山道に現われた魔物と山神メルティ
ロンドットは山の麓にあって、坂道に居住区なんかを置いてある場所。
上り坂を歩いて、時々休憩。
「長財布の色、これ、なんて言うの?」
「ターコイズ」
「どういう意味?」
「あおみどり」
「ほうほう、青緑」
そんな話を休憩中にしている頃、僕たちは岩場に座ってた。
すぐ側には茂みがあって、そこから誰かが近づいて来る。
「誰だろう?」
「・・・なんだ、このイヤな予感?」
「分からない・・・」
がさごそと茂みをかき分ける音がして、「助けてくれ」と顔を出したのは中年男。
腰掛けていた岩から、立ち上がろうとした時にアデルが僕を制した。
小さい声で「ハゲてる」と僕に言うと、ハゲに向き直った。
「どうかしたのか?」
「助けてくれ」
「どうかしたのか?」
「どうかしたのかだよ、助けろ」
「助ける?」
「ああ」
「誰が?」
「誰が、なに?」
「誰がお前を助けるって?」
「お前、俺、助けたらいい」
「ハゲっ」と勘で大声で言う僕。
「・・・ハゲ?そうだ、ハゲ。調べた、俺、ハゲ。助けろ」
「どんな風に?」
「俺に、食われろ」
「お前、人間か?」
「いいや?違う」
その瞬間、魔法石指輪『藏之助』から弓矢を取り出し、アデルと僕はかまえた。
飛び出してきたのは魔物で、半端な人型。
ハゲている中年男の顔をしていて、けして美男ではない。
その歪んでるかもしれない思考回路が「危ない」顔になっている。
最初は変人とか変態かもしれないと思ったけど、飛び出したそいつは魔物だ。
常人にはできない脚力だし、骨格がそのために作られているし、鱗がはえている。
空中に飛び上がった背の低いそいつを、僕とアデルは矢で射った。
一ノ矢ずつで済んで、魔物の額と心臓に命中した。
酒場で聞いていたけど、この坂道には人間を狩って食べる魔物がいるらしい。
そいつが人間っぽい顔をしているハゲ、と言う情報がなかったら、僕は・・・
無闇に無邪気に近寄っていたかもしれない。
「ふぃ~・・・なんとか倒したな」
「はぁ~、怖かった。骸、どうする?」
「抜いたらこの矢、まだ使えるかな?」
「んん~・・・微妙だなぁ・・・微妙なところだ」
「うん、まぁいいか」
酒場のひとたちへの合図に、照明弾を飛ばした。
もう薄暗くなってきた山道、件の皆がおそれている魔物らしきを仕留めた証。
僕は見聞のために旅をするわけだけど、
困っているひとたちを助けたいと、アデルには言ってあったんだ。
だから魔物退治なんかをするかもしれないこと。
アデルは、じゃあ俺を選んでよかったな、と言ってくれたんだ。
なんだったら、アデルがそんなやつであることを僕は知っていた。
―・・ ―― ―・―――・・・ ・――
そのあと夕暮れ、野宿をしようとしている時に、不思議な歌が聞こえてきた。
《にょんにょん・ぷにぷに・ぷるぷる・ぱいーん》
その歌を聞くや否や、僕とアデルは顔を見合わせて同時に言った。
「「メルティ、だっ」」
野宿の場所にはすでに焚き火がしてあって、周りはなかなか明るい。
メルティとはレアキャラ、もしくは幻の、と呼ばれる山の神だ。
山の神か、その使いらしい。
父さんからも聞いていた。
ロンドットの山道には、魔物もいるが山の神メルティもいる、と。
メルティは食べてはいけない。
狩ってもいけない。
天罰が当たるぞ、と。
聖獣のたぐいなんだよ、と。
メルティはメープルシロップみたいな味のする、傘を持つキノコ。
多分、白系統のひとかかえある動くキノコだ、と。
父の冗談だと思っていた。
アデルもそうらしいけど、父の言っていた歌が聞こえたから
きっとあれは・・・
メルティだ!!
可愛い!!
もんでみたけど、もにゅもにゅしていている。
焚き火の側に群れで集まってきて、自分たちの傘の部分を示してくる。
「まさか、傘の部分をご褒美で吸ってもいいのかっ?」
うなずくメルティたち。
テンションの上がった僕たちは、歯で傘を傷つけないように吸ってみた。
甘くて良い香りがする。
本当にメープルシロップみたいな味だ。
すごい、父さんって本当のことを言ってたんだ??
そのあとから、メルティの傘蜜成分が脳にたまっていてらしい。
所々、山道に獣や魔物がいたけど、「にょんにょん」って言うと護りで逃げていった。
逃げないやつは、仕留めた。
にょーんにょん!