オアシスへの招待
思ったより砂漠地帯は広いし、朝と昼と夜とで寒暖差が激しい。
さすがに疲れてきた頃、ここらで休もうか、ってことになったのは岩場。
アデルと一緒に、乾燥地帯の毒牙ウサギの話をした。
やっぱり僕たちは里の環境に恵まれていたから、植物が大好き。
なので乾燥地帯や砂漠に適した植物はないのか話をした。
するとリーリとカルロリナスは嬉しそうに知識を披露してくれた。
リーリは白魔女として、カルロリナスは図書館の住人としての知識と知恵で。
そして僕は里にいるテフテフビトの話をした。
恋をしている、と。
父さんの元恋人だったかもしれない、精霊人・・・
しまってあった父さんの記述書に、「彼女の名前は教えない」と書いてあった。
「旅が終わったあと、自分で聞きなさい。そしたら目が覚めるから」とも。
あの結ってある、つややかな長い金髪を僕のために解いてはくれまいか。
里で眠りについているテフテフビトを見て、惚れてしまった。
誰を抱いても、ふと彼女がよぎる。
彼女は父さんを導いた存在。
記述書で分かったけど、父さんは『保護区』の出身。
そこから旅に出て英雄になったのは、テフテフビトから能力を分けてもらったから。
テフテフビトは未来が見える。
協力者がいないと力が発揮できないから、困っていたらしい。
正直、そのパワーどれくらいなのか単位の統計はとれていないと聞く。
どんな風に見えるのか聞いた者がいるが、目が見えている件で視力の別みたいなもの。
そんな風に言われて、僕が旅に出る頃には保護区では当然化していたらしい。
父さんの未来が見える能力は、思いのほか父さんに適合した。
ただ、黒竜に呪いをかけられた。
仕留めるはずだったのを、助けを求めた側がふざけたから未来が変わった。
黒竜は「我を仕留めなかったお前は、苦しみの過去でも見るがいい」と言われた。
未来と過去が見える能力・・・
それを持った父さんは、歴史の裏側を知ってしまったと記していた。
僕は父さんの残した本の知識で、それが『黒歴史』って呼ばれていることは知ってる。
今の状態では、記述書が精一杯だ、と父さんは綴っていた。
実は父さんの夢が「物書き」であって、それを諦めて自分らしく生きようとした。
黒竜を追い払ったあと、里に戻って母さんと結婚した父さん。
母さんは特別な女だ、と記してあった。
どうやら恋愛結婚と言うのは本当らしい。
なんとなくお互いが、「このひとがいいな」と思って迷わなかったそうだ。
そして身体の弱い僕を、父さんが育ててくれた。
弓矢や剣術を、アデルと一緒に習ったし、本を好きなだけ買ってもらっていた。
自分は恵まれて育った、と、僕は自負している。
正直僕は、里でも珍しい翡翠色の髪の毛と虹彩。
「光合成でもしてるんじゃないの?」って近所の子に言われたこともあった。
父さんの血筋は謎だけど、スーザン系だから翡翠色の髪なのか分からない。
「惹かれ合って結婚した多種混合系には、いつか緑色髪が出るのは気づいていた」
と父さんは言っていた。
「お前は父さんと母さんの子供だから、なかなか美しい顔立ちをしているぞ」とも。
なのでなのか、美容に気を使ったらモテだした。
母さんには秘密にしていたけど、同時に彼女が三人いたこともあった。
テフテフビトに恋をして、わけが分からなくなった。
なんだか清らかそうな彼女を想って、毛の処理をした。
自由同盟国でのことだ。
そこまで話して、カルロリナスが「見せて?」と言い出す。
「イヤだよ」
「はーはーはーっ」
岩陰に、聞き慣れぬ男の笑い声が響いた。
―・・ ――― ・―― ・・
砂漠の夜に、焚き火。
その揺らめく明かりに映った美青年は先程笑った者らしいことが声で知れた。
黒髪に小麦色の肌、上質な衣。
印象的なのは、赤い虹彩。
その美青年は、「ここは俺の領地だ」と言った。
気づくといつの間にやら、彼の部下だと思しき人影たちが剣や弓矢でかまえている。
「気配がしなかった・・・?」
「興味深い話をしているから、すぐには殺さなかった。どうだい?オアシスに来ないか?」
「・・・オアシス?植物や綺麗な水があったりする所?」
「そうだよ。旅の者で楽しい話をしてくれるなら、ぜひもてなそう」
僕は、植物の話と女の話どっちがいい?と聞いてみた。
そうだなぁ、植物がいいかもしれない、と向こう側の返事。
「オアシスって所は出入り盛んなの?」
「いいや、普通、存在していないと言われている」
僕は旅の仲間たちを順繰り見た。
「どうする?」
そこにオアシスの持ち主であると言う男から言われた。
「果物や氷菓子や美女でもてなすつもりだが、何か問題があるか?」
「「ない」」
僕と旅の仲間たち全員が合意の「ない」を発した。