次の街ロンドット
僕たちの、カバの魔物倒したみたいなうわさはすぐに広まった。
倒して灰になったから上級なんだろう、と。
保護区から旅に出るらしいぞ、とわいわいしている。
なんて言ったって、保護区近くのひとには特に秘密義務が生じている。
なので僕たち保護区出身の『内話』は珍重される。
見聞の旅なんだ、何か聞かせてよと言うとさっそく中年男たちと酒場へ。
さっき食事をしたばかりだけど、料理まで出されてなんだか申し訳ない。
遠慮するなとあまりにも言われるので食べ出すと、けっこう食べた感じ。
まぁ、食べてる間に情報交流。
少しづつ飲んだ酒も、確実に減っている。
まずつかみに一気飲みをした時点で、外とか内側とか関係ない感じ。
結局カイト・オン・ジョニエルの話を少し聞くことになった。
その場をおごってくれたおじさま達には、僕がその息子であることは伏せた。
アデルも空気を読んで、言わないでくれた。
聞いたのはテフテフビトの話。
ロンドットも含め界隈を護ってくれた、あの空中に浮いて眠っている彼女の話。
どうやら父は彼女と一緒に、この界隈を助けてくれたひと。
そしてこの界隈で一番の美女である僕の母と子をなした。
皆が意外がったのは、その場にとどまり彼が子育てをしたこと。
母が身体が弱いから、って言う説もある。
でも男が子育てをしない歴史を持ったロンドットでは珍しい話らしい。
父カイトの子育てぶりはロンドットまでうわさとして流れて、
人妻たちの人気を得だした頃、ロンドットの男達の懸命な子育てが始まった。
もう成人している自分の子供に、本気で詫びを入れたひともいるそうだ。
子はかすがい、とか言っていた。
まだ子供がいない状態の17歳には、理解がむずかしい。
アデルには置いてきた1歳の娘がいるけど、アデルは気にしてないみたいだった。
ただ話には出さないだけで、旅路、彼は娘の写真画をちょくちょく見ていた。
保護区には写真がないから、写真画、って言う言い方がある。
写真っていうものを見てみたいな、と思ったことがあるのを思い出した。
ロンドットのひとたちも、あれは珍しい、と言うだけ。
外に出たからって、そんなに普及しているものでもないのかもしれない。
普及しているんだったら、魔物とかの写真撮るひといそうだし。
安全のためとか、他に・・・まぁ、趣味に?だとか。
図鑑にしたら面白そうだな、と言われアデルと顔を見合わせる。
おじさまたちは手を叩いて笑っていた。
「冗談だよ」と美形のおじさんに苦笑されて、背中を軽く叩いてもらった。
・・―――――・― ―― ・ ・――――
そのあと地元警察が未成年の飲酒について酒場に調べに来ていた。
聞くところによると、ロンドットはまだ20歳にならないと飲酒基本禁止。
おじさまたちに一応の礼を言って、酒場の裏口から逃がしてもらった。
本当に20歳からのところってあるんだ?って思いながらアデルを見る。
アデルは大仰に肩をすくめてみせた。
アデルと僕の口の中には、まだ食べさしの飯が入って、喋りにくかったんだ。
もったいないと思って、ピラフをかきこんだから。
もちろんお礼を言ったあと、低姿勢で走りながら皿にのったのをかきこんだ。
裏口前で店員さんにもぐもぐしながら皿は返して、店を出た。
あながち急いで飲み込んだので、アデルから変な声が出た。
「とりあえず、リオナルドミオ、目指すんだよな?」
僕は口をもぐもぐさせてどうにか飲み込めないかと少し間を作った。
どうやら飲み込むまでもうちょっとかかりそうだったから、そのままうなずいた。
飲み込んだら、変な声が出そうになった。
「うん、それはどっちなんだろう?」
「多分、こっち」
アデルの勘で山道を選び、登り坂からロンドットを見下ろす。
「はぁ~・・・ついに出発してしまったなぁ」
「おい・・・」
「お腹がいっぱいでもう歩きたくないよ」
「おい、おいっ」
「ん?」
「おい、ってばっ・・・」
「なに?」
「酒場に荷物ひとつ忘れてきたっ」
「走るぞっ」
結局戻った道の途中に、アデルの長財布が落ちていた。
中身も無事。
幸先よさそうだ。
テフテフビトを召喚して、父カイトは”それ”に導かれた。
そんな伝説があるが、まだ信じがたい。
それからのこと、未来が見えるようになった、なんて。
その時の僕は、それが逸話のたぐいなんだろう、と気軽に思っていた。
だって、試し切りのために巨木を剣で斬り倒した、とか、信じがたいでしょうに。
その木を発見して、僕たちが内装を担当、ってなんだか不思議。