僕の血
父はアルポルガス系、母はスーザン系、僕はそのハーフってことになる。
アルポルガスとは「神に最も近い種族」と言われる美形。
特に『アルポルガス系』には、鼻から下の毛がない者が多いと聞く。
スーザン系も特殊体質で、鼻・耳・眼・について優れている。
とりあえず僕は母さんの遺伝で「眼」を意識すると、遠くがズームされたりする。
便利だと思うかもしれないが、力を使うたびに命はけずれる。
理由によっては一回で天を怒らせて無くしてしまう能力だと母に言われた。
僕は母がそう言ったことを、嘘だと思っていない。
父は謎が多いひとなので父の両親のことは知らない。
小さい頃に聞いたところによると、「象みたいなひとたち」と言っていた。
それが知りたくて「象」がどんななのか本屋に行って、絵本を買った。
多分父方の一族は身体が大きいんだろう、と小さい頃は思っていた。
母と祖父母と暮らしていて、祖父母は両者がスーザン系。
祖父は「鼻」、祖母は「耳」についての特殊能力を持っている。
幼少期一緒に住んでいて、里の事件を解決するのに協力したことがあったらしい。
祖父母は「親切にすれば親切は返ってくる」とまだ幼い僕に説いた。
スーザン系は血の歴史上、迫害の事実があるらしいことをそのあと知った。
そんな僕が憧れたのは、家の中にある本の世界。
勇者が出てくる物語を書く物書きになりたいと思った。
「もしかしたら血が味方してくれたら、鼻と耳の能力も使えるかもしれんぞ」
祖父母はそんな風に言って、僕に期待をかけてくれた。
期待通りの物書きになるんだ、と言うと・・・
「勇者になりなさい」
と、言い残して祖父が他界したあと、後を追うように祖母も寿命で亡くなった。
「勇者になったあと物書きになりなさい」
母の最期の言葉の一部も、そんな感じ。
なので僕は里に起きた天啓もあり、見聞の旅に出ることにした。
勇者をしながら物書きをしたらいいじゃないか、って言われたから。
なんだか拒めない・・・
見聞の旅でいいんだよね?
そんな状態で、僕の旅ははじまった。
[ 追記か余談 ]
要望があって書き足し。
僕の里では、移り住んできた祖父母のスーザン系が信仰している思想に触れた。
宗教ではなく、「思想」だ。
『聖善:せぜん』と言う、十善道を礎にしたもの。
その思想は里と合致して、その里に生まれた僕にも自然とあったもの。
詳しいことをここで書き出してはならないかもしれない。
ただ、旅の途中・・・不安になったりすると、親友のアデルと一緒に唱えた。
「とせ、もせ、ちせ、ませ」
これは思想の形式であって、本来お祈りやおまじないではない。
ただ、旅路の不安に唱えるには僕たちには最適だった。
「十聖、百聖、千聖、万聖」。
旅路の仲間もその思想に、一緒に唱えた夜もあった。
火の番をしながら、パチンと弾けるのを聞きながらぼやいたり。
突然のスコールに雨宿りをしながら、雫の落ちる音をなぜか意識してしまった時に。
僕にはなかなかしっくりしていたんだ。
四魂を整える「なおひ」の言の葉だと呼ばれだしたのは、僕たちの旅路のあとだった。