姫の腹に宿った命
城は一つの山から峰のように飛び出していて、内部も山に繋がっているらしい。
レオナリドミオは小国で、基本的に自給自足。
山と山のくぼちにあって、隠里で有名。
建物はおもに白い壁と山吹色の屋根で統一されている。
僕の知識上、山吹色の屋根は「そういうお店」とかなんだけど、違うらしい。
山吹色の瓦を作る仕事をしている国。
それは初めて知った。
とても貴重な山から採れる土で作ったもの。
今でもその高額な瓦は、家一軒建てるに1枚も余分に注文できない伝説がある。
この国では一件屋やアパートなんかも山吹瓦屋根。
案の定、城のバルコニーから見た風景は山吹色の屋根が畑みたいで綺麗だった。
里のとうもろこしを思い出した。
そう言えば、甘くてそのまま食べれるとうもろこしを里から父さんが広めた。
レオナリドミオ王国も、その件で父さんと出会ったらしい。
父さんは里では、とうもろこし畑の持ち主の手伝いをしていた。
飛行船に乗って、甘いとうもろこしを届ける。
それが元々の仕事だったらしい。
記述書に書いてあった。
その旅の途中でテフテフビトに出会って、見聞をして、一旦里に帰った。
テフテフビトは未来が見える力に、精神が弱っていた。
そこに、父さんが「自分でよければ」と未来が見える力を手に入れた。
自分ひとりだけが未来が見えるのかもしれない不安と恐怖と心労。
変えられないか変質してしまう杞憂みたいな苦悩。
そして空賊が里を襲った時に、父さんはテフテフビトから英雄の剣をたまわった。
その父さんの機転は、未来の予定を変えた。
ご神木を切り倒して、敵も倒す。
そして罰当たりめがこの英雄め、と言われ、ご神木を切った罰で里から出された。
まぁ、僕が今いるのは、期限付きの導きだった、と父さんが言っていた。
未来を変えなかったら、里は全滅していたかもしれない。
つまり、未来を変えたんだ、父さんは。
テフテフビトは約束をした、と言っていた。
もし空賊を倒したらあなたの嫁になってもいい、と。
そして父さんは里のとある女を気にしているから別にいい、と言った。
そしてその女は母さんのこと。
テフテフビトは、どうやってお礼をしたらいいの、と困惑。
父さんが、もし生まれてくるのが男の子だったらその子の嫁になるか、と聞いた。
テフテフビトは、それでかまわない、と言ったそうだ。
命の恩人、そして心優しき美しい男の子供、それと結婚でいい、と。
父さんに英雄の剣を渡すために、テフテフビトは膨大な力を使った。
一説に、体内で生成したか隠していたもの。
それを取り出すための力は、普通、その身体の『死』を意味する。
なのにそれは来なかった。
その代りみたいに、眠気がすると言って、彼女は言葉を少し続けた。
黒竜を倒すか払ったらお前に子供ができる。
性別までは、分からない。と。
そして父さんは英雄の剣を腰に備えて、里から出されたことをいいことに。
そして未来が見える力を手に入れたから、人助けをした。
もちろん見聞もしたんだろう。
浮名もある程度本当だ、と書いてある。
ただ、30人だの40人だのの子供の件は知らない、とも書いてあった。
それから、レオナリドミオ王国で子供を残したとも書いてある。
記述書に書いてあるのは姫のことじゃなくて、メイド・・・?
確認を取ると、メイドと僕の小さな頃にそっくりな黒髪の男児。
うやうやしく挨拶をされて、思わず会釈。
おっかなびっくりしているが、父さんが残した子種はメイドとのもの。
・・・ならば姫の腹にも?
パピルスに単刀直入に聞いてみた。
すると苦笑されて、「はい。姫の宿したのは私の子供です」と言われた。
それから父さんは、僕にメッセージを残していた。
【 天使の羽根をコトコト煮込めば弐個目の事が転ずるかな 】
リーリが「アデルの天使の羽根、使っていいかな?」と言う。
どうも誰も知らなかったことだが、天使の羽根をとある薬草で煮込むと魔除けになる。
昔、天使日徒があながち羽根を普通に持っていた頃発見されたもの。
武器や防具に、その液体の加工をすると魔物にはダメージがあるらしい。
ただ、リーリいわく『どれくらいの効果』なのか詳細は分からない、と。
ある程度強度があがる、それくらいしか期待はできないらしい。
パピルスの案内で広間に通されて、お腹の大きな姫に挨拶される。
とても可憐でペイン姫は、僕たちに謝罪をした。
お腹の子供が魔族との間の子供で、しかも黒龍が目覚めそう。
英雄カイト・オン・ジョニエルの子供であると言えば、
彼と連絡がとれるかもしれないと思った、と。
そしてカイト・オン・ジョニエルからの郵便鳥を使った連絡内容は・・・
【 おそらく息子が解決する 】
と言うもの。
【 運命の分岐点でもある 】
と、さらに次の行に書いてあった。
【 息子が英雄の道を選ばないなら、あきらめろ 】と。
【 彼には彼の時間や都合がある 】
それでしめくくられていた。
「父さんは、黒龍の呪いにかかっているんですか?」
そう僕が聞くと、姫はつばを飲み込んで「はい」と言いにくそうに答えた。
パピルスが、「魔族としての勘ですがそろそろ黒龍が目覚める」と言う。
「なにか、証拠は?」
パピルスは球体に張られたバリアの中にある黒龍の邪気を示した。
その気配の『匂い』をスーザン系としての鼻の能力を使ってかいでみた。
「どうなんだ、カイ?」とアデル。
僕は数秒後、「戦いの準備はしてあるんですか?」と姫に聞く。
「兵隊を常備してあります。民は山の中に隠れることができるように時間を使いました」
「なるほど、さっき通ってきたようにトンネルを通したってこと?」
「はい、そうです」
そう答えたあと、お腹を押さえた姫の陣痛が始まった。
そして別室に移る段取りをしている間に、超安産で赤ちゃん生まれる。
男児。
ヤバい。うっすら産毛が赤いし、金色の目。
パピルスが「僕の成分が濃かったのか」とぼやく。
赤ん坊をキャッチした僕は、「誰か産湯の準備をー!」を声を通した。
そして背中に背筋が凍るような緊張がやって来た。
「黒龍が、目覚めた・・」
僕の本能的なものがぼやく。
「来る」