表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「点滅」
8/32

「点滅」(8)

 上糸うえいと総合病院……


 病室のベッドで、メグルは静かに目をさました。


 すぐ横からは、しゃりしゃりとなにかを切る音が響いている。


 見れば、そばのイスにセラが座っているではないか。その手もとで綺麗に皮を剥かれるのは、つややかなリンゴだ。


 寝間着姿のまま、メグルはうめいた。


「セラ……」


 果物ナイフを止め、セラは視線をあげた。


「おはよう、メグル。そろそろ起きるころだと思ったよ」


 身を起こしかけ、メグルは顔をゆがめた。サンドバッグにされたように体中が痛い。


 ずれた布団をメグルへかけ直しながら、セラは説明した。


「まだ動いちゃだめだ。全治一週間の打撲なんだから」


「なんで生きてるんだ、俺?」


 釈然としない表情のメグルへ、セラは苦笑した。


「殺すつもりなんて、あるわけないじゃないか」


「あいつらは……シンゴたちはどうなった?」


 均等にリンゴを切り分けつつ、セラは答えた。


「あの騒ぎのあと全員、ここまでの悪さを白状して停学処分になったよ。あんな目に遭ったんだ。復帰しても、もう二度とおかしなマネはしないだろう」


 固唾を呑んで、メグルは聞いた。


「俺は?」


「きみなら大丈夫。あの火縄銃の幽霊の件も、不良たちのいたずらということで決着しかけている。真相を探ろうとしたところで、そもそも結果呪エフェクトの原理を説明できる者なんていない。きみもそれに巻き込まれた被害者のひとり、ということになっているよ。ま、結果オーライだね」


「そうか……」


 まくらに横顔をうずめたまま、メグルはつぶやいた。


「セラ、おまえも結果使い(エフェクター)だったんだな」


「らしいね」


「やっぱりおまえも、あの保健室で声を聞いてからそうなったのか? ヒュプノスの?」


「たしかに声は聞こえてたけど、ちがう。あの不思議な石の力は、ぼく自身覚えていないほど幼いころからある」


 唇に人差し指をあて、セラは念を押した。


「おたがい内緒だよ、ぼくたちの能力のことは?」


「わかった」


 かたわらのテレビからは、小音量でニュースが流れている。


 取り上げられるのは、さいきん赤務あかむ市で頻発している奇妙な連続殺人事件だ。通称〝食べ残し事件〟と呼ばれるそれは同一犯のものとされており、被害者と思われる遺体は損壊が激しすぎて、身元の特定にも大変な時間がかかっているらしい。


 険しい視線で報道を横目にしながら、セラは付け加えた。


「あと、約束して。無関係な一般人には、絶対にその力は使わないと」


「約束する」


 申し訳なさげに、メグルは瞳を伏せた。


「ごめんな、セラ。山であんなことをして。どうしても許せなかったんだ、あいつらが」


「気持ちはわかるさ」


「こんな情けない俺のために、セラ、なんでお見舞いになんて来てくれる?」


「言ったじゃないか。きみが困ったら助ける、って」


「…………」


 我知らず瞳にこみ上げてきたものに、メグルは咽び始めた。上掛け越しにその背中をさすりながら、困った面持ちになったのはセラだ。


「おいおい。これじゃまるで、ぼくが泣かしたみたいじゃないか」


「ごめん。生まれてこの方、女の子に優しくしてもらった経験がなくて……」


 そでで目尻をふいたあと、メグルは思いきって告げた。


「セラ。俺、おまえのことが好きだ」


「おっと、そうきたか」


 複雑な顔色であごを揉むセラを、メグルは追撃した。


「嫌いなら嫌いって、きっぱり断ってくれ」


「嫌いじゃないよ。ただ……」


 にっこり笑って、セラはちいさく舌をだした。


「恋人にするのは歳上って決めてるんだ、ぼく。じつはファザコンなの♪」


 つまようじに刺したリンゴを差し出しながら、セラはうながした。


「はい、あ~んして?」


「あ……あ~ん」


 ぼうぜんと、メグルはリンゴをほおばった。


 口の中いっぱいに広がったのは、青春の味……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ