真夜中の時計台
話は少し飛ぶけど、召喚獣グレゴルを取得したリーリは狙われた。
ハンターなのか分からないやつで、リーリを「愛しているよ」とかぬかす。
けっこうな美形の男なのだが、リーリは酷くイヤがった。
なんせ、リーリとカルロリナスは付き合っている。
まぁ、旅が終わるまで「なんとなく」しかしない約束をしたらしいが。
リーリはまだ14歳。
守ってあげても普通だろうに。
それが分からないそいつは、「素直に渡せばいいものを」と言った。
その会話がどこで行われていたのか、って言うと、グレゴルの崖。
その神殿に、電伝虫がいた。
[ 豆知識 ]
電伝虫とは、ヤドツムリが進化したもの。
空気中に自然と発生する電波を読み取る能力がある。
口寄せの術で、その拳よりも大きな機械化されたヤドツムリ越しに話した。
「一目惚れをしたんだよ」
と、なかなかの美声が言ったが、崖を抜けて森を出て、次の街で遭遇。
宿をとって、食事をしている時だった。
宿主がこわごわと手紙を渡した。
【 愛しのリーリへ 満月が登る頃広場で待っている 】
電伝虫越しに、旅の仲間を半人質にされて、リーリはしょげていた。
なんせリーリは容姿がいい。
亜麻色の髪に、亜麻色の瞳で、肌は白くもちもちしていて、無駄のない曲線美を持つ。
その名乗らない男は、かっこうをつけるのに半生を使ってきたのかなって印象。
だとしたらちょっとズレているような気がする僕。
僕はけっして、自分だけが可愛いやつじゃない。
真夜中の時計台の周りは広場で、マフィアの若である彼が月影を背後に言った。
「リーリ、私の元に来るんだ」
戦闘態勢に入る僕たち。
向こうは黒いスーツ姿たち五十人ほど。
全員が銃を持っているらしい。
リーリが涙ぐみながら言った。
「どうしようっ・・・どうしようっ・・・どうしようっ」
そこにカルロリナスが叫んだ。
「旅を終えたら僕の女になってくれ!!」
リーリが動揺しながら、魔法の杖を振って、「グレゴールっ」と声を上げた。
すると光が魔方陣として立ち上り、十頭の透けているグレゴルが召喚された。
攻撃はできるのに反撃は効かない。
向こうが驚いている隙に、リーリはバリアを張る。
リーリは時計台の戦いまでに、物質用のバリアを張る練習をしていた。
「私の物にならないなら消えろっ」
マフィアの若が叫び、銃を発射した。
その軌道はリーリを的確に狙ったもので、そして手をかざしていたリーリに・・・
当たらなかった。
リーリの物質用バリアのパワーのほうが上で、
銃弾は空中で止まって、
地面に切なく落ちて跳ね、足元からどこかに転がっていった。
時計台の時計の側にいるマフィアの若は、アデルの放った矢で死んだ。
心臓を貫いたアデルの矢を掴み、引き抜いたその男は時計台から転落して死んだ。
騒然としているマフィアの黒スーツたちに、カルロリナスが言った。
「僕ならできーるっ」
転がっていた銃弾を片腕に乗せ、もう一方の片手を使って気合いで弾く。
カルロリナスは発射した反動で少し後ろに退いた。
銃弾は広場の木の幹に当たり、暗闇でカルロリナスが見えないマフィアたちが逃げ出す。
その街では、指丈小人の存在を知るものがいないらしい。
なんだったら電伝虫の存在より極秘らしい。
翌朝に発見された死体を前に、僕たちはこの街の事情を知ることになる。
宿主に、力強く両手で握手をされ、気持ち抑え気味に「ありがとう」と言われた。
「少しばかりだけれど」
そう言って、街のひとたちが持ち寄った食べ物が素直に嬉しい。
恐怖政治的なものが若の番で始まった、と。
そしてもしかしたら、終わったのかもしれない、とのことだった。
リーリは魔法力を消費しすぎて、眠っていた。
数日、街のひとがそれを許してくれていた。
まだ素直に万歳は出来ないけれど、あなたたちの無事をお祈りしますとのことだった。
世界にはそんな事情を持った場所もあるのか、と再認識。
本の中の知識だけではどうしようもないけど、本があって良かったと思った。
やっぱり物書きになりたい。
僕は確かにその日、日記帳にそう書き記していた。
誰かの役にたつ本を書いてみたい、と。
僕は立派な物書きになれるだろうか・・・?
―・―――・――――― ・――・・・
そして、父さんのことを思い出した。
父さんも、物書きになりたかったんだね。
そして父さんにはそんな時間と環境がなかった・・・
「誰しもが物書きになる可能性を秘めている」
父さんはそう言ってくれた。
「父さんは英雄伝を出さないの?」と小さい頃に聞いたことがあった。
父さんは苦笑して、「お前が代わりに出してみるか?」と言った。
事情を知らない僕は、意気込んで文字の勉強をするとはしゃいだ。
僕はその時、父さんの心を傷つけたんだろうか?
その頃の父さんは、文武両道の教育方針をもとに僕を育てていた。
母さんが身体が弱くて、寝伏せっているから。
そして母のいない親友のアデルの相談にものってくれていた。
父さんは黒竜を倒すはずだった。
未来が見えることを話した被害者たちが、「少しだけなら」とふざけた。
父さんは倒すはずの黒竜に大傷を負わせて、追い払うしかできなった。
それでも「英雄」だと言われた。
黒竜を倒せなかったから、物書きになれないようにしたと天が言ったらしい。
父さんは、それが苦しかったと記述書に書いていた。
それがどんなものなのかは書かないけれど、過去が襲ってくる気がする、と。
父さんは母さんの最期に立ち会わなかった。
未来が見える能力で、母さんの最期の日を知っていたのかもしれない。
テーブルにはメッセージカードと一輪の花。
父さんは、【 妻よ 愛している 】そう残して書き残して行方をくらませた。
母さんは最期の時、そのドライフラワーと化した、一輪の花をにぎっていた。
当時の僕は、父さんへのうらみでいっぱいだった気がする。
「何が英雄なんだよ」と言葉を吐き捨てたい気がしていた。
僕にとってカイト・オン・ジョニエルは、昔、英雄だった僕の父。
だから父さんに、「物書きにならないの?」と聞いた。
――・・・翌日、父さんは散歩に行くと言って、行方不明になって未だ帰らず。
「時は満ちれり・・・」じゃがいもの入った箱を一緒に運んでいる時だった。
「英雄になったら好きな女と結婚できるぞ」と父さんは言い残した。
「きっと未来は明るいぞ」と。