白魔女の住む街
アーバから、移動用の小ぶりな竜を貸してもらった。
少し人語が分かるタイプらしい。
二頭用意してもらって、急いでまたがり、街へ向かう。
詳しくはないが、基本的に運搬愛玩用の竜はメロロンと言う種族のはずだ。
街に入る前に森に入って、滝壺で化粧を落とすついでに風呂。
着替えはいつもの服。
そこに可愛い声がした。
「きゃっ」
「「ん?」」
アデルと僕はそちらに振り向き、そこに美少女を見つける。
格好からさっするに、白魔女だ。
匂いで分かったが、側にある彼女のウィーザードボードには沢山の「薬草」。
見た目は14か15歳そこらだ。
「な、なにっ?なにっ?いやっ、まさか・・・変態っ?」
「「変態じゃ、ない、ですっ」」
「じゃあ、なに?」
「「気にしないで」」
「変態っ・・・はっ、まさか、メロロン?可愛い」
メロロンが可愛い声で鳴く。
可愛い、は、分かりやすい言葉らしい。
貸してもらったメロロンは、白い鱗を基調に、八重の赤い花が咲いたような柄。
「もしかして、ここのお湯が必要なの?」と僕。
この滝壺は、ありがたいことに温泉だ。
花の香りがする。
「そうよ、なにっ?」と白魔女。
「え、すまねぇ」
思わず滝壺に浸かっていた体勢のアデルが立ち上がる。
「いやーー、へんたーいっ」
「え、なにっ?」
「変態っ」
「そんなに、なにを、変態変態って?おい、君、そのあざ・・・」
心配して近づいてくるアデルを怖がって、白いローブに白い三角帽子の女子が逃げた。
ウィーザードボードに乗って。
「・・・なんだったんだ?」
と、アデルは不思議そうにした。
その時アデルは、巻いていた腰の布が落ちていたし、まだメイクを落としていなかった。
小さな街を見つけて、その入り口前でメロロンが止まった。
「さぁて、次の街だ」
「街って言うより、集落くらいだな、こりゃ」
メロロンが可愛く鳴くと、ふたりで頭を撫でたりしてお礼を言う。
アーバの元に戻るために訓練されたメロロンとはここで別れた。
森に戻っていくメロロンを少しの間、見送って、集落を一望する崖の上。
「これって、いっきにウィーザードボードで降りたらいいんでない?」
「気持ちよさそうだのう」
ふたりで魔法石指輪からウィーザードボードを取り出し、乗ると崖沿いに発進。
歓喜の雄叫びを上げている僕たちに、爽快な風が吹いている。
そこに空飛ぶ魚の群れが停滞していて、驚く。
すれすれのところぶつからなかったけど、空魚には鋭い牙があるやつがいる。
板で空中遊泳なんかの時は、気をつけないといけない。
空魚は食べてはならないもの指定されているから、獲らない。
アデルが心配そうにこちらを見た。
「森に帰れないくらい、元気がねぇんじゃねえの?」
「うーん・・・たしかに。元気なさそう」
集落の入り口まで来て、ウィーザードボードをしまう。
そして集落うしろから、「きゃっ」とこちらを意識した悲鳴が聞こえた。
聞き覚えのある声にふりむく。
そこには、白いローブに白い三角帽子の美少女。
「君って白魔女?」
「なんで私より早くこちらにっ?何者なのっ?」
「ちょっと時間いただけるなら、話を・・・」とアデル。
「え、うん、なに?」と白魔女。
女装をしていたいきさつを話して、納得した様子の白魔女。
アデルの説明は約15分かかった。
白魔女は「君たちの名前は?」と聞く。
「俺はアデル。こっちはカイ」
「ああ、そう。集落を案内してあげてもいいわよ」
「ありがとう。白魔女さんは、名前なんて言うの?」
「別に・・・呼ぶときは『白魔女さん』でいいわ。こっちよ」
白魔女さんに案内されて、集落の何でも屋さんで少し買い物。
タオルと缶詰と消毒液の補充が叶った。
アイスクリームがあるのには驚き。
そう言えばアイスクリームは清潔に冷凍できる分、消費期限がない。
買ったアイスクリームをぺろんぺろんと舐めとりながら、集落巡り。
「レンジィを思い出すなぁ。今頃どうしているだろう?」
「そう言えばレンジィちゃんはアイスクリームが大好きだよね」
「なに、女?」と白魔女さんが僕たちに振り向いた。
「レンジィちゃんはアデルの大切な存在」
「もしかして里の女か子供?」
「なんで分かった?」
「なんとなく。女の勘ってやつよ。レンジィって名前、聞き慣れないわ。どういう意味?」
「ああ、それはー・・・」
数歩前をゆく白魔女さんが振り向いてすぐ、その背景みたいに影がさしている。
肉食巨鳥の、影は、影すら大きい。
まるで空が曇ってきた感じに近い大きさだが、僕たちは武器を取り出す。
「な、なに・・・?」
恐る恐る後ろを振り返る白魔女さんが、肉食巨鳥を見つけた。
悲鳴をあげて気絶でもされるとやっかいだと思ったのに、彼女は指輪から錫杖を出した。
すぐに頭がハート型の錫杖を操り、風魔法「かまいたち」で攻撃。
なぜか弱っていた巨鳥はすんなりその場から逃げて行った。
集落のひとたちがぽつぽつと、現われ始めた。
周りに被害が出ていないかの確認。
そして僕は、側に置いてあったアイスクリームを再び食べ始める。
アデルは緊急事態だから地面に放ったみたいだ。
「上の方なら大丈夫だろう」
と言って、土で汚れていない部分は食べて、
あとは執着を一蹴するためなのか「蟻にご褒美だ」と土を蹴った。