島から小島に馬車で行き来ができるように橋が集められたひとつの島。
それが今回の目的地である『ヴィクトリア』。
遠目に立派で荘厳な石橋を湖に平行して見つける。
あれが一番大きな橋。
あの巨大な橋を渡ったら、次の目的地への島に繋がっている。
そちらはもう『保護区』じゃない。
つまり僕たちは、国の保護区に住んでいる特殊人種だ。
保護区の島々たちは皆、各々橋でつながっている。
そしてそれを全部管理しているのが『管理塔都ヴィクトリア』。
ヴィクトリアの住人は、ほぼ職員とその家族か身内。
基本的に彼らの住む環境をそろえている場所で、僕たちにとっては関所でもある。
正直、ヴィクトリアに行くのは特別なこと。
いい意味で緊張している自分に気づく。
それはアデルもらしかった。
空は快晴。
ヴィクトリアには教会もあって、そちらに寄ってみる。
多分報告は来てるんだろうな、と思っていた。
灰色の壁の教会に入り、神父をたずねる。
すると、「君たちか」と嬉しそうに壮年の神父が出迎えてくれた。
「天啓がありました」
「ああ、わたしにも来た。お茶を出そう。呼ばれなさい」
「ありがたい」
「あの~、ラテって言うやつ知ってます?」
「なんだろう、人探しかい?」
「いいです、いいです。本筋の話ではないです」
この教会は石英の砂が混じった岩を切り出して造られたもの。
『珪砂:けいしゃ』って言うらしいけど、砂みたいな欠片が日の光に反射する。
それを綺麗だなぁ、と前に来た時にも思ったことを思い出した。
祈りの間には石英がはえている部分が時折混じっている。
神父はすもものお茶を出してくれて、初めて飲んで感動したあと祈り場へ。
そこで「父が置いて行った」と言われる『英雄の剣』を見た。
奉納されて眠っているその剣について、神父が言った。
「これは今から、君のものになるんだよ、カイ」
「父が言っていた。見聞の旅に出るならこの教会で剣をもらいなさい、って」
「なるほど・・・」
「ん?」
「いや、いい。まだ剣は眠っている。手に取ってみなさい」
柄をにぎり、手元へ。
そして剣の刃に映る自分と視線があって、少し動かすと光にその画は消えた。
神父が言う。
「君のお父さんからの伝言だ。リオナルドミオ王国に向かいながら見聞しなさい、と」
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カイト・オン・ジョニエル。
それが僕、カイ・ラヴィンガーデンの父にあたる男の名だ。
見た目はハンサムで、僕は母似の麗し顔。
父は夜の浮名を持っているひとで、母さんとなぜか籍を入れていない。
一説に籍を入れることに意味を持たない人種だとも言われている。
父さんの口から聞いたことではないから、定かではないけど。
英雄として色々と逸話を持っているひとだ。
剣術と弓矢の特訓を活かし、時には魔物退治をしながら見聞をしろと伝言。
どうしてその言葉を他者に委ねたのか、って言うと、秘密。
リオナルドミオ王国に行かないと、その謎は解けないらしい。
アデルと話し合いをして、その王国に向かうことにした。
父は剣の革カバーを僕のために新調してくれてあって、僕はまずその色を気に入った。
使い心地はこれからのこと。
「なんで何かが決まってるかのような?」
とアデルが奇妙な気分がする、といぶかしがる。
「きっと昔から僕が望んでいたから見聞の旅を応援してくれてるんだ」
と僕が言うと、アデルは相づち程度に・・・鼻でふぅーんと鳴くように言った。