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スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「点滅」
4/32

「点滅」(4)

 翌日、一限目の終わり……


 休憩時間のチャイムが響く中、メグルはセラの席に近寄った。


「よ」


「やあ。あれ?」


 お互い手をあげたあと、セラは小首をかしげた。


「メグル、きのうよりケガが増えてないかい?」


 どこ吹く風の表情で、メグルは鼻の絆創膏をさすった。


「じぶんでミスったぶんだ、これは」


 気の毒そうに眉をひそめ、セラはたずねた。


「病院には?」


「けさ早くに行った。片野かたの先生の診てくれたとおり、どれも大したケガじゃなかったよ」


「そうか、よかった……」


 きのうと打って変わったメグルの様子に、セラはすぐに気づいた。


「なにか、ずいぶん雰囲気が晴れやかになってるじゃないか?」


「ああ、じつはな……」


 おもむろにメグルは切り出した。


「セラ、放課後は予定はあるか?」


 目をぱちくりさせ、セラは答えた。


「とくにないよ。掃除と洗濯は済ませてきたし、あとは夕食を作るくらいだ」


「ゆ、夕食?」


 メグルの顔は硬直した。


 ほんらい母親に求めるべきスキルを、同級生の彼女はすでに習得している。あるいは大したことのないそれを、遠い異世界の出来事のようにメグルが感じたのも無理はない。


 ぼうぜんとメグルは再確認した。


「きのうの裁縫といい、家事ができるのか、セラは?」


「ひととおりはね。得意料理は中華とイタリアン」


 感動に、メグルの瞳はかがやいた。


「す、すげえ。お母さんから習ったの?」


「いや、独学だ。残念だけど母さんは、ぼくが小さなころに死んじゃってね。ぼくを育てたのは、父さんの男手ひとつってやつさ」


 内心、メグルは納得した。だからセラは、こんなにもボーイッシュなのだ。


 そしてセラは、メグルとおなじく片親育ちらしい。


 メグルの胸の片隅に芽生えたこの感情はなんだろう。同族ならではの友情?


 いや、それだけではない。見るものが見れば気づいはずだ。それはメグル自身も知らぬうちに唐突に生じた淡い〝恋心〟だった。


 うつむいたメグルの顔は、かすかに紅潮している。


「その、ごめん」


「ん? なにがだい?」


「お母さんのこと。亡くなってるとは知らなくて」


 穏やかにセラはほほえんだ。


「ぜんぜんかまわないよ。思い出すたびに母さんには、ぼくを産んでくれたことにとても感謝してる。もちろん、ここまで育ててくれた父さんにはもっともっと感謝してるよ」


 ふとメグルの顔によぎったのは、どこか悲しげな感情だった。


「似てるようで、俺とは境遇がほんと真反対だ。それでなんだが……」


 もじもじとメグルは問うた。


「放課後、ちょっと付き合ってくれないか?」


 座席から、セラはメグルを上目遣いにした。


「ナンパかい?」


 一瞬沈黙したあと、メグルは耳を真っ赤にして慌てた。


「ちがう!」


「なァんだ」


 いたずらっぽく、セラは目を細めた。


「ちょっとワクワクしちゃったよ」


「がっかりはさせない。見てもらいたいものがあるんだ。きっとびっくりする」


「へんなものじゃないよね?」


「純真な俺にむかってなにを言う」


 メグルは若干、いきどおってみせた。


「これはあれだ。手品っていうのか? 魔法っていうのか? とにかくすごいんだ」


「おもしろそうだね。いいよ、付き合おう。どこで?」


 自信ありげに、メグルは告げた。


「河川敷の橋の下だ」

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