鍛えられた英雄の剣
父さんから受け継いだ『英雄の剣』を鍛え直してくれたのは、ゴブリン。
鍛冶場があって、広い拓いた洞窟内に何人かが住んでいるらしい。
当然のように父さんのことを知っている様子。
背丈はまるで赤ん坊で、わし鼻、とんがった耳・・・ゴブリンの特徴だ。
輪っかピアスをしている鍛冶のゴブリンは、「待っていた」と言った。
父の記述書には、僕に対してメッセージが残っていた。
英雄の剣を鍛えなおしてもらいなさい、と。
人を助けるために戦った英雄は何故か笑われた・・・
剣には剣の了見と情緒があって、俺はもうその剣には適合しない、と。
黒竜の首を取りそこねた。
その代り、戦場においての善を笑った人間達の首を刑としてはねた。
はねなきゃいけなかった・・・
被害者がはねるのが情緒的まともな判決だろう、と言われた、と。
情緒的であって、父さんにとっては本当の意味での情緒じゃないんだろう。
僕にはそう見えるような聞こえるような気がした。
英雄だからって、何もかも平気なわけじゃないと思う。
父さんの記述書の持ち出しが許されて、夜遅くまでランプの明かりで読んだ。
そんなに長い記述ではないのだけれど、読み返した。
スーザン系の眼と鼻と耳についての特殊能力を、「ズーム」と言うらしい。
この機会まで知らなかった・・・
あえて言わなかった、とも書いてあった。
ベッドに仰向けになって、記述書を胸に置いて・・・いつの間にか眠っていた。
遠くで、鈴虫が鳴いていた気がする。
翌日、父さんの記述書をゆずってもらえないかと図書館の長に掛け合いに行った。
図書館の長はエルフの女性で、剣が鍛えられるまでなら何度読んでもいいと・・・
結局はゆずってもらえない方針。
「いくらか貴重だとおぼしき書籍を持っているので、それと交換とか・・・」
僕に近づいて来た、布をたっぷりと使った衣を着た美女が、キスをした。
唇で唇をふさぐような熱烈な。
そして唇を吸われたのは、同行していたリーリだ。
側にいたアデルが「なんだぁっ?」と止めようとする。
僕は驚いていて、そしてエルフの耳がぴくりと何かを感知すると束縛は解かれた。
リーリは突然のことに泣きべそをかいている。
エルフは「これが代償でいいですよ」と言って、図書館に入室した者に振り返る。
その様子から、どうやらそのエルフの青年が彼女の伴侶だ。
アデルは呆然と「なんてこった」とぼやいた。
「ひ、ひ、ひ秘密にしておいてっ・・・役にたてて嬉しいからっ・・・」
リーリは涙をこぼしながらそう言った。
「君が望むならハグをしたい」
「お願い。早くハグをしてっ・・・アデルもよ」
「お、おう」
「分かった」
しばらくハグをしあって、リーリが落ち着いて来た。
「リーリ、ありがとう」
「いいのっ」
気づくと足元に鞍を付けたリスがいて、乗っているのはカルロリナス。
「許さないっ。リーリが泣いているっ」
カルロリナスがリスから降りて、僕の足の甲を狙って素手で殴ろうとした。
勘で咄嗟に避けたからよかったものの、彼はどうやら怪力。
床にゆでたまごの殻を割ったような衝撃亀裂が入って広範囲が落ちくぼんだ。
「こ、こわーーっ。変なことはしちゃいねぇぜっ?」
「・・・えっ?」
――
――――・・・
結局、床の亀裂の修繕代を出さなくていいかわりに、リーリへの口づけの件は隠蔽。
それから、あのエルフの長に嫌われて、カルロリナスが旅に同行することになった。
彼いわく、「生まれつきの怪力」らしい。
なんだったら、怪力すぎて小さな身体に生まれたかもしれないと言われた。
魔物に直接触れたら危ないよなぁ、とか思った。
でも、旅の新しい仲間について、リーリは彼に好意を抱いているようだった。
鍛えられた英雄の剣は、鞘から抜くと高い冴えた音を出し、半瞬光を映した。
掴む所と刃の境目のツバと言う部分が、なぜかなくなっていた。
そういうデザインをした、と言われた。
「聖水の成分を混ぜておいた」とゴブリン。
「魔物にはつらかろな」
素振りをするついでに、剣舞をしてみる僕。
それに見惚れる面々が少なからずいた。
僕はスーザン系とは別に、父さんのアルポルガス系の「美しい」と言う能力者だ。
剣に意思があるなら、僕との舞を楽しんでいるような気がした。
その間、リーリが払った代償について忘れていたのは申し訳なかった。
・・―― ・ ・―― ――――・―――・・
そのあと滝壺で泳いで遊んでいたら、妙に深い場所発見。
そしてそこに、鉱石がはえた書籍を見つけた。
それは図書館に登録されていなかったし、僕が好きにしてもいいらしい。
表紙に石英の生えたその本を緊張しながら開くと・・・
本から突風が吹いて、ページの文字が吹き飛んでいく。
「なんだっ?」
顔がこそげそうなくらいの風が止まって、ページに残った文字があった。
そこには『今すぐここから逃げろ』と記してある。
僕たちはその魔法書を持って、すぐに次の旅路への出発をした。