ソーデイルさんの家はお菓子い
山道を進んでいるわけだけど、そこに一件、バリアの張ってある家を見つけた。
いぶかしく思って、アデルを見ると、彼も警戒していた。
「これって・・・」
「ああ・・・お菓子の家だな」
「だよね~」
つなぎは砂糖だろうか?
壁は煉瓦サブレ、扉は板チョコ、窓はステンドグラス飴、屋根は瓦クッキー。
煙突はココアスポンジケーキで、煙の代わりにホイップクリーム。
「どういうこと、だろう・・・?」
「聞いてみよう」
「いいのか?」
「見聞の旅じゃないか」
「それもそうだ・・・すいませーん、誰かいますか~?」
「何の用だ」
お菓子の家に気を取られていて、うしろから来る人物に気づくのが遅れた。
別に敵意があったわけでもないから、きっと大丈夫。
「こちら、あなたのお家?」
「そうだ、お菓子の家だ」
「蟻が急成長をとげそうですね」
「はっはっは。なーんて面白いことを言うんだっ。お茶でも飲んでいきなさい」
アデルと顔を見合わせて、うなずき合う。
「お名前をお聞きしても?」
「ソーデイル、だ」
「ソーデイルさんね」
「呼ばれます」
「うんうん、バリアの中に入れてあげよう」
何かを通り抜ける感触がした気がして、お菓子の家に近づく。
なんだろう、低反発の・・・例えるなら宙に浮く水玉に触れた時みたいだ。
温度はない。
ソーデイルさんはドアノブの付いた板チョコを開けて、エスコートしてくれた。
砂糖菓子でできたテーブルに、アイシングクッキーの類いが盛ってある。
飴でできたカップとスプーンに紅茶を入れてくれたソーデイルさん。
「質問してもいいですか?」
「どうしてお菓子の家に住んでいるのか、って?」
「そうなんです」
「私はお菓子の家職人、だ」
「「・・・は?」」
「うん、まぁ、聞いたことがないなら珍しいんだろうな」
「「ええええ!?」」
ソーデイルさんは12歳でお菓子の家職人の手伝いを始めた。
初めて壁のつなぎに砂糖を溶かす役割をした日に、女子を初体験。
甘い思い出だ、と言っている。
こんなに人里離れたところにいたら、そりゃ自分で言って笑ってしまうんだろう。
それか天性の笑い上戸だ、ことひと。
なにかがおかしい気がする。
なんだろう?
ソーデイルさんが18歳の時、全部のパーツを任される。
二十歳、棟梁補佐に任命されて、仕事場皆の人気者。
二十五歳くらいに魔法に興味を持ってバリアを張ることに成功。
お菓子の家保存に、大貢献。
独り立ち。
そもそもどうして「お菓子の家」を作っているのか。
その質問を意外そうにした。
少し笑い出すソーデイルさん。
「皆の夢と希望、お菓子をお腹いっぱい食べてみたいっていう現実問題だぜ?」
うーん・・・
聞き慣れない。
すごいこと言ってる気がするけど、聞き慣れない。
お菓子の家??
昔童話かなにかで読んだ気がする。
だから今の年頃になって平然と出された紅茶がどんどん甘くなるのにも冷静。
38歳で結婚して、奥さんには連れ子がいるらしい。
その連れ子は現在6歳なんだそうだ。
「お菓子の家に住めるなんて、お子さん大喜びでしょう?」
「んん~・・・そうでも、ない」
「「なぜ?」」
「娘は甘いものが苦手なんだよ」
「「はぁ?」」
「なんなんだい?」
「そんなひとがいるの?」
「いるさ、ごまんといる」
「そうなんだ・・・知らなかった」
「ふたりとも甘いものはお好きかね?」
「「はい。とても」」
「うんうん、こちらのクッキーもぜひ食べて。僕の手製だ」
「すごい細工ですね」
「いいんだ、いいんだ、わびさびだ」
「分かる分かる。分かるような気がする」
「わさび?」
「わびしくてさびしい・・・儚いのことだ」
「ひとのゆめとかき、のやつか」
「まさにお菓子の家だね」
手を叩いて大笑いを始めるソーデイルさん。
ちょっとこちらが退くくらい笑う。
動揺に笑いがもれる。
アデルがルビーのような透明感のある赤いジャム瓶を手に取りながら言う。
「そう言えば、奥さんとお子さんは?」
「こちら別宅だとか?」
「いいや?妻と子供も棟梁も、同じ敷地にいるよ」
「「・・・ん?」」
赤いジャム瓶をそっとテーブルに置くアデル。
「同じ、敷地内?」
「ああ。今頃、庭の花畑に喜んでるころだ」
「庭?」
「そうだ、ここらの土地は安いから、花畑を作ったんだよ」
「花畑?」
・・・ ―― ・ ・――― ・・―――
裏口に案内されて、広大な花畑を見つける。
一面のチューリップ畑。
その奥に見えた空に、虹がうっすらかかっている。
そしてそこに、晴天の霹靂があった。
「うーわー・・・不吉だなぁ」
「そうねぇ」
「客でも来たかの?」
そう言ったのはソーデイルさんの息子さんと、奥さんと、父である棟梁。
なんだろう?
庭に埋まってるのかとおもったのに・・・
なに、あのソーデイルさんのあやしい顔。
事情を聞くに、『犯人顔』を気にしているらしい。
棟梁は地声が大きい件で、うるさく思われていた時期のある実父。
奥さんはつつましやかなロングスカートにエプロンが似合う素朴美人。
息子君はしっかりとした発言をする、少し人嫌いの子だ。
息子君が言った。
「お客?」
「そうだよ~」
「もう帰って」
「ああ、うん、分かった分かった」
僕たちが、お菓子の家ミニチュアの話をしたら、喜ばれた。
低血糖を理由に結婚したらしく、泊まっていくことになったが、どうも奇妙。
寝そべったベッドは、もしかしてミルフィーユなのか?
それに似た素材?
ああ・・・おやすみ、って寝落ちしたんだけど、アデルはその日眠れなかったって。