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スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「点滅」
9/32

「点滅」(9)

 曇り始めた鉛色の空では、ほのかに稲妻が明滅していた。


 夕暮れをむかえた美須賀みすか大学付属高校……


 あの裏山も、すでに薄暗い。


 山道にたたずむ二人の男がまとう雰囲気は、どこか普通とはちがう。それはいわば、幾千もの修羅場をくぐり抜けてきた猟犬のオーラだ。


 ふたりのうち、同校の制服を着た男子生徒……褪奈英人あせなひでとは、えぐれた地面にしゃがみ込んで手を触れている。となりに立つもうひとりの男に、ヒデトは不審げにたずねた。


「ここが戦闘の現場だって?」


「そうだ」


 霜の張った刃を思わせる声で、男は答えた。こちらはヒデトよりは歳上で、その長身を一部の隙なくスーツで包んでいる。あたりの折れた木枝や傷ついた樹皮を注意深く調べながら、男は続けた。


「ここで奇妙な土砂崩れがあった。巻き込まれたのは生徒のひとり、二合恵留ふたあいめぐる。体を強く打った彼は、いまも上糸うえいと総合病院で治療を受けている」


「土砂崩れ、ね?」


 山肌を上から下まで眺め回し、ヒデトは肩をすくめた。


「おかしいな。肝心の土砂ってやつが、影も形もないぜ?」


「亡霊じみた鉄砲隊の目撃証言に、傷跡だけを残して消え去った土石流……いずれも一時的にその場に再現された〝結果呪エフェクト〟と見るのが妥当だな」


 切れ長の瞳をなお鋭くし、男は言い放った。


「まちがいなく、これは結果使い(エフェクター)のしわざだ」


 男とおそろいの銀色の腕時計を輝かせ、ヒデトは問うた。


「俺たち組織ファイアの追ってる殺人鬼か?」


「いや、すこし属性は異なるらしい」


 糸をひいた雨のしずくを、男は片手で受け止めた。かすかに遠雷を轟かせる曇天を見上げながら、ヒデトをコードネームで呼ぶ。


「〝黒の手(ミイヴルス)〟……今回の捜査は、私に一任してくれるか?」


「了解だ。結果使い(エフェクター)のあんた向けの仕事だな。ミコにも言っとく」


 うなずいて、ヒデトも男のコードネームを口にした。


「頼んだぜ、〝竜巻の断層(トルネンブラ)〟」

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