山岳温泉地帯
旅をすすめて、山の中。
山岳温泉地帯にやって来たはいいものの、硫黄の匂いがするし、まともな道も危うい。
ここを通るのは予定に入れていたので、用意していた古い服を着ている。
魔物とかと戦う時に汚れたりやぶけた上着を、顔に巻いている。
「あー・・・くっせぇ!屁っこき岩っ?ありえないっ」
「まさかなぁ~・・・岩が屁をこくなんて発想すげぇなぁ。あとでメモしておこう」
黄色がかった灰色の地面の範囲を抜けると、そこには山岳温泉地帯。
ふたりで感動の雄叫びをあげる。
絶景だ。
白と水色の温泉地帯、『翡翠畑』。
なんでも昔は湯が翡翠色だったらしく、今に至るに微生物の種類が変わったらしい。
と言うより、進化して効能が上がったそうだ。
水色をしているけど、それでも名前は『翡翠畑』とそのままだ、と聞いた。
「なにに効くんだろう?」
「たしか、リンマチ、だ。俺たちにはあんまり関係ない」
「なんだ、リンマチ、って?」
「うーん・・・温泉と言えば『リンマチ』って本で読んだ気がする」
「それって、『リウマチ』じゃねぇの?」
「ああ!そうかも。リウマチって何?」
「知らねぇ」
「・・・・・・うん!とりあえずひと探そうぜっ?」
「そうだなっ。そのひとに聞こう」
「リンマチ?」
「いや、よく分からねぇから・・・」
山を下ると、温泉宿があった。
効能は、『疲労回復』『美肌効果』、『特殊栄養生成』らしい。
特殊栄養生成については、個人別におこるらしい。
「面白そうだ」
「熱すぎたりしないかなぁ?」
「そう言えばお前、全身猫舌だっけ?」
「そうそう」
「できてはんのん?」
「「ん?」」
そこに現われたのは素朴に魅える不思議な美少女。
美女だと言われれば、誰かに対しては絶世なんだろうな、と思う感じだ。
「おたくら・・・いや、いい、いい。空想しておこうっ」
「・・・は?」と怪訝そうなアデル。
「怖いーーっ」と思わず叫ぶ僕。
「は?」とアデルが僕に振り向いた。
「仲を疑われているぅ」
「なに?」
「アデル、俺と関係を疑われてるっ」
「は?何?」
「はっきりと言う、あの女性、腐女子だっ」
「伝説のっ?ってことは・・・俺とお前が親友である件についてっ?」
「多分、そうっ」
「いやーーーっ、気持ち悪いぃ。俺、子持ちなのにぃ」
「ここらへんでは、妻子あるそういうのんも男のペアで来るんよ。仕事や言うて」
通りがかりのひとが言う。
その若い女性に僕が聞く。
「それは何の仕事?」
「仕事やって嘘ついてるに決まってるやん」
「はぁ・・・どうも」
「いい、いい、美少年の匂いかげたし」
「硫黄くさいでしょうに。なんだか申し訳ないな」
大笑いをしながら奥に向かって歩いて行ったひとは、宿の娘さんらしい。
案外と普通のひとに見えたけど、宿の亭主から相談を受けた。
「どうか娘を救って下さい」
そんなことを開口一番、三つ指をついて亭主に言われた。
・ ―・ ――・・・・ ・―――・・・―――
依頼主は宿の亭主で、解決したら特別な秘湯に招待してもらえるらしい。
とりあえず事情を聞いた。
「うちの娘は、ここいらに男っ気がないばかりに、まだ経験がないんです」
「年齢は?」
「16です」
「そんなに焦らなくても・・・」とアデル。
「16っつったら、子供できることしてもおかしくはねぇ」
「うーん、まぁ、なぁ。俺は無理だ。妻とは別れたが娘がいるからっ」
「その年で子供っ?」と亭主。
「16歳で子供できるのおかしくない、って自分でさっき言ったのに、なにっ?」
「すいませんっ・・・あの~・・・どちらが、物書きさんで?」
「俺はアデル、そっちがカイ。カイが物書き」
「そうなんです」
「あの~・・・あの~・・・急なお話ではありますが、娘とちぎりを・・・」
「本当に急な話だなぁ」
「優良な子種が欲しいので」
「ううん・・・姿もなかなか可愛いしなぁ・・・うう~ん・・・子供作ってってこと?」
「はい、できれば!」
「うう~ん・・・まずは、デートからでよければ。するかは分からないけど」
「分かりましたっ」
そう言ってアデル同行の温泉デートを宿の娘さんとすることになった。
そこらへんを散歩して、珍しいお菓子を買ってみたりする。
『翡翠チョコ』はお土産にいいかも。
食べてみると案外と普通のチョコだけど、後から来る風味がいい。
温泉、あんまりにも熱いのはイヤだなぁ、とか思っていた。
それを言い当てられて、彼女との話題は盛り上がりを見せた。
普通に仲よくなって、一緒に男女兼用の見晴らしのいい温泉に向かう。
白い岩肌に、プランクトンの関係で青く見える温泉。
自然の作り出した段々、『翡翠畑』は何かの巣みたいに白い縁で別れている。
ヘコみに湯が貯まっていて、その湯はなんとなく甘い香りがした。
「秘湯はもっと甘くて、お花みたいな匂いがするんよ」
「「へぇ~」」
「なぁ、あんたたち、父さんに言われて身体の相手の話されたやろ?」
「「うん。されたよ」」
しばらく間があって、彼女は遠くの風景を見据える。
僕たちも情緒で黙っていた。
遠く見晴らす背の高い木の上を、鳥たちが群れで飛んでいるのを発見。
そんな時、彼女がぽつりと言った。
「男とするのは、やっぱりイヤじゃ。綺麗なお姉さんがいい」
「「・・・はぁっ?」」
アデルと僕は勢いよく彼女に振り向く。
「大丈夫、大丈夫、したこにしよう。こっちからの依頼じゃ」
「:・・・ああ、そう」」
「そっちもそんな関係なんじゃろ?」
「「いいえ?」」
「なんで?」
「「ううん」」
結局のところ、『したことにして』、秘湯に浸かった。
本当にいい温度だし、甘い花の香りがするし、数日は顕著に肌がすべすべだった。