水上都市の図書館
リーリが仲間に入ってから、魔物との戦闘はすでに何度かした。
リーリは白魔女として、魔法攻撃へのバリアくらいしか張れない。
魔法攻撃をする魔物の魔法攻撃その前に弓矢なり剣なりで僕とアデルが倒してしまう。
しまう、って言い方、おかしいか・・・まぁ、いいか。
リーリは「ふたりの身体のお世話くらいしかでできない」と涙ぐんだ。
彼女にとってはだいぶ大きな悩みなんだろう、とアデルと話をした。
通常のルートから外れて、父が話してくれた『水上都市の図書館』を目指す。
実在伝説のある場所。
それは森の中の「大きな木の下」にある・・・らしい。
そちらに向かう途中、木々にからむ『ツタ』に貯まった水分とかが貴重だった。
そして進むには少しわずらわしいし、切り開くのはもったいない状態だった。
時間は真昼で、アデルが「腹が減ってきた」とぼやいたあたりだった。
どこからか声がする。
男の声だ。
「や・・・やべぇ・・・や、やべぇ。ややややばい。やばーい」
自分の目を疑った。
木々に絡んでいる『ツタ』に掴まったまま動けなかったらしく、ツタを切った。
そしてその反動で、指丈小人が切れたツタの水分と一緒に僕の顔に張り付いた。
数秒の間。
おもむろに、リーリが僕の顔から指丈小人をつまんで両手につつむ。
美青年な指丈小人が、半泣きしながら事情を話した。
「ご、ごめ・・・ごめん、なさっ・・・ご、ごめんなさい。冒険をしたくなって・・・」
リーリが少し間を置いて、声をあげる。
「可愛いっ」
金髪に水色の目を持つ健康的美青年、中指くらいの大きさの小人が言った。
「本当に、予言の通りにやって来た・・・!!カイ・ラヴィンガーデン!!」
僕とアデルは顔を見合わせ、首をかしげる。
「「どういうことだ?」」
「いずれ息子がやって来るから、剣のヴァージョンアップを頼む、って」
「父さんがっ?」
「おじさんってやっっぱり、未来見えてるって本当なのか・・・?」
「あら、そんな能力持ってる人は少ないけどいるのよ」と白魔女リーリ。
「「ほ~・・・」」
指丈小人が名乗った。
「自分の名はカルロリナス。伝承が本当なのか確かめるため森の図書館から来ました」
「「水上都市の図書館っ!?」
――
――――――・・・
そこがどこにあるのか、明確には言えない。
明確には言わない約束をしたからだ。
そこは巨大な滝と滝壺のある場所で、そびえる巨木事態が本棚の樹。
そしてその根は、『図書館をつかんだまま』だ。
いにしえ、水上都市にあったその本棚の樹は、魔法石を含んだ図書館ごと浮遊。
そのまま空を飛び、なぜか森の滝壺に着地して今に至るらしい。
周りには「神の使い」と言われる無害な発光体が
たんぽぽの綿毛みたいな球の形と大きさでいくつも浮かんで漂っている。
指先でつんつん触ってみると、
少し距離をとったその光がくすぐったそうに笑った気がして口角が上がった。
こちらでは、「ひかりたんぽぽ」と呼ばれているらしい。
客と言えば獣人やエルフや旅人なんからしい。
その場所を住処にしているのが指丈小人族らしく、カルロリナスもそのひとり。
目的地にやって来ると、本当に来た、と小さいひとたちがわいわいしている。
記念に匂いをかがせてくれ、とか言われたけど、身長の関係で・・・
うーん・・・いや、あえて書かないでおこう。
いや、記しておくか・・・足の裏のにおいをかがれるなんて思ってもみなかった。
前日にケアしておいてよかった。
ケア用品も魔法石指輪「藏之助」に入っている。
ついでに言うと、着替えとかもだ。
替えの靴も何足か。
カルロリナスに案内されて、増築された木製の家屋を訪ねたりした。
住んでいるのはエルフだったりして、女子はきわどい服を着ている。
寒くない区域だから、ってわけなのか・・・ワケが分からないほど作りが気になる服。
きっとそれに目がくらんだら、苦笑される。
きっとそれを野次ったら、弓矢とかでほふられる。
エルフはそんな感じだと父さんから聞いていた。
この場合、彼らに対しても「倒される」と言う表現は
意味合いが違うものに聞こえるらしい。
美しいっていうのが特徴な種族って、理解が難しい悩みを抱えている。
まぁ、「倒される」について場合によるんだろう。
アデルを差し置いてリーリが「綺麗なお姉さんっ」となぜか興奮している。
そっち系なのか?
――
――――・・・
どうしても気になるので今後のためにリーリに聞いたら、
女子は案外と「綺麗なお姉さん」が現れると興奮するものらしい。
知らなかった。
リーリの白い首筋を見てしまって、里の森で眠っているテフテフビトを思い出した。
「テフテフビトさん・・・彼女・・・何色の目をしているんだろう?」
アデルが言うに、僕はその時そうぼやいたそうだ。
――――・・・
――
図書館に通すかどうかの話合いは、カイト・オン・ジョニエルの息子として許された。
案内役としてカルロリナス、付添人としてアデルとリーリの入室許可が出た。
「父さんの残した記述書・・・?」
そこには、英雄としての父なりの苦悩が書いてあったりした。
父は心底、その体質がイヤだったらしい。
未来が見える。
英雄に選ばれた。
その使命を果たさないと、『物書き』になれない・・・
父さんの夢は、もしかしたら作家になることだ。
父さんが残した作り話で知識や知恵を得て育った、僕だからこそ言える。
カイト・オン・ジョニエルは・・・
英雄になった代りに、ひとりの時間を失った。
だから母さんと僕を置いて、空想でもふけりに散歩に出て・・・
そのまま見聞に出たのかもしれない。
魔法でニワトリに変わったオバのモデルは、父さんを「チキン」と呼んでいた。
(すでにそのオバが亡くなっていたから記述している)
つまりはそういうことで、父さんはオバを魔法でニワトリに変えたかったんだ。
それを書き綴ったらよかったのに。
父さんは、それが許されなかったのか?
だとしたら、英雄の剣を鍛えるために預かった鍛冶の言葉が脳裏をよぎる。
「息子のカイ・ラヴィンガーデン・・・お前が剣で呪いを解くんだ」
記述によると父さんは、黒竜を追い払った英雄。
ただ、追い払っただけで・・・そろそろ傷が癒えたら・・・奇襲が再発する。
未来が見える父さんは、とあることをしくじった。
父さんいわく、しくじった。
黒竜との戦いのさなか、未来を変えてみたいと思った者たちがふざけた。
大きな笑い声をあげたんだ。
父さんはそれに驚いて、黒竜の首を落とすのに失敗した。
そして悲鳴を上げて逃げて行く黒竜は、父さんに呪いをかけた。
父さんにとって『物書き』ができない、というのは・・・
身体の弱い妻と、まだ幼い息子を残して行方をくらませるのに
充分な悩みだったのかもしれない。
僕だから、言っても良い言葉だと思う。
僕、カイト・オン・ジョニエルの息子、カイ・ラヴィンガーデンが。
こうして物書きとして活動することになった僕は、父さんを誇りに思っている。
未だに行方知らずの父から手紙が来たのは、旅を終えてから。
『 ありがとう 息子 』
たったそれだけだったけど、父さんは生きていた。
異母きょうだいにも出会った。
その時のことは、のちに別の章に記述しようかと思う。
父さんが頼まれたからって、姫をはらませた話を。