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英雄の剣物語ーヒーローズ・ソード・ストーリーー  作者: カイ・ラヴィンガーデン
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黄金のリンゴ


 ふたりで森をしばらく進むと、森に住む部族に出会った。


 彼らは独自の言語を持ち、そして独自の思想を持って暮らしている。


 鍛えられた上半身は裸であって、首飾りがしてある。


 そして腰から下は精緻な柄がある長い腰布を飾り紐で留めてある。


 靴ではなく、通気性のいい編み上げの草履みたいなものを履いている。


 長い槍、それかサスマタを持っている彼ら。



 そこに現われたのは彼らと同族であると思しき美女。


 髪は複雑に結われていて、胸にはさらし、首飾りに、無地の腰布と留めの腰紐。


 すらりとした素足は編み上げの草履みたいなものを履いている。


 男たちは彼女を「姫」と呼んで、かしこまった。



 彼らの集落に招待された僕たちは、焚き火を囲う丸太椅子に座っている。


 髪をおろした「姫」がやって来て、夜のとばりに白い服が浮き立つ。


 髪や顔の輪郭に焚き火の明かり色が映って幻想的に魅せる。


 侍女たちが両側から、白い瓢箪型ひょうたんがたの大きなうちわで彼女をあおいでいる。



 「姫」からの話と言うのは相談であって、それはふたつあった。


 ひとつは、『黄金のリンゴ』なるものを探して欲しいと言う依頼。


 この話はいまいち要領を得ず、話の中に出てきた老婆に会うことになった。


 

 ――

 ――――・・・


 そして翌日。


 面会が叶ったのはその部族の長の嫁である、現部族長代理だ。


 長い白髪は手入れが行き届いていて、そして深い皺の奥にある瞳が僕たちを見てる。


 少しの間があって、「キャピックに会ったんだねぇ」と老婆が言った。


 その話は集落の誰にもしていないので正直驚いた。


 もう耳の遠い彼女に対して、通訳がいる。


 そしてその通訳が、その老婆は不思議な力を持っている、と僕たちに言った。


 

 この森のどこかにある『黄金のリンゴ』探しを手伝って欲しい、との依頼。


 どうやらそれは生前の族長が彼女のために採った特別なリンゴであり、


 もしかしたら、作ったもの、かもしれない、と言うざっくりした話。


 とんでもない蜜を含んだそのリンゴを食していいのは彼女だけだった。


 そしてレシピは公開されず、族長は寿命で他界した、と言うことになるのだろうか。



「わらわも、もうそろそろ迎えが来る。その記念に黄金のリンゴが食べたい」



 記念に、って直接言ったのか訳が少し変なのか分からないままリンゴ狩りへ向かう。



 最近見かけたリンゴと言えば石青頭竜せきせいとうりゅうの住処。


 ただ、あのリンゴは赤い。


 そして『ここら』のリンゴには黄色があるらしい。


 皆が、その黄色いリンゴに多分に蜜が含まれていたやつ、を憶測していた。



 アデルが「ここの砂糖は何色?」と聞いている。


「あれは-・・・何色なんだろうな?色の名前が分からない」


「黒じゃない?」


「黒では、ない」


「分かった、分かった」



 ちなみにアデルが想定したのは真黒砂糖である。


 『甘い炭』と言う呼ばれかたに、空想に頭がやられたやつが昔いたそうだ。


 ここらの砂糖は装飾品にけた彼らの物物交換で白砂糖かきび砂糖らしい。


 白砂糖は族長の家くらいにしか渡らない。


 なんだか貴重なんだろう。


 きび砂糖の方がミネラルがいっぱいなのに・・・



 そんな感じのことを思いながら秘密の黄色いリンゴ狩りへ。



「「うーん・・・大きい」」



カイ「大きいね」


アデル「大きいね」



 その場所に着くまで話題にならなかったのが奇妙なくらいに、黄リンゴは大きい。


 ひとたま、ひとかかえある。


 これはもう、『黄金のリンゴ』でいいのではないのか?



「売ればすごい儲けると思う」



 厭なんだ、と面々。


 じゃあ、「そうなのか」と所詮部外者ふたり。



 リンゴを落とすための道具に、僕は弓矢を選んだ。


 用意していた網を複数人で木の下で広げ、待機。


 リンゴの軸を狙って弓矢をつがえ、しぼる。


 スーザン系の特殊能力「眼」が、目標を捉える。


 放つと軸から落ちて、下の広げた網に落ちた。



 なぜかそれがきっかけで仲良くなっていく僕たちと棒武器のおじさんたち。


 これできっと喜んでもらえる、と和気あいあいと帰路。


 そして集落で待っていた族長代理の老婆が「違う」と言い放つ。


 へたりこむ棒武器のおじさんたちを見て、なんか身分制度とかが酷いのかと心配。


 そこに来て余裕をかましている僕たちは、「コンポート」と言ってみた。


 はっとしたような顔をした老婆の様子を見て、ふたりは料理番にレシピを言う。



 石青頭竜が言っていた「いいことを教えてあげよう」は、このこと。


 近くにいる部族が外の血を求めているから、それは自分で考えろ、とのこと。


 そして彼らは『黄金のリンゴ』と言う言い方しか伝承していないが、


 黄色いリンゴのコンポートを、そう呼んでいる、と言うような情報を持っていた。



 なんでそれが「いいこと」なのかは石青頭竜じゃないから分からないけど、


 とにかく料理番に大きな鍋と綺麗な水と白い砂糖を所望した。


 剥いた皮も一緒に入れて、透明感が出るまで煮込む。


 すると『黄色いリンゴのコンポート』の出来上がり。



 里の文献には、黄リンゴは甘みが少ないとあった。


 つまりは甘みを求めて、族長が「コンポート」を知っていた可能性はある。


 それから「コンポート」と言う単語をうっかり忘れていたと老婆がぼやいた。



「これだ、『黄金のリンゴ』だ、と族長代理が言っています」と通訳。



 貴重な砂糖でひとかかえあるリンゴをコンポート。


 老婆が切り分けて食べたあと「分けて食べなさい」と周りになまりで言っている。


 彼女が感動していて、僕たちにも「食べなさい」と言っているのが感覚で分かった。



 通訳が「召し上がりになりやがれ、と言われております」と言う。



 ・・・他意があるのか?


 なんかムカつくやつがいる。



 お礼に切り分けられた『黄金のリンゴ』を食べて、素直に美味だと思った。


 そして更にお礼に、『黄金でできたリンゴ』をもらう。



 それから、「姫」の頼みのふたつめについて・・・


 外の血が欲しいと言うので、


「出来てたら産んでおいてくれ」ってことになった。



 アデルと僕と、どっちが父親になるのか、分からない。


 つまり、同じ日の夜だった。




 ――――・・ ・・・――・・ ――――



 結局のところ、彼女は違う男の子供を産んだらしい。


 あの他意のありそうな通訳の男。


 それから旅をしている間に、老婆は天国へと旅立っていた。


 それと当時知らなかったが、彼らの先祖は『賊』らしい。


 今思うと、少し、怖い。


 石青頭竜よ、情報ありがとう。

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