終章 美々な日和
それからのこと。
僕たち旅の仲間は、城の同じ部屋で眠った。
時々自分たちのいびきがうるさくて、寝言でケンカみたいなことをしたらしい。
見張り番の男は名前をポスと言って、彼らとの酒も叶った。
しばらく居残り、国の復興を手伝うつもりだったけど遠慮された。
・・・と言うより、うわさで僕たちがいるこの国に支援が複数あった。
僕たちがちゃんと休めるように、と、うわさを聞いていたファンが起こしたらしい。
嬉しいことだ。
無事に山吹色の瓦造りの生業もすぐに始まったらしい。
物質バリアを退路のトンネルの入り口にリーリが張ってあった。
それはリーリが気絶しても発動を続けるようにリーリが代価を払ってあった。
そしてリーリが出していた代価は、『記憶』。
獣の召喚魔法にだいぶ記憶が無くなっていた。
ただ、なくなったのは悲惨な過去のほうだった。
それは天からの慈悲らしい。
里に一緒に来たリーリが思い出したのは僕が作家になろうと決めてからだ。
リーリは悲しい過去について喋らなかったので、僕たち的にには何も変わっていない。
リーリは「それでいいの」と少し嬉しそうに言っていた。
アデルは帰り道でアーバを拾うと言っていたが、どうも僕たちの里にいるらしい。
里に帰ると「お帰り」と言って、大きなお腹をしていて・・・
生まれたのは黒髪に青い目の女の子で、アデルは「カレン」と名前を付けた。
アーバと結婚すると言って、リーリへの淡い恋は発散されたようだった。
なによりレンジィが文字の読み書きを覚えて
「帰ってきた父ちゃんのために手紙を書いておいたよ」と言って、アデルは喜んでいた。
そこからへんは何かおかしいけど、
「何かあったらレンジィをカイのお嫁さんにしよう!」と言い出すアデル。
何かと思えば酒を飲んで熱が出ているらしかった。
天使日徒としての伝説を語り聞かせても、
「なんでおじちゃんは、そんな嘘つくん?」とレンジィちゃんに言われる。
急にできたきょうだいのことも歓迎してるらしく、
姉妹三人でカルロリナスの開催するファッションショーごっこを普通だと思っている。
そう、カルロリナスも里に来た。
図書館に戻ることもできないし、頼れる親族もいない。
それから、リオナルドミオ王国で英雄のひとりとして表彰された。
俺達に向かって、「時々貴殿たちを、『貴様』と呼びたい」と心内を言った。
「「もちろんだとも」」
俺とアデルの長い友人歴を前に、言い出せずにいたらしい。
箱庭前あたりで買っておいた服をファッションショーごっこに使っている。
普段と言えはリーリが作った服を着ている。
それと、リーリはカルロリナスと結婚した。
里に連れて行って、教会での挨拶で「愛を誓う」と言ってカルロリナスとキス。
それは里の者にとって、結婚式である。
神父は条件反射で、「ここに夫婦になることを認める」と言ってしまったらしい。
その次に「あっ。どうしよう?」とぼやいていた。
「本人達が愛し合ってるなら、まぁ、いっか!」と前例を作ってくれた。
そこに来て、アーバとアデルもその場で愛を誓ってキスをした。
1日で2回の結婚式に参加。
光栄だなぁ、と独りごちる。
僕はと言えば、「カイト・オン・ジョニエルの息子」ではなく、
「英雄カイ・ラヴィンガーデン」として有名になって里からしばらく出れない。
行きは見聞のために歩きだったが、魔物との遭遇は極力避けたかった。
そんな折り、飛行船が貸し切りで里まで送ってくれると言う。
・・・新聞やらの記者たちの質問を受けるなら、だけど。
それがトラウマになって、しばらく旅の疲れもあったし、物書きの頃合いを図った。
僕の里の暮らしには、小さい頃から淡い恋心と共にあった。
目の色は何色だろう?
あの美しい、テフテフビトさん・・・
父さんが教えてくれなかった彼女の瞳色。
黒龍を倒したら結婚してあげてもいいと言ったらしき、許嫁的存在。
僕は里に戻ってアデルにもひとりで会いに行くと言って、彼女に会いに行った。
拓けた小さな広場。
そこには年中、綺麗な紅葉した葉が落ちていて・・・
そしてチューブトップのロングドレスを着た、蝶の羽根を持つ美女に対面する。
縮こまって、長い金髪もふよふよと浮いていたけれど、僕が近づくと様子が変わった。
「僕の甘いひと・・・」
しばらくの間があって、寝ぼけ眼な彼女が可憐な声で言った。
「カイ・ラヴィンガーデン?」
「アミカ」
「そう・・・アミカ。私の名前・・・気安く呼んでいいのは限られている」
「僕は約束通り英雄になったよ」
彼女は目をこすり、空中で気伸びをすると、うなった。
背中の羽根がちろちろと動く。
おもむろに地面に着地する素足が紅葉した葉を踏む頃、羽根は仕舞われ姿を消した。
あとで聞いた話だが、出し入れが自由らしい。
彼女の瞳は、片目が青でもう片方が緑だ。
「僕と・・・結婚して下さい」
美しい彼女は微笑みをたたえて、僕の左ほほにキスをくれた。
「私の唇を吸うのはいつ?」
「もしよかったら、今からでも家に・・・」
――
――――・・・
どうやらその時にできたかもしれない子供。
僕のもとにも娘ができて、名前をアメリと言う。
とびぬけて無邪気で妻の美しさを継いだ可愛い存在だ。
「なんだか女の子ばっかりね」
「女遊びがひどかったんじゃないの?」
「なんで?」
「そんなのんを婆たちが言っていた」
「知らなーい」
「うーん・・・まぁ、いいや。パパとママが可愛いって言ってくれるもんね」
「私も~」
「ん?なんて??カルロリナスが歌ってるのに」
余談、カルロリナスは案外と歌が上手い。
着せ替えに飽きた娘たちに、歌を歌って見せたりした。
歌手さながらだ。
何語で歌っているのかは知らないけど。
なんだか「こいつの歌、いいなぁ」と思うんだ。
――――・・・
――
白いカーテンが風にそよいで、光を含んで膨れて風を押し返す。
旅から数年たった今、やっと書き始めたのは「英雄の剣物語」。
その執筆には関係者の口添えもあって、時間をかけた。
そしてその間に、父さんから手紙が来た。
郵便鳥を使って、だ。
【 ありがとう 息子 】
どうやら呪いは解けたらしい。
小さな出版社から本を出したらしく、同封されていた。
作者の名前はカイト・オン・ジョニエル。
だから連絡に時間がかかったのか、と思った。
そして所在が知れないように郵便鳥と使ったところから、
もしかしたら父さんが、行方不明のままがいいと思ったかもしれない予測をした。
この記述を通して、きっと読んでくれてるはずの『父さん』に言う。
里に戻ってきてもいいよ。
このへんで記述を終わりたいと思う。
英雄カイト・オン・ジョニエルの息子
書記【 カイ・ラヴィンガーデン 】
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