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スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第二話「発光」
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「発光」(3)

 五時間め……


 女子という女子が待ち望んだ英語の授業はやってきた。


「多くの英語の先生は、授業中に使われる外国語と日本語の配分を気にします。日本語の使用にやや否定的なんですね。私はそうは思いません。日本語はすばらしい。各国の言語と照らし合わせても、その語彙量の多さは群を抜いています」


 参考書を片手に講義するソーマからは、若く柔軟な知性があふれていた。


「そのぶん言葉だけであらゆることが表現できてしまうため、日本人の身振り手振りにとぼしい感覚は否めません。テレビ等で外国人が言っていませんでしたか。日本人はマジメだ、日本人はカタブツだ……そんなことはありません。もっとも諸外国に近い物理的表現をする都道府県が、国内にひとつあります」


 メガネを輝かせると、ソーマはほほえんだ。


「大阪のおばちゃんです」


 生徒たちを明るい笑いに誘いながら、ソーマはある席の前に立ち止まった。


「ですので外国人と交流するときには、ほんのちょっぴりで結構です。頭の中だけで難しく考えず、体でも表現してみてください。多少言葉にミスがあっても、身振り手振りでなんとなく思いは伝わります。〝大阪は、私が生まれた街だ《オオサカ・イス・ザ・シティ・イン・ウィッチ・アイ・ワス・ボーン》〟……はい、では井踊いおどさん。ちょっと私のマネをしてみてください」


「ぼ、ぼくですか? は、はい」


 夢でも見る面持ちで起立すると、セラはソーマの動きをなぞって英文を復唱した。


 英語の授業はまたたく間に終わり、つぎは体育の時間だ。


 あいにくの雨天のため、授業の場は体育館に移っている。バレーボールのトスの順番待ちの最中、体操服のシヅルは三角座りのままセラにつぶやいた。


倉糸(くらいと)先生はすごいな。授業にでてきた英語が、しっかり頭に残っとる。習った範囲内なら、いますぐにでも外国人と話せそうやわ」


「だね。ふだんは苦手意識しかない英語の時間が、あっという間に過ぎたよ。これは成績が上がりそうだ……ん?」


 ふと、セラはあたりを見回した。不思議げにたずねたのはシヅルだ。


「どした?」


「いや、気のせいかな」


 きょろつきながら、セラは続けた。


「唐突で変な質問なんだけど、シヅル。だれか、ぼくたちを見てないかい?」


「見る?」


 元気な掛け声が反響する体育館を、シヅルも一望して答えた。


「そら先生やクラスメイトやったら、たまにはこっちを見もするやろ」


「いや、そういうのじゃない。その、なんというか……」


 どこか居心地悪そうに、セラは周囲を気にした。


「なんというか、こう、じっと観察するような視線だ」


 あちこちの窓や出入り口を確認しても、おかしなカメラや部外者等はいない。


 体操着をつまみながら、シヅルは首を振った。


「このなんの色気もあらへんジャージや。見ても撮っても、楽しくもなんともないと思うで」


「わからないよ。世の中には、こういうのが趣味なのもいるかも。もしかしたら観察者には、もっと別の目的があるのかもしれない」


「観察者って、また大げさな。考えすぎやって。お、出番やで」


「うん……」


 シヅルに示され、セラはしかたなく練習の位置についた。投じられたバレーボールを、無難にサイドステップして受ける。


 校舎の陰で、その人影は独りごちた。


「このわずかな呪力に感づいたか、結果使い(エフェクター)

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