旅のはじまり
装備屋の仕立てだけあって、準備は万端。
身内割引で身軽な防具と、脱臭防菌効果のある服と靴を手に入れた。
魔法の指輪『蔵之助:くらのすけ』と言う
異空間に保存取り出しが出来るものに旅の荷物は納めてある。
本人設定登録がされているもので、盗まれても取り出せないようにした。
ただ、その登録をすると魔法力の代償が余分にかかるので普通はしない。
中に入れる分も最小限にしてある。
まず里を出るには、大きめの川を渡らなければならない。
水底が見える澄んだ深く広い川には、先導がいる。
だが、アデルと顔を見合わせて笑い合うと、藏之助を意識した。
魔法の指輪『蔵之助』は、意識しただけで発動が可能だ。
異空間から出てきたのは小舟の底のような『魔法使いの板』。
ウィーザードボードだ。
魔法力で動く仕掛けになっていて、ふたりは各々の宙に軽く浮いている板に乗る。
あとは板との同調を終えて、ふたりでかまえる。
「いくぞっ」
「おうっ」
先導がわずかばかりの客を乗せた小舟から見える風景に、ふたりの人影。
駈けるウィーザードボードに乗った僕たちは、美しい水の飛沫にはしゃぐ。
驚いて動きを停止させていた先導の船の客たちが歓声をあげた。
向こう岸に着いた僕たちはハイタッチをして先導たちに手を振った。
・・・―― ・―――― ・・― ・・・――
里からして『向こう岸』のすぐは、獣道と間違われかねない細い道が森にある程度。
ウィーザードボードに乗っているとむしろ危ないくらい植物が密集している。
なので歩きに変更し、板の代わりにナタを出して細道にかぶる葉を切り落としていく。
手書きの地図によると、細道をそれないと目的ははたせない。
「しょうがない」
「多分、ここから森の奥に進む」
アデルが地図をのぞきこむ。
「ああ、『年中葉っぱがなぜか赤い木』に沿って森の奥・・・」
しばらく進むと拓けた場所に出て、辺り一面は紅葉した木々。
赤と黄色と橙でできた絨毯のようにも見えるその場所に、美少女が眠っている。
身体を丸めて宙に浮いている赤い蝶の羽根。
チューブトップなドレスも赤で上質な布でできていて、金糸の刺繍がしてある。
髪は長く宙にふよふよと漂っている。
「父さんの話してくれた『テフテフビト』だ・・・」
「伝承によると、この界隈を護るために力を使いすぎて眠っている存在・・・」
「俺たちの安穏があるのも彼女のおかげだと聞く」
「打ち水すら安穏のうち」
僕たちはその美しいテフテフビトのありがたさに手を合わせた。