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スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第二話「発光」
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「発光」(5)

 交差点のビルに設置された大型モニターは、あることを繰り返し報じていた。


 さいきん赤務あかむ市で頻発している〝食べ残し〟事件の続報である。また似た手口で、別の尊い命が奪われたらしい。


 放送コードが念入りに濁してこそいるが、例によって不幸な被害者は、未明に肉体のどこかの部位だけが発見されたようだ。遅く暗い時間帯、単独での行動はやめるようにとニュースキャスターもしきりに訴えている。市内を巡回する警察のボリュームも、普段よりいくぶんか多い。


「物騒なことだ。街の雰囲気もちょっと暗いね」


 雨の中、カサを手に歩くセラの足取りも心持ち早い。不安の形をした雑踏とすれ違いながら、気がかりに負けそうになる己の心に言い聞かせる。


「大丈夫だ。結果使い(エフェクター)のメグルが、そうやすやすと変質者なんかに負けるわけない。きっと無事なはずだよ」


 夕刻の道のりを急ぎ、セラはなんとか二合ふたあい家のアパートにたどり着いた。母親から借り受けた大事なカギを、うやうやしく扉にさす。


 きしみをこぼす入口を開けながら、セラはささやいた。


「お邪魔しま~す……いるかい、メグル?」


 室内から返事はなかった。


 疑わしい風呂場、お手洗い、その他すべてを慎重に探したが、人の気配はない。やはり無人だ。


 そして、それらすべての汚れ具合は、セラの高潔な精神に火をつけた。


「申し訳ないけど、お母さん。掃除をサボりすぎだよ。これはメグルが帰ってきたくなくなる気持ちもわかるね」


 愚痴りながら、セラは携帯電話をいじった。メールの相手は父親だ。今夜、娘の帰りが遅くなるその理由とは……


 通学カバンを置いて上着を脱ぐと、セラは強気に腕まくりした。


「ぼくの断罪の剣は、不浄を残さず粛清する」


 数分後、アパートを震わせたのは、セラがホームセンターで買い揃えた山盛りの掃除用具だった。ここからセラの激闘ははじまる。


 トイレとバスルームの磨き上げ。たまった空き缶類・生ゴミ等の処分。床の掃除機がけと水拭き、ホコリ取り。電灯を含めたそこかしこの蜘蛛の巣払い。うず高く積もった衣類の洗濯機がけ。食器洗いと台所の洗浄。乱雑に詰められたタンスの中身のたたみ直し。電化製品についたヤニと油膜の除去。部屋の四方への害虫トラップと湿気取りの設置。あらゆる清掃はプロの迅速さをもって、しつこい汚れを同時並行で除去していく。


 セラの大車輪の活躍によって、二合ふたあい家は通常の倍以上の輝きを放ちつつあった。


 品のよく主張しすぎない芳香剤の香りが、アパートを清めはじめたころ……


 玄関のチャイムは鳴った。


「メグル!?」


 コロコロローラーを片手に、セラは直感的に玄関へ向かった。マスクとバンダナ、ゴム手袋にエプロンを装着したまま、扉を開け放つ。


 目をしばたかせ、セラは疑問符を口にした。


「え?」


「ほう?」


 こちらも出入り口で首をかしげたのは、セラが想像だにしない来訪者だった。


 冷然と正される銀縁眼鏡の奥、長身の英語教師の瞳は色素の薄い外国のそれだ。たたんだカサの水滴はしたたるに任せ、倉糸壮馬くらいとそうまはやや非難げにつぶやいた。


「あまり感心しないな、井踊いおどさん? 保護者不在で、女子生徒が男子の家にいるとは?」

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