コルティアの箱庭
次の街はコルティアと言って、大きな崖のくぼみの側にある街。
巨大なくぼみは自然界が作ったものだと今では言われているが、
伝説によるとむかしむかしの勇者が魔の都市を消した時にできたとも言われている。
そのくぼみの底には森があって、段々状に巨大な滝が川になっている。
その上を大きめの鳥が飛んでいたりして、その日は虹が出ていた。
コルティアは独自の言葉と標準語を使い分ける風習がある。
メカニッカーたちの集まり。
そしてこの世界では、少なからずメカニッカーの存在が極秘だったりする。
それはこの世界の世界観を守るためだとも言われている。
僕は物書きとして、アデルは装備屋としてメカニッカーを知っててもいいひと。
コルティアの入り口はエレベーター式で、少し怖かった。
アデルに抱きついて、怖いようと何度も言っていた。
リーリは網状になっている金属部分の観察に夢中で、あっという間だったと言う。
カルロリナスは、リーリのカバンの中でお昼寝中だったらしい。
思い出すに、網々の隙間からこぼれる光が妙に綺麗だった。
そう言えば、カルロリナスは持参した服を着替えるのもリーリのカバンの中。
そして最近は、リーリが街とかで手にれた布で服を作ってもらっている。
裁縫が得意なのかリーリに聞いたら、特にそんなつもりもないらしい。
正直、それが可能なら男物の市販の服を買って魔法で小さくしたらいいのに・・・
なかなか言い出せない僕をよそに、網箱状のエレベーターが少し揺れて到着した。
「恐竜の背中」と呼ばれている場所は、巨大な岩。
そこに文明がある。
観光客がわらわらとしていて、華やかな服装をしている。
飛行船での観光の団体らしい。
メカニッカーたちが作ったものを、定期ツアーで買っていく金持ちたちらしい。
僕たちがアデルの側できょろきょろとしていると、あ、とアデルが言った。
「ガバリオー!!こっち、こっち。アデルだぜよ!」とアデルが嬉しそうに言う。
「おお」と美声が雑踏の中、不思議と聞こえて、人波から見えた姿は美青年。
金髪のドレッド頭に、電子機能の付いたゴーグルを乗せている。
ガバリオ君はアデルの親戚で、メカニッカー。
アデルの家が装備屋をしているのはその派生。
装備屋は品を注文して店頭に並べるくらいしか普通はしない。
だけどこの街の装備屋は、特殊加工をしてくれたりするレアな場所。
加工の注文によっては多額の金で意味の無い機能が付いたりすることがあるらしい。
この街を見回るに、ガバリオ君が案内をしてくれることになった。
それと言うのも、炊き出しをしながらの途中、カモメさん経由で手紙が来た。
それはアデルに宛てたもので、ガバリオ君からのものだった。
ぜひ、コルティアに見聞においでよ、というものだった。
日頃の行いが良いので、うわさがたっていたらしい。
そしてガバリオ君にリーリとカルロリナスを紹介してみた。
すると、「指丈小人用の服とか売ってるぞ」と言われる。
意外そうにするカルロリナス。
みんなでその店に行ってみると、本当に精緻な作りの服がいっぱい。
そして機械によって涼しい店内には、ドールハウスと呼ばれる中に指丈小人たち。
指丈小人用に作られた家をドールハウスと言うのだろうか、と僕は思った。
カルロリナスはドールハウスの住人たちと会話をして、泣き出した。
感動だったり、今までの旅路での色々をその小さな身体に詰め込んでいたのかも。
思考回路が違うから、みたいに言っていたが、彼だって人型だ。
そこに、カルロリナスを見て「あら」とドレスを着た中年女が言った。
持っていたきらびやかな扇で自分をあおいで、品定め。
「面白そうねぇ。中に入れたら」
・・・正直、カルロリナスは指丈だが美男子だ。
ただ、露骨かもしれないその言い方に、僕たちは唖然とした。
このドールハウスの住人たちは、春を売って生活しているらしい。
そして指丈小人語でそれを聞いたカルロリナスが、ショックで泣いていた。
店の名前は「指丈小人専門店」。
そしてその一連を服選びに夢中だったリーリには、言わないことにした。
僕たちに慰められたカルロリナスもそれに同意。
この冒険記を書き出すために内容は旅の仲間に見てもてもらっている。
カルロリナスの許可の元、今は彼の妻であるリーリにこのことを先に明かした。
彼女は少し暗い表情をしていたけれど、
指丈小人専門店の住人さんたちに納得してその仕事をしているのか聞いておいた。
そういうことが好きで仕事をしているから、心配はいらないと言われた。
それをそのままリーリに言うと、何度か小さくうなずき涙を指で拭っていた。
「彼がいなかったら、私どうなっていたか分からない・・・」
とても同感。
多分、僕かアデルか・・・その両方の子供を産んでいただろう。
綺麗にも汚くも言ってるつもりはない。
それからコルティアに対して、崖底は「箱庭」と呼ばれる場所。
未開の地。
何か秘密があるような気がして気になったフレーズ「箱庭」。
箱庭とは、神が遊びのために囲った小規模な空間を示すはずだ。
そしてコルティアの箱庭と呼ばれる場所の上を飛ぶ、飛行船へのチケットを得た。