最期かもしれない宴
街は山吹色の屋根畑でいっぱいで、甘いとうもろこしの畑も見える。
高床式の水の上の家屋もあって、なんだか可愛らしい。
大きな蓮の葉は、ある程度の体重ならひとが乗れる。
レンコンと言うものの料理を初めて口にして、感動。
国は姫の無事の出産に喜びに満ちている。
「最期かもしれないから・・・」
黒竜の襲来の予兆はすでに民草に知らせてある、と武官に言われた。
どうも占いだったり、パピルスみたいな優しい魔系が知らせてくれた、と。
どうも魔素に黒竜が混じりだした、と。
飛んで来ている、と。
かなり遠くから飛んでくるから、一日だけ宴をしよう、と言うことだった。
民は黒竜の襲来を恐れている。
そこに来て、姫の無事の出産の宴。
もう最期かもしれない酒に、泣きながらあおる者もいる。
そんな城下町の様子を、むっつりとした表情で槍を片手に番をしている衛兵たち。
「お酒とか、飲まないんすか?」気にして僕が聞いた。
「飲まない」
「飲めないの?」
「いいや。カイト・オン・ジョニエルの息子よ」
「ん?」
「この戦いが終わったら、絶対に一緒に酒を飲もう」
「・・・ははは。了承した!」
むっつりとしていた見張り番の口の端が、わずかに上がった。
――・・ ―― ・― ・―――・・――
燦々たるものだった。
空は暗雲に飲まれ太陽の光がなくなった小さな王国は昼だというのに薄暗い。
ランプを持って、民草は山のトンネルに退路を取る。
酔っ払った中年男がふざけて、蓮のある池に美少女を投げ入れた頃。
泳げない少女を救ったのは、天使日徒の状態になったアデルだった。
そのまま探していた両親に渡し、戦闘の準備をしながら退路の様子を見ている。
リーリは前に手に入れたアデルの天使の羽根と薬草や聖水を大釜で煮ている。
その成分は、魔に効く。
パピルスが様子を見に来た時に、少しその成分に顔をしかめた。
ということは、効き目があるのかもしれないと言ったあと武官たちが彼に謝罪。
仲間として、だ。
カルロリナスはアデルの団子状に結った髪の毛にへばりついている。
僕は衛兵たちに、足を使った鉄弓の使いかたの説明を受けている。
弓の数で倒す。
ただし、黒竜の鋼のような硬い肌を貫くかどうか未知数。
そこに来て、リーリの大釜は期待された。
鉄弓に、大釜で煮た天使の羽根薬酒を少し浸す。
信じがたいが、これしか打つ手はない。
僕もリーリのその薬酒に持参の矢の先を加工してもらった。
不思議とその液体は、金属に吸われていく。
アデルも矢に加工をして、カルロリナスと退路の様子を見る。
どうしてもここで死にたい、と、動かない者たちも少ないがいたらしい。
父さんへの呪いのきっかけを思い出して、ひとり、思わずかぶりを振る。
王宮のバルコニーで、特設された鋼弓矢の打ち手に選ばれた。
矢の数は五本。
黒い箱みたいにも見える、バルコニーに設置された特別弓矢発射機。
その様子を見る。
「分からない・・・」と僕がぼやく。
「なにが?」と使い方の説明をしてくれた武官のひとりが言う。
「これは・・・斜めに打てない」
「なんだって!?なんでそんな必要がっ?」
「縦にも横にもなかなか不自由だ」
「矢の重さだ」
「なるほどなぁ・・・」
用意された矢が運ばれて来たのはすぐあとで、対面。
黒い立派な極太矢はたしかにかなり重い。
リーリの天使羽根加工をしたんだそうだ。
その情報で少し安心した。
確信をしている。
できる。
父さんから習った弓矢の技術をここで活かす。
活かしきる。
僕にはスーザン系の能力がある。
できる。
黒竜を倒すんだ。
確実に急所を突きなさい。
昔の父さんの声が、聞こえた気がした。